ショウウィンドウと洗濯バサミと鞭1
非日常的な日常
那智さんは時々服装の指定をしてくる。
単に『そういう雰囲気のりん子が見たかった』という場合もあるし、やろうと思っていることに支障がないために指定する場合もある。
なぜそれかということを教えてくれるときもあるし、内緒のときもある。
だから、服装指定のあるときは、ちょっと緊張するのだ。
この日の指定は、恐らくこれの全部が含まれていたと思う。
「明日はジーンズで来て」
「なぜですか?」
「そのりん子が見たいから」
それが見たいとちゃんと理由を教えてくれた。
まともな理由にホッとする反面、それだけじゃないだろうと想像してしまう。
きっと四つん這いだ。
そう思われるけど、怖くて聞けない。
聞いてしまえば、那智さんの中にある『やろうと思ってる』程度の漠然とした予定をもう少し確実なものにしてしまいそうだったから。
那智さんも、それ以上『なぜ』には触れずにいたので、わたしも内緒のままにしておいた。
百貨店を、百貨店のショウウィンドウの前を、リードを付けて四つん這いで歩くという妄想(那智さん的には実行計画)が話題になってから随分と経っている。
那智さんが『する』と決めたら、決定権がないわたしは『する』。
だけど、那智さんは更に、『してほしい』が『無理』を上回る状態が面白いと思いはじめているから、いま、多分計画を再構築中という感じ。
その状態を待つか、そんなこと関係なく有無を言わさず那智さんがやりたいというテンションになるか、その状況を楽しんでいるところがあるように思う。
(恐らく、那智さんは『やる』という自分の高まりが来ることも、それはそれで楽しいみたいです)
だからか、最近デートの度にショウウィンドウに立つ。
何十mも続くショウウィンドウの端に立ち自分でシミュレーションして、あわあわするわたしを楽しみ、わたしの返答や那智さんルール(通行人ではなく、その場 に先に人がいたらしない)によって、自分のテンションの変化を楽しみ、そして、その場を移動して、緊張で強ばるわたしを解放する。
その後、コンビニわんこに発展したりするから、結局気が気じゃないのだけど、わたしは一瞬の安堵と、一抹の寂しさを覚えるのだ。
そうやって、少しずつ少しずつ、『してほしい』と思わせることに近づけようとしているみたいだ。
ジーンズの指定があったということは、きっと那智さんとしては『ちょっとやる気、あとは成り行き』なんだろう。
いつもより、やる気が多い感じ。
怖いな、どうなるんだろ。
実は、首輪とリードはわたしの手元にあった。
ジーンズと言われたとき、それを持っていくか聞こうと脳裏をかすめたけど、聞けば『やる』に一歩近付いてしまうようで、少しだけためらった。
そのまま話題は違うことに流れていき、結局聞きそびれてしまい、わたしはそれを持たずに待ち合わせに向った。
駅に向う途中で那智さんと電話で話す。
そこで、もう一度それを思い出し持って来ていないことを伝えると。
「ジーンズと言った時点で持ってくるものと思ってたよ。まあ、俺も指示しなかったから仕方ないか。」
ああ、やっぱり『やる気』多めだったんだ…。
忘れていたことで図らずもショウウィンドウで四つん這いを免れた。
可能性はどれくらいあったのかわからないけど、免れた。
でも、それはイコール、違うことをする可能性が一気に上がったことにもなると感じられて、手放しで安心するわけにもいかなかった。
それは、最近のお気に入り『どこでもわんこ』。
お気に入りと言っても、空港ではじめてしてから、実はまだ一度もしていない。
那智さんとしては『いつでもいいよ〜、いつしようっかな〜』という感じでしょうから、多分、この日の『やる気』がリードがないことで、『どこでもわんこ』に傾いたことは、簡単に想像できてしまう。
しかも、那智さんの意志ではなく予定変更したのだもの、きっと確率は上がるということも、負けず嫌いさんだから容易に想像できる。
ああ、怖い。
でも、怖くて仕方がないけれど、どこでもわんこはちょっと幸せだと感じてしまっていることも自覚している。
ううん、やっぱり絶対怖い。
