キーパーソンは清掃員3
非日常的な日常
那智さんとのデートで、こんなにも会うことをためらったのははじめてかもしれない。
紙おむつをして排泄お散歩も排泄物を持参してのときも、数えればきりがないほど、ためらうような予告はされてきたけれど。
おそらく今日が一番ためらう日。
前日からそのこと頭の中がいっぱいだ。
わたしは、前回、目の前の『人通りの多い時間帯のわんこ』を回避したいがために、次回の約束を取り付けてしまった。
だから、次に会う、このデートは基本的には『やる』ということ。
もう、いい、覚悟を決める!!
たかが四つん這いじゃない。
どっきりか何かだと、まわりの人は思うはず。
そう、言い聞かせてみる。
無理〜〜〜〜〜〜!!!!!
言い聞かせた次の瞬間、物凄い早さで否定の気持ちが押し寄せる。
那智さんの後を付いていけば、いい。
わたしは那智さんのことだけ考えていればいいんだ。
何かあったら、那智さんが何とかしてくれる、任せていればいいんだ。
そんなふうに、無理矢理従属の幸福な想像をしてみる。
無理〜〜〜〜〜〜!!!!
それでも無理だった。
どう考えたってあり得ない。
どんなふうに思考を変えても、死ぬほど恥ずかしい。
那智さんに会いたい。
片時だって離れていたくない。
そんなふうに思うのに、今日のわたしは会うことをすごくためらっている。
会いたい、でも、会えばお散歩だ。
大丈夫、たかが四つん這い、ぎゃー無理!!
那智さんのわんこは幸せだよ、わかってるでも、無理〜〜〜〜!!
こんなことの繰り返しで前夜からヘトヘト。
ランナーズハイならぬ、妄想ハイ状態?
そんな状態だけど、ひとつだけ策を練り、提案する。
「那智さん、待ち合わせの時間をいつもより10分早くしてください。」
百貨店の周辺が時間によって人通りが変わるのは、前回実感した。
普段通る開店5分前と前回の5分後、開店を境に人の量が変わっていたのだ。
ということは、少しでも早ければ早いほど人通りが少ないのではないだろうと想像できる。
普段の開店前に清掃員さんを見かけたことはないので、待ち合わせを早めれば、清掃員回避は当然望めない。
だからといって、毎度毎度『待ち合わせを開店後に合わせる引き延ばし作戦』に出たりしたら、もっとすごい場所で那智さんはするはず(百貨店でお買い物とか駅前のモニュメント横とか)なので、清掃員さん頼みは、できない。
それでもできるだけためらいを少なくしたい、だから、人通りの少ない時間にしよう思い待ち合わせ時間をいつもりよ少しだけ早めてもらったのだ。
そして、着ていく服も決めた。
お尻も見えず引きずらないような四つ足歩行に適度な丈、裾を気にせずにいいようにハーフパンツを選んだ。
で、下半身がもたつかないように、ショート丈のコート。
これも、待ち合わせ時間同様に、少しでも心配事を減らして速やかに遂行できるように。
本当は、わんこに適していない服(ミニとか逆にフレアのロングとか)にして、諦めてもらうという手がなくもないけど、これはね賭けなんだよね。
那智さんは『やる』と決めたときにわたしが回避するような態度を示すと、よけい『やる』に傾いちゃう可能性が高いのだ。
清掃員さん引き延ばし作戦も取らず、わんこに適したハーフパンツを選ぶ。
天の邪鬼さんに、あなたに従いますと意思表示するのだ。
いろんな気持ちが交錯して、できる限りの対策を講じた。
そんなんだから、脳みそが、ちょっと朦朧としたまま朝を迎えた。
朝イチのおはよう電話で、今日の待ち合わせの確認をする。
この電話でも、今日のわんこについてはひと言もない。
わたしは怖くて聞けない。
那智さんは、きっとやると決めているのだと思う、だけどそれに触れない。
鏡の前で身支度をしながらも、まだ、自分のすることが信じられない。
今日は会わないという選択肢…、ないよね、会いたいもん。
それに、わたしの中のほんの一部がわんこに焦がれているのだもの。
大いなるためらいと、ごく僅かな憧れ。
こんなにためらうデートははじめてだ。
支度を終えて、玄関を出る。
忘れ物に気付き、すぐ引き返す。
早めてもらった時間に遅れることはしたくない。
急いでブーツを脱ぎ、ドレッサーの引き出しを開け、アクセサリーを入れている箱から乱暴にひとつ引っ張り出す。
指輪だ。
わたしは、高価なアクセサリーよりもおもちゃのようなチープな物が好きなんだ。
普段、ほとんど物をねだらないわたしが、めずらしくねだった指輪。
那智さんと行った遊園地のショップで売っていた735円(税込み)のおもちゃのような指輪。
いくつかある種類の中から、散々悩み、もの選びが下手なわたしに業を煮やした那智さんがふたつ候補を上げてくれて、それで選んだ指輪。
これを仕事のときはいつもしていく、わたしのお守り。
今日だけは忘れちゃいけない、これをしていく。
四つん這いでお散歩をする時のわたしの世界は、アスファルトとチラチラ見える那智さんの革靴の踵と、自分の手だけなんだ。
恥ずかしくて恐ろしくて顔を上げることができないわたしは、その世界がすべてなんだ。
っていうか、それをすべてに転換しないと怖くて進めない。
その時に、左手は薬指の刺青、右手は指輪、交互に視界に入るそれらをお守りにしようと思っていたのだ。
だから、忘れちゃいけない。
大事なお守りを右手の薬指にはめて駅へ急ぐ。
ぜんっぜん、覚悟決まってないけど^^;
あああ、家を出るだけでいちエントリー^^;
那智さんとのデートで、こんなにも会うことをためらったのははじめてかもしれない。
紙おむつをして排泄お散歩も排泄物を持参してのときも、数えればきりがないほど、ためらうような予告はされてきたけれど。
おそらく今日が一番ためらう日。
前日からそのこと頭の中がいっぱいだ。
わたしは、前回、目の前の『人通りの多い時間帯のわんこ』を回避したいがために、次回の約束を取り付けてしまった。
だから、次に会う、このデートは基本的には『やる』ということ。
もう、いい、覚悟を決める!!
