キーパーソンは清掃員2
非日常的な日常
清掃員さんのおかげで回避できた前回の『ショウウィンドウでお散歩』
拒否したからってお仕置きがあるわけじゃないし。
那智さんからしたら『りん子の願望を叶えてあげてるんだよ』と言われてしまいそう。
自分はMなんじゃないかと自覚したとき、まず思い描いたのは『拘束』と『人の目』だった。
わんこは糸を手繰っていけば、わたしの願望に繋がるのだろうとも思う。
だから、那智さんの『叶えてあげてる』は否定しない。
だけど、だからといって『はーい』と喜んでできるものじゃないよね。
清水の舞台から飛び降りるには、その恐怖を凌駕するほどの快感や言い訳がほしい。
で、その時、とても感じたんだ。
自分の常識から外れたことを実行するには『快感の記憶』と『慣れ』が必要だって。
記憶の積み重ねと慣れというのは確実にあって。
最初は『無理!!』と思うことでも何度も繰り返すと、無理のハードルは下がっていく。
無理なことには変わりないのだけど、慣れや、無理を上回る快感の積み重ねで、結果的にハードルが下がるという感じ。
露出も鞭もスカトロも慣れと快感の積み重ねで、いまでは『無理!!だけど、喜び』みたいになっている。
あ、もともとの性癖や那智さんがしてくれるからとか、いろんな要素はありますけどね。
とにかく、記憶と慣れといものはある。
当然のことながら、記憶は時間が経てば薄れて行くし。
慣れというのも、それと同じように元の状態に戻るものでもある。
一度乗れるようになった自転車は久しぶりに乗っても大丈夫なように、一度覚えたものはなかなか忘れないもので、完全にもとに戻るわけではないでしょうけど、『慣れ』たものが『慣れている途中』くらいの状態に戻ることはあるよね。
久しぶりの鞭は、続けてしていたときよりも怖いし。
久しぶりのうんこは、やはり不安だ。(うんこは、けっこういつも久しぶり 笑)
お外でわんこなんていうのも、まさにそれ。
昨年の夏あたりには、わりとわんこが集中していた。
コンビニ前(声かけられちゃったとき!!)
空港で『どこでもわんこ』
ショウウィンドウで。
書いていないけど、浜辺でもやった。
で、正面玄関。
怖さや恥ずかしさや申し訳なさは変わらないけど。
あの数カ月の間、少しわんこに焦がれていた。
那智さんの『やらせる』空気や異様な状態に痺れるような快感を知ってしまっていた。
いまだからいうけど、『どこでもわんこ』の指示を出してくれないかと、密かに期待してしまっていたほどだ。
もちろん、実際に指示されればためらう気持はあるけれど、でも、あの数ヶ月間は確実にハードルは低くなっていたと思う。
それは快感の記憶と慣れが故だと思うのだ。
だから、あの数ヶ月間のテンションのまりん子の日を迎えていたら、すごーくためらいつつも、お散歩をしていたんじゃないかと思う。
だけど、少しわんこから遠ざかっていたから、『慣れている途中』に戻ってしまったようで、前回は怖いという気持でいっぱいになってしまったのだ。
とても怖いことをするには、少しずつハードルを下げる作業が必要なんだ。
それで、一度下がったハードルは、気を抜けばまた上がる。
性的な場面に於いてわたしには拒否権がないという立場を選んでいるから、本当にやらせようと思えば『やる』のだけど。
できるなら、ハードルが少しでも下がってくれていると、快感に転嫁しやすくて、わたしはありがたいと思うのです。
そう感じたので、清掃員で回避できたあと『間が空いたから怖くなってしまった、だから、また慣らしてください』とお願いしたけど、『ふ〜ん』くらいにしか聞いてもらえなかった。
それどころか、その次のデートのとき。
もちろん、前回清掃員がいてできなかったから今日はやるよ〜という様子だった。
だけど、この日も前回と待ち合わせ時間が一緒になってしまった。
しかも、朝食がてらファーストフードに入ってしまったのだ。
このままいけば、開店時間を過ぎることは確実。
ということは、また人が多い。
もう、『ショウウィンドウお散歩包囲網』はわたしを取り囲み、逃げ道はなさそうだ。
近々に絶対する。
慣れるまで待ってくれそうにもない。
今日するの?
人多いよ、絶対。
慣れてもいないのに、人の多い中、何の抵抗もなくすんなりと受け入れられるほど、わたしの度胸は座っていないし。
どうしよう。
もう逃げられない。
それならば、できる限り怖くない設定を作りたいと思って、提案してみた。
「那智さん、お願いがあります。今日はやめてください。この次はやります。」
「なんで?」
「だって、きっといまからの時間だと人が多いはずです。少しでも少ないほうがいいです。今度、いつもの時間に待ち合わせたときにしてください。」
いつかやる。
きっと、もう逃れられないほど、その『いつか』は近い。
だったら、人が少ないほうがいい。
慣らしてもらうことはもう叶わないようなので、できる限り怖さが払拭できるような好条件にしたい。
それでなんとかハードルを下げたいと、苦肉の策でそう提案したのだ。
『次回』なんていう交換条件を付けたのは、ただの拒否では受け入れてもらえないだけじゃなく、ただの拒否の連続は、それは『やる』に繋がってしまうのは、天の邪鬼さんとの長い付き合いで想像できるから。
「わかった。」
そして、その日のわんこは取り下げられた。
ホテル街に向かうので百貨店の前を通り過ぎる。
今日は免れたけど、今度こそやるんだよね…なんだか恐怖を通り越して感慨深くショウウィンドウを歩く。
すると。
青緑色のつなぎが…。
前から、前回の清掃員さんが、モップをかけてながらこちらに向かってきたのだ。
あああああ、そうだ!!
開店時間を少し過ぎると人は多くなるけど、清掃員もいるんだった。
うううう、なんてことでしょう、わたしはそれを忘れていた。
ううん、忘れているはずないんだろうけど、あのときは『今日回避』にしか頭が働いていなかった。
もしかしたら、わたしが提案しなくても、清掃員がいたから今日もなしになっていたかもしれない。
そしたら、次のわんこはいつになるかぼんやりとした状態に戻っていたのに。
わたしったら、目の前の大変を回避しようとして、確実な約束を取り付けてしまったの!?
自分で自分の首を絞めてしまったみたい。
清掃員さんがモップをかける横を通り過ぎながら、自分のバカさ加減に悶絶。
那智さんも大笑い。
大事なキーパーソンの清掃員さんの存在を忘れるなんて。
わたしの記憶の回路はどうなっているの!?
快感の記憶を積み重ねたいなんて願いながら、大事な記憶が飛んでしまっていた^^;
いつの間にか、自分で清水の舞台の柵乗り越えてしまったわたし。
清掃員さん、いるならいるって言って〜(笑)
目の前のことしか頭が働かない、己を恨む。
この単細胞加減、やっぱり犬よりも『犬』なのか…^^;
もう次回は確実に、お散歩決定。
その日は、着々と近づいている。
次のデートの約束は日本中が注目したあの決勝の日。
みんなテレビに釘付けになって、誰も外に出ないでいてくれないか。
特に、わたしがわんこになる○○の街は、ひとっこ一人もいなくなるほど決勝戦に夢中になっていてほしい。
準決勝のアメリカに勝利したのを観て、デートと決勝戦の日程を照らし合わせて、そんなありえないことを願ってしまった。
わあ、まだまだ続きます〜^^
清掃員さんのおかげで回避できた前回の『ショウウィンドウでお散歩』
拒否したからってお仕置きがあるわけじゃないし。
那智さんからしたら『りん子の願望を叶えてあげてるんだよ』と言われてしまいそう。
自分はMなんじゃないかと自覚したとき、まず思い描いたのは『拘束』と『人の目』だった。
わんこは糸を手繰っていけば、わたしの願望に繋がるのだろうとも思う。
だから、那智さんの『叶えてあげてる』は否定しない。
だけど、だからといって『はーい』と喜んでできるものじゃないよね。
清水の舞台から飛び降りるには、その恐怖を凌駕するほどの快感や言い訳がほしい。
で、その時、とても感じたんだ。
自分の常識から外れたことを実行するには『快感の記憶』と『慣れ』が必要だって。
記憶の積み重ねと慣れというのは確実にあって。
最初は『無理!!』と思うことでも何度も繰り返すと、無理のハードルは下がっていく。
無理なことには変わりないのだけど、慣れや、無理を上回る快感の積み重ねで、結果的にハードルが下がるという感じ。
露出も鞭もスカトロも慣れと快感の積み重ねで、いまでは『無理!!だけど、喜び』みたいになっている。
あ、もともとの性癖や那智さんがしてくれるからとか、いろんな要素はありますけどね。
とにかく、記憶と慣れといものはある。
当然のことながら、記憶は時間が経てば薄れて行くし。
慣れというのも、それと同じように元の状態に戻るものでもある。
一度乗れるようになった自転車は久しぶりに乗っても大丈夫なように、一度覚えたものはなかなか忘れないもので、完全にもとに戻るわけではないでしょうけど、『慣れ』たものが『慣れている途中』くらいの状態に戻ることはあるよね。
久しぶりの鞭は、続けてしていたときよりも怖いし。
久しぶりのうんこは、やはり不安だ。(うんこは、けっこういつも久しぶり 笑)
お外でわんこなんていうのも、まさにそれ。
昨年の夏あたりには、わりとわんこが集中していた。
コンビニ前(声かけられちゃったとき!!)
