那智さんの嫉妬6
独特な幸福感
約束を守らずにオダギリくんとふたりきりになったこと。
二度目の抱擁を受け入れてしまったこと。
それにより「ふたりで会ってはいけない」と新しい約束をさせた、この時点で那智さんがわたしにしたことは「嫉妬による束縛」ではないはず。
これは約束を守らなかったことに対する「制裁」。
多少の嫉妬はあったにしても、それは過ぎたこと、過去に対する嫉妬を引きずることは那智さんの美意識では「かっこ悪い」ことだものね。
だから、そこは切り替えた。
そして、その「制裁」も一時的なものと考えていたはずだ。
もしいつかオダギリくんとりん子が会う機会が巡ってきたら、今度はりん子が傷付くことなく良い関係が築けるように、また「那智説教(笑)」でもして、気持ち良く送り出してあげようとさえ思っていたはずだ。
那智さんが「嫉妬による行動制限」を選んだのは、オダギリくんから数週間ぶりにメールが来てからのこと。
そうなの、那智さんは、それを選んだんだ。
「りん子さん、元気?僕はいま仕事で○○に来ています。○月に発売になる商品のレセプションでえらい人の相手。この前はありがとう。とても楽しかったです。 でも、りん子さん幸せそうだったから、連絡をするのをためらってました。この仕事が終わったら少し楽になるので、そしたら会ってもらえませんか。」
こんなメールが届いた。
わたしは、会いたいなと思った。
でも、那智さんと約束したし、いま会ったら誰にとっても幸福な結果にならないだろうなと想像できて、やはり会わないほうがいいとも思った。
でも、ただ「やっぱり会えません」ということだけ、お返事するのはいやだった。
それじゃあ、20年前の一時帰国の時にわざと避けてしまったことと変わらないもの。
わたしにとってあなたは大事な友達、心を許せる貴重な人材。
ハグをしたことと許してしまったことで、その関係が歪んでしまう、だから、会っちゃいけないの。
みんなで会おう、そのときいっぱいお話ししよう、とても大事な人だから。
と、きちんと説明したかった。
20年前のような幼稚な方法で関係を歪ませたくなかった。
だから、その気持ちを含めてお返事をしてよいか確認をしようと思って那智さんにメールが来たことを知らせた。
もちろんOK。
わたしはパソコンに向かって、なんて気持ちを伝えようか思いついたことを打ちはじめた。
叩き台だった。
そこから、少しずつ言葉を変えていくための叩き台。
那智さんから連絡が入り、オダギリくんに送る前に読ませてほしいと言ったきた。
まだ、叩き台だということを伝えて、それを那智さんに送信した。
(人に送るメールを読ませることに抵抗を感じる人もいるかもしれないけど、オダギリくんのことに関してはわたしはもう那智さんを悲しませたくなかったので、できるだけ透明でいたかったから、送りました)
しばらくして、来た返信には、たくさんの突っ込みや添削がされていた。
「りん子は被害者だということを忘れるな。」
そうなの。
わたしね、わたし寄りの男の人をぐいぐいこちらに引き寄せることを楽しんでることを自覚してるから、その結果なにか起きたら、それは自分のせいだと思ってた、ずっと。
男の人がわたしを抱こうとするのはわたしはその気にさせたからで、責任とって抱かせるか増長させるか関係をおしまいにするか、わたしがなんとかしないといけない、と思ってた。
だから、その「叩き台」には、オダギリくんは悪くない、あたはにハグをさせそれを受け入れたわたしが悪い、あなたは魅力的な人、それを伝えたかったわたしのやり方が、あたにハグをさせてしまったというような、相手を加害者にしないような言葉がいっぱいだったのだ。
それは、ともすれば「あなたが好き」と取られてもしかたがないような書き方だった。
りん子は被害者なんだ。
男女の関係において、どんなに誘惑してるような態度を取られても、男が一歩踏み出すときには結果的にその関係が終わるかもしれないと覚悟を決めて踏み出さないといけない。
