朗読奴隷2
独特な幸福感
酔っぱらった那智さんの困ることが、ふたつ。
理不尽さんと寝過ごす。
このふたつが重なった出来事。(どうぞ、前エントリー「朗読奴隷1」からお読みください)
年に数回ある忙しい時期、遅くまでお仕事して、例のごとく最後にちょっとお酒を引っかけてから、お仕事場を出た。
この日はお仕事だけじゃなく、ちょっとわたしに関わることで更に足止めさせてしまったので、仕事の疲れと重なって余計に酔いが回ったのかもしれない。
駅までの道のり、電話で話していると酔っぱらいさん全開だった。
「那智さん、電車寝てしまいますね^^;」
「ああ、寝るね〜^^」
「あ、那智さんイヤホン持ってます?」
「うん。」
那智さんは、携帯に付けるイヤホンマイク(っていうの?)を持っているの。(単純作業のときにわたしと話す用*^^*)
「じゃあ、それを付けていてください。そしたら、降りるころになったら、呼びますから!!」
那智さんとわたしの携帯は通話無料だ。
だから、イヤホンを付けたまま通話状態にしておけば、ポケットの中でブルブル震えるだけの『起きてコール』よりは起こせるかもしれない。
電話口で叫ぶのだ^^
ここで、理不尽さん登場!!
「りん子が、ずっとしゃっべっていればいいだよ♪」
「え?」
「ずっと俺が興味を示すようなこと1人でしゃべっていれば、寝ないから。」
はぁ〜!?
那智さんが電車に乗っている時間は約40分。
その間、ずーーーーーーっと1人でしゃべっていろと!?
「しゃべることが仕事なんだから、できるじゃ〜ん♪」
そんな、無茶な…。
わたしは落語家でも漫談家でもない。
そんなことができていたら、もっと違う人生を歩んでいましたよ^^;
「なあ、そしたら俺寝過ごさないよ〜」
うう、理不尽さん。
実は、その時友人から借りた読みかけの本が、ちょうどクライマックスを迎えていた。
那智さんが電車に乗っている間に、それを読んでいようと思っていたの。
それに、今日那智さんがここまで遅くなったのは、わたしが付き合わせてしまったこともある。
付き合ってくれたお礼も込めて、わたしは提案をする。
「じゃあ、こうしませんか?いま読みかけの本があるから、わたしがそれを朗読する!!」
我ながらバカな提案だとは思うけど、なんか珍しい出来事にちょっと乗り気(笑)
「え〜、話の途中からじゃ面白くないよ。りん子最初にあらすじもしゃべって♪」
…これは、筋の通った理不尽とでもいいましょうか。
確かに、おっしゃるとおり。
途中から話を聞かされても、まったく面白くない。
あらすじを語り、そのあと朗読をする40分間を思い描いて、途方に暮れるような、気合いが入るような、わたしも変なテンションになりかけたとき。
「じゃあ、電車に乗るよ〜。イヤホンしたから、よろしくね〜♪」
否応なく、40分間が始まってしまった。
まったくくだらない、でも、普段ぜったいしないようなこと。
まあ、なんとかなるでしょうと、すでに読み終えている約400ページ分のミステリーをプロローグから語りはじめた。
『殺人事件が起こります。15才の少女が、これも10代の少年二人に殺されます。殺されるといっても、それは意図した殺害ではなく、傷害致死にあたるのですが。レイプされ薬を打たれ…』
電車に乗っているから時々電波が乱れる中、ストーリーを思い出し、それを語る。
なんか、乗って来てしまう。
『殺された少女の父親が、少年のアパートに忍び込みビデオデッキを発見します。そこには「○月○日○○の女」など、奇妙なラベルが貼ってある。その中に「○月○日浴衣の女」と書いてあるものを見つけるのです。震える手で再生ボタンを押すと、そこには自分の娘が…』
この2、3日で読み進めたストーリーが頭の中で面白いように再生されて、わたし自身がぐいぐいと引き込まれるようだった。
