ショウウィンドウと洗濯バサミと鞭2
非日常的な日常
マ○○に入って路線変更作戦は失敗に終わり。
抵抗虚しく百貨店のショウウィンドウに。
ああ、どうしよう。
わたしはここで四つん這いになるのだろうか、すべては那智さんの意志。
一番端は、エ○メス。
その前に立つ。
午前中の開店までまだ少し時間がある。
だから、ショウウィンドウ越しに店員さんはいない(はず、もう全然見えてない)。
ただ、それなりに人通りはある。
「はい、おすわり。」
ああ、おすわりですって。
さっき、ほんの少しうっとりした『おすわり』。
怖くて恥ずかしくて仕方がないのに、でも、その言葉にわたしの見えない尻尾がパタンと反応するようだ。
やるの?わたし。
恐る恐る辺りを見回す。
通り過ぎる人々。
道路の向いのコーヒーショップの外のテーブルにはカップルがいる。
そのごく普通の朝の景色に現実に引き戻され、これからしようとすることがいかに非現実的か思い知らされる。
泣きそうになりながら小さく首を振る。
「おすわり」
静かな口調、少し微笑んでいるくらい、だけど有無を言わせない目だ。
那智さんの意志がわたしの意志、でもあまりの人の多さとショウウィンドウから溢れる高級感に、わたしは動けなくなってしまった。
金縛りにあったようで動けないでいると、那智さんがわたしのショルダーバッグを肩からすっと外した。
腕からするりと抜いたバッグを那智さんが持ち、それが合図になった。
覚悟を決めた感覚はない。
有無を言わさずというか、体が勝手にというか。
でも、決して意識がないわけじゃないの。
頭ではわかってて、でも、勝手に体が動いたという感じだ。
怖い。
意識がないわけではないから、とてもとても恐る恐るだ。
歩道に背を向けるように、すこしでも人目から避けるように。
膝を曲げ、手をタイルに付け、お尻を上げる。
那智さんの好みの四つん這いになるように、とんでもなく恥ずかしいけどお尻を上げた。
「手をもう少し前に」
怖さのあまり身を縮めてしまい膝と手触れるほどが近かった。
いくらお尻を上げても、これじゃ四つん這いじゃないんだ。
じりじりと膝から離す。
「もう少し前」
まだ、だめだった。
ちゃんと肩から自然に下ろさないといけないみたい。
うつむいて動く手を見る。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
わたしすごいことしてる。
明るい日差しの中、繁華街の真ん中でお尻を上げて四つん這いのまま静止しているのだ。
恥ずかしくて仕方がないけど、変なわたしを晒す快感。
これはわたしの露出願望。
もうそれだけで精一杯で、まわりの雑踏が耳に入って来ない。
タイルに手が付いている感覚もない。
道行く人コーヒーショップのカップルはどう思うだろう。
一瞬思いを馳せるけど、雑踏が耳に入らないわたしは、その思考があまり広がらなかった。
自分のことで精一杯という感じ。
ただ、わたしの肩のあたりの那智さんの足が当たっていて、それだけが現実との接点のようだった。
まわりが気にならないほど、まわりを気にしていっぱいいっぱいになっている変な状態だった。
全身の血液が顔に集中しているんじゃないかというほど、顔が熱い。
首に那智さんの手が伸びてきた。
ああ、待っていたの。
撫でてくれるのを、待っていたの。
肩に触れる足と首を撫でる手、このふたつに包まれているような、それにつき従う従属感。
やっと訪れた至福の瞬間。
でも、それを味わう間もなく、那智さんの手が髪に移動した。
「顔を上げて。」
髪をぐいっと引き否応なく顔を上げさせられた。
寝ているところを叩き起こされたようだ。
顔が更に熱くなる。
「目を開けてガラスを見て。」
そこには、わたしが映っていた。
昼間の百貨店のショウウィンドウ、背後では人々が通り過ぎる中。
上品な照明のピカピカのガラスに。