オダギリくんは、そのリスクを背負ってりん子をハグしなきゃいけなかった。
だから、ほんとは、りん子は一度引いてから、もう一度ハグしてきたことを怒らないといけないんだよ。
たくさんの添削と電話で補足。
「オダギリくんが好き。だけど、わたしがいけなかったから会えません。」というような書き方をしていると。
面食らった。
確かに「叩き台」とはいえ、甘い言葉が書かれていたかもしれない。
でも、那智さんがこんな形で「制限」をすることははじめてだったから。
なにか、急にわたしの中で危険信号はチカチカしだした。
那智さんの言わんとしてることはわかる。
でも、大事な友人を過去と同じように傷付けたくないということと、ついなんでも自分のせいにしてしまう悪いクセが、その言葉を、メールの文章にして表すことを難しくしていた。
那智さんにお願いをした。
一度、オダギリくんに会わせてもらえないか。
メールで伝えにくいニュアンスを会って伝えたい。
過去も含めて謝罪して、もう会えないと伝えたい。
那智さんは、了承してくれた。
その代わりに、そのことを伝えるメールの内容を細かく指示しだしたのだ。
また面食らった。
那智さんとの約束を守らなかったことは反省している。
でも、なぜ、そこまで那智さんに指示されないといけないの。
それも、わざとオダギリくんを誘うような言葉を書かせようとしている。
なぜ?
わたしが最初に書いたメールではだめだったのに、なぜ、彼がその気になるようなことを。
いままで那智さんの言っていることは、納得するしないは別にとりあえず心に滲みていた。
なにが言いたいか、結果的にどうしたいか。
そこが「合う」ところの大きな要因だと自負していたのに、この那智さんの矛盾を孕んだ指示が理解できなかった。
理解できない不安。
根拠のない危険信号。
お仕事の合間に何度も電話をくれた。
夜も時間の許す限り話した。
メールの添削。
危険信号による抵抗。
その繰り返し。
那智さんだけでなく自分の心の警告も理解できなくて、首を縦に振れぬままその日は終わった。
約束を守らずにオダギリくんとふたりきりになったこと。
二度目の抱擁を受け入れてしまったこと。
それにより「ふたりで会ってはいけない」と新しい約束をさせた、この時点で那智さんがわたしにしたことは「嫉妬による束縛」ではないはず。
これは約束を守らなかったことに対する「制裁」。
多少の嫉妬はあったにしても、それは過ぎたこと、過去に対する嫉妬を引きずることは那智さんの美意識では「かっこ悪い」ことだものね。
だから、そこは切り替えた。
そして、その「制裁」も一時的なものと考えていたはずだ。
もしいつかオダギリくんとりん子が会う機会が巡ってきたら、今度はりん子が傷付くことなく良い関係が築けるように、また「那智説教(笑)」でもして、気持ち良く送り出してあげようとさえ思っていたはずだ。
那智さんが「嫉妬による行動制限」を選んだのは、オダギリくんから数週間ぶりにメールが来てからのこと。
そうなの、那智さんは、それを選んだんだ。
「りん子さん、元気?僕はいま仕事で○○に来ています。○月に発売になる商品のレセプションでえらい人の相手。この前はありがとう。とても楽しかったです。 でも、りん子さん幸せそうだったから、連絡をするのをためらってました。この仕事が終わったら少し楽になるので、そしたら会ってもらえませんか。」
こんなメールが届いた。
わたしは、会いたいなと思った。
でも、那智さんと約束したし、いま会ったら誰にとっても幸福な結果にならないだろうなと想像できて、やはり会わないほうがいいとも思った。
でも、ただ「やっぱり会えません」ということだけ、お返事するのはいやだった。
それじゃあ、20年前の一時帰国の時にわざと避けてしまったことと変わらないもの。
わたしにとってあなたは大事な友達、心を許せる貴重な人材。
ハグをしたことと許してしまったことで、その関係が歪んでしまう、だから、会っちゃいけないの。
みんなで会おう、そのときいっぱいお話ししよう、とても大事な人だから。
