実行計画と妄想
非日常的な日常
フィクションです^^
首輪にリードを着けて今日は百貨店へお買い物。
正面玄関じゃない少し小さめの入り口から入るの。
「正面玄関からだと売り場まで距離があるから、売り場に着く前に声をかけられそうだもんね。帰りは正面玄関から出ようね。」
声?
そう、警備の人や売り場の主任さんとかに早く気づかれちゃうと、入っちゃいけませんって言われちゃうかもしれないものね。
だって、リードで引かれて四つん這いでお買い物なんだもの。
ちょっと勇気がいるけど、今日はわたしにアクセサリーを買ってくれるって言ってくれているので、しゃんとしなきゃ。
ペタペタ。
乳白色の冷たい床。
膝がゴツゴツと当たって、ちょっと痛い。
でも、アスファルトのゴツゴツよりは、ずっと快適。
リードを引く那智さんの少し後ろを歩く。
店内の空気がざわつく。
でも、しゃんと歩くのだ。
だって、わたしを連れてお散歩してくれて、アクセサリーまで買ってくれるんだもの。
ガラスケースの中を見て、良さそうなものを見繕う那智さんの足下で大人しく待ってる。
わたしは「わんこ」だから、それを覗くことはできないの。
どんなのを選んでくれるか、ちょっとわくわく。
「着けてみてもいいですか?あ、ごめんなさい、この子立たないからこのままでお願いできますか?」
困惑の笑みを浮かべた女性の店員さんが床に手を付いてわんこ座りしてるわたしの首に手を回し、アクセサリーを着けてくれる。
「うん、似合うね。りん子、気に入った?…じゃあ、これを包んでください。」
それだけでも可愛らしいジュエリーショップの小さな手提げ袋。
中には同じ色のリボンを掛けたジュエリーボックス。
でも、それをいまは見ることはできないんだ。
「はい、りん子、自分で持つんだよ。」
渡された小さな袋を、口にくわえる。
くわえてるから、中を覗き見ることができないの。
くいっとリードが引かれ、ショップを出る。
「ありがとうございました。」
店員さんの愛想笑いに見送られ、わたしはちょっと誇らしげに袋をくわえて、またペタペタと歩く。
「あ、くわえてたから口紅がはげてきちゃったね。化粧品売り場で直してもらおう。」
アクセサリー売り場に負けないくらいきらきらした売り場。
揃いの制服に身を包んだ店員さんたち。
その中のひとりの女性に那智さんが声をかけた。
「すみません、この子の口紅がはげちゃったんで、直していただけませんか?」
ざわつく店内。
髪をひとつに束ねたわたしよりずっと若い綺麗な店員さんが、しっかりとした声でいう。
「どうぞ、お椅子にお掛けくださいませ。」
「この子、ここがいいんですよ。すみませんが、ここでお願いできませんか。」
「はい、かしこまりました。」
臆することなくしゃがみこみ、わたしと同じ目線になる店員さん。
「まあ、かわいいわんちゃんですね。」
そういって、口紅を塗り直してくれた。
顎に添えられた指、香水の香り、どれもわたしを優しく迎え入れてくれているようで、嬉しくて静かに目を閉じる。
「おとなしくて、いいこ。撫でてもいいですか?」
「どうぞ。」
顎にあった細い指がわたしの首筋に。
那智さんのそれとは違う、冷たく柔らかい手。
気持ち良くて、うっとりしてしまう。
また、小さな袋をくわえて、化粧品売り場を後にする。
「お客様。」
呼び止められた。
スーツを着た、きっとえらい人だ。
振り返る那智さん。
「お客様、大変申し訳ございませんが、他のお客様のご迷惑にならないように、ご配慮いただけませんでしょうか。」
やっぱり四つん這いはダメなんだ。
困った顔して遠回しに注意してる。
「すみません、もう帰るところです。すぐ退散しますから、そこの正面玄関までこのままで行かせてください。あ、なんなら、引いてみます?」
「い、いえ!!」
慌てるえらい人、那智さん、趣味悪い。