空港で『どこでもわんこ』
ショウウィンドウで。
書いていないけど、浜辺でもやった。
で、正面玄関。
怖さや恥ずかしさや申し訳なさは変わらないけど。
あの数カ月の間、少しわんこに焦がれていた。
那智さんの『やらせる』空気や異様な状態に痺れるような快感を知ってしまっていた。
いまだからいうけど、『どこでもわんこ』の指示を出してくれないかと、密かに期待してしまっていたほどだ。
もちろん、実際に指示されればためらう気持はあるけれど、でも、あの数ヶ月間は確実にハードルは低くなっていたと思う。
それは快感の記憶と慣れが故だと思うのだ。
だから、あの数ヶ月間のテンションのまりん子の日を迎えていたら、すごーくためらいつつも、お散歩をしていたんじゃないかと思う。
だけど、少しわんこから遠ざかっていたから、『慣れている途中』に戻ってしまったようで、前回は怖いという気持でいっぱいになってしまったのだ。
とても怖いことをするには、少しずつハードルを下げる作業が必要なんだ。
それで、一度下がったハードルは、気を抜けばまた上がる。
性的な場面に於いてわたしには拒否権がないという立場を選んでいるから、本当にやらせようと思えば『やる』のだけど。
できるなら、ハードルが少しでも下がってくれていると、快感に転嫁しやすくて、わたしはありがたいと思うのです。
そう感じたので、清掃員で回避できたあと『間が空いたから怖くなってしまった、だから、また慣らしてください』とお願いしたけど、『ふ〜ん』くらいにしか聞いてもらえなかった。
それどころか、その次のデートのとき。
もちろん、前回清掃員がいてできなかったから今日はやるよ〜という様子だった。
だけど、この日も前回と待ち合わせ時間が一緒になってしまった。
しかも、朝食がてらファーストフードに入ってしまったのだ。
このままいけば、開店時間を過ぎることは確実。
ということは、また人が多い。
もう、『ショウウィンドウお散歩包囲網』はわたしを取り囲み、逃げ道はなさそうだ。
近々に絶対する。
慣れるまで待ってくれそうにもない。
今日するの?
人多いよ、絶対。
慣れてもいないのに、人の多い中、何の抵抗もなくすんなりと受け入れられるほど、わたしの度胸は座っていないし。
どうしよう。
もう逃げられない。
それならば、できる限り怖くない設定を作りたいと思って、提案してみた。
「那智さん、お願いがあります。今日はやめてください。この次はやります。」
「なんで?」
「だって、きっといまからの時間だと人が多いはずです。少しでも少ないほうがいいです。今度、いつもの時間に待ち合わせたときにしてください。」
いつかやる。
きっと、もう逃れられないほど、その『いつか』は近い。
だったら、人が少ないほうがいい。
慣らしてもらうことはもう叶わないようなので、できる限り怖さが払拭できるような好条件にしたい。
それでなんとかハードルを下げたいと、苦肉の策でそう提案したのだ。
『次回』なんていう交換条件を付けたのは、ただの拒否では受け入れてもらえないだけじゃなく、ただの拒否の連続は、それは『やる』に繋がってしまうのは、天の邪鬼さんとの長い付き合いで想像できるから。
「わかった。」
そして、その日のわんこは取り下げられた。
ホテル街に向かうので百貨店の前を通り過ぎる。
今日は免れたけど、今度こそやるんだよね…なんだか恐怖を通り越して感慨深くショウウィンドウを歩く。
すると。
青緑色のつなぎが…。
前から、前回の清掃員さんが、モップをかけてながらこちらに向かってきたのだ。
あああああ、そうだ!!
開店時間を少し過ぎると人は多くなるけど、清掃員もいるんだった。
うううう、なんてことでしょう、わたしはそれを忘れていた。
ううん、忘れているはずないんだろうけど、あのときは『今日回避』にしか頭が働いていなかった。
もしかしたら、わたしが提案しなくても、清掃員がいたから今日もなしになっていたかもしれない。
そしたら、次のわんこはいつになるかぼんやりとした状態に戻っていたのに。
わたしったら、目の前の大変を回避しようとして、確実な約束を取り付けてしまったの!?
自分で自分の首を絞めてしまったみたい。
清掃員さんがモップをかける横を通り過ぎながら、自分のバカさ加減に悶絶。
那智さんも大笑い。
大事なキーパーソンの清掃員さんの存在を忘れるなんて。
わたしの記憶の回路はどうなっているの!?
快感の記憶を積み重ねたいなんて願いながら、大事な記憶が飛んでしまっていた^^;
いつの間にか、自分で清水の舞台の柵乗り越えてしまったわたし。
清掃員さん、いるならいるって言って〜(笑)
目の前のことしか頭が働かない、己を恨む。
この単細胞加減、やっぱり犬よりも『犬』なのか…^^;
もう次回は確実に、お散歩決定。
その日は、着々と近づいている。
次のデートの約束は日本中が注目したあの決勝の日。
みんなテレビに釘付けになって、誰も外に出ないでいてくれないか。
特に、わたしがわんこになる○○の街は、ひとっこ一人もいなくなるほど決勝戦に夢中になっていてほしい。
準決勝のアメリカに勝利したのを観て、デートと決勝戦の日程を照らし合わせて、そんなありえないことを願ってしまった。
わあ、まだまだ続きます〜^^
キーパーソンは清掃員3
非日常的な日常
那智さんとのデートで、こんなにも会うことをためらったのははじめてかもしれない。
紙おむつをして排泄お散歩も排泄物を持参してのときも、数えればきりがないほど、ためらうような予告はされてきたけれど。
おそらく今日が一番ためらう日。
前日からそのこと頭の中がいっぱいだ。
わたしは、前回、目の前の『人通りの多い時間帯のわんこ』を回避したいがために、次回の約束を取り付けてしまった。
だから、次に会う、このデートは基本的には『やる』ということ。
もう、いい、覚悟を決める!!
たかが四つん這いじゃない。
どっきりか何かだと、まわりの人は思うはず。
そう、言い聞かせてみる。
無理〜〜〜〜〜〜!!!!!
言い聞かせた次の瞬間、物凄い早さで否定の気持ちが押し寄せる。
那智さんの後を付いていけば、いい。
わたしは那智さんのことだけ考えていればいいんだ。
何かあったら、那智さんが何とかしてくれる、任せていればいいんだ。
そんなふうに、無理矢理従属の幸福な想像をしてみる。
無理〜〜〜〜〜〜!!!!
それでも無理だった。
どう考えたってあり得ない。
どんなふうに思考を変えても、死ぬほど恥ずかしい。
那智さんに会いたい。
片時だって離れていたくない。
そんなふうに思うのに、今日のわたしは会うことをすごくためらっている。
会いたい、でも、会えばお散歩だ。
大丈夫、たかが四つん這い、ぎゃー無理!!
那智さんのわんこは幸せだよ、わかってるでも、無理〜〜〜〜!!
こんなことの繰り返しで前夜からヘトヘト。
ランナーズハイならぬ、妄想ハイ状態?
そんな状態だけど、ひとつだけ策を練り、提案する。
「那智さん、待ち合わせの時間をいつもより10分早くしてください。」
百貨店の周辺が時間によって人通りが変わるのは、前回実感した。
普段通る開店5分前と前回の5分後、開店を境に人の量が変わっていたのだ。
ということは、少しでも早ければ早いほど人通りが少ないのではないだろうと想像できる。
普段の開店前に清掃員さんを見かけたことはないので、待ち合わせを早めれば、清掃員回避は当然望めない。
だからといって、毎度毎度『待ち合わせを開店後に合わせる引き延ばし作戦』に出たりしたら、もっとすごい場所で那智さんはするはず(百貨店でお買い物とか駅前のモニュメント横とか)なので、清掃員さん頼みは、できない。
それでもできるだけためらいを少なくしたい、だから、人通りの少ない時間にしよう思い待ち合わせ時間をいつもりよ少しだけ早めてもらったのだ。
そして、着ていく服も決めた。
お尻も見えず引きずらないような四つ足歩行に適度な丈、裾を気にせずにいいようにハーフパンツを選んだ。
で、下半身がもたつかないように、ショート丈のコート。
これも、待ち合わせ時間同様に、少しでも心配事を減らして速やかに遂行できるように。
本当は、わんこに適していない服(ミニとか逆にフレアのロングとか)にして、諦めてもらうという手がなくもないけど、これはね賭けなんだよね。
那智さんは『やる』と決めたときにわたしが回避するような態度を示すと、よけい『やる』に傾いちゃう可能性が高いのだ。
清掃員さん引き延ばし作戦も取らず、わんこに適したハーフパンツを選ぶ。
天の邪鬼さんに、あなたに従いますと意思表示するのだ。
いろんな気持ちが交錯して、できる限りの対策を講じた。
そんなんだから、脳みそが、ちょっと朦朧としたまま朝を迎えた。
朝イチのおはよう電話で、今日の待ち合わせの確認をする。
この電話でも、今日のわんこについてはひと言もない。
わたしは怖くて聞けない。
那智さんは、きっとやると決めているのだと思う、だけどそれに触れない。
鏡の前で身支度をしながらも、まだ、自分のすることが信じられない。
今日は会わないという選択肢…、ないよね、会いたいもん。
それに、わたしの中のほんの一部がわんこに焦がれているのだもの。
大いなるためらいと、ごく僅かな憧れ。
こんなにためらうデートははじめてだ。
支度を終えて、玄関を出る。
忘れ物に気付き、すぐ引き返す。
早めてもらった時間に遅れることはしたくない。
急いでブーツを脱ぎ、ドレッサーの引き出しを開け、アクセサリーを入れている箱から乱暴にひとつ引っ張り出す。
指輪だ。
わたしは、高価なアクセサリーよりもおもちゃのようなチープな物が好きなんだ。
普段、ほとんど物をねだらないわたしが、めずらしくねだった指輪。
那智さんと行った遊園地のショップで売っていた735円(税込み)のおもちゃのような指輪。
いくつかある種類の中から、散々悩み、もの選びが下手なわたしに業を煮やした那智さんがふたつ候補を上げてくれて、それで選んだ指輪。
これを仕事のときはいつもしていく、わたしのお守り。
今日だけは忘れちゃいけない、これをしていく。
四つん這いでお散歩をする時のわたしの世界は、アスファルトとチラチラ見える那智さんの革靴の踵と、自分の手だけなんだ。
恥ずかしくて恐ろしくて顔を上げることができないわたしは、その世界がすべてなんだ。
っていうか、それをすべてに転換しないと怖くて進めない。
その時に、左手は薬指の刺青、右手は指輪、交互に視界に入るそれらをお守りにしようと思っていたのだ。
だから、忘れちゃいけない。
大事なお守りを右手の薬指にはめて駅へ急ぐ。
ぜんっぜん、覚悟決まってないけど^^;
あああ、家を出るだけでいちエントリー^^;
那智さんとのデートで、こんなにも会うことをためらったのははじめてかもしれない。
紙おむつをして排泄お散歩も排泄物を持参してのときも、数えればきりがないほど、ためらうような予告はされてきたけれど。
おそらく今日が一番ためらう日。
前日からそのこと頭の中がいっぱいだ。
わたしは、前回、目の前の『人通りの多い時間帯のわんこ』を回避したいがために、次回の約束を取り付けてしまった。
だから、次に会う、このデートは基本的には『やる』ということ。
もう、いい、覚悟を決める!!
