那智さんの楽しみ方
非日常的な日常
やっぱり鞭は恐かった。
全裸になって床に膝を付き、上半身をベッドに預けて背中とお尻を差し出す。
この姿勢と那智さんの気配で、もう次は鞭だってわかってる。
恐いと自覚してしまってからは、もう本当に恐くてしかたがない。
できることなら避けて通りたい。
ずっと、一生鞭なんかしないで生きていかれたらいいのに。
恐い、恐い。
枕を引き寄せて、抱え込み、そこに顔を埋めることだけに神経を集中させてみようと、無駄な抵抗。
こんなにも全裸でいることが不安なのは、はじめてかもしれない。
鞭が恐いと公言してしまったから、那智さんはそれをどう受け取って、どうするのか、複雑な思いでこの日を迎えていた。
この複雑さが、余計に恐さを助長しているみたい。
ああ、いや、ほんとに恐い。
「ビシッ」
鞭が振り下ろされた。
全然加減してくれていない。
MAXよりは加減してくれているかもしれないけど、恐いと宣言している女に対して振り下ろす一発目にしては、絶対甘くない威力だった。
枕を抱える腕にぎゅっと力を込めて、なんとか耐える。
「ビシッ」
同じところに同じ力でもう一発。
「痛い!!」
ドンドンと足で床を踏み鳴らして、枕に顔を叩き付けて、必死に紛らわす。
ダメ、やっぱり耐えられないかもしれない。
恐いと言うことが痛さを倍増させている。
もう一発、今度は反対側のお尻に巻き込むように。
新たな場所に与えられた痛みに耐えきれず、振り返り那智さんに擦り寄って哀願する。
「那智さん、恐いです!!!」
那智さんは、鞭を構えたままの体勢で静止している。
「痛すぎる?」
セーフティーワードを確認してる。
過去の自分を思い出して、これくらいは耐えられたはずだと思うと、まだ痛すぎるんじゃないと、首を振る。
「戻って」
恐い、また、いまと同じかそれ以上の痛さを加えられる。
それがどれくらい続くのかわからない恐さ。
そして、一旦中断させたことでもっと酷くされるだろうと想像できて、恐怖が増す。
「那智さん、キスしてください。」
なんとか元の体勢に戻って恐怖に耐える気力を絞り出そうと、甘えてお願いをする。
目に涙が滲んでしまう。
しょうがねーなーという感じで、姿勢を崩して抱きしめてキスをしてくれる。
お願い勇気をください、恐怖さえ払拭できればきっと大丈夫なんだから。
赤ん坊がおっぱいを貪るように、夢中で求める。
体が離された。
滲んだ涙が溢れてきて、静かに頬をつたう。
しくしくと泣きながら、またベッドに体を預ける。
恐いのに、なぜ従うのだろう。
ノロノロと機械のように体が動く。
「ビシッ」
「いやああああ」
痛い、やっぱりダメ。
わあああと声を張り上げて、涙がどっと溢れ出す。
もう一発。
今度はもっと強い。
もう無理。
「いや〜」
私は、勢い良く飛び退いて、ベッドの上に座って那智さんの方を向く。
「だめです〜、やっぱり恐い。」
わーっと泣く。
子供みたいに、手放しで泣く。
「ごめんなさい、ごめんなさい、でも、やっぱり恐いの。」
枕を抱えたまま号泣。
那智さんが近寄って「痛すぎます?」と聞く。
「違うけど、もう恐くてダメなの。」
鞭の恐さと、再開された後に訪れる痛みを想像して、弱った心でわんわんと泣く。
ああ、でも、それだけじゃない。
この手放しで思いっきり泣けることが幸せなの。
裸で枕を抱えて、「那智さん酷い」って思いながら、子供みたいに泣くのが気持ちいいの。
「痛すぎます?」
「恐すぎるの。」
「それじゃ、やめないよ。」
痛すぎますと言えばそれでおしまいになる。
でも、どうしてもそれが言えない。
恐くておしまいにしてほしいのに、言えないのは「痛すぎます」は嘘になるから。
痛くてしょうがないけど、もっと痛いことができていたんだから、ここで言うのは嘘になってしまう。
那智さんに嘘は付きたくない。
でも、恐すぎるじゃおしまいにならない、いっそ嘘を付いてしまおうか。
ボロボロと涙を流しながら、考えても考えられない、思考回路がぐちゃぐちゃ。
何度か問い掛けて、それでも「痛すぎないけど、恐い」と繰り返し、それ以上鞭を振るうことはなく那智さんの手から離された。
安堵と、極々僅かな寂しさ。
那智さんの前で子供の涙を流せた、とろりとした甘い気持ち。
そして、「恐すぎる」ということは那智さんを信じきれていないのではないかという、自責。
那智さんは、なぜ止めたのか、それはこの自責の念に苛まれる私を楽しみたかったから。
黙って耐え忍ぶ私、痛みで恍惚する私、泣き叫ぶ私、恐怖で震える私、後で自分を責めてメソメソする私。
那智さんはいろんな私を楽しむけれど、この日のチョイスは一番底意地悪いかも?(笑)
次の鞭は、いつなのかわからない。
なかなかゆっくり会えないけど、次会える時が決まったら、私は「恐い」と「委ねたい」と行ったり来たりするんだろうな。
