鞭の一体感
非日常的な日常
ひとしきり那智さんの体の匂いを嗅いでペロペロと舐めて、すこし高揚しはじめたら、もう鞭を手にした。
那智さん、もう、鞭ですか?
うん
ホテルに入ってからまだあまり時間もたっていないし、ほとんど体に触れられてもいない。
匂いと味のすこしの高揚だけ。
せめて乳首くらいは触ってほしかったな、鞭はとても痛いから最初に欲情たっぷりでいたほうが気持ちがラクなのだ。
それがなくいきなり鞭の展開にすこし躊躇するけれど、わたしのこの時間は那智さんに委ねているからおとなしく下着を取ってくれるのに身を任せる。
すこしビクビクしながら枕を抱えうつ伏せになる。
最初の1発。
中くらいの力。
同じくらいをもう1発。
徐々に高めてくれるやり方だ。
この方法は安心。
続けてもう1発。
ああ、痛いこと、痛いのに、気持ちよくなるって、もう想像できてしまった。
そして、中くらいの痛さがありがたいのにもっとと思ってしまった。
その辺りから、もうほぼMAXの力ばかりが降り注がれる。
強く、右から左から。
ベッドの左右に移動する那智さんを目で追う。
MAX、何発目だろうか。
那智さん、すこし、わたしにも触ってください
とお願いした。
タバコに火をつけようとした手を一旦止めて、乳首を愛撫してくれる。
ぐわんと快感が増える。
もう、ダメだ、もう気持ちいい。
タバコの間、怖いのに、待ち遠しくてそわそわ。
バラ鞭を捻りはじめた。
これは、太いゴツゴツしたゴムのこん棒を作るようなものだ。
いつもは、鞭の時間の、ほとんど朦朧となったクライマックスに登場する技なのに、今日は早い。
那智さん、もう捻るの?
不安気に聞くわたしに
うん
と、また普通にお返事。
ゴツッ
続けて、また捻る。
バキッ
およそ鞭から連想される音とはほど遠い重い音が響く。
3発くらいで体を起こす。
そのまま腰に1発。
今日は、どうしちゃったんだろう。
那智さんの勢いもそうだし、わたしの恍惚も。
打たれては那智さんを求め、キスや愛撫をせがむ。
タバコを吸いながら、抱きしめながら、いいこいいこと髪を撫で、那智さんのタイミングですっと押される。
また、ほぼMAXの鞭。
頭が朦朧とする。
目が回りそうだ。
那智さんにしがみつき。
たぶん、回りそうと訴えた記憶がある。
そして、わたしはクスクスと笑い出す。
痺れた皮膚に触れられ、イク。
乳首を潰されて、イク。
イクと表現していいのかわからないけど、イッているのだ。
おまんこに触ってもらっていない。
何度目かの抱擁のとき。
ねえ、那智さん、ここも触って?
と呂律の回らない声で甘えてみる
後でね
たまらない否定。
きゃはは
だって、那智さん、今日、ここ触ってくれないんだもん
ねえ、触って?触って?