いやいや、まだするなんてひと言も言われていないんだから、そんなに怖がらなくても。
あ、でも、ちょっとしろって言ってほしい…。
那智さんに会うまでの道のり。
こんなふうに、浮かんでは打ち消し望んでは否定しの繰り返し。
気持ちの上下。
だけど、那智さんに会ってからは、もっとずっといっぱい動揺させられちゃんだろうな。
だって、那智さんはわたしの心をグラグラと揺さぶることが好きなんだもの。
まったくもう、わたしったら会う前から那智さんのお望み通りの心の上下。
ひとりあわあわしながら待ち合わせ場所へ。
やっぱり那智さんのテンションは『どこでもわんこ』だった。
待ち合わせの喫煙所で「する?」。
少し移動してモニュメントの前で「する?ここなら目立つよ〜」。
拒否をすれば逆効果だから「地面濡れています」とか「高校生がいるから…」などなど、あれこれ言い訳を言って誤摩化すのだ。
「おすわりって言ったらするの、どう?」
そんな提案に、ああわたしちょっとうっとり。
だめだめ、また打ち消し。
多分、那智さんはこんなことも楽しんでる^^;
歩き出した。
信号を渡って、左右の歩道どちらを歩くかで、那智さんの考えが予測できるんだ。
右に行けばマ○○があってホテルへ。
左に行けば百貨店。
左に行ってほしくないな…、行けばわんこの確率がかなり高くなるもの。
しかし、那智さんの足は左側へ。
わわ、やばい、なんとか右側に行ってもらわなければ!!
どんどん現実に近付いてくると『わんこでうっとり』なんて生易しいこと言ってられないのだ!!!
その間も那智さんはわんこ話題で盛り上がる。
「なんかさ〜、こういう薄汚い路地でさせたくなくなってるんだよね、可哀想でさ(笑)明るいきれいなところでさせてあげたいな〜って最近思うんだよね。」
飲食店の狭間の路地を指差して、ありがたい、でも、困惑する情けをかけてくれたりしてる^^;
「那智さん、マ○○に寄りません!?朝何か召し上がりましたか?」
「いや、食べてないんだよね。」
「ほら、ちょうど信号も青ですし!!」
タイミング良くマ○○の近くの信号が変わった。
その気持ちいいタイミングに那智さんの気持ちも「ま、いいか」になったようで、そのまま右側の歩道に。
よし!!まだ0ではないけれど、これで、ショウウィンドウで『どこでもわんこ』の可能性は下がった。
嬉々としてマ○○に向う。
信号を渡りながら、那智さんが携帯からクーポンを探している。
どうしてもマ○○に寄りたいわけじゃないし、なんかいいクーポンないかな〜みたいな感じだろう。
思った以上にカウンターが混んでる。
歩道まで列が伸び、マ○○に向う足取りが鈍っている。
やばい、黄色信号。
マ○○に寄らない可能性が、ちょっと上がる。
「混んでるな」
「すぐ、順番来ますよ!!」
「う〜ん、でも、クーポンで食べたいものないんだよね〜」
携帯を眺めながら那智さんがいう。
「マ○○なしだな。」
一瞬やばいと思ったけど、歩道を移動したことでわたしの警戒心が少し緩んだみたいで、危機感黄色信号のままマ○○を通り過ぎた。
警戒心が緩み左側の歩道を歩くわたしに那智さんがにやっとしながら言った。
「マ○○、入れなくて残念だったね。俺の思考回路わかる?」
「へ?」
「マ○○に入れなかったのなら、じゃあやるか〜ってなるよね、普通。」
がーーーーーーん。
「マ○○に寄ろうなんて言わなければ、もしかしたら何もなかったかもしれないのにね〜。何か食べようと思った欲求が叶わなかったんだもんね、他の欲求で満足しようと思うのが、俺の思考回路だよね(笑)」
そう言いながら、さっき渡った信号のひとつ先の信号を左に戻るように渡る。
そのときの那智さんの目が『有無を言わせない目』になっていた。
あああああ、これを失敗と言わずしてなんと言おう。
那智さんをこの目にさせてしまったら、もうわたしは抵抗できないんだ。
言葉にならない、文字通りあわあわしてる。
もうわたしが回避できる機会はない。
抵抗もできず、だからといって覚悟を決めることもできないまま、ショウウィンドウに着いた。
那智さんは時々服装の指定をしてくる。
