那智さんの嫉妬4
独特な幸福感
同窓会の夜。
那智さんにはオダギリくんとふたりになることはしないと約束をしていた。
いっぱいお話ししたければ、みんなのいる中でいっぱい話せばいいと。
それは、嫉妬から来るものではなく、りん子があとで辛くならないようにということだ。
いままで、「わたし寄り」の男の人を引き寄せ、結局自分が傷付いてるようなことを繰り返していたわたしが、同じように辛くならないように。
オダギリくんを貴重な人材として大切にしたいなら、ふたりっきりになってはいけないと。
(多分、この時点で『デートはしない』と言えていたら、話は違っていたかもしれない)
わたしは、その約束にうなずいた。
同窓会は盛況だった。
幹事だったわたしは忙しく動き回り、お酒を飲み、懐かしい面々を迎え入れた。
オダギリくんは仕事で遅れると事前に連絡が入っていた。
途中から来たオダギリくん。
目が合い、わたしは飲み物を聞き、つまみを取り分け、オダギリくんに渡した。
いろんな人と話してる。
わたしはわたしで、いろいろ動き、なかなかお話しできる感じにはならない。
しばらくして、少しふたりで話しはじめるともう一人女友達が話しに加わって来た。
わたしのちょっと苦手な子だった。
食べ物を取りにいくふりをして、すっとその場からわたしはいなくなった。
結局、一次会では、わたしはホステス役に徹して、誰かとゆっくり話すこと自体ほとんどなかった。
二次会にもほとんど全員が参加するくらい盛り上がり、日付が変わるより少し前に電車を気にする人たちは帰っていった。
男女10数名、そのままカラオケに。
二次会ではオダギリくんとは隣りの席に座ったけど、やっぱりふたりで話すことはできなかった。
なにせ、KくんとF子の親友が両隣りにいたので、なんていうのかな、なんかその空気押し殺してた。
カラオケに行ったら、もう話すことはできないな。
謝罪も「お食事はできるけどデートはできない」なんて言えないわ。
ちょっと残念な気持ち。
でも、カラオケは大盛り上がり!!!
懐かしい曲のオンパレード。(ハウンドドッグの「フォルテシモ」やレベッカの「フレンズ」などなど、年齢がわかるよね〜)
最後に、Sくんの結婚式で歌ったという歌を(あれ?なんだっけ?)みんなで大合唱しておしまいにした。
寒い冬だった。
深夜の街は街灯が明るくて、空気は澄んでみえる。
酔ってしまった女性と同じ方面の何人かは、ファミレスで始発を待つということになった。
わたしとオダギリくんともうひとり(男)が帰る方向が一緒だったから、その集団とは反対方面に、どこかでタクシーを拾おうと歩き出した。
ふと気づくと、一緒に歩き出していたもうひとりの男性の姿がない。
「あれ?遠藤くんは?」
「ほんとだ、いないね。」
そういって見回す歩道と車道。
一台のタクシーがわたしたちを追い抜いて行った。
中から手を振る遠藤くん。
「あ〜、ひとりで帰っちゃった!!」
遠藤くんの気まぐれか、ただの偶然か、誰かの意志が働いたのか、それはわからない。
でも、わたしは、結果的にオダギリくんとふたりきりになってしまった。
那智さんとの約束を守るなら、ここでわたしは速やかにタクシーに乗らなければいけない。
だけど、今夜はじめてオダギリくんとふたりで話せる。
言えなかったことを、懐かしい空気を。
ここでおしまいにすることがでいなかった。
「どうする?りん子さん、どこかで飲み直す?」
居酒屋が立ち並ぶようなにぎやかな繁華街からは
ちょっと外れた場所での同窓会だったので、カラオケ店を出たら、もうファミレスとコンビニくらいしかない。
「だって、この辺飲み屋さんないよ。」
「タクシーで○○まで行けばあるんじゃない?」
「ううん、行かない、歩こうオダギリくん。」
わざわざタクシーに乗って飲み屋さんに行ったら、それはわたしの意志でふたりきりになってしまう気がした。