「『もう時間がない。警察と父親、どちらが先に少年に辿りつけるのか。警察も父親も廃墟に向うのだった!!』…とここまでがあらすじです。」
電車の中だから、那智さんからの相づちはない。
でも、途中から、自分が夢中になっちゃって、あらすじだけで20分は過ぎていた。
そこからは朗読(笑)
ほんと、いま思い返しても変な光景なんだけど、わたしは携帯片手にあらすじを語り、朗読をするのだ。
変な光景に呆れるわたしもいるのだけど、なんだかあらすじを語りきった感もあってある意味高揚。
本の続きを一気に読めないもどかしさはあるけれど。
『逃げてっ、警察!!』なんて気持ちを込め、臨場感を出しながら朗読をするのは、かなり楽しい。
しかも、普段滑舌のあまりよくない司会者だから、これは仕事の訓練にもなるかもなんて、かなり前向きで読み進める。
でも、朗読ってなかなか進まないな。
やっと4枚目のページをめくる。
「『ラジオつけてもらえますか』『ラジオですか。いや、どうかな、入らないんじゃないかな』運転手はチューナーを操作した」
会話ではちょっとしゃべり方を変えて、それ以外も淡々と読むところと勢いをつけるところと抑揚をつけて。
「自分を巻き込んだ大きなうねりが収束しつつあるのを彼は感じた。」
「……」
「もちろん、そのうねりを作り出した一人が自分であることも…」
「スー…」
「最後の幕を引くのが自らの役目であることも…」
「スー…スー…」
ん?
「スー…スー…スー…」
んん?「スー」?
「スー…スー…スー…」
んんん?寝てる…?
「スー…スー…スー…」
んんんん!!寝てる!!!!
那智さん、寝てる!!!!
いつから!?
相づちを打たないのは電車の中だからで、ある意味わたしの語りを楽しんでいてくれたからだと思っていた!!
でも、ちがーう、寝ていたんだーーーー!!!!
信じられない!!
わたしは、どのあたりから、完全な独り言になっていたの!?
車内アナウンスが聞えてきた。
那智さんの降りる駅の5つ手前だ。
すぐにこの事態を知らせたいけれど、まだ、早い。
しばらく、わたしはおとなしく黙って本の続きを黙読。
下車駅の3つ手前まで来た、もういいよね。
「那智さーん!!」
イヤホン越しに声をかける。
「スー…スー…スー…」
びくともしない。
「那智さーん」
まだ、ダメ。
わたしは起こしたいのと、寝ちゃった恨みをちょっとだけ込めて(笑)
「那智さーーーーん!!」
思いっきり叫んだ。
「んん、ああ、ごめん、寝てた…。」
もう酷いですよぉ、那智さん。
聞くと、途中までは、わたしの語るあらすじが面白くて、楽しく聞いていたそうです。
でも、電波が悪くて途切れ途切れになっていたとき、酔いもまわって眠ってしまったらしい。
どうやら、最初の10間くらいだけだったようだ。
ということは、わたしは約20分は完全独り言だったわけ?
徒労感に苛まれそうだったけど、ならなかった。
なぜなら。
いつも『起きてコール』が失敗に終わるので、それが成功したことが嬉しくて。
その前に、那智さんが疲れている中わたしに付き合ってくれたこともあって。
ちっともいやな気分にならずに、もう、あらすじの後半が盛り上がったのに〜、惜しいことしましたね^^なんて、謝る那智さんに言う。
そして、何より、すっごいトホホな光景だけど、あらすじと朗読の30分間不思議な高揚を味わってしまっていたのだ。
だから、まったく責める気持ちにならなかった。
どうでしょう。
これって立派な『奴隷』?…『朗読奴隷』(笑)
わんこを自認しているくせに『あなたのために』と滅私状態になれないM女のわたし。
またいつか、理不尽な酔っぱらいさんが帰り道で表れたら、この手を使おう。
なかなか『奴隷』さんにはなれないけれど。
『朗読奴隷』なら、喜んで身を捧げられるかもしれない!!