単に『そういう雰囲気のりん子が見たかった』という場合もあるし、やろうと思っていることに支障がないために指定する場合もある。
なぜそれかということを教えてくれるときもあるし、内緒のときもある。
だから、服装指定のあるときは、ちょっと緊張するのだ。
この日の指定は、恐らくこれの全部が含まれていたと思う。
「明日はジーンズで来て」
「なぜですか?」
「そのりん子が見たいから」
それが見たいとちゃんと理由を教えてくれた。
まともな理由にホッとする反面、それだけじゃないだろうと想像してしまう。
きっと四つん這いだ。
そう思われるけど、怖くて聞けない。
聞いてしまえば、那智さんの中にある『やろうと思ってる』程度の漠然とした予定をもう少し確実なものにしてしまいそうだったから。
那智さんも、それ以上『なぜ』には触れずにいたので、わたしも内緒のままにしておいた。
百貨店を、百貨店のショウウィンドウの前を、リードを付けて四つん這いで歩くという妄想(那智さん的には実行計画)が話題になってから随分と経っている。
那智さんが『する』と決めたら、決定権がないわたしは『する』。
だけど、那智さんは更に、『してほしい』が『無理』を上回る状態が面白いと思いはじめているから、いま、多分計画を再構築中という感じ。
その状態を待つか、そんなこと関係なく有無を言わさず那智さんがやりたいというテンションになるか、その状況を楽しんでいるところがあるように思う。
(恐らく、那智さんは『やる』という自分の高まりが来ることも、それはそれで楽しいみたいです)
だからか、最近デートの度にショウウィンドウに立つ。
何十mも続くショウウィンドウの端に立ち自分でシミュレーションして、あわあわするわたしを楽しみ、わたしの返答や那智さんルール(通行人ではなく、その場 に先に人がいたらしない)によって、自分のテンションの変化を楽しみ、そして、その場を移動して、緊張で強ばるわたしを解放する。
その後、コンビニわんこに発展したりするから、結局気が気じゃないのだけど、わたしは一瞬の安堵と、一抹の寂しさを覚えるのだ。
そうやって、少しずつ少しずつ、『してほしい』と思わせることに近づけようとしているみたいだ。
ジーンズの指定があったということは、きっと那智さんとしては『ちょっとやる気、あとは成り行き』なんだろう。
いつもより、やる気が多い感じ。
怖いな、どうなるんだろ。
実は、首輪とリードはわたしの手元にあった。
ジーンズと言われたとき、それを持っていくか聞こうと脳裏をかすめたけど、聞けば『やる』に一歩近付いてしまうようで、少しだけためらった。
そのまま話題は違うことに流れていき、結局聞きそびれてしまい、わたしはそれを持たずに待ち合わせに向った。
駅に向う途中で那智さんと電話で話す。
そこで、もう一度それを思い出し持って来ていないことを伝えると。
「ジーンズと言った時点で持ってくるものと思ってたよ。まあ、俺も指示しなかったから仕方ないか。」
ああ、やっぱり『やる気』多めだったんだ…。
忘れていたことで図らずもショウウィンドウで四つん這いを免れた。
可能性はどれくらいあったのかわからないけど、免れた。
でも、それはイコール、違うことをする可能性が一気に上がったことにもなると感じられて、手放しで安心するわけにもいかなかった。
それは、最近のお気に入り『どこでもわんこ』。
お気に入りと言っても、空港ではじめてしてから、実はまだ一度もしていない。
那智さんとしては『いつでもいいよ〜、いつしようっかな〜』という感じでしょうから、多分、この日の『やる気』がリードがないことで、『どこでもわんこ』に傾いたことは、簡単に想像できてしまう。
しかも、那智さんの意志ではなく予定変更したのだもの、きっと確率は上がるということも、負けず嫌いさんだから容易に想像できる。
ああ、怖い。
でも、怖くて仕方がないけれど、どこでもわんこはちょっと幸せだと感じてしまっていることも自覚している。
ううん、やっぱり絶対怖い。
いやいや、まだするなんてひと言も言われていないんだから、そんなに怖がらなくても。
