那智さんの嫉妬3
独特な幸福感
お通夜も済み、時間の許す人たちで飲み直すことになった。
男女、10人くらい、近くの座敷のある居酒屋へ。
なんとなく、わたしの隣りにはKくん。
みんな、わたしたちが付き合っていたことも、険悪な関係で別れたわけではないことも知っているから、なんとなく。
Kくんの隣りの隣りににオダギリくん。
わたしはオダギリくんの隣りに行きたかった。
20年前に感じたあの引き合う吸引力を、そのときも感じたのだ。
お酒が進めば席がごちゃごちゃになるのは、自然な流れ。
わたしとオダギリくんはどちらからともなく、隣同士になった。
「元気だった?オダギリくん。生き延びてたんだね〜。」
「うん、生きてたよ。それにしてもりん子さん、気持ち悪いくらい変わらないね〜。」
お互いに魅力を感じながらも、そこにスポットを当てずに冗談まじりに交わす空気が懐かしい。
近況報告を軽く済ませて、オダギリくんは言った。
「りん子さんとのあの短い時間は、僕にとって、とても新鮮で有意義な時間だった。覚えてる?僕、八方美人って説教されたんだよ、りん子さんに。」
「うわ!!覚えてない…ああ、でも、言ったかもしれない。ごめんね、生意気言って。」
「あと、考えかたが甘いとも言われた。」
「わわわ、ごめん、なんだ、わたし、なに様のつもりだろ〜、ごめんね^^」
「ううん、たいして勉強してない学生の俺からしたら、なんか大人〜って思った。」
「ぎゃー、やめて〜。ほんとごめんなさい!!変なやつだったね、わたし。」
「うん、りん子さん、一匹狼だったもんね。」
ええ?なんでそんなこと思ったんだろ?
一匹狼なんて、そんなかっこいいもんじゃないよ〜^^;
誰とでも仲良くしていただけだよ。
ただ女子特有のグループ意識みたいなのが、ちょっと苦手だっただけだよ。
でも、なんだか、嬉しくなっちゃった。
そっかあ、オダギリくんはわかってたんだ。
「あはは、そんなかっこよくないけどね。オダギリくんこそ、一人が好きだったんじゃない!?」
「うん、僕、男から嫌われてるからね〜。」
うそ、いまだにアルバイトの何人かとやり取りを続けているらしいのだもの、嫌われてなんかないよね。
でも、心底楽しんでないのは、ハズレてないように思う。
居心地の良い会話を重ね、わたしは謝る機会を逃していた。
何人かとメールアドレスの交換をして、今度同窓会をすることを決めてお開きになった。
別れてからメールが届いた。
オダギリくんからだ。
「りん子さんへ。僕たちにとっては、結婚して姓が変わっても永遠にりん子さんなんだな〜と思いました。(中略)○○に来る機会があったら連絡ください。では、同窓会、楽しみにしています。」
翌日になって那智さんに昨日のことを話した。
もちろん、亡くなった友人のこともお通夜に行くことも知っていたからね。
その中に、以前付き合ってたKくんがいることも話していた。
で、Kくんに「あのときは俺が子供だった。いまならりん子を幸せにできる!!」なんて、酔っぱらいながら言われたこと、その他のそのときの様子などを笑いながら伝えた。
そして、そこではじめてオダギリくんの存在と思い出をちょっとと、「こんなメールもらいましたよ」と昨夜のことを伝えた。
「ん〜、その人は、ちょっと気を付けたほうがいいな。『俺たちにとって』って誰のことだろう。」
「ええ?当時のメンバーみんなってことじゃないですか?」
「それならいいけど、りん子とその人という意味なら、話は違うよね。」
ふ〜ん、そういうものか、確かに、そうかもしれない。
○○に来ることがあったら連絡してねと言われてる。
そこに行く機会はほとんどないから、わたしが彼に会いたいと思って行動を起こさないかぎり、同窓会前に会うことはないでしょう。
でも、わたしは、あの引き合う空気、似た者同士が感じるシンパシーを感じたくて、会いに行ってしまいたくなるだろう。
那智さんに聞いてみる。
「那智さん、オダギリくんとランチしてもいいですか?」
しばらく考えて、那智さんは、オダギリくんとふたりで会うことはやめたほうがいいと言った。
なぜ?いままで、他の男性とランチをしても「どうぞ〜」と送り出してくれたのに。
男性にランチに誘われるわたし、好きじゃありませんでした?
