いろんな涙4
非日常的な日常
ランチから戻って、わたしの心はそわそわしたままだ。
さっき「バルコニーに出る」と那智さんが言ったことが気になってしかたがない。
ほんとにするのか、それとも今日はしないのか。
したら怖いと思うくせに、しないととても残念に思うだろう。
窓を開けて外の様子を確認している。
…してくれるんだ…多分。(この時点で『してくれる』になってる^^;)
「うわ!だめだ、人がいる(笑)ちょっと来てごらん。」
すでに裸のわたしは恐る恐る窓際に行く。
低い姿勢から顔だけ上げて外を見ると、はす向かいのホテルの屋上に人がいる。
そのホテルは改装工事をしていたから、多分工事関係の人。
「わあ!」
驚いて顔を引っ込める。
向こうからの見え具合をチェックするためか、那智さんがバルコニーに出る。
怖いけど、取りやめになってしまうことを想像して、悲しい。
「行こう。首輪して。」
「四つん這いで?」
「そう。隣りの部屋、掃除中みたいだから、なるべく音を立てないように。どんな姿勢でもいいからできるだけ早く手すりまで行って、そこで四つん這いになる。いいね。」
手すりまで行けば、それが壁になって向かいの屋上の人からは見えない、そこまで急ぐ。
隣りの部屋はバルコニーで続いてるけど、壁があるから見えはしない、でも、隙間から音や気配は筒抜けだから、なるべく気付かれないように。
首輪を付けて、リードを繋げられる。
くいっと引かれる。
怖くて部屋の中なのに、前に進めない。
外に出るんだ。
裸で首輪を付けて。
怖い、でも、わたし、ずっとこうして欲しかったんだ。
「那智さん、写真に撮ってください。」
自分でも驚くようなお願いをしてる。
ずっとこうして欲しかった、その瞬間を見たいと、お願いする。
窓際に那智さんが立って、わたしは足下にいる。
向かいの屋上の様子を見てるんだ。
わたしはその男性たちから見えないように、低くしてる。
「いいね、できるだけ早く行くんだよ。…ほら、行きな。」
どうやってそこまで行ったかわからないけど、無我夢中で手すりまで行った。
その距離2、5mくらい。
玉砂利が敷き詰めている壁際で、四つん這いになる。
ゴツゴツしてるはずなんだけど、わからない。
隣りで掃除している人の声や掃除機の音だけが、しっかりとわたしに伝わってきている。
ああ、わたし、裸だ。
怖々とお尻を上げてちゃんと四つん這いになる。
「こっち向いて。」
那智さんがシャッターを押す。
目を伏せて足下を見る。
シャッターの音がする。
隣りに聞こえてるかしら。
傾きかけた日差しが眩しい。
外気が冷たくて、ここは外だといやでも感じる。
「足上げて。おしっこ。」
ちょっと前に尿意を訴えていたことを那智さんは忘れてなかった。
玉砂利のゴツゴツした不安定な足場で、那智さん側の足を上げる。
犬のおしっこだ。
どうしよう、ここでおしっこするんだ、わたし。
裸でお外で犬のおしっこ。
でも、待ってたの。
ずっとこうしたかったんだもん。
裸を、恥ずかしい姿をお外で晒したかったんだ。
不安定な姿勢で、おしっこをするように意識を傾ける。
おしっこの音が隣りに聞こえないか、それが不安だ。
玉砂利に吸い込まれていく、自分のおしっこを眺めながら、ほんの少し残る理性でそう思う。(あと、ホテルさんごめんなさい。雨が降って洗い流してくれることを祈ります)
「いいよ、戻って。」
窓から那智さんが呼んだ。
怖くて急いで部屋に入る、でも、少し、名残惜しい。
なだれ込むようにして窓際に倒れる。
少しのおしっこと砂で足が汚れている。
体が小さく震えている。
ああ、わたし、なんてことしたんだろう、そして、すごくすごく喜んでしまってる。
やったことへの恐怖と、それで感じた幸福への違和感。
窓際の畳にうずくまり、恐怖と違和感を抱えるように震える。
障子を閉めて、タバコを吸ってる那智さんが言った。
「大丈夫、りん子は1人じゃない。」
その言葉が胸をぎゅっと掴む。
那智さんは、数m離れたところで四つん這いになってるわたしが、ひどく心許なさそうに見えてそう言ったらしいのだけど、その言葉はわたしを孤独から救ってくれるものだった。
せり上がった涙が一気に溢れる。
そうなの那智さん、わたし、これをずっと1人で抱いていたの。
SM的なことを欲していると自覚したとき、漠然と感じたのは「縛られたい」と「見られたい」だった。
漠然とした欲望は、知っていくたびに膨らんでいく。
その欲望を持っていることはいけないことだとずっと思っていた。
それがどんどん膨らんでいく、いけないことなのに、もっと増える。
それが怖かった。
いけないのに止まらない「モンスター」のようだった。