たかが四つん這いじゃない。
どっきりか何かだと、まわりの人は思うはず。
そう、言い聞かせてみる。
無理〜〜〜〜〜〜!!!!!
言い聞かせた次の瞬間、物凄い早さで否定の気持ちが押し寄せる。
那智さんの後を付いていけば、いい。
わたしは那智さんのことだけ考えていればいいんだ。
何かあったら、那智さんが何とかしてくれる、任せていればいいんだ。
そんなふうに、無理矢理従属の幸福な想像をしてみる。
無理〜〜〜〜〜〜!!!!
それでも無理だった。
どう考えたってあり得ない。
どんなふうに思考を変えても、死ぬほど恥ずかしい。
那智さんに会いたい。
片時だって離れていたくない。
そんなふうに思うのに、今日のわたしは会うことをすごくためらっている。
会いたい、でも、会えばお散歩だ。
大丈夫、たかが四つん這い、ぎゃー無理!!
那智さんのわんこは幸せだよ、わかってるでも、無理〜〜〜〜!!
こんなことの繰り返しで前夜からヘトヘト。
ランナーズハイならぬ、妄想ハイ状態?
そんな状態だけど、ひとつだけ策を練り、提案する。
「那智さん、待ち合わせの時間をいつもより10分早くしてください。」
百貨店の周辺が時間によって人通りが変わるのは、前回実感した。
普段通る開店5分前と前回の5分後、開店を境に人の量が変わっていたのだ。
ということは、少しでも早ければ早いほど人通りが少ないのではないだろうと想像できる。
普段の開店前に清掃員さんを見かけたことはないので、待ち合わせを早めれば、清掃員回避は当然望めない。
だからといって、毎度毎度『待ち合わせを開店後に合わせる引き延ばし作戦』に出たりしたら、もっとすごい場所で那智さんはするはず(百貨店でお買い物とか駅前のモニュメント横とか)なので、清掃員さん頼みは、できない。
それでもできるだけためらいを少なくしたい、だから、人通りの少ない時間にしよう思い待ち合わせ時間をいつもりよ少しだけ早めてもらったのだ。
そして、着ていく服も決めた。
お尻も見えず引きずらないような四つ足歩行に適度な丈、裾を気にせずにいいようにハーフパンツを選んだ。
で、下半身がもたつかないように、ショート丈のコート。
これも、待ち合わせ時間同様に、少しでも心配事を減らして速やかに遂行できるように。
本当は、わんこに適していない服(ミニとか逆にフレアのロングとか)にして、諦めてもらうという手がなくもないけど、これはね賭けなんだよね。
那智さんは『やる』と決めたときにわたしが回避するような態度を示すと、よけい『やる』に傾いちゃう可能性が高いのだ。
清掃員さん引き延ばし作戦も取らず、わんこに適したハーフパンツを選ぶ。
天の邪鬼さんに、あなたに従いますと意思表示するのだ。
いろんな気持ちが交錯して、できる限りの対策を講じた。
そんなんだから、脳みそが、ちょっと朦朧としたまま朝を迎えた。
朝イチのおはよう電話で、今日の待ち合わせの確認をする。
この電話でも、今日のわんこについてはひと言もない。
わたしは怖くて聞けない。
那智さんは、きっとやると決めているのだと思う、だけどそれに触れない。
鏡の前で身支度をしながらも、まだ、自分のすることが信じられない。
今日は会わないという選択肢…、ないよね、会いたいもん。
それに、わたしの中のほんの一部がわんこに焦がれているのだもの。
大いなるためらいと、ごく僅かな憧れ。
こんなにためらうデートははじめてだ。
支度を終えて、玄関を出る。
忘れ物に気付き、すぐ引き返す。
早めてもらった時間に遅れることはしたくない。
急いでブーツを脱ぎ、ドレッサーの引き出しを開け、アクセサリーを入れている箱から乱暴にひとつ引っ張り出す。
指輪だ。
わたしは、高価なアクセサリーよりもおもちゃのようなチープな物が好きなんだ。
普段、ほとんど物をねだらないわたしが、めずらしくねだった指輪。
那智さんと行った遊園地のショップで売っていた735円(税込み)のおもちゃのような指輪。
いくつかある種類の中から、散々悩み、もの選びが下手なわたしに業を煮やした那智さんがふたつ候補を上げてくれて、それで選んだ指輪。
これを仕事のときはいつもしていく、わたしのお守り。
今日だけは忘れちゃいけない、これをしていく。
四つん這いでお散歩をする時のわたしの世界は、アスファルトとチラチラ見える那智さんの革靴の踵と、自分の手だけなんだ。
恥ずかしくて恐ろしくて顔を上げることができないわたしは、その世界がすべてなんだ。
っていうか、それをすべてに転換しないと怖くて進めない。
その時に、左手は薬指の刺青、右手は指輪、交互に視界に入るそれらをお守りにしようと思っていたのだ。
だから、忘れちゃいけない。
大事なお守りを右手の薬指にはめて駅へ急ぐ。
ぜんっぜん、覚悟決まってないけど^^;
あああ、家を出るだけでいちエントリー^^;