夏の旅行3
独特な幸福感
はしゃぎながらのお散歩の空気を一変させるように、雑木林の中に那智さんが入っていった。
誰かの私有地なんだろういちおう人が歩けるように木を切っているというだけのけもの道のような道を歩いていく。
大小の石や枝、シダや苔に覆われた岩。
歩きにくいごつごつとした道。
枝を踏みしめ苔で滑らないように歩く。
お気に入りのサンダルを痛めてしまいそうで、ちょっと憂鬱になった。
どうするのだろう。
駅からのバスで途中下車をしてしようとして叶わなかった『木に括り付ける』をするにしても縄を持っていないはずだから、それじゃないよね。
お外でわたしを抱くのかな。
それともフェラチオをさせるの?
もしかしたらワンピースをめくって下着を露出させた写真を撮ったりするのかも。
不安と期待。
この道はさっき歩いていた道路から垂直ではなく、斜めに伸びている。
だから、しばらく歩いても、道路を走る車の音がなかなか遠くにならないのだ。
斜め後ろを振り返れば、木々の間から動く車の様子がチラチラを見える。
それでも、走る車からはもうこちらの様子はわからないだろう。
少し道幅が広がった。
ここで何かするの?
わたしは、こういう入っちゃいけない場所とかに入ることをすごく苦手。
こんなところも恐がりなんだ。
ここまで誰もいなかったことがただのラッキーで、これ以上奥に行ったら誰かいるかもしれないとか思ってしまうのだ。
だから、もう、そろそろ写真撮るなりフェラチオするなりやっちゃいません?という気持ちになってしまっていた。
でも、那智さんは立ち止まらないで、どんどん奥に進んでいく。
足場は悪くなる一方。
起伏も激しくなってきた。
高いヒールのサンダルでこのデコボコ道を歩くのは、厄介だった。
臆病なわたしが目的もわからずヨロヨロ歩いていくのが、お気に入りのサンダルが痛んでしまうかもしれないことが、なんだかどんどん悲しくなってくる。
いったいいつまで歩くのだろう。
かなり奥まで来ている。
車の音が聞こえるけれど、ずいぶんと遠くになった。
また、少し視界が広がった。
那智さんが立ち止まった。
悪い足場を固めるようにサンダルで枝や小石をならす。
「脱いで。」
ぬ…ぐ?
予想していなかった言葉にきょとんとしてしまう。
「脱いで。」
「脱ぐ?」
「そう、全部脱いで。」
ああ、わたしは、こういうときに限って危機管理をしないんだ。
ここまで奥深く進むということはパンチラ写真で済むはずないのに。
それなのになぜかこのときは全裸なんて思ってもみなかったのだ。
「早く。」
ビデオカメラを構えた那智さんが言う。
ここで、わたし裸になるんだ。
これは、わたしの憧れていた種類の露出だ。
那智さんはいつも人がいるところで一風変わった露出をするけど、人目が気になるわたしは人のいないところで、非日常を味わいと思っていたんだもの。
憧れていたことが叶うから嬉しいはずなんだけど、全裸になるなんて考えてもみなかったので面食らってしまって、気持ちがまとまらない。
「全部?ですよね?」
「そう。」
ワンピースのボタンを外し、裾をひっくり返すようにくるんと脱ぐ。
那智さんがカメラを持っていない方の手を差し出してそれを受け取り、そばの木の枝にひょいと掛ける。
ワンピースを渡す手がガタガタと震えている。
気がつけば体全体が震えている。
ああ、人ってこんなに震えるものなんだな、なんて妙冷静な一部が思ったり。
下着だけになってしまった。
なんて心許ない姿だろう。
ううん、浜辺に行けばこれくらい露出させた人はいっぱいいる、だから、全然たいしたことない。
そんなふうに変な理屈で、震えを抑えようとしてみる。
ブラジャーを外し、また那智さんへ渡す。
不安定な足場、片足ずつバランスを取ってパンツも脱ぐ。
わたしを覆っていたものが、いま目の前の木の枝に引っかかっている。
ふう。
息をつく。
わたし、裸だ。
ううん、露天風呂に入ればみんなお外で裸だよ、それと変わりない。
また変な理由で納得させようとしている。
でも、この方法は間違っていた。
それは、『でも、ここは浜辺じゃないし、露天風呂じゃない。』と結局自分の異常さを再確認させてしまうだけだった。
ああ、それも違う。
怖さを回避させようと変な理由を並べているけれど、ほんとうは異常さを際立たせて、それでより感じたいだけなのかもしれない。
実際、それで感じていた。
裸になっちゃった。
ふ〜っと体が軽くなるみたい。
風が肌に当たって気持ちいい。
相変わらず体はガタガタと震えている。
外で全裸でいることの不自然さ。
異常なわたしへの憧れ。
震えたままで、脳は快感を覚えはじめているようだった。
「オナニーして。」
立ったまま?ここで?