たかが四つん這いじゃない。
どっきりか何かだと、まわりの人は思うはず。
そう、言い聞かせてみる。
無理〜〜〜〜〜〜!!!!!
言い聞かせた次の瞬間、物凄い早さで否定の気持ちが押し寄せる。
那智さんの後を付いていけば、いい。
わたしは那智さんのことだけ考えていればいいんだ。
何かあったら、那智さんが何とかしてくれる、任せていればいいんだ。
そんなふうに、無理矢理従属の幸福な想像をしてみる。
無理〜〜〜〜〜〜!!!!
それでも無理だった。
どう考えたってあり得ない。
どんなふうに思考を変えても、死ぬほど恥ずかしい。
那智さんに会いたい。
片時だって離れていたくない。
そんなふうに思うのに、今日のわたしは会うことをすごくためらっている。
会いたい、でも、会えばお散歩だ。
大丈夫、たかが四つん這い、ぎゃー無理!!
那智さんのわんこは幸せだよ、わかってるでも、無理〜〜〜〜!!
こんなことの繰り返しで前夜からヘトヘト。
ランナーズハイならぬ、妄想ハイ状態?
そんな状態だけど、ひとつだけ策を練り、提案する。
「那智さん、待ち合わせの時間をいつもより10分早くしてください。」
百貨店の周辺が時間によって人通りが変わるのは、前回実感した。
普段通る開店5分前と前回の5分後、開店を境に人の量が変わっていたのだ。
ということは、少しでも早ければ早いほど人通りが少ないのではないだろうと想像できる。
普段の開店前に清掃員さんを見かけたことはないので、待ち合わせを早めれば、清掃員回避は当然望めない。
だからといって、毎度毎度『待ち合わせを開店後に合わせる引き延ばし作戦』に出たりしたら、もっとすごい場所で那智さんはするはず(百貨店でお買い物とか駅前のモニュメント横とか)なので、清掃員さん頼みは、できない。
それでもできるだけためらいを少なくしたい、だから、人通りの少ない時間にしよう思い待ち合わせ時間をいつもりよ少しだけ早めてもらったのだ。
そして、着ていく服も決めた。
お尻も見えず引きずらないような四つ足歩行に適度な丈、裾を気にせずにいいようにハーフパンツを選んだ。
で、下半身がもたつかないように、ショート丈のコート。
これも、待ち合わせ時間同様に、少しでも心配事を減らして速やかに遂行できるように。
本当は、わんこに適していない服(ミニとか逆にフレアのロングとか)にして、諦めてもらうという手がなくもないけど、これはね賭けなんだよね。
那智さんは『やる』と決めたときにわたしが回避するような態度を示すと、よけい『やる』に傾いちゃう可能性が高いのだ。
清掃員さん引き延ばし作戦も取らず、わんこに適したハーフパンツを選ぶ。
天の邪鬼さんに、あなたに従いますと意思表示するのだ。
いろんな気持ちが交錯して、できる限りの対策を講じた。
そんなんだから、脳みそが、ちょっと朦朧としたまま朝を迎えた。
朝イチのおはよう電話で、今日の待ち合わせの確認をする。
この電話でも、今日のわんこについてはひと言もない。
わたしは怖くて聞けない。
那智さんは、きっとやると決めているのだと思う、だけどそれに触れない。
鏡の前で身支度をしながらも、まだ、自分のすることが信じられない。
今日は会わないという選択肢…、ないよね、会いたいもん。
それに、わたしの中のほんの一部がわんこに焦がれているのだもの。
大いなるためらいと、ごく僅かな憧れ。
こんなにためらうデートははじめてだ。
支度を終えて、玄関を出る。
忘れ物に気付き、すぐ引き返す。
早めてもらった時間に遅れることはしたくない。
急いでブーツを脱ぎ、ドレッサーの引き出しを開け、アクセサリーを入れている箱から乱暴にひとつ引っ張り出す。
指輪だ。
わたしは、高価なアクセサリーよりもおもちゃのようなチープな物が好きなんだ。
普段、ほとんど物をねだらないわたしが、めずらしくねだった指輪。
那智さんと行った遊園地のショップで売っていた735円(税込み)のおもちゃのような指輪。
いくつかある種類の中から、散々悩み、もの選びが下手なわたしに業を煮やした那智さんがふたつ候補を上げてくれて、それで選んだ指輪。
これを仕事のときはいつもしていく、わたしのお守り。
今日だけは忘れちゃいけない、これをしていく。
四つん這いでお散歩をする時のわたしの世界は、アスファルトとチラチラ見える那智さんの革靴の踵と、自分の手だけなんだ。
恥ずかしくて恐ろしくて顔を上げることができないわたしは、その世界がすべてなんだ。
っていうか、それをすべてに転換しないと怖くて進めない。
その時に、左手は薬指の刺青、右手は指輪、交互に視界に入るそれらをお守りにしようと思っていたのだ。
だから、忘れちゃいけない。
大事なお守りを右手の薬指にはめて駅へ急ぐ。
ぜんっぜん、覚悟決まってないけど^^;
あああ、家を出るだけでいちエントリー^^;
キーパーソンは清掃員4
非日常的な日常
待ち合わせ場所で見つけたわたしの服装を一瞥して、那智さんは少しだけ目を開いた。
きっと、ハーフパンツは覚悟だと受け取ったのだろう。
いや、待って、『りん子の覚悟に応えなきゃ』なんて思わないで〜!!
「違うんです、那智さん。だって、適していない服着てきたら、那智さんよりやる気出ちゃうでしょ!?」
「まあね、でも、まあ、どっちにしても今日はやるからな〜(笑)」
ああ、やっぱりやるのですよね…。
ほんとにやるの?
信じられない。
ううん、今日はやるんだ、もう覚悟決めなきゃ。
百貨店に向かって歩きながらでも、まだ昨日からの行ったり来たりを繰り返している。
「那智さん、早くホテルに入りましょ♪」
「少し冷えてるから、わたしお風呂入れますよ、温まりますよ〜♪♪」
無駄な抵抗とわかっていても、ただ黙ってそのときを迎えるほど根性は座ってない。
もしかしたら、どれかに引っかかってくれるかもしれない。
そう思って、かなり無意味な提案をいろいろする。
そうそう、この日は盛り上がっているWBCの決勝の日、これで釣ってみよう!!
「ね、ね、一緒にWBCの決勝観ましょ^^」
「ああ、観るよ。」
「食べ物買い込んで、ね」
「いいね、でも、わんこしてからね。」
「はじめから観たくありません?WBC。」
「うん、まだ間に合うでしょ。」
「那智さん、WBC〜観ましょ〜。」
「はいはい、全部終わってすっきりしてからね。」
「那智さ〜ん。」
「ん?」
「だぶりゅぅびぃじぃぃぃぃ;;;;」
もはや、なんの説得力もない^^;
一歩進むごとに百貨店が近づいてくる。
ああ、神様。
那智さんのわんこになることはこの上なく幸せで快感を覚える。
わかっているけど、それをするのは物凄く勇気がいる。
葛藤だ。
最初は遠くから見えていた百貨店。
近づくにつれて、上層階から正面玄関のある一階に視界が開けていく。
正面玄関からショウウィンドウへ曲がる角が一望できた。
んん?
角を曲がる、見覚えのある青緑色のつなぎは…?
清掃員さん!!!!!
清掃員さんがいるではありませんか!!!!
一発逆転。
地獄から天国。
思わず、那智さんのスーツの背中をばんばんと叩いてしまう。
ほぼ同時にそれに気づいて大笑いの那智さん。
なぜなんだろう。
清掃時間が変更になったのか、それとも、もともと開店5分前だけ、別の所をする段取りだったのか。
とにかく清掃員さんがいる。
角を曲がっていった、今頃はショウウィンドウの通路を掃除しているんだ。
正面玄関前の交差点の手前で一服をする那智さんに
「清掃員さんがいたらできませんね〜〜^^」と大はしゃぎ。
「なんだよ〜、つまんねーなー(笑)」
「あ、じゃあさ、正面玄関にしようか!?」
信号待ちする人の向かい側の正面玄関を右から左へお散歩。
「それは無理です!!!恥ずかしすぎます!!!」
「いや、そうしよう。」
タバコをもみ消しながら、楽しそうに言うけれど、物凄く目立ちます、那智さん。
首を振って無理を訴える。
「ううん、だって、つまんないもん」
また地獄へ、突き落とされそうになった瞬間。
さっきの清掃員がまた角を曲がって、正面玄関のほうに戻ってきた!!!