ああ、でも、結局はわたし自身が『不思議な高揚』を味わっているのだから、ダメですね。
と、なにやってんだあたしは!?というお話でした(笑)
酔っぱらった那智さんの困ることが、ふたつ。
理不尽さんと寝過ごす。
このふたつが重なった出来事。(どうぞ、前エントリー「朗読奴隷1」からお読みください)
年に数回ある忙しい時期、遅くまでお仕事して、例のごとく最後にちょっとお酒を引っかけてから、お仕事場を出た。
この日はお仕事だけじゃなく、ちょっとわたしに関わることで更に足止めさせてしまったので、仕事の疲れと重なって余計に酔いが回ったのかもしれない。
駅までの道のり、電話で話していると酔っぱらいさん全開だった。
「那智さん、電車寝てしまいますね^^;」
「ああ、寝るね〜^^」
「あ、那智さんイヤホン持ってます?」
「うん。」
那智さんは、携帯に付けるイヤホンマイク(っていうの?)を持っているの。(単純作業のときにわたしと話す用*^^*)
「じゃあ、それを付けていてください。そしたら、降りるころになったら、呼びますから!!」
那智さんとわたしの携帯は通話無料だ。
だから、イヤホンを付けたまま通話状態にしておけば、ポケットの中でブルブル震えるだけの『起きてコール』よりは起こせるかもしれない。
電話口で叫ぶのだ^^
ここで、理不尽さん登場!!
「りん子が、ずっとしゃっべっていればいいだよ♪」
「え?」
「ずっと俺が興味を示すようなこと1人でしゃべっていれば、寝ないから。」
はぁ〜!?
那智さんが電車に乗っている時間は約40分。
その間、ずーーーーーーっと1人でしゃべっていろと!?
「しゃべることが仕事なんだから、できるじゃ〜ん♪」
そんな、無茶な…。
わたしは落語家でも漫談家でもない。
そんなことができていたら、もっと違う人生を歩んでいましたよ^^;
「なあ、そしたら俺寝過ごさないよ〜」
うう、理不尽さん。
実は、その時友人から借りた読みかけの本が、ちょうどクライマックスを迎えていた。
那智さんが電車に乗っている間に、それを読んでいようと思っていたの。
それに、今日那智さんがここまで遅くなったのは、わたしが付き合わせてしまったこともある。
付き合ってくれたお礼も込めて、わたしは提案をする。
「じゃあ、こうしませんか?いま読みかけの本があるから、わたしがそれを朗読する!!」
我ながらバカな提案だとは思うけど、なんか珍しい出来事にちょっと乗り気(笑)
「え〜、話の途中からじゃ面白くないよ。りん子最初にあらすじもしゃべって♪」
…これは、筋の通った理不尽とでもいいましょうか。
確かに、おっしゃるとおり。
途中から話を聞かされても、まったく面白くない。
あらすじを語り、そのあと朗読をする40分間を思い描いて、途方に暮れるような、気合いが入るような、わたしも変なテンションになりかけたとき。
「じゃあ、電車に乗るよ〜。イヤホンしたから、よろしくね〜♪」
否応なく、40分間が始まってしまった。
まったくくだらない、でも、普段ぜったいしないようなこと。
まあ、なんとかなるでしょうと、すでに読み終えている約400ページ分のミステリーをプロローグから語りはじめた。
『殺人事件が起こります。15才の少女が、これも10代の少年二人に殺されます。殺されるといっても、それは意図した殺害ではなく、傷害致死にあたるのですが。レイプされ薬を打たれ…』
電車に乗っているから時々電波が乱れる中、ストーリーを思い出し、それを語る。
なんか、乗って来てしまう。
『殺された少女の父親が、少年のアパートに忍び込みビデオデッキを発見します。そこには「○月○日○○の女」など、奇妙なラベルが貼ってある。その中に「○月○日浴衣の女」と書いてあるものを見つけるのです。震える手で再生ボタンを押すと、そこには自分の娘が…』
この2、3日で読み進めたストーリーが頭の中で面白いように再生されて、わたし自身がぐいぐいと引き込まれるようだった。