抵抗したか、すぐ従ったか覚えていない。
記憶は、立ったままクリトリスを触るわたしというところから、ある。
恥ずかしくて異常で、露出した肌が気持ちいい。
車の音が遠くに聞こえている。
腕がチクッとした。
蚊だ。
いやだ、蚊に刺される。
そう思うけど、それを払うところまで気持ちがいかない。
ちょっと違うな、うんとね、蚊のほうに気持ちをいかないようにしていたかな、この時は。
気を逸らしたくなかった感じ。
せっかく味わっている憧れの露出なんだもの。
実はこのとき、クリトリスを触る快感の記憶がないんだ。
ただ、立ちながらだといきにくいなと思っていたのは覚えている。
それよりもこの異常さに感じていたみたいだった。
それでも、体の反応は正直で、しばらくしたらエクスタシーを迎えた。
「いってもいいですか?」
そう聞いていく。
いったと同時にその場にしゃがみ込んでしまった。
だけど、立ったままって、いくのはいくけど、どうもいききれない感じしません?
わたしはそうなんだ。
火種が残ったまま。
お外で全裸でオナニーをしていってしまった事実が、間髪入れずにそのまま火種に火をつけてしまった。
しゃがんでからも、クリトリスから指が離れてくれない。
もっとちゃんといきたい。
この姿で快感の波に飲まれたい。
続けろなんて一言も言われていないのに、普段ならオナニーの姿を自ら見せ続けるなんてことできないのに。
もっと、もっとと指が動く。
またチクッとした、また蚊だ。
さっきは気をそらしたくないから意識しないようにした感じがあったけど。
今度は違う。
もう、蚊なんてどうでもいい。
気にならない。
足場が悪く、しかもいきやすいような体勢を取っているからか、お尻が地面に触れている。
土か枯れ葉か苔かわからないけど、お尻についている。
いつもなら恥ずかしくて苦手な自ら進んでの自慰。
肌を刺す蚊。
汚れたお尻。
那智さんがビデオカメラを回し続けていること。
全部、知らない。
どうでもいいこと。
ただただ快感を味わい一心で、無我夢中でオナニーをしていた。
声を洩らしてしまっただろうか。
とんでもなく気持ちのよいエクスタシー、へたり込みたいところを最後の理性が我慢させた。
膝を抱えるようにして荒い息を整え快感の余韻に浸っていると、那智さんが近寄る気配がした。
だんだん理性が戻ってきているから、自分のしたことが恥ずかしくて照れくさくて裸のまましゃがんでうつむいている。
ふっと那智さんの手が伸びて、頬を撫で汗で張り付いた髪を払ってくれた。
何度も何度も。
その手で頬を包むようにして。
顔を近づけ、キスをした。
優しく慈しむような肯定のキスだった。
枝に掛けてあった下着や洋服を取ってもらって、元の姿に戻る。
なんだかとても惜しい気分。
洋服を着て普通のわたしになってはじめて5箇所も蚊に食われていたことに気がついた。
はしゃぎながらのお散歩の空気を一変させるように、雑木林の中に那智さんが入っていった。
誰かの私有地なんだろういちおう人が歩けるように木を切っているというだけのけもの道のような道を歩いていく。
大小の石や枝、シダや苔に覆われた岩。
歩きにくいごつごつとした道。
枝を踏みしめ苔で滑らないように歩く。
お気に入りのサンダルを痛めてしまいそうで、ちょっと憂鬱になった。
どうするのだろう。
駅からのバスで途中下車をしてしようとして叶わなかった『木に括り付ける』をするにしても縄を持っていないはずだから、それじゃないよね。
お外でわたしを抱くのかな。
それともフェラチオをさせるの?