あああ、いいところに戻ってきてくださいましたね、清掃員さん。
「あ〜、残念(笑)」
命綱を握りかけて、ふと気づく。
「でも、ってことは、あっち(ショウウィンドウ)にはいなくなったってことだよね〜」
だーーーーー、そうだ。
なんで戻って来ちゃうの。
お願い、清掃員さん、ちょうど角のところにいて。
命綱を握る指を一本一本無理矢理引き剥がされているようだ、那智さんに……ううん、清掃員に。
もはや、誰が主導権を握っているのか、わからない。
「決まりだね〜」
青信号になって歩き始める。
昨日からの妄想ハイに、このジェットコースター。
もうフラフラだ。
ためらいもあって、歩みがゆっくり。
正面玄関にいる清掃員を複雑な気持ちで追いながら、角を曲がる。
数十mのショウウィンドウ。
遠くまで視界が開けた。
否応なくカウントダウンが始まる。
と、視界の先に、青緑…?
せ、せ、清掃員さん!!!!
ショウウィンドウのちょうど真ん中辺りで丁寧にガラスを磨いている。
まさかのもうひとり!!!
なに?なんなの?何人いるの?
もう、喜んでいいんだか、なんだかわからずだた『ひゃーひゃー』なわたし。
那智さんも笑ってる。
角を数歩進んだところで立ち止まり『ひゃーひゃー』なってるわたしに、様子を伺っていた那智さんが楽しそうにいう。
「あのさ、清掃員がいたらやっちゃいけないなんて決まりないよな?別にやってもいいよな。」
いや、それあなたが決めたの!!
男に二言はないでしょ!!
那智さん、そこ、急にポリシー変えちゃいけません。
ぶんぶんと首を振るしかできないでいると。
今度はわたしたちの背後から、また青緑色。
うっわあ。
また、あなた!?
さっきの人がこちらに来たんだ。
意味もなく怯えるわたし。
青緑がバイオハザードのゾンビに見えてくる。
もう、敵か味方か清掃員。
わたしたちを追い抜かし、ガラスを磨く人と同じ辺りで掃き掃除をはじめた。
さすがに、2人いたらね〜。
早く安堵したいわたし。
なかなか諦めない那智さん。
「じゃあ、ここからあの手前までする?」
清掃員の手前まで提案。
「無理です、見えちゃいますよ〜、那智さんのルールに反します。」
そういいながら、じりじりと進む。
ちょっとでも清掃員さんに近づいて、諦めてもらおうと。
このショウウィンドウは、ずら〜っと数十mショウウィンドウが並んでいるわけじゃないんだ。
途中に店内に入る扉があって、そこはガクッと凹んでいる。
じりじりと進み、角と清掃員の真ん中辺りまできた、そこに凹みがある。
4畳半ほどの広い凹みにスッと那智さんは入った。
両脇はショウウィンドウの側面でガラス。
奥は本来は店内へのガラス扉があるけど、いまはシャッターが閉まっている。
凹みとショウウィンドウの通路の境目くらいに2人で立つ。
怖い予感。
「じゃあ、ここでわんこ。」
ああ、やっぱり。
ただでは『なし』にしてくれない。
那智さん自身が、自分の気を済ませるには、まったく『なし』ではダメなんだろう。
なんとなく、清掃員に翻弄された感じもして、自分主導にして区切りをつけたいのかもしれない。
とにかく、那智さんなりの納得のしかただ。
ショウウィンドウをお散歩に比べたら、凹んだところでの『どこでもわんこ』は、大変とはいえまだ楽だ。
だから、一瞬ためらった後にすぐ遂行できるはずだった。
それでもやっぱる勇気が必要だ。
あわあわしながら、とにかく一歩、奥に入る。
そのあわあわしている時間が無駄な時間になってしまった。
なぜなら、那智さんの背中越しにちょうど信号は青になるのが見えたのだ。
それと同時に少ないながらも人の流れがこちらに向かう。
わたしの位置から、まるでわたしに向かって来ているような人の流れが見える。
このままでは、ちょうどその一団がこちらに向かうときにしゃがむという大きなアクションを起こさないといけないことになるからだ。
それは目立つ。
あわあわしないで、その前に四つん這いになってしまえばよかった。
タイミングをずらしたい。
あと少し経てば、波が落ち着いて朝の人通りに戻る。
「那智さん、待ってください、信号青になるから。」
慌ててお願いする。
「ううん。」
那智さんは人の流れなんて見ていない、首を振られる。
横断歩道を渡る先頭の若い女性が見える。
「やりますから、でも、ちょっと待ってください。」
「10。」
え?
「9、8。」
カウントされた。
うう、まだ続きます^^
待ち合わせ場所で見つけたわたしの服装を一瞥して、那智さんは少しだけ目を開いた。
きっと、ハーフパンツは覚悟だと受け取ったのだろう。
いや、待って、『りん子の覚悟に応えなきゃ』なんて思わないで〜!!
「違うんです、那智さん。だって、適していない服着てきたら、那智さんよりやる気出ちゃうでしょ!?」
「まあね、でも、まあ、どっちにしても今日はやるからな〜(笑)」
ああ、やっぱりやるのですよね…。
ほんとにやるの?
信じられない。
ううん、今日はやるんだ、もう覚悟決めなきゃ。
百貨店に向かって歩きながらでも、まだ昨日からの行ったり来たりを繰り返している。
「那智さん、早くホテルに入りましょ♪」
「少し冷えてるから、わたしお風呂入れますよ、温まりますよ〜♪♪」
無駄な抵抗とわかっていても、ただ黙ってそのときを迎えるほど根性は座ってない。
もしかしたら、どれかに引っかかってくれるかもしれない。
そう思って、かなり無意味な提案をいろいろする。
そうそう、この日は盛り上がっているWBCの決勝の日、これで釣ってみよう!!
「ね、ね、一緒にWBCの決勝観ましょ^^」
「ああ、観るよ。」
「食べ物買い込んで、ね」
「いいね、でも、わんこしてからね。」
「はじめから観たくありません?WBC。」
「うん、まだ間に合うでしょ。」
「那智さん、WBC〜観ましょ〜。」
「はいはい、全部終わってすっきりしてからね。」
「那智さ〜ん。」
「ん?」
「だぶりゅぅびぃじぃぃぃぃ;;;;」
もはや、なんの説得力もない^^;
一歩進むごとに百貨店が近づいてくる。
ああ、神様。
那智さんのわんこになることはこの上なく幸せで快感を覚える。
わかっているけど、それをするのは物凄く勇気がいる。
葛藤だ。
最初は遠くから見えていた百貨店。
近づくにつれて、上層階から正面玄関のある一階に視界が開けていく。
正面玄関からショウウィンドウへ曲がる角が一望できた。
んん?
角を曲がる、見覚えのある青緑色のつなぎは…?
清掃員さん!!!!!
清掃員さんがいるではありませんか!!!!
一発逆転。
地獄から天国。
思わず、那智さんのスーツの背中をばんばんと叩いてしまう。
ほぼ同時にそれに気づいて大笑いの那智さん。
なぜなんだろう。
清掃時間が変更になったのか、それとも、もともと開店5分前だけ、別の所をする段取りだったのか。
とにかく清掃員さんがいる。
角を曲がっていった、今頃はショウウィンドウの通路を掃除しているんだ。
正面玄関前の交差点の手前で一服をする那智さんに
「清掃員さんがいたらできませんね〜〜^^」と大はしゃぎ。
「なんだよ〜、つまんねーなー(笑)」
「あ、じゃあさ、正面玄関にしようか!?」
信号待ちする人の向かい側の正面玄関を右から左へお散歩。
「それは無理です!!!恥ずかしすぎます!!!」
「いや、そうしよう。」
タバコをもみ消しながら、楽しそうに言うけれど、物凄く目立ちます、那智さん。
首を振って無理を訴える。
「ううん、だって、つまんないもん」
また地獄へ、突き落とされそうになった瞬間。
さっきの清掃員がまた角を曲がって、正面玄関のほうに戻ってきた!!!
あああ、いいところに戻ってきてくださいましたね、清掃員さん。
「あ〜、残念(笑)」
命綱を握りかけて、ふと気づく。
「でも、ってことは、あっち(ショウウィンドウ)にはいなくなったってことだよね〜」
だーーーーー、そうだ。
なんで戻って来ちゃうの。
お願い、清掃員さん、ちょうど角のところにいて。
命綱を握る指を一本一本無理矢理引き剥がされているようだ、那智さんに……ううん、清掃員に。
もはや、誰が主導権を握っているのか、わからない。
「決まりだね〜」
青信号になって歩き始める。
昨日からの妄想ハイに、このジェットコースター。
もうフラフラだ。
ためらいもあって、歩みがゆっくり。
正面玄関にいる清掃員を複雑な気持ちで追いながら、角を曲がる。
数十mのショウウィンドウ。
遠くまで視界が開けた。
否応なくカウントダウンが始まる。
と、視界の先に、青緑…?
せ、せ、清掃員さん!!!!
ショウウィンドウのちょうど真ん中辺りで丁寧にガラスを磨いている。
まさかのもうひとり!!!
なに?なんなの?何人いるの?