昔読んだレディスコミックにあった場面。
O嬢の物語のふくろう。
ネットで目にする露出の画像。
どれも目を背けたくなるはずなのに、心から離れてくれない。
それを望んでしまっていることを認めるのが怖かった、だっていけないことだもの。
だから、誰にも言えずに抱きかかえていた。
那智さんにいろいろな姿を見せていても、それでもなお、わたし中のモンスターが孤独に膨らんでいた。
こんなことを望んでいると、いろんな姿を見せてもまだ、那智さんに知られてはいけないと思っていた。
「りん子さ、こうしたかったんだよね。前にネット見て言ってたよね『露出で裸でコンビニに行ってるのがあって、そんなのあり得ない』って。でも、そのとき、羨ましそうだったもんな。したいんだなって思った。」
抱きついて、顔を埋めて、泣きじゃくる。
「那智さん、わたし、ずっと怖かったの。モンスターがいて、それ大きくなるの怖かったの。ひとりでどうしていいかわからなかったの。」
「大丈夫、俺がついてる。」
髪を撫でられる。
ああ、嬉しい。
わたし、ひとりじゃない。
どんなに、変態でいやらしくても、モンスターがいても、ひとりじゃない。
あり得ないことを望むことは、それの一部を叶えることは、いけないことかもしれない、でも、わたしには一緒にいてくれる那智さんがいる。
それでいいって、そのモンスターを一緒に抱いてくれる。
幸せで、感謝して、子供のように手放しで、わんわん泣いた。
わたしの前に3枚の画像がある。
ホテルのバルコニーで全裸で四つん這いの幸せそうなわたし。
やったことに驚愕して、これからも膨らんだしまうモンスターを恐れて、それでも、叶っている恍惚と1人じゃない安堵、複雑で幸福な思いで、何度も見ている。
「このわたしを可愛いと思ってくださいますように。怖いけど、那智さんがいてくれるから、怖くない一歩。」
そう添えて那智さんにその画像を送った。
これから、わたしたちはどう進んでいくのだろう。
それは那智さんが決める。
わたしは、喜んで、尻尾振ってそれに付いて行く。
3回目の涙は、モンスターが孤独から救われた涙だった。
そんなに感激したくせに、塀に囲まれた死角で裸…露天風呂と変わらない!?なんて色気のないこと、あとから思っちゃった^^;
ランチから戻って、わたしの心はそわそわしたままだ。
さっき「バルコニーに出る」と那智さんが言ったことが気になってしかたがない。
ほんとにするのか、それとも今日はしないのか。
したら怖いと思うくせに、しないととても残念に思うだろう。
窓を開けて外の様子を確認している。
…してくれるんだ…多分。(この時点で『してくれる』になってる^^;)
「うわ!だめだ、人がいる(笑)ちょっと来てごらん。」
すでに裸のわたしは恐る恐る窓際に行く。
低い姿勢から顔だけ上げて外を見ると、はす向かいのホテルの屋上に人がいる。
そのホテルは改装工事をしていたから、多分工事関係の人。
「わあ!」
驚いて顔を引っ込める。
向こうからの見え具合をチェックするためか、那智さんがバルコニーに出る。
怖いけど、取りやめになってしまうことを想像して、悲しい。
「行こう。首輪して。」
「四つん這いで?」
「そう。隣りの部屋、掃除中みたいだから、なるべく音を立てないように。どんな姿勢でもいいからできるだけ早く手すりまで行って、そこで四つん這いになる。いいね。」
手すりまで行けば、それが壁になって向かいの屋上の人からは見えない、そこまで急ぐ。
隣りの部屋はバルコニーで続いてるけど、壁があるから見えはしない、でも、隙間から音や気配は筒抜けだから、なるべく気付かれないように。
首輪を付けて、リードを繋げられる。
くいっと引かれる。
怖くて部屋の中なのに、前に進めない。
外に出るんだ。
裸で首輪を付けて。
怖い、でも、わたし、ずっとこうして欲しかったんだ。
「那智さん、写真に撮ってください。」
自分でも驚くようなお願いをしてる。
ずっとこうして欲しかった、その瞬間を見たいと、お願いする。
窓際に那智さんが立って、わたしは足下にいる。
向かいの屋上の様子を見てるんだ。
わたしはその男性たちから見えないように、低くしてる。
「いいね、できるだけ早く行くんだよ。…ほら、行きな。」
どうやってそこまで行ったかわからないけど、無我夢中で手すりまで行った。
その距離2、5mくらい。
玉砂利が敷き詰めている壁際で、四つん這いになる。
ゴツゴツしてるはずなんだけど、わからない。
隣りで掃除している人の声や掃除機の音だけが、しっかりとわたしに伝わってきている。
ああ、わたし、裸だ。
怖々とお尻を上げてちゃんと四つん這いになる。
