成功なの?失敗なの?
非日常的な日常
良い回避対策も思い浮かばないまま、那智さんの『やる』テンションだけが盛り上がっている。
百貨店が近づいてきた。
信号を渡れば正面玄関、それの角を曲がればショウウィンドウ。
信号を渡り右に折れショウウィンドウのほうへ向かう。
リードもないしお散歩はないだろう。
それに、ショウウィンドウでどこでもわんこはこの前やった、那智さんが二回連続で同じことをするとは思えないから、それもないはず。
雨とはいえ、正午過ぎの繁華街は人がたくさんいる。
人の多さと地面の汚れ具合を見て、那智さんは考えを変えたのか、そのまま正面玄関のほうに移動した。
どこ?
どこで?
四つん這い?
お散歩?
今きた角を曲がる。
「正面玄関に店員がいなければ、そこでわんこね。」
ああ、なんて淡々と言うのでしょう。
あり得ない。
百貨店の正面玄関。
人の往来の激しい場所。
そんなところで四つん這いになるなんて。
よく百貨店の正面玄関に案内の人がいたりチラシを配ったりしているよね。
そういう人がいたらしない。
いなければする。
うわあ、人、いて〜〜〜。
傘を差した人々は百貨店の正面玄関に吸い込めれていく。
その流れに乗るように、わたしたちも大きなガラスドアの前に。
ガラスのドアの向こう、店内にはカウンターがあって案内の店員さんがいる。
でも、そのカウンターの向きが正面を向いておらず、こちらは視界の外だった。
万事休す。
「これなら、できるね。」
大きく開け放たれたドアは左右に2箇所。
その間には開けられていないガラスドアが一枚。
そこに傘用のビニールやゴミ箱が置いてある。
その横に二人して立つ。
「はい、わんこ。」
わ、わ、わ、、ちょ、ちょっと待ってください。
全然心の準備ができていません!!
ううん、さっきから那智さんは『やらせる目』だった。
でも、なんだかわんこお腹いっぱいな感じがしていたから、ちょっとたかを括っていたみたい。
無理です。
だって、ここ普通に百貨店の正面玄関。
人が出入りしている。
首を振り、口をぱくぱく。
手に持つ傘を、那智さんがそっと奪う。
だめ、身軽にしないで!!
カウントダウンだ。
「無理、那智さん、こわいです。」
ゆっくり顔を横に振られてしまう。
今度は肩に掛けているバッグを持とうと手を伸ばされた。
だめ、バッグを那智さんが持ったら、もうそれは『やる』ことに決まってしまう。
「だめです、那智さん!!バッグ持っちゃ、バッグ持たれたらしなきゃいけないもの!!」
もう、必死の抵抗。
また、首を振って一蹴される。
「おすわり」
ぎゃーーーー、無理よ、無理。
ああ、でも、もう那智さんの目は真剣だ。
わたしは『する』んだ。
でも、あまりの怖くて、意を決するタイミングを計ってしまう。
「早く。」
そう言って、肩に手を置かれた。
「やります、やります。わたしのタイミングでやらせてください。」
那智さんの体に触れるくらい近寄って、そーっとしゃがむ。
両手と膝をつき、お尻をあげる。
お尻をあげると頭が少し前に出るから、頭は那智さんの足にくっついている。
あああああ、信じられない。
恥ずかしくて恥ずかしくて、心臓が飛び出そう。
みるみる顔が熱くなってくるのがわかる。
その間の那智さんの手が頭や首を撫でてくれている。
ちょうど、那智さんの足の側面と掌で頭を挟まれるような位置。
頭だけでも那智さんの陰に隠れていたい気分だ。
ずっと撫でてくれている。
周囲の雑音すべてが、わたしの異様な姿に反応しているように感じられるけど、実は、その雑音はあまり脳まで届いていないみたいだ。
ただ、ぐわんぐわんと響いている感じなだけ。
怖さのあまり片方の手が指先だけしかつけられない。
身をすくめて掌が浮いてしまっているのだ。
黒い手袋をした右手が少し浮いたままほんのわずかに左に体重が掛かり那智さんの右足の側面に寄り添う。
人は怖いと、身を縮めるものなのね。
お尻も下げて小さく丸まってしまいたい衝動に駆られるけれど、それは那智さんの望む四つん這いじゃないので、必死にその衝動と戦うのだ。
そのまま硬直する。
恐怖をやり過ごすように。
長い。
きっといつものどこでもわんこより長い感じがする。
恥ずかしい、怖い、ごめんなさい。
幸せなんかじゃな、幸せになんかなれない!!