もう、喜んでいいんだか、なんだかわからずだた『ひゃーひゃー』なわたし。
那智さんも笑ってる。
角を数歩進んだところで立ち止まり『ひゃーひゃー』なってるわたしに、様子を伺っていた那智さんが楽しそうにいう。
「あのさ、清掃員がいたらやっちゃいけないなんて決まりないよな?別にやってもいいよな。」
いや、それあなたが決めたの!!
男に二言はないでしょ!!
那智さん、そこ、急にポリシー変えちゃいけません。
ぶんぶんと首を振るしかできないでいると。
今度はわたしたちの背後から、また青緑色。
うっわあ。
また、あなた!?
さっきの人がこちらに来たんだ。
意味もなく怯えるわたし。
青緑がバイオハザードのゾンビに見えてくる。
もう、敵か味方か清掃員。
わたしたちを追い抜かし、ガラスを磨く人と同じ辺りで掃き掃除をはじめた。
さすがに、2人いたらね〜。
早く安堵したいわたし。
なかなか諦めない那智さん。
「じゃあ、ここからあの手前までする?」
清掃員の手前まで提案。
「無理です、見えちゃいますよ〜、那智さんのルールに反します。」
そういいながら、じりじりと進む。
ちょっとでも清掃員さんに近づいて、諦めてもらおうと。
このショウウィンドウは、ずら〜っと数十mショウウィンドウが並んでいるわけじゃないんだ。
途中に店内に入る扉があって、そこはガクッと凹んでいる。
じりじりと進み、角と清掃員の真ん中辺りまできた、そこに凹みがある。
4畳半ほどの広い凹みにスッと那智さんは入った。
両脇はショウウィンドウの側面でガラス。
奥は本来は店内へのガラス扉があるけど、いまはシャッターが閉まっている。
凹みとショウウィンドウの通路の境目くらいに2人で立つ。
怖い予感。
「じゃあ、ここでわんこ。」
ああ、やっぱり。
ただでは『なし』にしてくれない。
那智さん自身が、自分の気を済ませるには、まったく『なし』ではダメなんだろう。
なんとなく、清掃員に翻弄された感じもして、自分主導にして区切りをつけたいのかもしれない。
とにかく、那智さんなりの納得のしかただ。
ショウウィンドウをお散歩に比べたら、凹んだところでの『どこでもわんこ』は、大変とはいえまだ楽だ。
だから、一瞬ためらった後にすぐ遂行できるはずだった。
それでもやっぱる勇気が必要だ。
あわあわしながら、とにかく一歩、奥に入る。
そのあわあわしている時間が無駄な時間になってしまった。
なぜなら、那智さんの背中越しにちょうど信号は青になるのが見えたのだ。
それと同時に少ないながらも人の流れがこちらに向かう。
わたしの位置から、まるでわたしに向かって来ているような人の流れが見える。
このままでは、ちょうどその一団がこちらに向かうときにしゃがむという大きなアクションを起こさないといけないことになるからだ。
それは目立つ。
あわあわしないで、その前に四つん這いになってしまえばよかった。
タイミングをずらしたい。
あと少し経てば、波が落ち着いて朝の人通りに戻る。
「那智さん、待ってください、信号青になるから。」
慌ててお願いする。
「ううん。」
那智さんは人の流れなんて見ていない、首を振られる。
横断歩道を渡る先頭の若い女性が見える。
「やりますから、でも、ちょっと待ってください。」
「10。」
え?
「9、8。」
カウントされた。
うう、まだ続きます^^
キーパーソンは清掃員5
非日常的な日常
「10、9、8、」
カウントダウンがはじまった。
ショウウィンドウの凹んだところで『どこでもわんこ』、信号が青に変わって人の流れがこちらに来たためにためらいなかなか四つん這いになれないわたしにカウントダウン。
那智さんは、時々これをする。
「7、6、」
どうしよう。
まだ、通行人の一団は信号を渡りきっていない、いりん子こで四つん這いになればきっと目立つ。
「5、4。」
「やりますから、那智さん。」
「3、2。」
早く、通り過ぎて!!!
「1、0。」
一団の動きがスローモーションに感じる。
「やりますから、待ってください、人が通りすぎたら。」
「1m、2m、3m」
あああ、早く、今度は距離のカウントが始まってしまった。
お散歩になってしまったということだ。
もう、まわりが見えなくなってる。
「4m、5m」
「はい、やりますから!!」
「6m」
人が通り過ぎたか、わからない、でも、これ以上距離を伸ばすのは恐ろしい。
咄嗟に道路に背を向け、さっとしゃがんで手をつく、膝をつき、お尻を上げる。
やるって言ってるのに!!
なんでわかってくれないの!?
いつも、こういうときは、わたしのタイミングを待ってくれることが多いのに!!
半ばヤケッパチな気持ちだ。
「那智さん、やりましたから、やりましたから。」
下を向いたまま訴える。
6mのカウントが恐ろしくて、四つん這いのままじっとしていられない。
6mのカウントがお散歩を意味しているのか、万が一違うかもしれない、確かめずにはいられない。
合図がないのに立ち上がってしまう。
「6m散歩ね。」
あああああ、やっぱり。
「違うの、那智さん、やりたくなかったんじゃなくて、信号が変わって。」
「ばかだね〜、最初にやっていれば、それでおしまいにしてあげるつもりだったのに(笑)」
「ごめんなさい、でも、人、いっぱいこっちに向かってて。」
「はい、四つん這い。」
ためらっていると。
「6m」
またカウントしはじめた!!
「はい!はい!!」
即座に四つん這い(笑)
「うん、じゃあ、行くよ。」
バンジーだか清水だか、とにかく断崖絶壁を見下ろし、背中を押されたり命綱を渡されたり。
最後、もう大丈夫だろうと安堵したら、また思い切り背中を押されたのだ。
一度安堵してしまうと怖さが倍増する。
「無理です、那智さん!!」
タイルから手を離し普通にしゃがむ。
「リードがなきゃ、いや!!」
咄嗟に出たこじつけの理由。
それなら『じゃあ、リードがあればするね』とリードをつけて確定になっちゃう。
だから、慌てて否定。
「うそです、リード関係なく、無理!!!」
もう、支離滅裂。
でも、リードなしでお散歩の不安は、あながちテキトーな理由でもなかった。
『どこでもわんこ』ではリードなしもあるけど、いままで『お散歩』のときはリードをしていた。
那智さんとの繋がりに感じていたリード。
エロじゃない不思議な露出を楽しむ那智さん。
洋服を着た女性が四つん這いで歩いていたら『?』と思われるだろう。
気づく人がいるかどうかわからないけど、その『?』の答えのリード。
リードはわたしの大義名分。
怖さや恥ずかしさや申し訳なさからわたしを守ってくれる那智さんのバリア。
そのときは、そこまで深く考えていなかったけど。
やはり、リードのない不安を無意識には感じていたはずだ。
だから、咄嗟に出た言い訳だけど、テキトーでもないと思う。
「距離伸ばす?(笑)」(こういうとき、ほんとに笑ってるんだよね^^;)
「いいえ!!」
とにかく四つん這いに戻る。
「行くよ。」
動けない。
「ほら。」
そう言って、わたしの髪を一瞬掴んでくっと引いた。
それを合図に一歩踏み出す。
心は恐ろしくてためらいまくってる。
なのに、なぜだろう、髪を引かれたら『動く』のだ、体が勝手に。
磁石に引き寄せられるゼムクロップみたいに、あっけなく。
手は離れた。
歩き出し、すぐ思った。
リードがないと、不安だ。
だって、那智さんとわたしの歩く早さが違うから。
最初に踏み出す一歩だけで、ぐんっと距離が開くのがわかった。
那智さんの足が離れるのが視界に入る。
待って!!
必死にもう一歩出しながら心の中で叫ぶ。
そのとき、わたしが待ってと思うのとほぼ同時に、那智さんがわたしに寄り添うように速度を緩めてくれたのが見えた。
わたしの歩調に合わせてくれたのだ。
ああ、嬉しい。
わかってくれた。
はっきり確認することはできなけど、いま那智さんはわたしのすぐ横にいてくれているはずだ。
いつものリードでお散歩で見える革靴の踵じゃない部分がわたしの横で動いているのがわかる。
那智さんが寄り添ってくれている。
わたしを壁側にして那智さんが通路の真ん中を歩き、道路から守ってくれているみたいだ。
リードを引いてぐいぐいと進んでいたお散歩とは違って、ゆっくりとしか進めない。
信じられない状況だ、相変わらずいっぱいいっぱいで必死、だけど、なんて幸福を感じるのだろう。
「&$●×◎」
「はい、大丈夫ですよ〜^^」
小さく女性の声がした。
それと被せるように、那智さんの声。
なに、なに!?
もしかして声をかけられたの!?
声かけられた!!声かけられた〜〜〜!!