那智さんの手をわたしの下半身に持っていってねだる。
ダメ
自分で触れば、触っていいよ
やなの、那智さんに触ってもらったほうが気持ちいいから自分じゃ触りたくないの
そう、それなら、後でね
終止、きゃははと無邪気に甘えながら淫乱な女になる。
背中、太もも。
ぎゃっと跳ね起き、またお尻。
脳天が気持ちいい。
ぜんぜん痛くない、痛いのに、痛くない。
乳首を摘まれ、腰を振り、またイク。
目は開いているはずだ。
那智さんの輪郭が見える。
でも、睡魔に襲われているようにトロンとしている。
意識が朦朧とする。
もっと打って、もっと痛くして。
那智さんがすきに振り下ろす鞭の波動に合わせるようにわたしの体が勝手に動く。
今日も3桁は打っただろうか、なにか聞こえた。
あと6発
あと6発。
それでおしまいなんだ。
朦朧として拙い意識が考えた。
数を宣告したということは、それでおしまい。
で、その数の分はまったく容赦なく打つ。
怖い、気がする。
でも、おしまいになるのは、さみしい。
これくらいのことは頭をよぎったはずだ。
でも、ぶくぶくと那智さんが作る快感に沈んでいるわたしは、ただ、うつ伏せのまま強烈な鞭の6発を受けていた。
この日の那智さんとの一体感表現する力と記憶力がないことが本当に悔しい。
もしかしたら、いままで一番朦朧とした時間だったかもしれない。
痛くて、気持ちよくて、呂律が回らなくて焦点が合わない。
いやらしく腰を振るわたしがどんどん無垢になっているような時間。
『精神的SM』の辺り、SM行為はしたいからするというような気分になった那智さんもこの日は打つテンションが高かったそうだ。
わたしを気持ちよくさせ、自分の好きなように打つ。
わたしの快感が大きければ大きいほど、那智さんの自由にできるのだろうか。
那智さんはこの時間のことを「いい雰囲気だった」という。
きっと、那智さんの打ちたいテンションとわたしの快感が比例して、那智さん自身も楽しい空気だったし、わたしの淫乱と無邪気が混ざり合い、那智さんを慕い求める空気も甘く、でも痛く、加虐と被虐のベクトルが一致した中で愛情の授受を感じられる雰囲気だったのだ。
その感想を聞いて、ああ、わたしは雰囲気なんて記憶にないって思った。
雰囲気を感じるって、客観視だ。
客観視できるのは理性だ。
わたしはこのとき、ほとんど完璧に自分のことしか頭になかった。
那智さんを求め、那智さんに欲情していたけど、どれも那智さんの内側で、わたしの外側で起こっていることのようで、わたしはわたししか把握できていなかった。
SMの快感のひとつは内にこもることだと何度か書いている。
水中に沈んでいくような。
耳も目も存在しているけど機能しなくなっていく、自分だけの世界の快感。
このときもそうだった。
那智さんは俯瞰してこの空間を掌握する満足を感じるなか、わたしはわたしだけで精一杯になる。
これこそ、上下だ。
上が支配し、下はそれに包まれる。
那智さんが作る外側の中にいるわたしは、ひたすら、内側にいることだけに没頭する。
それぞれ違う立場で内と外の混ざり合いを感じている。
これが一体感となってふたりの満足になるのだ。
わたしの求めるものは【下の立場で幸せを共有すること】と書いたことがある。
きっと那智さんとわたしのよろこびは『上下、それぞれの立場で幸せを共有すること』なのだろう。
脳と体に幸福と快感を与え、それに呼応するようにわたしは那智さんの作る世界に没頭する。
ボールを投げた犬が夢中になって拾いにいく。
お父さんの膝の上で、買ってもらったアイスを夢中で食べる。
犬も子供も自分に夢中だ。
その夢中を作る上の立場のことなんて気が回らないほどに。
与えるものと委ねるものの幸福感。
わたしがわたしに夢中になればなるほど、那智さんの手中にあるということだ。
加虐と被虐。
上と下。
当たり前に大好きな人。
いろいろな欲望がほとんどすべて重なり合うような時間だった。
<関連エントリー>
下の立場で幸せの共有
『お散歩の裏話2』
「等式」感想です。「わたしがわたしに夢中になればなるほど、那智さんの手中にあるということだ。」あの時は濃かった、そしてあれから鞭を打つ時間の質が変化したと思う。言葉にするのが難しいが鞭に対する期待値が上がった、そして一体感が深まった。
ひとしきり那智さんの体の匂いを嗅いでペロペロと舐めて、すこし高揚しはじめたら、もう鞭を手にした。
那智さん、もう、鞭ですか?