なぜ?という疑問とともに、残念って思った。
オダギリくんに会いたい気持ちの中に、「わたし寄りを楽しむ」ということもあったからだ。
いやな女だと思うけど正直にいうと、同志や似た空気などの「美しい」理由の他に、もうひとつそれを楽しむという理由もあるんだ。
「わたし寄りの男性」が、ぐいぐいとこちらに引かれてくる様子を楽しむ。
「わたしを好んでるよね」という空気がひしひしと感じられる楽しさ。
オダギリくんと一緒にいるとき、いやな女のわたしも楽しんでるんだ。
それができないことも残念だった。
こんなふうに書くとすごい魔性の女みたいだけど、そんなことでもないんだ。
男の人をその気にさせて魅了して楽しんでるだけなら、魔性の女かもしれないけど、わたしの場合はね、ちょっと違うんだ。
こういうことをすれば当然男性はわたしを抱こうとするでしょ?
そこを上手にはぐらかしたりできないの。
断れずに抱かれるか、付き合いをおしまいにするか、どちらか。
結局、「わたし寄り」の男性とは、関係が続かないか、増長くんになるか、体を開き無駄にわたしを消費してしまうか、とにかくまともな関係を築けないんだ。
だから、上手に男を手玉にとるようなかっこいいものではないの。
それがわかってても、あの吸引は魅力で、だから、残念。
だから、ちょっと食い下がる。
「那智さん、わたし、オダギリくんのこと貴重な人材って思ってるんですよ(その感覚は話してある)、それなのにお話ししちゃだめ?」
「うん、もしふたりで会いたいなら、『デートはしない』って最初に言っておかないと。」
そこから、那智説教開始!!(笑)
誘われたら、まず最初に『主人を愛してるからデートはしない』って言っておけば問題ない。
最初に言わないと、次に言いづらくなるし、取ってつけた感じが余計意識してるように思われる、だから、まず最初に言うこと。
『主人を愛してるからデートはしない。それでよければ…』、ああ、『それでよければ』って言葉もよくないな。
『お食事やお話しはするけど、デートはしない』だな。
ずっと対応策を説教してくれてる。
「や、まだ誘われてないし…、○○に来ることがあったら連絡して、そしたらランチしようってくらいですから。誘われてもいないのに、『主人をうんぬん』なんて言えませんよ。」
「ああ、そうだよな(笑)」
「じゃ、同窓会のときにお話しすればいいだろ?」
「まあ、そうですけどね…。」
ちぇ、なんの伏線かわからないけど、伏線張れなかった。
「わたし寄り」を楽しむ機会を逃してしまったみたいで、ちょっと悔しかったし、なにか引っ掛かるから、那智さんに聞いてみる。
「那智さん、那智さんは嫉妬して行動を制限したり束縛したりはかっこ悪いって思ってますよね?これって、嫉妬による束縛じゃないのですか?」
「違うよ、りん子が困らないようにしてるんだよ。だって、相手が誘ってきたら困るだろ?『那智さん、どうしましょう〜』ってなるだろ?」
「でも、わたしが男性からモテるの、悪くないですよね?」
「もちろん、でも、そのオダギリくんをりん子は大切な友達って思ってるんだろ?相手が勘違いしたら、そこからまたもとに戻すの難しいでしょ。りん子が悲しくならないように、言ってるの。こちらがちゃんとしてれば、会っちゃいけないなんて言ってないよ。」
ふ〜ん、そういうもの?