(コンビニのときといい、○○の人親切です;;;)
一瞬の幸福感が吹き飛ぶ。
恐ろしいくらい人の目を意識させられる。
どれくらいの人が後ろから見ていて、どれくらいの人に追い越されているのか。
想像できないくらい怖くて恥ずかしくて、しょうがない。
視界にはタイルの茶色と覆いかぶさるわたしの黒髪、隅のほうには那智さんの足の黒い気配。
お守りの指輪を意識する余裕なんてなかった。
声をかけられてわたしの動揺は跳ね上がった。
頭の中はパニックだった。
だけど、不思議と雑踏の記憶がないんだ。
なんて説明しよう…。
ガラス瓶に入り込んだ蠅というのを想像する。
小さな瓶の中で落ち着きなく飛び回り、パニックを起こしたようにガラスに当たりまくる。
ガラスを通して『外』があるのはわかるけど、歪んで見えるし音は聞こえてこないし、逆に蠅のパニックも『外』には響かない。
ジージーとこうるさい羽の音と出口を求めてガラスに追突する音。
自分は蠅そのものなのか、耳を塞いで瓶の中でうずくまる小さなわたしなのか、どちらともいえないのだけど、内側の焦燥感が暴れているような感じ。
外と内、互いにその存在を意識しながらも、でも、まったく遮断された世界にいるようだった。
ただただ、必死に6m。
固いタイルにペタペタとした感触は覚えてる。
なんとなく、ザラッとしていて『汚れる』と思った記憶がある。
膝が痛いと思ったゴツゴツとタイルが当たっていた。
このまま距離が長くなれば確実に痛くなると感じはじめた頃、那智さんの歩みが止まったように感じられた。
一緒に止まる。
そのまま四つん這いでいる。
首筋を撫でられた。(これ、わたしぼんやりしか覚えていなかったのです)
膝が痛くなるかもと想像はできたけど。
距離と時間に対する意識が全然かなった。
立ち止まったここが、6mなのか、中間なのか、わからなかったし、わかろうともしていなかったという感じ。
那智さんの足の気配がわたしの意志のようだった。
「はい、もういいよ。」
撫でていた手でポンッと叩かれた。
6m終わったんだ。
そーっと立ち上がる。
恥ずかしくて、恥ずかしくて顔を上げられない。
高揚する気持ちを那智さんのスーツを握るということでなんとか抑える。
わたしを落ち着かせるためか、しばらくその場に留まる那智さん。
6m。
これが、あっという間のことだったのか、それとも長い時間人目に晒されていたのか、判断できない。
ただ、ショウウィンドウ数十mの散歩はこれの数倍だと、漠然と思う。
6m、四つん這いだった。
ショウウィンドウの真ん中あたりだろう。
うつむいたまま那智さんの腕にしがみつき、残りのタイルの通路を二足で歩く。
ホテルまでの道のり、チェックインしてから、ずっとボーッとしていた。
お湯を沸かしたりコートを掛けたりしている那智さんの横で、ただただ惚けていた。
チェックされたけど、案の定物凄く濡れていた。
いつものことながら、自分の性癖に呆れる。
6mでしたが『ショウウィンドウで四つん這い』いかがでしたか?
昼間の百貨店のショウウィンドウを四つん這いで歩く人が、ここにいるってことが、なんだか自分でも不思議です。
声をかけてきた女性は『大丈夫ですか?』と聞いてきたそうです。
親切な方だったのかなと思い、その方の心を波立たせてしまったことをとても申し訳なく感じますが。
それほど、性的な露出から遠い位置にある行為だということなのかなとも思います。
リードがない分、より一層性的な匂いが排除されたようにも思う。
ふと、読んでくださる人は、性的ではない露出に何を感じるのだろうと思いました。
興奮?怖いもの見たさ?もしかしてフィクション?
どうやらわたしはこれで興奮し幸福を感じるようです。
でも、この日一番印象に残っていることは、羞恥心でも声をかけられた驚きでもなくて。
那智さんの足、なんだ。
いまでもはっきりと思い出せる。
ストップモーションのように心に刻まれている。
それは。
那智さんの、最初の一歩と、一瞬振り返るように足の角度が変わり、すっとこちらに寄り添いながらの次の歩幅を狭めた一歩。
その足の動き。
庇うように速度を緩めて寄り添ってくれる、一瞬もわたしをひとりにしないと那智さんの覚悟を感じさせてくれた、あの足の動きがわたしを幸福にさせるのだ。
怖いものは怖い。
恥ずかしいことは恥ずかしい。
でも、恥ずかしいことはわたしをとても興奮させる。
だけど、それは、すべてにおいてこの『覚悟』の上に成り立っていると思うのだ。
だから、その『覚悟』を持ってわたしを翻弄させる那智さんに、とてもとても興奮して、幸福になる。
やっぱり、翻弄されるのは、清掃員さんじゃなくて那智さんがいい^^
「10、9、8、」
カウントダウンがはじまった。
ショウウィンドウの凹んだところで『どこでもわんこ』、信号が青に変わって人の流れがこちらに来たためにためらいなかなか四つん這いになれないわたしにカウントダウン。
那智さんは、時々これをする。
「7、6、」
どうしよう。
まだ、通行人の一団は信号を渡りきっていない、いりん子こで四つん這いになればきっと目立つ。
「5、4。」
「やりますから、那智さん。」
「3、2。」
早く、通り過ぎて!!!
「1、0。」
一団の動きがスローモーションに感じる。
「やりますから、待ってください、人が通りすぎたら。」
「1m、2m、3m」
あああ、早く、今度は距離のカウントが始まってしまった。
お散歩になってしまったということだ。
もう、まわりが見えなくなってる。
「4m、5m」
「はい、やりますから!!」
「6m」
人が通り過ぎたか、わからない、でも、これ以上距離を伸ばすのは恐ろしい。
咄嗟に道路に背を向け、さっとしゃがんで手をつく、膝をつき、お尻を上げる。
やるって言ってるのに!!
なんでわかってくれないの!?
いつも、こういうときは、わたしのタイミングを待ってくれることが多いのに!!
半ばヤケッパチな気持ちだ。
「那智さん、やりましたから、やりましたから。」
下を向いたまま訴える。
6mのカウントが恐ろしくて、四つん這いのままじっとしていられない。
6mのカウントがお散歩を意味しているのか、万が一違うかもしれない、確かめずにはいられない。
合図がないのに立ち上がってしまう。
「6m散歩ね。」
あああああ、やっぱり。
「違うの、那智さん、やりたくなかったんじゃなくて、信号が変わって。」
「ばかだね〜、最初にやっていれば、それでおしまいにしてあげるつもりだったのに(笑)」
「ごめんなさい、でも、人、いっぱいこっちに向かってて。」
「はい、四つん這い。」
ためらっていると。
「6m」
またカウントしはじめた!!
「はい!はい!!」
即座に四つん這い(笑)
「うん、じゃあ、行くよ。」
バンジーだか清水だか、とにかく断崖絶壁を見下ろし、背中を押されたり命綱を渡されたり。
最後、もう大丈夫だろうと安堵したら、また思い切り背中を押されたのだ。
一度安堵してしまうと怖さが倍増する。
「無理です、那智さん!!」
タイルから手を離し普通にしゃがむ。
「リードがなきゃ、いや!!」
咄嗟に出たこじつけの理由。
それなら『じゃあ、リードがあればするね』とリードをつけて確定になっちゃう。
だから、慌てて否定。
「うそです、リード関係なく、無理!!!」
もう、支離滅裂。
でも、リードなしでお散歩の不安は、あながちテキトーな理由でもなかった。
『どこでもわんこ』ではリードなしもあるけど、いままで『お散歩』のときはリードをしていた。
那智さんとの繋がりに感じていたリード。
エロじゃない不思議な露出を楽しむ那智さん。
洋服を着た女性が四つん這いで歩いていたら『?』と思われるだろう。
気づく人がいるかどうかわからないけど、その『?』の答えのリード。
リードはわたしの大義名分。
怖さや恥ずかしさや申し訳なさからわたしを守ってくれる那智さんのバリア。
そのときは、そこまで深く考えていなかったけど。
やはり、リードのない不安を無意識には感じていたはずだ。
だから、咄嗟に出た言い訳だけど、テキトーでもないと思う。
「距離伸ばす?(笑)」(こういうとき、ほんとに笑ってるんだよね^^;)
「いいえ!!」
とにかく四つん這いに戻る。
「行くよ。」
動けない。
「ほら。」
そう言って、わたしの髪を一瞬掴んでくっと引いた。
それを合図に一歩踏み出す。
心は恐ろしくてためらいまくってる。
なのに、なぜだろう、髪を引かれたら『動く』のだ、体が勝手に。
磁石に引き寄せられるゼムクロップみたいに、あっけなく。
手は離れた。
歩き出し、すぐ思った。
リードがないと、不安だ。
だって、那智さんとわたしの歩く早さが違うから。
最初に踏み出す一歩だけで、ぐんっと距離が開くのがわかった。
那智さんの足が離れるのが視界に入る。
待って!!
必死にもう一歩出しながら心の中で叫ぶ。
そのとき、わたしが待ってと思うのとほぼ同時に、那智さんがわたしに寄り添うように速度を緩めてくれたのが見えた。
わたしの歩調に合わせてくれたのだ。
ああ、嬉しい。
わかってくれた。
はっきり確認することはできなけど、いま那智さんはわたしのすぐ横にいてくれているはずだ。
いつものリードでお散歩で見える革靴の踵じゃない部分がわたしの横で動いているのがわかる。
那智さんが寄り添ってくれている。
わたしを壁側にして那智さんが通路の真ん中を歩き、道路から守ってくれているみたいだ。
リードを引いてぐいぐいと進んでいたお散歩とは違って、ゆっくりとしか進めない。
信じられない状況だ、相変わらずいっぱいいっぱいで必死、だけど、なんて幸福を感じるのだろう。
「&$●×◎」
「はい、大丈夫ですよ〜^^」
小さく女性の声がした。
それと被せるように、那智さんの声。
なに、なに!?
もしかして声をかけられたの!?
声かけられた!!声かけられた〜〜〜!!