うん
ホテルに入ってからまだあまり時間もたっていないし、ほとんど体に触れられてもいない。
匂いと味のすこしの高揚だけ。
せめて乳首くらいは触ってほしかったな、鞭はとても痛いから最初に欲情たっぷりでいたほうが気持ちがラクなのだ。
それがなくいきなり鞭の展開にすこし躊躇するけれど、わたしのこの時間は那智さんに委ねているからおとなしく下着を取ってくれるのに身を任せる。
すこしビクビクしながら枕を抱えうつ伏せになる。
最初の1発。
中くらいの力。
同じくらいをもう1発。
徐々に高めてくれるやり方だ。
この方法は安心。
続けてもう1発。
ああ、痛いこと、痛いのに、気持ちよくなるって、もう想像できてしまった。
そして、中くらいの痛さがありがたいのにもっとと思ってしまった。
その辺りから、もうほぼMAXの力ばかりが降り注がれる。
強く、右から左から。
ベッドの左右に移動する那智さんを目で追う。
MAX、何発目だろうか。
那智さん、すこし、わたしにも触ってください
とお願いした。
タバコに火をつけようとした手を一旦止めて、乳首を愛撫してくれる。
ぐわんと快感が増える。
もう、ダメだ、もう気持ちいい。
タバコの間、怖いのに、待ち遠しくてそわそわ。
バラ鞭を捻りはじめた。
これは、太いゴツゴツしたゴムのこん棒を作るようなものだ。
いつもは、鞭の時間の、ほとんど朦朧となったクライマックスに登場する技なのに、今日は早い。
那智さん、もう捻るの?
不安気に聞くわたしに
うん
と、また普通にお返事。
ゴツッ
続けて、また捻る。
バキッ
およそ鞭から連想される音とはほど遠い重い音が響く。
3発くらいで体を起こす。
そのまま腰に1発。
今日は、どうしちゃったんだろう。
那智さんの勢いもそうだし、わたしの恍惚も。
打たれては那智さんを求め、キスや愛撫をせがむ。
タバコを吸いながら、抱きしめながら、いいこいいこと髪を撫で、那智さんのタイミングですっと押される。
また、ほぼMAXの鞭。
頭が朦朧とする。
目が回りそうだ。
那智さんにしがみつき。
たぶん、回りそうと訴えた記憶がある。
そして、わたしはクスクスと笑い出す。
痺れた皮膚に触れられ、イク。
乳首を潰されて、イク。
イクと表現していいのかわからないけど、イッているのだ。
おまんこに触ってもらっていない。
何度目かの抱擁のとき。
ねえ、那智さん、ここも触って?
と呂律の回らない声で甘えてみる
後でね
たまらない否定。
きゃはは
だって、那智さん、今日、ここ触ってくれないんだもん
ねえ、触って?触って?
那智さんの手をわたしの下半身に持っていってねだる。
ダメ
自分で触れば、触っていいよ
やなの、那智さんに触ってもらったほうが気持ちいいから自分じゃ触りたくないの
そう、それなら、後でね
終止、きゃははと無邪気に甘えながら淫乱な女になる。
背中、太もも。
ぎゃっと跳ね起き、またお尻。
脳天が気持ちいい。
ぜんぜん痛くない、痛いのに、痛くない。
乳首を摘まれ、腰を振り、またイク。
目は開いているはずだ。
那智さんの輪郭が見える。
でも、睡魔に襲われているようにトロンとしている。
意識が朦朧とする。
もっと打って、もっと痛くして。
那智さんがすきに振り下ろす鞭の波動に合わせるようにわたしの体が勝手に動く。
今日も3桁は打っただろうか、なにか聞こえた。
あと6発
あと6発。
それでおしまいなんだ。
朦朧として拙い意識が考えた。
数を宣告したということは、それでおしまい。
で、その数の分はまったく容赦なく打つ。
怖い、気がする。
でも、おしまいになるのは、さみしい。
これくらいのことは頭をよぎったはずだ。
でも、ぶくぶくと那智さんが作る快感に沈んでいるわたしは、ただ、うつ伏せのまま強烈な鞭の6発を受けていた。