怖くて、恥ずかしくて、やっていることが異常で。
わたしは、撫でる手に意識を集中させて、必死に『幸せ』に変換させようとしていた。
撫でていた手がぽんぽんと首筋を叩いた。
おしまいの合図。
しゃがんだときと同じように、そっと立ち上がり、那智さんのスーツにしがみついまま移動する。
もう恥ずかしくて顔を上げることができない。
「信じられない」とか「恥ずかしくてしょうがない」とか小さな声で騒ぎながら歩く。
なにかの許容範囲のコップがあるとして、わたしの許容範囲はとっくに限界を超えて、溺れそうなほどいっぱいいっぱいになって溢れてしまっていた。
このあとホテルに入り、すぐチェックされたのだけど、驚くほど濡れていた。
いっぱいいっぱいで幸せなんて感じられなかったはずなのに。
今日は失敗してしまったはずなのに。
あのときは幸せに変換しようと必死だったはずなのに、数日経ち、こうやって書きながら、あの刺さるような雑音や那智さんの足の感触や浮き気味の怯えた手を思い出して、焦がれる自分を見ても。
これらを見ると、いったい何が成功で失敗なのか、わからないのでした。
もしかしたら、那智さんがしてくれることで、失敗はないのかもしれない。(いや、ある?)
いつも代りばえのないわんこ話で恐縮しながらも。
この百貨店の正面玄関で四つん這いは、わたしとしてはかなり『すごい』ことで、ショウウィンドウでお散歩や店内でお買い物まではしていないけれど、もうやりきった感とでもいいましょうか、わんこ集大成のように感じていました。
それを那智さんに伝えたら、全然そういう感じじゃなくて、むしろ那智さんは『慣れてきて、楽しめるようになってきた』から、これからがメインイベントというように思っていたそうです。
うう、ふたりの認識の違いに、また成功やら失敗やらを繰り返すのかと、軽い目眩。
ということで、わたしのわんこ話はまだまだ続く、です。
そういえば、これを書いていて、昔見た夢を思い出しました。
わたしが、自分のマゾ性を自覚せざるを得なかった夢。
あのとき、そんな夢を見てしまうことで、そんな自分と叶わない夢に途方に暮れてしまったけれど。
叶ってる。
夢よりも、もっと困ってドキドキして、感じている。
事実は夢よりすごかった。
また、昔の彷徨っていたわたしに教えてあげたい。
那智さんが叶えてくれるよ、だから途方に暮れないで。
那智さん、わたしはあなたにたくさんの夢を叶えてもらっています。
あなたは、ちょっとすごい*^^*
夢のことを思い出して、なんだか感動してしまう、わたしでした。
良い回避対策も思い浮かばないまま、那智さんの『やる』テンションだけが盛り上がっている。
百貨店が近づいてきた。
信号を渡れば正面玄関、それの角を曲がればショウウィンドウ。
信号を渡り右に折れショウウィンドウのほうへ向かう。
リードもないしお散歩はないだろう。
それに、ショウウィンドウでどこでもわんこはこの前やった、那智さんが二回連続で同じことをするとは思えないから、それもないはず。
雨とはいえ、正午過ぎの繁華街は人がたくさんいる。
人の多さと地面の汚れ具合を見て、那智さんは考えを変えたのか、そのまま正面玄関のほうに移動した。
どこ?
どこで?
四つん這い?
お散歩?
今きた角を曲がる。
「正面玄関に店員がいなければ、そこでわんこね。」
ああ、なんて淡々と言うのでしょう。
あり得ない。
百貨店の正面玄関。
人の往来の激しい場所。
そんなところで四つん這いになるなんて。
よく百貨店の正面玄関に案内の人がいたりチラシを配ったりしているよね。
そういう人がいたらしない。
いなければする。
うわあ、人、いて〜〜〜。
傘を差した人々は百貨店の正面玄関に吸い込めれていく。
その流れに乗るように、わたしたちも大きなガラスドアの前に。
ガラスのドアの向こう、店内にはカウンターがあって案内の店員さんがいる。
でも、そのカウンターの向きが正面を向いておらず、こちらは視界の外だった。
万事休す。
「これなら、できるね。」
大きく開け放たれたドアは左右に2箇所。
その間には開けられていないガラスドアが一枚。
そこに傘用のビニールやゴミ箱が置いてある。
その横に二人して立つ。
「はい、わんこ。」
わ、わ、わ、、ちょ、ちょっと待ってください。
全然心の準備ができていません!!
ううん、さっきから那智さんは『やらせる目』だった。
でも、なんだかわんこお腹いっぱいな感じがしていたから、ちょっとたかを括っていたみたい。
無理です。
だって、ここ普通に百貨店の正面玄関。
人が出入りしている。
首を振り、口をぱくぱく。
手に持つ傘を、那智さんがそっと奪う。
だめ、身軽にしないで!!