(コンビニのときといい、○○の人親切です;;;)
一瞬の幸福感が吹き飛ぶ。
恐ろしいくらい人の目を意識させられる。
どれくらいの人が後ろから見ていて、どれくらいの人に追い越されているのか。
想像できないくらい怖くて恥ずかしくて、しょうがない。
視界にはタイルの茶色と覆いかぶさるわたしの黒髪、隅のほうには那智さんの足の黒い気配。
お守りの指輪を意識する余裕なんてなかった。
声をかけられてわたしの動揺は跳ね上がった。
頭の中はパニックだった。
だけど、不思議と雑踏の記憶がないんだ。
なんて説明しよう…。
ガラス瓶に入り込んだ蠅というのを想像する。
小さな瓶の中で落ち着きなく飛び回り、パニックを起こしたようにガラスに当たりまくる。
ガラスを通して『外』があるのはわかるけど、歪んで見えるし音は聞こえてこないし、逆に蠅のパニックも『外』には響かない。
ジージーとこうるさい羽の音と出口を求めてガラスに追突する音。
自分は蠅そのものなのか、耳を塞いで瓶の中でうずくまる小さなわたしなのか、どちらともいえないのだけど、内側の焦燥感が暴れているような感じ。
外と内、互いにその存在を意識しながらも、でも、まったく遮断された世界にいるようだった。
ただただ、必死に6m。
固いタイルにペタペタとした感触は覚えてる。
なんとなく、ザラッとしていて『汚れる』と思った記憶がある。
膝が痛いと思ったゴツゴツとタイルが当たっていた。
このまま距離が長くなれば確実に痛くなると感じはじめた頃、那智さんの歩みが止まったように感じられた。
一緒に止まる。
そのまま四つん這いでいる。
首筋を撫でられた。(これ、わたしぼんやりしか覚えていなかったのです)
膝が痛くなるかもと想像はできたけど。
距離と時間に対する意識が全然かなった。
立ち止まったここが、6mなのか、中間なのか、わからなかったし、わかろうともしていなかったという感じ。
那智さんの足の気配がわたしの意志のようだった。
「はい、もういいよ。」
撫でていた手でポンッと叩かれた。
6m終わったんだ。
そーっと立ち上がる。
恥ずかしくて、恥ずかしくて顔を上げられない。
高揚する気持ちを那智さんのスーツを握るということでなんとか抑える。
わたしを落ち着かせるためか、しばらくその場に留まる那智さん。
6m。
これが、あっという間のことだったのか、それとも長い時間人目に晒されていたのか、判断できない。
ただ、ショウウィンドウ数十mの散歩はこれの数倍だと、漠然と思う。
6m、四つん這いだった。
ショウウィンドウの真ん中あたりだろう。
うつむいたまま那智さんの腕にしがみつき、残りのタイルの通路を二足で歩く。
ホテルまでの道のり、チェックインしてから、ずっとボーッとしていた。
お湯を沸かしたりコートを掛けたりしている那智さんの横で、ただただ惚けていた。
チェックされたけど、案の定物凄く濡れていた。
いつものことながら、自分の性癖に呆れる。
6mでしたが『ショウウィンドウで四つん這い』いかがでしたか?
昼間の百貨店のショウウィンドウを四つん這いで歩く人が、ここにいるってことが、なんだか自分でも不思議です。
声をかけてきた女性は『大丈夫ですか?』と聞いてきたそうです。
親切な方だったのかなと思い、その方の心を波立たせてしまったことをとても申し訳なく感じますが。
それほど、性的な露出から遠い位置にある行為だということなのかなとも思います。
リードがない分、より一層性的な匂いが排除されたようにも思う。
ふと、読んでくださる人は、性的ではない露出に何を感じるのだろうと思いました。
興奮?怖いもの見たさ?もしかしてフィクション?
どうやらわたしはこれで興奮し幸福を感じるようです。
でも、この日一番印象に残っていることは、羞恥心でも声をかけられた驚きでもなくて。
那智さんの足、なんだ。
いまでもはっきりと思い出せる。
ストップモーションのように心に刻まれている。
それは。
那智さんの、最初の一歩と、一瞬振り返るように足の角度が変わり、すっとこちらに寄り添いながらの次の歩幅を狭めた一歩。
その足の動き。
庇うように速度を緩めて寄り添ってくれる、一瞬もわたしをひとりにしないと那智さんの覚悟を感じさせてくれた、あの足の動きがわたしを幸福にさせるのだ。
怖いものは怖い。
恥ずかしいことは恥ずかしい。
でも、恥ずかしいことはわたしをとても興奮させる。
だけど、それは、すべてにおいてこの『覚悟』の上に成り立っていると思うのだ。
だから、その『覚悟』を持ってわたしを翻弄させる那智さんに、とてもとても興奮して、幸福になる。
やっぱり、翻弄されるのは、清掃員さんじゃなくて那智さんがいい^^
お散歩の裏話1
独特な幸福感
6mのお散歩はお楽しみいただけましたか?
わんこのお話は好みが分かれるのかな〜なんて思ったりしています。
6mとはいえ、ホテル街というちょっと特殊な一般道ではない百貨店のショウウィンドウを四つん這いで散歩をするという、思い返しても恐ろしいことをしてから数日。
大小の喜びや発見、また那智さんの心などなど、いまでも大きな話題としてふたりの間を賑わしてくれています。
今日は、その一部を。
6mのお散歩裏話です。
アブノーマルと言われるのかもしれない、わたしの性癖や性質。
だけどそれが幸福に満たされるのは、こんな裏話があるからだと思う。
皆さんにはただのノロケになってしまうけど、忘れたくないので覚え書き^^
(しかも、2話に渡る予定^^;)
わんこの後、ホテルやらレストランでやらで、いったいどちらが大変かとふたりであれこれ話していて。
わたしが、どんなに恥ずかしくて怖くて必死だったか、思い出しては『ひゃーひゃー』なって訴えていたら、ふと静かな声で。
「でもさ、俺の方が大変だと思うけどな。」
と独り言のように那智さんが言った。
この言葉には、ちょっと胸を掴まれた。
そうだよね、連れ歩く方が大変だよね。
実は、顔を上げて堂々と歩くほうが恥ずかしいし、万が一トラブルが起きたらそれに対処するのも、那智さん側の仕事だものね。
その気持ちに感謝して。
「大変なことを背負って、わたしをわんこにしてくれてありがとうございます。」
と伝えると。
「じゃあ、次からすぐできるね♪」
なんてことに!!
いやいや、それとこれとは違います。
確かに連れ歩くほうが大変でしょう。
だから、仮に『大変ポイント』で表すとして、連れ歩くほうが100で、わんこが80だったとします。
で、わたしは那智さんより恐がりで恥ずかしがりですよね。
こちらも仮に『強さポイント』をつけて、那智さんは50持ってて、わたしは10ポイントくらいしか持っていないのだと思います。
だから、那智さんは連れ歩き100をするのに、強さ50を持っているのだから、あと50の力があればクリアできるわけです。
わたしは、もともと10しか持っていないのだから、80をクリアするにも70の力が必要なんです。
現象としては那智さんのほうが大変だったとしても、エネルギーを使うのはわたしの方ということになります。
で、那智さんは、10ポイントしか持っていない恐がりで恥ずかしがりの女を好んで選んでいるのだから、仕方ないのです。
筋通ってる?
とりあえずこんな理屈をこねてみる。
笑いながら聞いている那智さん。
更に笑って。
「じゃあさ、立場変えてみる?」
りん子がリード引いて俺がわんこするの。
意味わかりません^^;
だって、俺はりん子を恥ずかしがらせたいんだよ。
それなら100ポイントのリードを引く方をりん子にやらせれば、もっとおもしろい。
でさ、俺ちゃんと歩かないの。
あっち行ったり、こっち行ったり、わんこのままついでに通行人に絡んだりして。
ぎゃーーー、それ無理です〜〜〜!!
言うこと聞かない那智わんこをリードで引き。
むしろ引きずられながら、通行人さんに『ごめんなさい』するわたし。
おかし過ぎる想像。
2人で大笑い。
大笑いして、ふーっと一息して、また真摯な目でいう。
りん子を恥ずかしがらせることが目的なら、りん子にリードを引かせたほうが面白い。
俺、わんこなんて全然恥ずかしくないもん。
だけど、俺はリードを引く立場のほうが好きなんだ。
だから100ポイントでも、そっちをするんだよ。
りん子は、恥ずかしいとか怖いとか、そう感じることはかまわない。
だけど、恥ずかしいからどうしようとか、もし○○だったらどうしようとか、そういうことは考えなくていい。
りん子は、恥ずかしいと感じることはいい、でも、その先を考えるのは俺の仕事。
いいね?
なーんてこと、言ってくれちゃうから、わんこ悪くないと思ってしまうのだ。
それから、声をかけられた時のことを少し詳しく。
四つん這いになって凹みから出て来て、割とすぐ声をかけられたそうです。
だから、全体の1/3、2mくらいってことかな(って、そもそも6m自体あやふやですけど^^;)
声をかけられることは想定外だったみたいで、さすがの那智さんもドキッとしたそうです。
歩き出しから声をかけられるまでの数mは、ほとんど動揺なくその状況を楽しめたそうですが、その声に驚いてから他者の目を意識してしまい、ちょっと楽しめなかったそうです。
わんこのような露出をするときの那智さんは、恐らく、他者の目を跳ね返すほどの気合いというか気概というか、を持っているのだと思う。
それはね、他者がいるとわかっていながらも、その存在をないものにするという方法で跳ね返しているのだと思うのです。
『私はあなたがたがいることは認識しているけど、眼中にない』という思考回路にすることによって、堂々と四つん這いの女性を連れ歩けるのだと思う(推測あってます?那智さん)
だから、もともとそこに人が留まっている場合はしないのでしょう。
だって、明らかにそこにいるのわかってて『眼中にない』という立場にさせてしまうのは、那智さんからしたら『ケンカ売っているみたい』になっちゃうからね。
そんなことだから、恐らく凹みから出て来たときは、その他者の存在をないものにできていて『眼中にない』という状態でいられたのだと思う。
それだと、『楽しい』らしい。
それが『大丈夫ですか?』と声をかけられることによって、否応なく他者の存在を意識させられたわけで、だから、そこから先、うまい具合に『眼中にない』精神でいられなかったのだ。
しかも、声をかけてきた女性の様子から、親切だと感じられたから余計に排除できないものになったのでしょう。
多分、からかいだったとしたら、逆に平気だったと思う(負けず嫌いさんだから^^)
四つん這いで歩きながら『はい、大丈夫ですよ〜^^』と聞こえたきた声は余裕が感じられたけど、実はけっこうドキドキだったらしい。
その場で動揺を感じさせないところも魅力だけど。
あとから、『ドキドキした』って笑いながら話してくれるところも魅力なんだな。
ちょっと人間味感じさせてもらえるのっていいと思いません?