と、きちんと説明したかった。
20年前のような幼稚な方法で関係を歪ませたくなかった。
だから、その気持ちを含めてお返事をしてよいか確認をしようと思って那智さんにメールが来たことを知らせた。
もちろんOK。
わたしはパソコンに向かって、なんて気持ちを伝えようか思いついたことを打ちはじめた。
叩き台だった。
そこから、少しずつ言葉を変えていくための叩き台。
那智さんから連絡が入り、オダギリくんに送る前に読ませてほしいと言ったきた。
まだ、叩き台だということを伝えて、それを那智さんに送信した。
(人に送るメールを読ませることに抵抗を感じる人もいるかもしれないけど、オダギリくんのことに関してはわたしはもう那智さんを悲しませたくなかったので、できるだけ透明でいたかったから、送りました)
しばらくして、来た返信には、たくさんの突っ込みや添削がされていた。
「りん子は被害者だということを忘れるな。」
そうなの。
わたしね、わたし寄りの男の人をぐいぐいこちらに引き寄せることを楽しんでることを自覚してるから、その結果なにか起きたら、それは自分のせいだと思ってた、ずっと。
男の人がわたしを抱こうとするのはわたしはその気にさせたからで、責任とって抱かせるか増長させるか関係をおしまいにするか、わたしがなんとかしないといけない、と思ってた。
だから、その「叩き台」には、オダギリくんは悪くない、あたはにハグをさせそれを受け入れたわたしが悪い、あなたは魅力的な人、それを伝えたかったわたしのやり方が、あたにハグをさせてしまったというような、相手を加害者にしないような言葉がいっぱいだったのだ。
それは、ともすれば「あなたが好き」と取られてもしかたがないような書き方だった。
りん子は被害者なんだ。
男女の関係において、どんなに誘惑してるような態度を取られても、男が一歩踏み出すときには結果的にその関係が終わるかもしれないと覚悟を決めて踏み出さないといけない。
オダギリくんは、そのリスクを背負ってりん子をハグしなきゃいけなかった。
だから、ほんとは、りん子は一度引いてから、もう一度ハグしてきたことを怒らないといけないんだよ。
たくさんの添削と電話で補足。
「オダギリくんが好き。だけど、わたしがいけなかったから会えません。」というような書き方をしていると。
面食らった。
確かに「叩き台」とはいえ、甘い言葉が書かれていたかもしれない。
でも、那智さんがこんな形で「制限」をすることははじめてだったから。
なにか、急にわたしの中で危険信号はチカチカしだした。
那智さんの言わんとしてることはわかる。
でも、大事な友人を過去と同じように傷付けたくないということと、ついなんでも自分のせいにしてしまう悪いクセが、その言葉を、メールの文章にして表すことを難しくしていた。
那智さんにお願いをした。
一度、オダギリくんに会わせてもらえないか。
メールで伝えにくいニュアンスを会って伝えたい。
過去も含めて謝罪して、もう会えないと伝えたい。
那智さんは、了承してくれた。
その代わりに、そのことを伝えるメールの内容を細かく指示しだしたのだ。
また面食らった。
那智さんとの約束を守らなかったことは反省している。
でも、なぜ、そこまで那智さんに指示されないといけないの。
それも、わざとオダギリくんを誘うような言葉を書かせようとしている。
なぜ?
わたしが最初に書いたメールではだめだったのに、なぜ、彼がその気になるようなことを。
いままで那智さんの言っていることは、納得するしないは別にとりあえず心に滲みていた。
なにが言いたいか、結果的にどうしたいか。
そこが「合う」ところの大きな要因だと自負していたのに、この那智さんの矛盾を孕んだ指示が理解できなかった。
理解できない不安。
根拠のない危険信号。
お仕事の合間に何度も電話をくれた。
夜も時間の許す限り話した。
メールの添削。
危険信号による抵抗。
その繰り返し。
那智さんだけでなく自分の心の警告も理解できなくて、首を縦に振れぬままその日は終わった。