堂々と正面玄関に向かって歩き出す那智さんから離れないように、くわえた小袋を揺らして急いで歩く。
狂いそうに恥ずかしく、でも、ちょっと誇らしげにペタペタと四つ足で。
百貨店のはす向かいのコンビニに向かう。
ここは、一度四つん這いになったところだ。
「百貨店では、出てくださいって言われちゃったし、ここは通路が狭いから中には入れてあげられないよ。」
そういって、駐輪スペースの白い柵にリードを繋ぐ。
「いいこで待っているんだよ。」
頭をトントンと撫でて、那智さんはコンビニに入っていく。
わたしは四つん這いのまま、そこでじっと待つの。
手提げをくわえた口もとに唾液が溜まり、したたり落ちる。
それでもじっと待っている。
「いいこでね」と言われたから。
ガラス張りのコンビニを見て、一心不乱に那智さんを探す。
いとしいわたしの飼い主さん。
早く、早く戻ってきてね。
恥ずかしいから?それはもちろん。
でも、違うの、わたしは片時もあなたから離れていたくないから。
だけど、同時に、ゆっくりと店内を物色する那智さんをじっと「いいこ」で待っているこの誇らしい気持ち。
「いいこ」でいられる喜び。
道行く人の驚きの目線や、侮蔑の表情、立ち止まり友達同士で囁き合う、わざと早足で見て見ぬふり。
どれもわたしを傷付ける。
でも、どれも、わたしには気持ちいい。
だって、わたしは那智さんのものなんだもの。
自動ドアが開く、ゆっくり近付く那智さんに見えない尻尾を思いっきり振って、「あなたが大好き」って伝えるの。
こんなのどうでしょう!?
普段ふたりの会話に出てくる那智さんのお楽しみ「実行計画」の想像に、わたしのスーパー妄想をからめてみました。
この「実行計画の想像」と「スーパー妄想」は似ているけれど、大きな隔たりがあります。
だから、できるできない、するしないは別にして、この妄想、どう?
ぜーったい大変だけど、なんか幸せそうじゃない!?って、わたしは思って、困ってます。
フィクションです^^
首輪にリードを着けて今日は百貨店へお買い物。
正面玄関じゃない少し小さめの入り口から入るの。
「正面玄関からだと売り場まで距離があるから、売り場に着く前に声をかけられそうだもんね。帰りは正面玄関から出ようね。」
声?
そう、警備の人や売り場の主任さんとかに早く気づかれちゃうと、入っちゃいけませんって言われちゃうかもしれないものね。
だって、リードで引かれて四つん這いでお買い物なんだもの。
ちょっと勇気がいるけど、今日はわたしにアクセサリーを買ってくれるって言ってくれているので、しゃんとしなきゃ。
ペタペタ。
乳白色の冷たい床。
膝がゴツゴツと当たって、ちょっと痛い。
でも、アスファルトのゴツゴツよりは、ずっと快適。
リードを引く那智さんの少し後ろを歩く。
店内の空気がざわつく。
でも、しゃんと歩くのだ。
だって、わたしを連れてお散歩してくれて、アクセサリーまで買ってくれるんだもの。
ガラスケースの中を見て、良さそうなものを見繕う那智さんの足下で大人しく待ってる。
わたしは「わんこ」だから、それを覗くことはできないの。
どんなのを選んでくれるか、ちょっとわくわく。
「着けてみてもいいですか?あ、ごめんなさい、この子立たないからこのままでお願いできますか?」
困惑の笑みを浮かべた女性の店員さんが床に手を付いてわんこ座りしてるわたしの首に手を回し、アクセサリーを着けてくれる。
「うん、似合うね。りん子、気に入った?…じゃあ、これを包んでください。」
それだけでも可愛らしいジュエリーショップの小さな手提げ袋。
中には同じ色のリボンを掛けたジュエリーボックス。
でも、それをいまは見ることはできないんだ。
「はい、りん子、自分で持つんだよ。」
渡された小さな袋を、口にくわえる。
くわえてるから、中を覗き見ることができないの。
くいっとリードが引かれ、ショップを出る。