四つん這いになって顔を上げているわたしが。
だけど、だめ、輪郭は見えるけど、どんな表情をしているのか周囲はどうか全然見えていない、脳みそに伝達されていない。
ショウウィンドウの前で四つん這いになっているわたしと同じ服装の女性、でも、それは確実にわたし、辛うじてそう認識する。
脳みそに伝達されないぼんやりした意識の中で、わたしはわたしを見る。
自己愛。
なぜだろう、こんな姿がわたしのナルシズムを刺激するのだ。
ここで、また那智さんが首筋を撫でてくれた。
もう、嬉しい、嬉しい。
全身の血が集中しているそこが、今度は一番の性感帯になったみたい。
うっとりする。
那智さんに撫でてもらうためだけに、わたしはいるんじゃないかって錯覚してしまうほど。
ガラスに映った女性の輪郭がどんどんぼやけている。
恥ずかしいも怖いもごめんなさいもなくなっていないはずなんだけど、快感が凌駕した。
『コートの下』というエントリーで書いたのと同じ。
露出願望と従属感と自己愛。
これが一度に満たされると、恍惚とする。
それにしても、いま思うと惜しい気がするな。
わたしはどんな表情をしていただろう。
惚けていたかしら、苦しそうだったかしら、それとも幸せそうだった?
もしかしたら、まったく見たことないようなはしたない表情をしていたかもしれない。
ああ、やっぱり、見えなくて正解だったかもしれないな。
自己嫌悪しちゃいそう。
わたしの自己愛と自己嫌悪は表裏一体みたいだもの。
時間の経過がまったくわからない。
促されて立ち上がる。
恥ずかしくて顔を上げることができない。
この場からすぐにでも立ち去りたい、でも、急いで進めばわたしの四つん這いを見た人に追いついてしまうかもしれない。
どうしてよいかわからず、ただ那智さんの腕にしがみついて歩く。
わなわなとしている。
体が震えているというよりも、体の芯が痺れている。
骨が震えているようだった。
マ○○に入って路線変更作戦は失敗に終わり。
抵抗虚しく百貨店のショウウィンドウに。
ああ、どうしよう。
わたしはここで四つん這いになるのだろうか、すべては那智さんの意志。
一番端は、エ○メス。
その前に立つ。
午前中の開店までまだ少し時間がある。
だから、ショウウィンドウ越しに店員さんはいない(はず、もう全然見えてない)。
ただ、それなりに人通りはある。
「はい、おすわり。」
ああ、おすわりですって。
さっき、ほんの少しうっとりした『おすわり』。
怖くて恥ずかしくて仕方がないのに、でも、その言葉にわたしの見えない尻尾がパタンと反応するようだ。
やるの?わたし。
恐る恐る辺りを見回す。
通り過ぎる人々。
道路の向いのコーヒーショップの外のテーブルにはカップルがいる。
そのごく普通の朝の景色に現実に引き戻され、これからしようとすることがいかに非現実的か思い知らされる。
泣きそうになりながら小さく首を振る。
「おすわり」
静かな口調、少し微笑んでいるくらい、だけど有無を言わせない目だ。
那智さんの意志がわたしの意志、でもあまりの人の多さとショウウィンドウから溢れる高級感に、わたしは動けなくなってしまった。
金縛りにあったようで動けないでいると、那智さんがわたしのショルダーバッグを肩からすっと外した。
腕からするりと抜いたバッグを那智さんが持ち、それが合図になった。
覚悟を決めた感覚はない。
有無を言わさずというか、体が勝手にというか。
でも、決して意識がないわけじゃないの。
頭ではわかってて、でも、勝手に体が動いたという感じだ。
怖い。
意識がないわけではないから、とてもとても恐る恐るだ。
歩道に背を向けるように、すこしでも人目から避けるように。
膝を曲げ、手をタイルに付け、お尻を上げる。
那智さんの好みの四つん這いになるように、とんでもなく恥ずかしいけどお尻を上げた。
「手をもう少し前に」
怖さのあまり身を縮めてしまい膝と手触れるほどが近かった。
