優しくされた記憶2
独特な幸福感
これから書く話は『堕胎』の話です。
もちろん、わたしが那智さんとの子を身ごもってという話ではありませんが、『堕胎』について否定的な気持ちや辛い気持ちになりそうな方はお気を付けください。
この話、ずっと那智さんに書かないの?と言われていたけれど、書く気が起きなかった。
まったく褒められた話じゃないからだ。
自分の褒められない歴史を語るのは、それが例えノロケに落ち着こうとも、ためらう。
だけど書こうという気持ちになっている。
わたしが自分の過去や心の痛い部分のためらうようなことを書くとき、『条件』を決めてそれをクリアできそうだったら書こうと思っています。
それを書くことで自分の中で昇華させること、そしてただ放り投げるのではなくて、そこから『何か』伝えられることがあること。
愚痴や棘にならないように、このふたつをクリアできたら書こうと思っています。
今回のお話。
ずっと書きたかった、とてもためらう内容だけど、書いて昇華させたかった。
だけどそれだけでは過去の話題で終ってしまうから書けずにいた。
それが前エントリーの相合い傘をしたときに、この気持ちなら繋げられると思えたから、書こうと思いました。
『続きを読む』は使いません。
だけど、ここから先は『堕胎』の話です。
話のアイテムはそれだけど、核になるものは違うところにあるとご理解いただいて読んでくれたら、うれしいです。
あ、もうひとつ。
書く『条件』、それがノロケになるなら書く(笑)
これも重要^^
わたしは堕胎の経験がある。
二十数年前、一度目の結婚を控えた冬の手前だった。
わたしは紆余曲折あって付き合いが続いたYさんと結婚する予定だった。
日取りも決まり、双方の親にも会い、端から見れば幸せいっぱいのとき。
わたしは、Yさんと平行してもうひとりの男性とも付き合っていた。
ゆうじくんという名前の男性、わたしより3つも年下で男性というより男の子といったほうが正解のような人。
だけど、とてもとても波長が合う人で、わたしはゆうじくんに周りのどの男性よりも、おそらくYさんよりも心を許していた。
自分を上にも下にもせずにいられ、彼に対しては『愛される価値がある』と素直に思える、那智さん以外で唯一の人だった。
Yさんとの結婚話が進む中、悪い事だと思いつつもゆうじくんとの心を許せる時間が捨て難く、度々彼の部屋に遊びに行っていた。
いま思えば、わたしはYさんを愛していなかったのだろうな。
Yさんにはとても申し訳ないけど、わたしがYさんと付き合い続けるのは、紆余曲折している間に『執着』や『復讐』になってしまっていたんだと、いまなら思う。
だから、ゆうじくんとも離れられなかったのかもしれない。
でも会いにいくといっても、ずっとおしゃべりして食べて飲んで笑っているだけだった。
楽しくて伸び伸びして、一緒に眠って、まるで仲のよい兄弟のようだった。
キスはすこしだけした。
でも体を触れ合わすことはしなかった。
ただ一度だけ。
いつものようにくすくす笑ってそのまま眠りに落ちようとして、どちらからともなくキスをして、一度だけセックスをした。
それも彼はあまり経験がなかったからかわからないけど、ほとんど挿入すると同時くらいに果てたから、セックス自体の記憶はほとんどないほどのものだ。
それでも、あれはセックスだった。
なぜなら、妊娠したからだ。
妊娠すると体が変わる。
生理前の子宮の変化や胸の張りとは明らかに違う、内側に重たいものを抱えているような感じになるのだ。
そんな経験はじめてだったけど、その重たいものがなんなのか直感でわかるようだった。
妊娠検査薬で調べて、それが正解だとすぐにわかった。
あーあ、困った。
こんなふうに思ってしまっていた。
相手はゆうじくんだ、Yさんにどうやって話せば疑われないかな。
次に思ったのは、こんなことだ。
なぜゆうじくんが相手だと思ったのだろう。
わたしは生理が不順だったのでできにくいはずだったし、現にそれまでYさんとも神経質になるほど避妊に気を使っていたわけではないけど、一度も妊娠しなかった。
あまり知識はないけれど、恐らく時期としてもそうだし、なんとなくゆうじくんとだから妊娠したように感じたのだ。
そこから、わたしの大ウソがはじまった。
結婚前という体裁を気にする人だったし、まだ二人で楽しみたいという気持ちだということも想像できていたからこの時点でYさんが子供を産もうと言わないことは予測できていた。
だから神妙な様子で妊娠したかもしれないと話を持ちかけ、彼の『おろそう』の言葉を引き出した。
病院に検査はひとりでいった。