もしかしたらワンピースをめくって下着を露出させた写真を撮ったりするのかも。
不安と期待。
この道はさっき歩いていた道路から垂直ではなく、斜めに伸びている。
だから、しばらく歩いても、道路を走る車の音がなかなか遠くにならないのだ。
斜め後ろを振り返れば、木々の間から動く車の様子がチラチラを見える。
それでも、走る車からはもうこちらの様子はわからないだろう。
少し道幅が広がった。
ここで何かするの?
わたしは、こういう入っちゃいけない場所とかに入ることをすごく苦手。
こんなところも恐がりなんだ。
ここまで誰もいなかったことがただのラッキーで、これ以上奥に行ったら誰かいるかもしれないとか思ってしまうのだ。
だから、もう、そろそろ写真撮るなりフェラチオするなりやっちゃいません?という気持ちになってしまっていた。
でも、那智さんは立ち止まらないで、どんどん奥に進んでいく。
足場は悪くなる一方。
起伏も激しくなってきた。
高いヒールのサンダルでこのデコボコ道を歩くのは、厄介だった。
臆病なわたしが目的もわからずヨロヨロ歩いていくのが、お気に入りのサンダルが痛んでしまうかもしれないことが、なんだかどんどん悲しくなってくる。
いったいいつまで歩くのだろう。
かなり奥まで来ている。
車の音が聞こえるけれど、ずいぶんと遠くになった。
また、少し視界が広がった。
那智さんが立ち止まった。
悪い足場を固めるようにサンダルで枝や小石をならす。
「脱いで。」
ぬ…ぐ?
予想していなかった言葉にきょとんとしてしまう。
「脱いで。」
「脱ぐ?」
「そう、全部脱いで。」
ああ、わたしは、こういうときに限って危機管理をしないんだ。
ここまで奥深く進むということはパンチラ写真で済むはずないのに。
それなのになぜかこのときは全裸なんて思ってもみなかったのだ。
「早く。」
ビデオカメラを構えた那智さんが言う。
ここで、わたし裸になるんだ。
これは、わたしの憧れていた種類の露出だ。
那智さんはいつも人がいるところで一風変わった露出をするけど、人目が気になるわたしは人のいないところで、非日常を味わいと思っていたんだもの。
憧れていたことが叶うから嬉しいはずなんだけど、全裸になるなんて考えてもみなかったので面食らってしまって、気持ちがまとまらない。
「全部?ですよね?」
「そう。」
ワンピースのボタンを外し、裾をひっくり返すようにくるんと脱ぐ。
那智さんがカメラを持っていない方の手を差し出してそれを受け取り、そばの木の枝にひょいと掛ける。
ワンピースを渡す手がガタガタと震えている。
気がつけば体全体が震えている。
ああ、人ってこんなに震えるものなんだな、なんて妙冷静な一部が思ったり。
下着だけになってしまった。
なんて心許ない姿だろう。
ううん、浜辺に行けばこれくらい露出させた人はいっぱいいる、だから、全然たいしたことない。
そんなふうに変な理屈で、震えを抑えようとしてみる。
ブラジャーを外し、また那智さんへ渡す。
不安定な足場、片足ずつバランスを取ってパンツも脱ぐ。
わたしを覆っていたものが、いま目の前の木の枝に引っかかっている。
ふう。
息をつく。
わたし、裸だ。
ううん、露天風呂に入ればみんなお外で裸だよ、それと変わりない。
また変な理由で納得させようとしている。
でも、この方法は間違っていた。
それは、『でも、ここは浜辺じゃないし、露天風呂じゃない。』と結局自分の異常さを再確認させてしまうだけだった。
ああ、それも違う。
怖さを回避させようと変な理由を並べているけれど、ほんとうは異常さを際立たせて、それでより感じたいだけなのかもしれない。
実際、それで感じていた。
裸になっちゃった。
ふ〜っと体が軽くなるみたい。
風が肌に当たって気持ちいい。
相変わらず体はガタガタと震えている。
外で全裸でいることの不自然さ。
異常なわたしへの憧れ。
震えたままで、脳は快感を覚えはじめているようだった。
「オナニーして。」
立ったまま?ここで?