この日の那智さんとの一体感表現する力と記憶力がないことが本当に悔しい。
もしかしたら、いままで一番朦朧とした時間だったかもしれない。
痛くて、気持ちよくて、呂律が回らなくて焦点が合わない。
いやらしく腰を振るわたしがどんどん無垢になっているような時間。
『精神的SM』の辺り、SM行為はしたいからするというような気分になった那智さんもこの日は打つテンションが高かったそうだ。
わたしを気持ちよくさせ、自分の好きなように打つ。
わたしの快感が大きければ大きいほど、那智さんの自由にできるのだろうか。
那智さんはこの時間のことを「いい雰囲気だった」という。
きっと、那智さんの打ちたいテンションとわたしの快感が比例して、那智さん自身も楽しい空気だったし、わたしの淫乱と無邪気が混ざり合い、那智さんを慕い求める空気も甘く、でも痛く、加虐と被虐のベクトルが一致した中で愛情の授受を感じられる雰囲気だったのだ。
その感想を聞いて、ああ、わたしは雰囲気なんて記憶にないって思った。
雰囲気を感じるって、客観視だ。
客観視できるのは理性だ。
わたしはこのとき、ほとんど完璧に自分のことしか頭になかった。
那智さんを求め、那智さんに欲情していたけど、どれも那智さんの内側で、わたしの外側で起こっていることのようで、わたしはわたししか把握できていなかった。
SMの快感のひとつは内にこもることだと何度か書いている。
水中に沈んでいくような。
耳も目も存在しているけど機能しなくなっていく、自分だけの世界の快感。
このときもそうだった。
那智さんは俯瞰してこの空間を掌握する満足を感じるなか、わたしはわたしだけで精一杯になる。
これこそ、上下だ。
上が支配し、下はそれに包まれる。
那智さんが作る外側の中にいるわたしは、ひたすら、内側にいることだけに没頭する。
それぞれ違う立場で内と外の混ざり合いを感じている。
これが一体感となってふたりの満足になるのだ。
わたしの求めるものは【下の立場で幸せを共有すること】と書いたことがある。
きっと那智さんとわたしのよろこびは『上下、それぞれの立場で幸せを共有すること』なのだろう。
脳と体に幸福と快感を与え、それに呼応するようにわたしは那智さんの作る世界に没頭する。
ボールを投げた犬が夢中になって拾いにいく。
お父さんの膝の上で、買ってもらったアイスを夢中で食べる。
犬も子供も自分に夢中だ。
その夢中を作る上の立場のことなんて気が回らないほどに。
与えるものと委ねるものの幸福感。
わたしがわたしに夢中になればなるほど、那智さんの手中にあるということだ。
加虐と被虐。
上と下。
当たり前に大好きな人。
いろいろな欲望がほとんどすべて重なり合うような時間だった。
<関連エントリー>
下の立場で幸せの共有
『お散歩の裏話2』
「等式」感想です。「わたしがわたしに夢中になればなるほど、那智さんの手中にあるということだ。」あの時は濃かった、そしてあれから鞭を打つ時間の質が変化したと思う。言葉にするのが難しいが鞭に対する期待値が上がった、そして一体感が深まった。
COMMENT
いいなぁ。
その1)そこまで打ってもらえることが。
でも、その重たいゴムのは勘弁かな(^^ゞ
その2)そこまでの体力が…(切実)
その1)そこまで打ってもらえることが。
でも、その重たいゴムのは勘弁かな(^^ゞ
その2)そこまでの体力が…(切実)
あこさん
ああ、そうなんだよね、SM行為はするほうもされるほうも、体力勝負(笑)
どんどんむちゃできなくなっていきます^^;
ああ、そうなんだよね、SM行為はするほうもされるほうも、体力勝負(笑)
どんどんむちゃできなくなっていきます^^;