予想通り妊娠していた。
仕事の途中で抜け出したYさんと彼の部屋で落ち合った。
妊娠を告げると彼はわたしを抱きしめて涙声で謝った。
ううん、いいの。
わたしは大丈夫だから。
出ていない涙をすするように鼻を鳴らし、抱きしめるYさんの肩に顎を乗せて、事なきを得たなと冷静に思う自分を、さらにもう一人の自分が見つめているようだった。
ゆうじくんにもありのままを伝えた。
妊娠したから堕胎をする。
あなたの子供だと思うけど、ごめんね。
そして、こうなってしまった以上、あなたとはもう会ってはいけないと思うから、もう会わないね。
一方的な報告と宣告に、まだ学生だったゆうじくんはどうすることもできないといった様子で頷いていた。
堕胎の手術もひとりでいった。
Yさんには同意書をもらって翌日退院するから、仕事を休んで部屋で待っていてもらうことだけお願いした。
(Yさんの部屋と病院は近くだったのだ)
前夜に子宮口を広げる(?)ために何か機具を入れた。
味わったことのない種類の強い痛みだった。
なんだか、痛がってはいけない気がして、だけど痛がらないのも薄情な感じがして、一度だけ『痛い』小さくつぶやき看護師の手を握った。
すべてが、自分の外側で起きているようだった。
堕胎した命にも、ゆうじくんにも、Yさんにも、みんなにごめんなさいとひとりで口にしてみるけれど、どうしても『ごめんなさい』と思えない、そう思わないと人として失格な気がしたから、取って付けたように『ごめんなさい』と思っていた。
一粒の涙も流さず。
わたしは冷たい人間なのだろうか。
わたしより先に涙声になったYさんにも、ショックと妙な安堵の表情を見せたゆうじくんにも、心の中で舌を出して見下しているような気分だった。
人として大事なものが少し欠落しているのかなと冷静に自分を見つめるもうひとりのわたし。
自分に対して諦めるというか、大事なものを期待しない、そんな感じがわたしの堕胎の記憶。
<関連エントリー>
Yさん
『怒らない私2 3』
ゆうじくん
『別なりん子1 2』
けさの「等式」感想です。
久しぶりに「惹かれあう理由」番外編みたいなエントリーでした、けっこう、りん子も色々な意味で悪いことしてますね~。次回のエントリーで私の悪い思考が出てくるのと思いますが広い心で受け止めて下さい。(自分に甘い?(笑))
これから書く話は『堕胎』の話です。
もちろん、わたしが那智さんとの子を身ごもってという話ではありませんが、『堕胎』について否定的な気持ちや辛い気持ちになりそうな方はお気を付けください。
この話、ずっと那智さんに書かないの?と言われていたけれど、書く気が起きなかった。
まったく褒められた話じゃないからだ。
自分の褒められない歴史を語るのは、それが例えノロケに落ち着こうとも、ためらう。
だけど書こうという気持ちになっている。
わたしが自分の過去や心の痛い部分のためらうようなことを書くとき、『条件』を決めてそれをクリアできそうだったら書こうと思っています。
それを書くことで自分の中で昇華させること、そしてただ放り投げるのではなくて、そこから『何か』伝えられることがあること。
愚痴や棘にならないように、このふたつをクリアできたら書こうと思っています。
今回のお話。
ずっと書きたかった、とてもためらう内容だけど、書いて昇華させたかった。
だけどそれだけでは過去の話題で終ってしまうから書けずにいた。
それが前エントリーの相合い傘をしたときに、この気持ちなら繋げられると思えたから、書こうと思いました。
『続きを読む』は使いません。
だけど、ここから先は『堕胎』の話です。
話のアイテムはそれだけど、核になるものは違うところにあるとご理解いただいて読んでくれたら、うれしいです。
あ、もうひとつ。
書く『条件』、それがノロケになるなら書く(笑)
これも重要^^
わたしは堕胎の経験がある。
二十数年前、一度目の結婚を控えた冬の手前だった。
わたしは紆余曲折あって付き合いが続いたYさんと結婚する予定だった。
日取りも決まり、双方の親にも会い、端から見れば幸せいっぱいのとき。
わたしは、Yさんと平行してもうひとりの男性とも付き合っていた。
ゆうじくんという名前の男性、わたしより3つも年下で男性というより男の子といったほうが正解のような人。
だけど、とてもとても波長が合う人で、わたしはゆうじくんに周りのどの男性よりも、おそらくYさんよりも心を許していた。
自分を上にも下にもせずにいられ、彼に対しては『愛される価値がある』と素直に思える、那智さん以外で唯一の人だった。