いくらお尻を上げても、これじゃ四つん這いじゃないんだ。
じりじりと膝から離す。
「もう少し前」
まだ、だめだった。
ちゃんと肩から自然に下ろさないといけないみたい。
うつむいて動く手を見る。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
わたしすごいことしてる。
明るい日差しの中、繁華街の真ん中でお尻を上げて四つん這いのまま静止しているのだ。
恥ずかしくて仕方がないけど、変なわたしを晒す快感。
これはわたしの露出願望。
もうそれだけで精一杯で、まわりの雑踏が耳に入って来ない。
タイルに手が付いている感覚もない。
道行く人コーヒーショップのカップルはどう思うだろう。
一瞬思いを馳せるけど、雑踏が耳に入らないわたしは、その思考があまり広がらなかった。
自分のことで精一杯という感じ。
ただ、わたしの肩のあたりの那智さんの足が当たっていて、それだけが現実との接点のようだった。
まわりが気にならないほど、まわりを気にしていっぱいいっぱいになっている変な状態だった。
全身の血液が顔に集中しているんじゃないかというほど、顔が熱い。
首に那智さんの手が伸びてきた。
ああ、待っていたの。
撫でてくれるのを、待っていたの。
肩に触れる足と首を撫でる手、このふたつに包まれているような、それにつき従う従属感。
やっと訪れた至福の瞬間。
でも、それを味わう間もなく、那智さんの手が髪に移動した。
「顔を上げて。」
髪をぐいっと引き否応なく顔を上げさせられた。
寝ているところを叩き起こされたようだ。
顔が更に熱くなる。
「目を開けてガラスを見て。」
そこには、わたしが映っていた。
昼間の百貨店のショウウィンドウ、背後では人々が通り過ぎる中。
上品な照明のピカピカのガラスに。
四つん這いになって顔を上げているわたしが。
だけど、だめ、輪郭は見えるけど、どんな表情をしているのか周囲はどうか全然見えていない、脳みそに伝達されていない。
ショウウィンドウの前で四つん這いになっているわたしと同じ服装の女性、でも、それは確実にわたし、辛うじてそう認識する。
脳みそに伝達されないぼんやりした意識の中で、わたしはわたしを見る。
自己愛。
なぜだろう、こんな姿がわたしのナルシズムを刺激するのだ。
ここで、また那智さんが首筋を撫でてくれた。
もう、嬉しい、嬉しい。
全身の血が集中しているそこが、今度は一番の性感帯になったみたい。
うっとりする。
那智さんに撫でてもらうためだけに、わたしはいるんじゃないかって錯覚してしまうほど。
ガラスに映った女性の輪郭がどんどんぼやけている。
恥ずかしいも怖いもごめんなさいもなくなっていないはずなんだけど、快感が凌駕した。
『コートの下』というエントリーで書いたのと同じ。
露出願望と従属感と自己愛。
これが一度に満たされると、恍惚とする。
それにしても、いま思うと惜しい気がするな。
わたしはどんな表情をしていただろう。
惚けていたかしら、苦しそうだったかしら、それとも幸せそうだった?
もしかしたら、まったく見たことないようなはしたない表情をしていたかもしれない。
ああ、やっぱり、見えなくて正解だったかもしれないな。
自己嫌悪しちゃいそう。
わたしの自己愛と自己嫌悪は表裏一体みたいだもの。
時間の経過がまったくわからない。
促されて立ち上がる。
恥ずかしくて顔を上げることができない。
この場からすぐにでも立ち去りたい、でも、急いで進めばわたしの四つん這いを見た人に追いついてしまうかもしれない。
どうしてよいかわからず、ただ那智さんの腕にしがみついて歩く。
わなわなとしている。
体が震えているというよりも、体の芯が痺れている。
骨が震えているようだった。
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