あ、でも、ちょっとしろって言ってほしい…。
那智さんに会うまでの道のり。
こんなふうに、浮かんでは打ち消し望んでは否定しの繰り返し。
気持ちの上下。
だけど、那智さんに会ってからは、もっとずっといっぱい動揺させられちゃんだろうな。
だって、那智さんはわたしの心をグラグラと揺さぶることが好きなんだもの。
まったくもう、わたしったら会う前から那智さんのお望み通りの心の上下。
ひとりあわあわしながら待ち合わせ場所へ。
やっぱり那智さんのテンションは『どこでもわんこ』だった。
待ち合わせの喫煙所で「する?」。
少し移動してモニュメントの前で「する?ここなら目立つよ〜」。
拒否をすれば逆効果だから「地面濡れています」とか「高校生がいるから…」などなど、あれこれ言い訳を言って誤摩化すのだ。
「おすわりって言ったらするの、どう?」
そんな提案に、ああわたしちょっとうっとり。
だめだめ、また打ち消し。
多分、那智さんはこんなことも楽しんでる^^;
歩き出した。
信号を渡って、左右の歩道どちらを歩くかで、那智さんの考えが予測できるんだ。
右に行けばマ○○があってホテルへ。
左に行けば百貨店。
左に行ってほしくないな…、行けばわんこの確率がかなり高くなるもの。
しかし、那智さんの足は左側へ。
わわ、やばい、なんとか右側に行ってもらわなければ!!
どんどん現実に近付いてくると『わんこでうっとり』なんて生易しいこと言ってられないのだ!!!
その間も那智さんはわんこ話題で盛り上がる。
「なんかさ〜、こういう薄汚い路地でさせたくなくなってるんだよね、可哀想でさ(笑)明るいきれいなところでさせてあげたいな〜って最近思うんだよね。」
飲食店の狭間の路地を指差して、ありがたい、でも、困惑する情けをかけてくれたりしてる^^;
「那智さん、マ○○に寄りません!?朝何か召し上がりましたか?」
「いや、食べてないんだよね。」
「ほら、ちょうど信号も青ですし!!」
タイミング良くマ○○の近くの信号が変わった。
その気持ちいいタイミングに那智さんの気持ちも「ま、いいか」になったようで、そのまま右側の歩道に。
よし!!まだ0ではないけれど、これで、ショウウィンドウで『どこでもわんこ』の可能性は下がった。
嬉々としてマ○○に向う。
信号を渡りながら、那智さんが携帯からクーポンを探している。
どうしてもマ○○に寄りたいわけじゃないし、なんかいいクーポンないかな〜みたいな感じだろう。
思った以上にカウンターが混んでる。
歩道まで列が伸び、マ○○に向う足取りが鈍っている。
やばい、黄色信号。
マ○○に寄らない可能性が、ちょっと上がる。
「混んでるな」
「すぐ、順番来ますよ!!」
「う〜ん、でも、クーポンで食べたいものないんだよね〜」
携帯を眺めながら那智さんがいう。
「マ○○なしだな。」
一瞬やばいと思ったけど、歩道を移動したことでわたしの警戒心が少し緩んだみたいで、危機感黄色信号のままマ○○を通り過ぎた。
警戒心が緩み左側の歩道を歩くわたしに那智さんがにやっとしながら言った。
「マ○○、入れなくて残念だったね。俺の思考回路わかる?」
「へ?」
「マ○○に入れなかったのなら、じゃあやるか〜ってなるよね、普通。」
がーーーーーーん。
「マ○○に寄ろうなんて言わなければ、もしかしたら何もなかったかもしれないのにね〜。何か食べようと思った欲求が叶わなかったんだもんね、他の欲求で満足しようと思うのが、俺の思考回路だよね(笑)」
そう言いながら、さっき渡った信号のひとつ先の信号を左に戻るように渡る。
そのときの那智さんの目が『有無を言わせない目』になっていた。
あああああ、これを失敗と言わずしてなんと言おう。
那智さんをこの目にさせてしまったら、もうわたしは抵抗できないんだ。
言葉にならない、文字通りあわあわしてる。
もうわたしが回避できる機会はない。
抵抗もできず、だからといって覚悟を決めることもできないまま、ショウウィンドウに着いた。
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