その場で動揺を見せられたらこちらも怖くなってしまうけど、そこでは『ドキッ』としたと感じさせずに、あとから話して聞かせてくれるのって、ああ、ウソついていないんだなって思える。
そういう一面もいとおしい。
その人が『今度声かけられたら、多分もう大丈夫。この人ハイハイしかできないんですよ〜とか言おうかな』なんてあれこれ考えるのを聞きながら、また『きゃーきゃー』なるのもまた幸せだ。
きっと、『その先を考えるのは俺の仕事』というのも、『今度はもう大丈夫』というのも、ウソじゃないんだろうなと思わせてくれる。
そんな話を聞かせてくれちゃうから、わんこがまた幸せな出来事としてわたしの記憶に残る。
だから、わたしは百貨店のショウウィンドウを四つん這いで歩くなんてことで満たされるのだ。
SM願望を持ち、だけど行為だけでも恋愛感情だけでも満たされなかったわたし。
じゃあ、わたしは何を求めているのだろうと心を探っていた。
実は、まだ『これ』という言葉にたどり着けていないのだ。
恐らく、同化、依存、従属、娘、そんなものが根っこにあって、そこに性癖としてもマゾが加わっているのだろうなと思う。
もしかしたらこれかもと感じられたことを、次回に。
上手に伝えられるかな。
理解しづらいノロケが、この後まだ続きます^^;
6mのお散歩はお楽しみいただけましたか?
わんこのお話は好みが分かれるのかな〜なんて思ったりしています。
6mとはいえ、ホテル街というちょっと特殊な一般道ではない百貨店のショウウィンドウを四つん這いで散歩をするという、思い返しても恐ろしいことをしてから数日。
大小の喜びや発見、また那智さんの心などなど、いまでも大きな話題としてふたりの間を賑わしてくれています。
今日は、その一部を。
6mのお散歩裏話です。
アブノーマルと言われるのかもしれない、わたしの性癖や性質。
だけどそれが幸福に満たされるのは、こんな裏話があるからだと思う。
皆さんにはただのノロケになってしまうけど、忘れたくないので覚え書き^^
(しかも、2話に渡る予定^^;)
わんこの後、ホテルやらレストランでやらで、いったいどちらが大変かとふたりであれこれ話していて。
わたしが、どんなに恥ずかしくて怖くて必死だったか、思い出しては『ひゃーひゃー』なって訴えていたら、ふと静かな声で。
「でもさ、俺の方が大変だと思うけどな。」
と独り言のように那智さんが言った。
この言葉には、ちょっと胸を掴まれた。
そうだよね、連れ歩く方が大変だよね。
実は、顔を上げて堂々と歩くほうが恥ずかしいし、万が一トラブルが起きたらそれに対処するのも、那智さん側の仕事だものね。
その気持ちに感謝して。
「大変なことを背負って、わたしをわんこにしてくれてありがとうございます。」
と伝えると。
「じゃあ、次からすぐできるね♪」
なんてことに!!
いやいや、それとこれとは違います。
確かに連れ歩くほうが大変でしょう。
だから、仮に『大変ポイント』で表すとして、連れ歩くほうが100で、わんこが80だったとします。
で、わたしは那智さんより恐がりで恥ずかしがりですよね。
こちらも仮に『強さポイント』をつけて、那智さんは50持ってて、わたしは10ポイントくらいしか持っていないのだと思います。
だから、那智さんは連れ歩き100をするのに、強さ50を持っているのだから、あと50の力があればクリアできるわけです。
わたしは、もともと10しか持っていないのだから、80をクリアするにも70の力が必要なんです。
現象としては那智さんのほうが大変だったとしても、エネルギーを使うのはわたしの方ということになります。
で、那智さんは、10ポイントしか持っていない恐がりで恥ずかしがりの女を好んで選んでいるのだから、仕方ないのです。
筋通ってる?
とりあえずこんな理屈をこねてみる。
笑いながら聞いている那智さん。
更に笑って。
「じゃあさ、立場変えてみる?」
りん子がリード引いて俺がわんこするの。
意味わかりません^^;
だって、俺はりん子を恥ずかしがらせたいんだよ。
それなら100ポイントのリードを引く方をりん子にやらせれば、もっとおもしろい。
でさ、俺ちゃんと歩かないの。
あっち行ったり、こっち行ったり、わんこのままついでに通行人に絡んだりして。
ぎゃーーー、それ無理です〜〜〜!!
言うこと聞かない那智わんこをリードで引き。
むしろ引きずられながら、通行人さんに『ごめんなさい』するわたし。
おかし過ぎる想像。
2人で大笑い。
大笑いして、ふーっと一息して、また真摯な目でいう。
りん子を恥ずかしがらせることが目的なら、りん子にリードを引かせたほうが面白い。
俺、わんこなんて全然恥ずかしくないもん。
だけど、俺はリードを引く立場のほうが好きなんだ。
だから100ポイントでも、そっちをするんだよ。
りん子は、恥ずかしいとか怖いとか、そう感じることはかまわない。
だけど、恥ずかしいからどうしようとか、もし○○だったらどうしようとか、そういうことは考えなくていい。
りん子は、恥ずかしいと感じることはいい、でも、その先を考えるのは俺の仕事。
いいね?
なーんてこと、言ってくれちゃうから、わんこ悪くないと思ってしまうのだ。
それから、声をかけられた時のことを少し詳しく。
四つん這いになって凹みから出て来て、割とすぐ声をかけられたそうです。
だから、全体の1/3、2mくらいってことかな(って、そもそも6m自体あやふやですけど^^;)
声をかけられることは想定外だったみたいで、さすがの那智さんもドキッとしたそうです。
歩き出しから声をかけられるまでの数mは、ほとんど動揺なくその状況を楽しめたそうですが、その声に驚いてから他者の目を意識してしまい、ちょっと楽しめなかったそうです。
わんこのような露出をするときの那智さんは、恐らく、他者の目を跳ね返すほどの気合いというか気概というか、を持っているのだと思う。
それはね、他者がいるとわかっていながらも、その存在をないものにするという方法で跳ね返しているのだと思うのです。
『私はあなたがたがいることは認識しているけど、眼中にない』という思考回路にすることによって、堂々と四つん這いの女性を連れ歩けるのだと思う(推測あってます?那智さん)
だから、もともとそこに人が留まっている場合はしないのでしょう。
だって、明らかにそこにいるのわかってて『眼中にない』という立場にさせてしまうのは、那智さんからしたら『ケンカ売っているみたい』になっちゃうからね。
そんなことだから、恐らく凹みから出て来たときは、その他者の存在をないものにできていて『眼中にない』という状態でいられたのだと思う。
それだと、『楽しい』らしい。
それが『大丈夫ですか?』と声をかけられることによって、否応なく他者の存在を意識させられたわけで、だから、そこから先、うまい具合に『眼中にない』精神でいられなかったのだ。
しかも、声をかけてきた女性の様子から、親切だと感じられたから余計に排除できないものになったのでしょう。
多分、からかいだったとしたら、逆に平気だったと思う(負けず嫌いさんだから^^)
四つん這いで歩きながら『はい、大丈夫ですよ〜^^』と聞こえたきた声は余裕が感じられたけど、実はけっこうドキドキだったらしい。
その場で動揺を感じさせないところも魅力だけど。
あとから、『ドキドキした』って笑いながら話してくれるところも魅力なんだな。
ちょっと人間味感じさせてもらえるのっていいと思いません?
その場で動揺を見せられたらこちらも怖くなってしまうけど、そこでは『ドキッ』としたと感じさせずに、あとから話して聞かせてくれるのって、ああ、ウソついていないんだなって思える。
そういう一面もいとおしい。
その人が『今度声かけられたら、多分もう大丈夫。この人ハイハイしかできないんですよ〜とか言おうかな』なんてあれこれ考えるのを聞きながら、また『きゃーきゃー』なるのもまた幸せだ。
きっと、『その先を考えるのは俺の仕事』というのも、『今度はもう大丈夫』というのも、ウソじゃないんだろうなと思わせてくれる。
そんな話を聞かせてくれちゃうから、わんこがまた幸せな出来事としてわたしの記憶に残る。
だから、わたしは百貨店のショウウィンドウを四つん這いで歩くなんてことで満たされるのだ。
SM願望を持ち、だけど行為だけでも恋愛感情だけでも満たされなかったわたし。
じゃあ、わたしは何を求めているのだろうと心を探っていた。
実は、まだ『これ』という言葉にたどり着けていないのだ。
恐らく、同化、依存、従属、娘、そんなものが根っこにあって、そこに性癖としてもマゾが加わっているのだろうなと思う。
もしかしたらこれかもと感じられたことを、次回に。
上手に伝えられるかな。
理解しづらいノロケが、この後まだ続きます^^;