Yさんとの結婚話が進む中、悪い事だと思いつつもゆうじくんとの心を許せる時間が捨て難く、度々彼の部屋に遊びに行っていた。
いま思えば、わたしはYさんを愛していなかったのだろうな。
Yさんにはとても申し訳ないけど、わたしがYさんと付き合い続けるのは、紆余曲折している間に『執着』や『復讐』になってしまっていたんだと、いまなら思う。
だから、ゆうじくんとも離れられなかったのかもしれない。
でも会いにいくといっても、ずっとおしゃべりして食べて飲んで笑っているだけだった。
楽しくて伸び伸びして、一緒に眠って、まるで仲のよい兄弟のようだった。
キスはすこしだけした。
でも体を触れ合わすことはしなかった。
ただ一度だけ。
いつものようにくすくす笑ってそのまま眠りに落ちようとして、どちらからともなくキスをして、一度だけセックスをした。
それも彼はあまり経験がなかったからかわからないけど、ほとんど挿入すると同時くらいに果てたから、セックス自体の記憶はほとんどないほどのものだ。
それでも、あれはセックスだった。
なぜなら、妊娠したからだ。
妊娠すると体が変わる。
生理前の子宮の変化や胸の張りとは明らかに違う、内側に重たいものを抱えているような感じになるのだ。
そんな経験はじめてだったけど、その重たいものがなんなのか直感でわかるようだった。
妊娠検査薬で調べて、それが正解だとすぐにわかった。
あーあ、困った。
こんなふうに思ってしまっていた。
相手はゆうじくんだ、Yさんにどうやって話せば疑われないかな。
次に思ったのは、こんなことだ。
なぜゆうじくんが相手だと思ったのだろう。
わたしは生理が不順だったのでできにくいはずだったし、現にそれまでYさんとも神経質になるほど避妊に気を使っていたわけではないけど、一度も妊娠しなかった。
あまり知識はないけれど、恐らく時期としてもそうだし、なんとなくゆうじくんとだから妊娠したように感じたのだ。
そこから、わたしの大ウソがはじまった。
結婚前という体裁を気にする人だったし、まだ二人で楽しみたいという気持ちだということも想像できていたからこの時点でYさんが子供を産もうと言わないことは予測できていた。
だから神妙な様子で妊娠したかもしれないと話を持ちかけ、彼の『おろそう』の言葉を引き出した。
病院に検査はひとりでいった。
予想通り妊娠していた。
仕事の途中で抜け出したYさんと彼の部屋で落ち合った。
妊娠を告げると彼はわたしを抱きしめて涙声で謝った。
ううん、いいの。
わたしは大丈夫だから。
出ていない涙をすするように鼻を鳴らし、抱きしめるYさんの肩に顎を乗せて、事なきを得たなと冷静に思う自分を、さらにもう一人の自分が見つめているようだった。
ゆうじくんにもありのままを伝えた。
妊娠したから堕胎をする。
あなたの子供だと思うけど、ごめんね。
そして、こうなってしまった以上、あなたとはもう会ってはいけないと思うから、もう会わないね。
一方的な報告と宣告に、まだ学生だったゆうじくんはどうすることもできないといった様子で頷いていた。
堕胎の手術もひとりでいった。
Yさんには同意書をもらって翌日退院するから、仕事を休んで部屋で待っていてもらうことだけお願いした。
(Yさんの部屋と病院は近くだったのだ)
前夜に子宮口を広げる(?)ために何か機具を入れた。
味わったことのない種類の強い痛みだった。
なんだか、痛がってはいけない気がして、だけど痛がらないのも薄情な感じがして、一度だけ『痛い』小さくつぶやき看護師の手を握った。
すべてが、自分の外側で起きているようだった。
堕胎した命にも、ゆうじくんにも、Yさんにも、みんなにごめんなさいとひとりで口にしてみるけれど、どうしても『ごめんなさい』と思えない、そう思わないと人として失格な気がしたから、取って付けたように『ごめんなさい』と思っていた。
一粒の涙も流さず。
わたしは冷たい人間なのだろうか。
わたしより先に涙声になったYさんにも、ショックと妙な安堵の表情を見せたゆうじくんにも、心の中で舌を出して見下しているような気分だった。
人として大事なものが少し欠落しているのかなと冷静に自分を見つめるもうひとりのわたし。
自分に対して諦めるというか、大事なものを期待しない、そんな感じがわたしの堕胎の記憶。
<関連エントリー>
Yさん
『怒らない私2 3』
ゆうじくん
『別なりん子1 2』
けさの「等式」感想です。
久しぶりに「惹かれあう理由」番外編みたいなエントリーでした、けっこう、りん子も色々な意味で悪いことしてますね~。次回のエントリーで私の悪い思考が出てくるのと思いますが広い心で受け止めて下さい。(自分に甘い?(笑))