抵抗したか、すぐ従ったか覚えていない。
記憶は、立ったままクリトリスを触るわたしというところから、ある。
恥ずかしくて異常で、露出した肌が気持ちいい。
車の音が遠くに聞こえている。
腕がチクッとした。
蚊だ。
いやだ、蚊に刺される。
そう思うけど、それを払うところまで気持ちがいかない。
ちょっと違うな、うんとね、蚊のほうに気持ちをいかないようにしていたかな、この時は。
気を逸らしたくなかった感じ。
せっかく味わっている憧れの露出なんだもの。
実はこのとき、クリトリスを触る快感の記憶がないんだ。
ただ、立ちながらだといきにくいなと思っていたのは覚えている。
それよりもこの異常さに感じていたみたいだった。
それでも、体の反応は正直で、しばらくしたらエクスタシーを迎えた。
「いってもいいですか?」
そう聞いていく。
いったと同時にその場にしゃがみ込んでしまった。
だけど、立ったままって、いくのはいくけど、どうもいききれない感じしません?
わたしはそうなんだ。
火種が残ったまま。
お外で全裸でオナニーをしていってしまった事実が、間髪入れずにそのまま火種に火をつけてしまった。
しゃがんでからも、クリトリスから指が離れてくれない。
もっとちゃんといきたい。
この姿で快感の波に飲まれたい。
続けろなんて一言も言われていないのに、普段ならオナニーの姿を自ら見せ続けるなんてことできないのに。
もっと、もっとと指が動く。
またチクッとした、また蚊だ。
さっきは気をそらしたくないから意識しないようにした感じがあったけど。
今度は違う。
もう、蚊なんてどうでもいい。
気にならない。
足場が悪く、しかもいきやすいような体勢を取っているからか、お尻が地面に触れている。
土か枯れ葉か苔かわからないけど、お尻についている。
いつもなら恥ずかしくて苦手な自ら進んでの自慰。
肌を刺す蚊。
汚れたお尻。
那智さんがビデオカメラを回し続けていること。
全部、知らない。
どうでもいいこと。
ただただ快感を味わい一心で、無我夢中でオナニーをしていた。
声を洩らしてしまっただろうか。
とんでもなく気持ちのよいエクスタシー、へたり込みたいところを最後の理性が我慢させた。
膝を抱えるようにして荒い息を整え快感の余韻に浸っていると、那智さんが近寄る気配がした。
だんだん理性が戻ってきているから、自分のしたことが恥ずかしくて照れくさくて裸のまましゃがんでうつむいている。
ふっと那智さんの手が伸びて、頬を撫で汗で張り付いた髪を払ってくれた。
何度も何度も。
その手で頬を包むようにして。
顔を近づけ、キスをした。
優しく慈しむような肯定のキスだった。
枝に掛けてあった下着や洋服を取ってもらって、元の姿に戻る。
なんだかとても惜しい気分。
洋服を着て普通のわたしになってはじめて5箇所も蚊に食われていたことに気がついた。
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