「こっち向いて。」
那智さんがシャッターを押す。
目を伏せて足下を見る。
シャッターの音がする。
隣りに聞こえてるかしら。
傾きかけた日差しが眩しい。
外気が冷たくて、ここは外だといやでも感じる。
「足上げて。おしっこ。」
ちょっと前に尿意を訴えていたことを那智さんは忘れてなかった。
玉砂利のゴツゴツした不安定な足場で、那智さん側の足を上げる。
犬のおしっこだ。
どうしよう、ここでおしっこするんだ、わたし。
裸でお外で犬のおしっこ。
でも、待ってたの。
ずっとこうしたかったんだもん。
裸を、恥ずかしい姿をお外で晒したかったんだ。
不安定な姿勢で、おしっこをするように意識を傾ける。
おしっこの音が隣りに聞こえないか、それが不安だ。
玉砂利に吸い込まれていく、自分のおしっこを眺めながら、ほんの少し残る理性でそう思う。(あと、ホテルさんごめんなさい。雨が降って洗い流してくれることを祈ります)
「いいよ、戻って。」
窓から那智さんが呼んだ。
怖くて急いで部屋に入る、でも、少し、名残惜しい。
なだれ込むようにして窓際に倒れる。
少しのおしっこと砂で足が汚れている。
体が小さく震えている。
ああ、わたし、なんてことしたんだろう、そして、すごくすごく喜んでしまってる。
やったことへの恐怖と、それで感じた幸福への違和感。
窓際の畳にうずくまり、恐怖と違和感を抱えるように震える。
障子を閉めて、タバコを吸ってる那智さんが言った。
「大丈夫、りん子は1人じゃない。」
その言葉が胸をぎゅっと掴む。
那智さんは、数m離れたところで四つん這いになってるわたしが、ひどく心許なさそうに見えてそう言ったらしいのだけど、その言葉はわたしを孤独から救ってくれるものだった。
せり上がった涙が一気に溢れる。
そうなの那智さん、わたし、これをずっと1人で抱いていたの。
SM的なことを欲していると自覚したとき、漠然と感じたのは「縛られたい」と「見られたい」だった。
漠然とした欲望は、知っていくたびに膨らんでいく。
その欲望を持っていることはいけないことだとずっと思っていた。
それがどんどん膨らんでいく、いけないことなのに、もっと増える。
それが怖かった。
いけないのに止まらない「モンスター」のようだった。
昔読んだレディスコミックにあった場面。
O嬢の物語のふくろう。
ネットで目にする露出の画像。
どれも目を背けたくなるはずなのに、心から離れてくれない。
それを望んでしまっていることを認めるのが怖かった、だっていけないことだもの。
だから、誰にも言えずに抱きかかえていた。
那智さんにいろいろな姿を見せていても、それでもなお、わたし中のモンスターが孤独に膨らんでいた。
こんなことを望んでいると、いろんな姿を見せてもまだ、那智さんに知られてはいけないと思っていた。
「りん子さ、こうしたかったんだよね。前にネット見て言ってたよね『露出で裸でコンビニに行ってるのがあって、そんなのあり得ない』って。でも、そのとき、羨ましそうだったもんな。したいんだなって思った。」
抱きついて、顔を埋めて、泣きじゃくる。
「那智さん、わたし、ずっと怖かったの。モンスターがいて、それ大きくなるの怖かったの。ひとりでどうしていいかわからなかったの。」
「大丈夫、俺がついてる。」
髪を撫でられる。
ああ、嬉しい。
わたし、ひとりじゃない。
どんなに、変態でいやらしくても、モンスターがいても、ひとりじゃない。
あり得ないことを望むことは、それの一部を叶えることは、いけないことかもしれない、でも、わたしには一緒にいてくれる那智さんがいる。
それでいいって、そのモンスターを一緒に抱いてくれる。
幸せで、感謝して、子供のように手放しで、わんわん泣いた。
わたしの前に3枚の画像がある。
ホテルのバルコニーで全裸で四つん這いの幸せそうなわたし。
やったことに驚愕して、これからも膨らんだしまうモンスターを恐れて、それでも、叶っている恍惚と1人じゃない安堵、複雑で幸福な思いで、何度も見ている。
「このわたしを可愛いと思ってくださいますように。怖いけど、那智さんがいてくれるから、怖くない一歩。」
そう添えて那智さんにその画像を送った。
これから、わたしたちはどう進んでいくのだろう。
それは那智さんが決める。
わたしは、喜んで、尻尾振ってそれに付いて行く。
3回目の涙は、モンスターが孤独から救われた涙だった。
そんなに感激したくせに、塀に囲まれた死角で裸…露天風呂と変わらない!?なんて色気のないこと、あとから思っちゃった^^;
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