家に帰るためにタクシー乗り場がある駅まで歩くだけなら、那智さんとの約束を破ることにはならないと、自分に言い訳していた。
繁華街からは外れたカラオケ店から、オフィス街を通り抜け駅に向かう。
銀行やショールーム、わたしたち以外人がいない。
街灯は明るく、空気は冷たい。
時々車が通り過ぎるだけで、それ以外はわたしたちの話し声だけだ。
「なんか、懐かしいね。」
「うん、そうだね。」
「りん子さん、元気だった?俺、りん子さん、幸せになっててほしいな〜って思ってた。」
「うん、ありがとう、わたしいま幸せだよ。オダギリくんは?」
「仕事でさ、立場上いやなやつにならないといけなくてさ、仕方ないけど、こうやって昔のメンバーに会うと自分がいやなやつじゃないって思えていいよね。」
「あはは、偉くなるのも大変だね。」
「りん子さんに、会うとよけい、そう思う。自分がいいやつに思えるよ(笑)」
「いいやつだよ。わたしには(笑)」
道路の先に街灯じゃない明かりが見えてきた。
こんな場所でこんな時間に開いてるバーがあるんだ。
体も冷えていた。
バーの明るくでもぼんやりとして明かりが、なんだか名残惜しいわたしの気持ちを表してるようだった。
「入る?」
「…う〜ん、じゃあ、一杯だけね。」
那智さんとの約束を破っているのかな、わたし。
だけど、悪いことをしている気がしないのだ。
懐かしい、同志のような旧友と一杯だけお酒を飲むだけだ。
でも、そこに、わずかな罪悪感を感じてしまうのは、お互いに「男女」として魅力を感じていることと、わたしがそれを楽しんでいるからだ。
その両方の気持ちはどちらも本当で、わたしは那智さんにきちんと報告しようと思いながら、バーの扉を開けるオダギリくんの後に付いていった。
同窓会の夜。
那智さんにはオダギリくんとふたりになることはしないと約束をしていた。
いっぱいお話ししたければ、みんなのいる中でいっぱい話せばいいと。
それは、嫉妬から来るものではなく、りん子があとで辛くならないようにということだ。
いままで、「わたし寄り」の男の人を引き寄せ、結局自分が傷付いてるようなことを繰り返していたわたしが、同じように辛くならないように。
オダギリくんを貴重な人材として大切にしたいなら、ふたりっきりになってはいけないと。
(多分、この時点で『デートはしない』と言えていたら、話は違っていたかもしれない)
わたしは、その約束にうなずいた。
同窓会は盛況だった。
幹事だったわたしは忙しく動き回り、お酒を飲み、懐かしい面々を迎え入れた。
オダギリくんは仕事で遅れると事前に連絡が入っていた。
途中から来たオダギリくん。
目が合い、わたしは飲み物を聞き、つまみを取り分け、オダギリくんに渡した。
いろんな人と話してる。
わたしはわたしで、いろいろ動き、なかなかお話しできる感じにはならない。
しばらくして、少しふたりで話しはじめるともう一人女友達が話しに加わって来た。
わたしのちょっと苦手な子だった。
食べ物を取りにいくふりをして、すっとその場からわたしはいなくなった。
結局、一次会では、わたしはホステス役に徹して、誰かとゆっくり話すこと自体ほとんどなかった。
二次会にもほとんど全員が参加するくらい盛り上がり、日付が変わるより少し前に電車を気にする人たちは帰っていった。
男女10数名、そのままカラオケに。
二次会ではオダギリくんとは隣りの席に座ったけど、やっぱりふたりで話すことはできなかった。
なにせ、KくんとF子の親友が両隣りにいたので、なんていうのかな、なんかその空気押し殺してた。
カラオケに行ったら、もう話すことはできないな。
謝罪も「お食事はできるけどデートはできない」なんて言えないわ。
ちょっと残念な気持ち。
でも、カラオケは大盛り上がり!!!