やっぱり鞭は恐かった。
全裸になって床に膝を付き、上半身をベッドに預けて背中とお尻を差し出す。
この姿勢と那智さんの気配で、もう次は鞭だってわかってる。
恐いと自覚してしまってからは、もう本当に恐くてしかたがない。
できることなら避けて通りたい。
ずっと、一生鞭なんかしないで生きていかれたらいいのに。
恐い、恐い。
枕を引き寄せて、抱え込み、そこに顔を埋めることだけに神経を集中させてみようと、無駄な抵抗。
こんなにも全裸でいることが不安なのは、はじめてかもしれない。
鞭が恐いと公言してしまったから、那智さんはそれをどう受け取って、どうするのか、複雑な思いでこの日を迎えていた。
この複雑さが、余計に恐さを助長しているみたい。
ああ、いや、ほんとに恐い。
「ビシッ」
鞭が振り下ろされた。
全然加減してくれていない。
MAXよりは加減してくれているかもしれないけど、恐いと宣言している女に対して振り下ろす一発目にしては、絶対甘くない威力だった。
枕を抱える腕にぎゅっと力を込めて、なんとか耐える。
「ビシッ」
同じところに同じ力でもう一発。
「痛い!!」
ドンドンと足で床を踏み鳴らして、枕に顔を叩き付けて、必死に紛らわす。
ダメ、やっぱり耐えられないかもしれない。
恐いと言うことが痛さを倍増させている。
もう一発、今度は反対側のお尻に巻き込むように。
新たな場所に与えられた痛みに耐えきれず、振り返り那智さんに擦り寄って哀願する。
「那智さん、恐いです!!!」
那智さんは、鞭を構えたままの体勢で静止している。
「痛すぎる?」
セーフティーワードを確認してる。
過去の自分を思い出して、これくらいは耐えられたはずだと思うと、まだ痛すぎるんじゃないと、首を振る。
「戻って」
恐い、また、いまと同じかそれ以上の痛さを加えられる。
それがどれくらい続くのかわからない恐さ。
そして、一旦中断させたことでもっと酷くされるだろうと想像できて、恐怖が増す。
「那智さん、キスしてください。」
なんとか元の体勢に戻って恐怖に耐える気力を絞り出そうと、甘えてお願いをする。
目に涙が滲んでしまう。
しょうがねーなーという感じで、姿勢を崩して抱きしめてキスをしてくれる。
お願い勇気をください、恐怖さえ払拭できればきっと大丈夫なんだから。
赤ん坊がおっぱいを貪るように、夢中で求める。
体が離された。
滲んだ涙が溢れてきて、静かに頬をつたう。
しくしくと泣きながら、またベッドに体を預ける。
恐いのに、なぜ従うのだろう。
ノロノロと機械のように体が動く。
「ビシッ」
「いやああああ」
痛い、やっぱりダメ。
わあああと声を張り上げて、涙がどっと溢れ出す。
もう一発。
今度はもっと強い。
もう無理。
「いや〜」
私は、勢い良く飛び退いて、ベッドの上に座って那智さんの方を向く。
「だめです〜、やっぱり恐い。」
わーっと泣く。
子供みたいに、手放しで泣く。
「ごめんなさい、ごめんなさい、でも、やっぱり恐いの。」
枕を抱えたまま号泣。
那智さんが近寄って「痛すぎます?」と聞く。
「違うけど、もう恐くてダメなの。」
鞭の恐さと、再開された後に訪れる痛みを想像して、弱った心でわんわんと泣く。
ああ、でも、それだけじゃない。
この手放しで思いっきり泣けることが幸せなの。
裸で枕を抱えて、「那智さん酷い」って思いながら、子供みたいに泣くのが気持ちいいの。
「痛すぎます?」
「恐すぎるの。」
「それじゃ、やめないよ。」
痛すぎますと言えばそれでおしまいになる。
でも、どうしてもそれが言えない。
恐くておしまいにしてほしいのに、言えないのは「痛すぎます」は嘘になるから。
痛くてしょうがないけど、もっと痛いことができていたんだから、ここで言うのは嘘になってしまう。
那智さんに嘘は付きたくない。
でも、恐すぎるじゃおしまいにならない、いっそ嘘を付いてしまおうか。
ボロボロと涙を流しながら、考えても考えられない、思考回路がぐちゃぐちゃ。
何度か問い掛けて、それでも「痛すぎないけど、恐い」と繰り返し、それ以上鞭を振るうことはなく那智さんの手から離された。
安堵と、極々僅かな寂しさ。
那智さんの前で子供の涙を流せた、とろりとした甘い気持ち。
そして、「恐すぎる」ということは那智さんを信じきれていないのではないかという、自責。
那智さんは、なぜ止めたのか、それはこの自責の念に苛まれる私を楽しみたかったから。
黙って耐え忍ぶ私、痛みで恍惚する私、泣き叫ぶ私、恐怖で震える私、後で自分を責めてメソメソする私。
那智さんはいろんな私を楽しむけれど、この日のチョイスは一番底意地悪いかも?(笑)
次の鞭は、いつなのかわからない。
なかなかゆっくり会えないけど、次会える時が決まったら、私は「恐い」と「委ねたい」と行ったり来たりするんだろうな。