「ありがとうございました。」
店員さんの愛想笑いに見送られ、わたしはちょっと誇らしげに袋をくわえて、またペタペタと歩く。
「あ、くわえてたから口紅がはげてきちゃったね。化粧品売り場で直してもらおう。」
アクセサリー売り場に負けないくらいきらきらした売り場。
揃いの制服に身を包んだ店員さんたち。
その中のひとりの女性に那智さんが声をかけた。
「すみません、この子の口紅がはげちゃったんで、直していただけませんか?」
ざわつく店内。
髪をひとつに束ねたわたしよりずっと若い綺麗な店員さんが、しっかりとした声でいう。
「どうぞ、お椅子にお掛けくださいませ。」
「この子、ここがいいんですよ。すみませんが、ここでお願いできませんか。」
「はい、かしこまりました。」
臆することなくしゃがみこみ、わたしと同じ目線になる店員さん。
「まあ、かわいいわんちゃんですね。」
そういって、口紅を塗り直してくれた。
顎に添えられた指、香水の香り、どれもわたしを優しく迎え入れてくれているようで、嬉しくて静かに目を閉じる。
「おとなしくて、いいこ。撫でてもいいですか?」
「どうぞ。」
顎にあった細い指がわたしの首筋に。
那智さんのそれとは違う、冷たく柔らかい手。
気持ち良くて、うっとりしてしまう。
また、小さな袋をくわえて、化粧品売り場を後にする。
「お客様。」
呼び止められた。
スーツを着た、きっとえらい人だ。
振り返る那智さん。
「お客様、大変申し訳ございませんが、他のお客様のご迷惑にならないように、ご配慮いただけませんでしょうか。」
やっぱり四つん這いはダメなんだ。
困った顔して遠回しに注意してる。
「すみません、もう帰るところです。すぐ退散しますから、そこの正面玄関までこのままで行かせてください。あ、なんなら、引いてみます?」
「い、いえ!!」
慌てるえらい人、那智さん、趣味悪い。
堂々と正面玄関に向かって歩き出す那智さんから離れないように、くわえた小袋を揺らして急いで歩く。
狂いそうに恥ずかしく、でも、ちょっと誇らしげにペタペタと四つ足で。
百貨店のはす向かいのコンビニに向かう。
ここは、一度四つん這いになったところだ。
「百貨店では、出てくださいって言われちゃったし、ここは通路が狭いから中には入れてあげられないよ。」
そういって、駐輪スペースの白い柵にリードを繋ぐ。
「いいこで待っているんだよ。」
頭をトントンと撫でて、那智さんはコンビニに入っていく。
わたしは四つん這いのまま、そこでじっと待つの。
手提げをくわえた口もとに唾液が溜まり、したたり落ちる。
それでもじっと待っている。
「いいこでね」と言われたから。
ガラス張りのコンビニを見て、一心不乱に那智さんを探す。
いとしいわたしの飼い主さん。
早く、早く戻ってきてね。
恥ずかしいから?それはもちろん。
でも、違うの、わたしは片時もあなたから離れていたくないから。
だけど、同時に、ゆっくりと店内を物色する那智さんをじっと「いいこ」で待っているこの誇らしい気持ち。
「いいこ」でいられる喜び。
道行く人の驚きの目線や、侮蔑の表情、立ち止まり友達同士で囁き合う、わざと早足で見て見ぬふり。
どれもわたしを傷付ける。
でも、どれも、わたしには気持ちいい。
だって、わたしは那智さんのものなんだもの。
自動ドアが開く、ゆっくり近付く那智さんに見えない尻尾を思いっきり振って、「あなたが大好き」って伝えるの。
こんなのどうでしょう!?
普段ふたりの会話に出てくる那智さんのお楽しみ「実行計画」の想像に、わたしのスーパー妄想をからめてみました。
この「実行計画の想像」と「スーパー妄想」は似ているけれど、大きな隔たりがあります。
だから、できるできない、するしないは別にして、この妄想、どう?
ぜーったい大変だけど、なんか幸せそうじゃない!?って、わたしは思って、困ってます。