懐かしい曲のオンパレード。(ハウンドドッグの「フォルテシモ」やレベッカの「フレンズ」などなど、年齢がわかるよね〜)
最後に、Sくんの結婚式で歌ったという歌を(あれ?なんだっけ?)みんなで大合唱しておしまいにした。
寒い冬だった。
深夜の街は街灯が明るくて、空気は澄んでみえる。
酔ってしまった女性と同じ方面の何人かは、ファミレスで始発を待つということになった。
わたしとオダギリくんともうひとり(男)が帰る方向が一緒だったから、その集団とは反対方面に、どこかでタクシーを拾おうと歩き出した。
ふと気づくと、一緒に歩き出していたもうひとりの男性の姿がない。
「あれ?遠藤くんは?」
「ほんとだ、いないね。」
そういって見回す歩道と車道。
一台のタクシーがわたしたちを追い抜いて行った。
中から手を振る遠藤くん。
「あ〜、ひとりで帰っちゃった!!」
遠藤くんの気まぐれか、ただの偶然か、誰かの意志が働いたのか、それはわからない。
でも、わたしは、結果的にオダギリくんとふたりきりになってしまった。
那智さんとの約束を守るなら、ここでわたしは速やかにタクシーに乗らなければいけない。
だけど、今夜はじめてオダギリくんとふたりで話せる。
言えなかったことを、懐かしい空気を。
ここでおしまいにすることがでいなかった。
「どうする?りん子さん、どこかで飲み直す?」
居酒屋が立ち並ぶようなにぎやかな繁華街からは
ちょっと外れた場所での同窓会だったので、カラオケ店を出たら、もうファミレスとコンビニくらいしかない。
「だって、この辺飲み屋さんないよ。」
「タクシーで○○まで行けばあるんじゃない?」
「ううん、行かない、歩こうオダギリくん。」
わざわざタクシーに乗って飲み屋さんに行ったら、それはわたしの意志でふたりきりになってしまう気がした。
家に帰るためにタクシー乗り場がある駅まで歩くだけなら、那智さんとの約束を破ることにはならないと、自分に言い訳していた。
繁華街からは外れたカラオケ店から、オフィス街を通り抜け駅に向かう。
銀行やショールーム、わたしたち以外人がいない。
街灯は明るく、空気は冷たい。
時々車が通り過ぎるだけで、それ以外はわたしたちの話し声だけだ。
「なんか、懐かしいね。」
「うん、そうだね。」
「りん子さん、元気だった?俺、りん子さん、幸せになっててほしいな〜って思ってた。」
「うん、ありがとう、わたしいま幸せだよ。オダギリくんは?」
「仕事でさ、立場上いやなやつにならないといけなくてさ、仕方ないけど、こうやって昔のメンバーに会うと自分がいやなやつじゃないって思えていいよね。」
「あはは、偉くなるのも大変だね。」
「りん子さんに、会うとよけい、そう思う。自分がいいやつに思えるよ(笑)」
「いいやつだよ。わたしには(笑)」
道路の先に街灯じゃない明かりが見えてきた。
こんな場所でこんな時間に開いてるバーがあるんだ。
体も冷えていた。
バーの明るくでもぼんやりとして明かりが、なんだか名残惜しいわたしの気持ちを表してるようだった。
「入る?」
「…う〜ん、じゃあ、一杯だけね。」
那智さんとの約束を破っているのかな、わたし。
だけど、悪いことをしている気がしないのだ。
懐かしい、同志のような旧友と一杯だけお酒を飲むだけだ。
でも、そこに、わずかな罪悪感を感じてしまうのは、お互いに「男女」として魅力を感じていることと、わたしがそれを楽しんでいるからだ。
その両方の気持ちはどちらも本当で、わたしは那智さんにきちんと報告しようと思いながら、バーの扉を開けるオダギリくんの後に付いていった。