カウントダウンだ。
「無理、那智さん、こわいです。」
ゆっくり顔を横に振られてしまう。
今度は肩に掛けているバッグを持とうと手を伸ばされた。
だめ、バッグを那智さんが持ったら、もうそれは『やる』ことに決まってしまう。
「だめです、那智さん!!バッグ持っちゃ、バッグ持たれたらしなきゃいけないもの!!」
もう、必死の抵抗。
また、首を振って一蹴される。
「おすわり」
ぎゃーーーー、無理よ、無理。
ああ、でも、もう那智さんの目は真剣だ。
わたしは『する』んだ。
でも、あまりの怖くて、意を決するタイミングを計ってしまう。
「早く。」
そう言って、肩に手を置かれた。
「やります、やります。わたしのタイミングでやらせてください。」
那智さんの体に触れるくらい近寄って、そーっとしゃがむ。
両手と膝をつき、お尻をあげる。
お尻をあげると頭が少し前に出るから、頭は那智さんの足にくっついている。
あああああ、信じられない。
恥ずかしくて恥ずかしくて、心臓が飛び出そう。
みるみる顔が熱くなってくるのがわかる。
その間の那智さんの手が頭や首を撫でてくれている。
ちょうど、那智さんの足の側面と掌で頭を挟まれるような位置。
頭だけでも那智さんの陰に隠れていたい気分だ。
ずっと撫でてくれている。
周囲の雑音すべてが、わたしの異様な姿に反応しているように感じられるけど、実は、その雑音はあまり脳まで届いていないみたいだ。
ただ、ぐわんぐわんと響いている感じなだけ。
怖さのあまり片方の手が指先だけしかつけられない。
身をすくめて掌が浮いてしまっているのだ。
黒い手袋をした右手が少し浮いたままほんのわずかに左に体重が掛かり那智さんの右足の側面に寄り添う。
人は怖いと、身を縮めるものなのね。
お尻も下げて小さく丸まってしまいたい衝動に駆られるけれど、それは那智さんの望む四つん這いじゃないので、必死にその衝動と戦うのだ。
そのまま硬直する。
恐怖をやり過ごすように。
長い。
きっといつものどこでもわんこより長い感じがする。
恥ずかしい、怖い、ごめんなさい。
幸せなんかじゃな、幸せになんかなれない!!
怖くて、恥ずかしくて、やっていることが異常で。
わたしは、撫でる手に意識を集中させて、必死に『幸せ』に変換させようとしていた。
撫でていた手がぽんぽんと首筋を叩いた。
おしまいの合図。
しゃがんだときと同じように、そっと立ち上がり、那智さんのスーツにしがみついまま移動する。
もう恥ずかしくて顔を上げることができない。
「信じられない」とか「恥ずかしくてしょうがない」とか小さな声で騒ぎながら歩く。
なにかの許容範囲のコップがあるとして、わたしの許容範囲はとっくに限界を超えて、溺れそうなほどいっぱいいっぱいになって溢れてしまっていた。
このあとホテルに入り、すぐチェックされたのだけど、驚くほど濡れていた。
いっぱいいっぱいで幸せなんて感じられなかったはずなのに。
今日は失敗してしまったはずなのに。
あのときは幸せに変換しようと必死だったはずなのに、数日経ち、こうやって書きながら、あの刺さるような雑音や那智さんの足の感触や浮き気味の怯えた手を思い出して、焦がれる自分を見ても。
これらを見ると、いったい何が成功で失敗なのか、わからないのでした。
もしかしたら、那智さんがしてくれることで、失敗はないのかもしれない。(いや、ある?)
いつも代りばえのないわんこ話で恐縮しながらも。
この百貨店の正面玄関で四つん這いは、わたしとしてはかなり『すごい』ことで、ショウウィンドウでお散歩や店内でお買い物まではしていないけれど、もうやりきった感とでもいいましょうか、わんこ集大成のように感じていました。
それを那智さんに伝えたら、全然そういう感じじゃなくて、むしろ那智さんは『慣れてきて、楽しめるようになってきた』から、これからがメインイベントというように思っていたそうです。
うう、ふたりの認識の違いに、また成功やら失敗やらを繰り返すのかと、軽い目眩。
ということで、わたしのわんこ話はまだまだ続く、です。
そういえば、これを書いていて、昔見た夢を思い出しました。
わたしが、自分のマゾ性を自覚せざるを得なかった夢。
あのとき、そんな夢を見てしまうことで、そんな自分と叶わない夢に途方に暮れてしまったけれど。
叶ってる。
夢よりも、もっと困ってドキドキして、感じている。
事実は夢よりすごかった。
また、昔の彷徨っていたわたしに教えてあげたい。
那智さんが叶えてくれるよ、だから途方に暮れないで。
那智さん、わたしはあなたにたくさんの夢を叶えてもらっています。
あなたは、ちょっとすごい*^^*
夢のことを思い出して、なんだか感動してしまう、わたしでした。
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