那智さんの嫉妬5
独特な幸福感
誰もいないバーのカウンター。
わたしは大好きなジントニック。
オダギリくんは、忘れた(笑)。
始発電車の時間を調べ、ちょうど一杯くらいだねと確認する。
いろんな話をした。
心地良い、「お互い頑張ってきたね」と肩を抱き合いたくなるような。
あっという間に時間は過ぎる。
そもそも一杯なんて、あっという間だよね。
そろそろ出ようと店を後にした。
ここから、ぽつぽつと歩いたら、ちょうど駅に着くころに始発が走り出すだろう。
まだ、外は暗かった。
時折車が通る以外は、なにもない。
「オダギリくん、わたしね、オダギリくんを同じ種類の人って感じてる、数少ない人なんだ。」
「うん。」
「それに、魅力も感じてる。」
「うん、僕もそうだな。」
「今日はお話しできたよかった。」
肩を並べて歩いていたオダギリくんの体が、不意にわたしのほうを向きぐっと近付いた。
驚いて、反射的に体を引いた。
わたしを抱きしめようとしたのだ。
「驚いた…。」
「ごめん。」
うつむいて歩いた。
黙って。
「ごめん、りん子さん、やっぱりハグしていい?ハグするだけ。」
「うん。」
うなずいてしまった。
正直な気持ちを言おう。
ハグしたかった。
肩を組むような親愛の情を感じていた。
そして、「抱かれたらどうだろう、と考えてみたらどうだろう」と思った。(ややこしい^^;)
那智さんに出会って、理不尽な「浮気の定義」の影響ではなく、「那智さん以外の人に抱かれてみたい」と思ったことはない。
「抱かれたら、どうだろう?」という想像のテーブルに載せた人もいない。
載せてみようとさえ思ったこともない。
だけど、このとき、わたしはオダギリくんを、その想像のテーブルに載せてみたらどうだろうと思ったのだ。
抱かれたらどうだろうの、ひとつ手前の想像だ。
だから、ハグしてもいいと思ってしまった。
オダギリくんは大切なものを扱うように静かにわたしを抱きしめた。
わたしは両手を胸に置き、抱きしめられていた。
トントンと背中を優しく叩く。
それほど長い時間ではなかったように思う。
一分もなかったかもしれない。
体が離れた。
うつむいたまま。
ほっとした。
「抱かれたらどうだろう」と考えてみようとしたけど、考えられなかった。
具体的に想像できないし、したくないと思った。
「オダギリくん、わたしね、20年前より純情になっちゃってるんだ。」
「うん。」
ちょうど電車が走り出す時間だった。
電車に乗り、わたしが先に降りた。
バイバイと手を振り、別れた。
「本当に会えてよかった。楽しい時間をありがとう。おやすみね。また会おうね。」
早朝の帰り道、こんなメールが届いた。
わたしもお返事をして、それからオダギリくんからメールはなかった。
翌日、那智さんに全部お話して、約束を守らなかったことを謝った。
那智さんは怒ることはせず、ただ約束を守らなかったことを注意した。
そして、「もう、オダギリくんとは、ふたりで会ってはいけない」と言った。
このまま次会えば、きっともっとオダギリくんはりん子を誘うだろう。
そうなれば、りん子が悲しくて、困るだけだ。
最初の約束を守らなかったのだから、次の約束は仕方がないのかなと、ぼんやりと思っていた。
それから、オダギリくんからメールは来なかった。
わたしからも、しなかった。
なんだか、20年前の再現みたいだなって思った。
そのうちまたオダギリくんのことを考えなくなった数週間後、オダギリくんからメールが届いた。
誰もいないバーのカウンター。
わたしは大好きなジントニック。
オダギリくんは、忘れた(笑)。
始発電車の時間を調べ、ちょうど一杯くらいだねと確認する。
いろんな話をした。
心地良い、「お互い頑張ってきたね」と肩を抱き合いたくなるような。
あっという間に時間は過ぎる。
そもそも一杯なんて、あっという間だよね。
そろそろ出ようと店を後にした。
ここから、ぽつぽつと歩いたら、ちょうど駅に着くころに始発が走り出すだろう。
まだ、外は暗かった。
時折車が通る以外は、なにもない。
「オダギリくん、わたしね、オダギリくんを同じ種類の人って感じてる、数少ない人なんだ。」
「うん。」
「それに、魅力も感じてる。」
「うん、僕もそうだな。」
「今日はお話しできたよかった。」
肩を並べて歩いていたオダギリくんの体が、不意にわたしのほうを向きぐっと近付いた。
驚いて、反射的に体を引いた。
わたしを抱きしめようとしたのだ。
「驚いた…。」
「ごめん。」
うつむいて歩いた。
黙って。
「ごめん、りん子さん、やっぱりハグしていい?ハグするだけ。」
「うん。」
うなずいてしまった。
正直な気持ちを言おう。
ハグしたかった。
肩を組むような親愛の情を感じていた。
そして、「抱かれたらどうだろう、と考えてみたらどうだろう」と思った。(ややこしい^^;)
那智さんに出会って、理不尽な「浮気の定義」の影響ではなく、「那智さん以外の人に抱かれてみたい」と思ったことはない。
「抱かれたら、どうだろう?」という想像のテーブルに載せた人もいない。
載せてみようとさえ思ったこともない。
だけど、このとき、わたしはオダギリくんを、その想像のテーブルに載せてみたらどうだろうと思ったのだ。
抱かれたらどうだろうの、ひとつ手前の想像だ。
だから、ハグしてもいいと思ってしまった。
オダギリくんは大切なものを扱うように静かにわたしを抱きしめた。
わたしは両手を胸に置き、抱きしめられていた。
トントンと背中を優しく叩く。
それほど長い時間ではなかったように思う。
一分もなかったかもしれない。
体が離れた。
うつむいたまま。
ほっとした。
「抱かれたらどうだろう」と考えてみようとしたけど、考えられなかった。
具体的に想像できないし、したくないと思った。
「オダギリくん、わたしね、20年前より純情になっちゃってるんだ。」
「うん。」
ちょうど電車が走り出す時間だった。
電車に乗り、わたしが先に降りた。
バイバイと手を振り、別れた。
「本当に会えてよかった。楽しい時間をありがとう。おやすみね。また会おうね。」
早朝の帰り道、こんなメールが届いた。
わたしもお返事をして、それからオダギリくんからメールはなかった。
翌日、那智さんに全部お話して、約束を守らなかったことを謝った。
那智さんは怒ることはせず、ただ約束を守らなかったことを注意した。
そして、「もう、オダギリくんとは、ふたりで会ってはいけない」と言った。
このまま次会えば、きっともっとオダギリくんはりん子を誘うだろう。
そうなれば、りん子が悲しくて、困るだけだ。
最初の約束を守らなかったのだから、次の約束は仕方がないのかなと、ぼんやりと思っていた。
それから、オダギリくんからメールは来なかった。
わたしからも、しなかった。
なんだか、20年前の再現みたいだなって思った。
そのうちまたオダギリくんのことを考えなくなった数週間後、オダギリくんからメールが届いた。
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