「『もう時間がない。警察と父親、どちらが先に少年に辿りつけるのか。警察も父親も廃墟に向うのだった!!』…とここまでがあらすじです。」
電車の中だから、那智さんからの相づちはない。
でも、途中から、自分が夢中になっちゃって、あらすじだけで20分は過ぎていた。
そこからは朗読(笑)
ほんと、いま思い返しても変な光景なんだけど、わたしは携帯片手にあらすじを語り、朗読をするのだ。
変な光景に呆れるわたしもいるのだけど、なんだかあらすじを語りきった感もあってある意味高揚。
本の続きを一気に読めないもどかしさはあるけれど。
『逃げてっ、警察!!』なんて気持ちを込め、臨場感を出しながら朗読をするのは、かなり楽しい。
しかも、普段滑舌のあまりよくない司会者だから、これは仕事の訓練にもなるかもなんて、かなり前向きで読み進める。
でも、朗読ってなかなか進まないな。
やっと4枚目のページをめくる。
「『ラジオつけてもらえますか』『ラジオですか。いや、どうかな、入らないんじゃないかな』運転手はチューナーを操作した」
会話ではちょっとしゃべり方を変えて、それ以外も淡々と読むところと勢いをつけるところと抑揚をつけて。
「自分を巻き込んだ大きなうねりが収束しつつあるのを彼は感じた。」
「……」
「もちろん、そのうねりを作り出した一人が自分であることも…」
「スー…」
「最後の幕を引くのが自らの役目であることも…」
「スー…スー…」
ん?
「スー…スー…スー…」
んん?「スー」?
「スー…スー…スー…」
んんん?寝てる…?
「スー…スー…スー…」
んんんん!!寝てる!!!!
那智さん、寝てる!!!!
いつから!?
相づちを打たないのは電車の中だからで、ある意味わたしの語りを楽しんでいてくれたからだと思っていた!!
でも、ちがーう、寝ていたんだーーーー!!!!
信じられない!!
わたしは、どのあたりから、完全な独り言になっていたの!?
車内アナウンスが聞えてきた。
那智さんの降りる駅の5つ手前だ。
すぐにこの事態を知らせたいけれど、まだ、早い。
しばらく、わたしはおとなしく黙って本の続きを黙読。
下車駅の3つ手前まで来た、もういいよね。
「那智さーん!!」
イヤホン越しに声をかける。
「スー…スー…スー…」
びくともしない。
「那智さーん」
まだ、ダメ。
わたしは起こしたいのと、寝ちゃった恨みをちょっとだけ込めて(笑)
「那智さーーーーん!!」
思いっきり叫んだ。
「んん、ああ、ごめん、寝てた…。」
もう酷いですよぉ、那智さん。
聞くと、途中までは、わたしの語るあらすじが面白くて、楽しく聞いていたそうです。
でも、電波が悪くて途切れ途切れになっていたとき、酔いもまわって眠ってしまったらしい。
どうやら、最初の10間くらいだけだったようだ。
ということは、わたしは約20分は完全独り言だったわけ?
徒労感に苛まれそうだったけど、ならなかった。
なぜなら。
いつも『起きてコール』が失敗に終わるので、それが成功したことが嬉しくて。
その前に、那智さんが疲れている中わたしに付き合ってくれたこともあって。
ちっともいやな気分にならずに、もう、あらすじの後半が盛り上がったのに〜、惜しいことしましたね^^なんて、謝る那智さんに言う。
そして、何より、すっごいトホホな光景だけど、あらすじと朗読の30分間不思議な高揚を味わってしまっていたのだ。
だから、まったく責める気持ちにならなかった。
どうでしょう。
これって立派な『奴隷』?…『朗読奴隷』(笑)
わんこを自認しているくせに『あなたのために』と滅私状態になれないM女のわたし。
またいつか、理不尽な酔っぱらいさんが帰り道で表れたら、この手を使おう。
なかなか『奴隷』さんにはなれないけれど。
『朗読奴隷』なら、喜んで身を捧げられるかもしれない!!
ああ、でも、結局はわたし自身が『不思議な高揚』を味わっているのだから、ダメですね。
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