「でもね〜、その釘を刺すと男の人ってあんまり押して来なくなっちゃうのよね〜。それじゃつまらないです。」
「そう?俺だったら、よけいにいい女だねって思うよ。」
納得したような、釈然としないような。
それからも、職場から見える夜景を撮って「お酒のつまみに^^」なんて送ってきたり、同窓会の連絡以外でもメールが来ていた。
だけど、どちらも、それ以上はなにもしなかった。
結局わたしは謝罪も釘を刺すこともできないまま、同窓会の日を迎えることになったのだ。
お通夜も済み、時間の許す人たちで飲み直すことになった。
男女、10人くらい、近くの座敷のある居酒屋へ。
なんとなく、わたしの隣りにはKくん。
みんな、わたしたちが付き合っていたことも、険悪な関係で別れたわけではないことも知っているから、なんとなく。
Kくんの隣りの隣りににオダギリくん。
わたしはオダギリくんの隣りに行きたかった。
20年前に感じたあの引き合う吸引力を、そのときも感じたのだ。
お酒が進めば席がごちゃごちゃになるのは、自然な流れ。
わたしとオダギリくんはどちらからともなく、隣同士になった。
「元気だった?オダギリくん。生き延びてたんだね〜。」
「うん、生きてたよ。それにしてもりん子さん、気持ち悪いくらい変わらないね〜。」
お互いに魅力を感じながらも、そこにスポットを当てずに冗談まじりに交わす空気が懐かしい。
近況報告を軽く済ませて、オダギリくんは言った。
「りん子さんとのあの短い時間は、僕にとって、とても新鮮で有意義な時間だった。覚えてる?僕、八方美人って説教されたんだよ、りん子さんに。」
「うわ!!覚えてない…ああ、でも、言ったかもしれない。ごめんね、生意気言って。」
「あと、考えかたが甘いとも言われた。」
「わわわ、ごめん、なんだ、わたし、なに様のつもりだろ〜、ごめんね^^」
「ううん、たいして勉強してない学生の俺からしたら、なんか大人〜って思った。」
「ぎゃー、やめて〜。ほんとごめんなさい!!変なやつだったね、わたし。」
「うん、りん子さん、一匹狼だったもんね。」
ええ?なんでそんなこと思ったんだろ?
一匹狼なんて、そんなかっこいいもんじゃないよ〜^^;
誰とでも仲良くしていただけだよ。
ただ女子特有のグループ意識みたいなのが、ちょっと苦手だっただけだよ。
でも、なんだか、嬉しくなっちゃった。
そっかあ、オダギリくんはわかってたんだ。
「あはは、そんなかっこよくないけどね。オダギリくんこそ、一人が好きだったんじゃない!?」
「うん、僕、男から嫌われてるからね〜。」
うそ、いまだにアルバイトの何人かとやり取りを続けているらしいのだもの、嫌われてなんかないよね。
でも、心底楽しんでないのは、ハズレてないように思う。
居心地の良い会話を重ね、わたしは謝る機会を逃していた。
何人かとメールアドレスの交換をして、今度同窓会をすることを決めてお開きになった。
別れてからメールが届いた。
オダギリくんからだ。
「りん子さんへ。僕たちにとっては、結婚して姓が変わっても永遠にりん子さんなんだな〜と思いました。(中略)○○に来る機会があったら連絡ください。では、同窓会、楽しみにしています。」
翌日になって那智さんに昨日のことを話した。
もちろん、亡くなった友人のこともお通夜に行くことも知っていたからね。
その中に、以前付き合ってたKくんがいることも話していた。
で、Kくんに「あのときは俺が子供だった。いまならりん子を幸せにできる!!」なんて、酔っぱらいながら言われたこと、その他のそのときの様子などを笑いながら伝えた。
そして、そこではじめてオダギリくんの存在と思い出をちょっとと、「こんなメールもらいましたよ」と昨夜のことを伝えた。
「ん〜、その人は、ちょっと気を付けたほうがいいな。『俺たちにとって』って誰のことだろう。」
「ええ?当時のメンバーみんなってことじゃないですか?」
「それならいいけど、りん子とその人という意味なら、話は違うよね。」
ふ〜ん、そういうものか、確かに、そうかもしれない。
○○に来ることがあったら連絡してねと言われてる。
そこに行く機会はほとんどないから、わたしが彼に会いたいと思って行動を起こさないかぎり、同窓会前に会うことはないでしょう。
でも、わたしは、あの引き合う空気、似た者同士が感じるシンパシーを感じたくて、会いに行ってしまいたくなるだろう。
那智さんに聞いてみる。
「那智さん、オダギリくんとランチしてもいいですか?」
しばらく考えて、那智さんは、オダギリくんとふたりで会うことはやめたほうがいいと言った。
なぜ?いままで、他の男性とランチをしても「どうぞ〜」と送り出してくれたのに。
男性にランチに誘われるわたし、好きじゃありませんでした?
なぜ?という疑問とともに、残念って思った。
オダギリくんに会いたい気持ちの中に、「わたし寄りを楽しむ」ということもあったからだ。
いやな女だと思うけど正直にいうと、同志や似た空気などの「美しい」理由の他に、もうひとつそれを楽しむという理由もあるんだ。
「わたし寄りの男性」が、ぐいぐいとこちらに引かれてくる様子を楽しむ。
「わたしを好んでるよね」という空気がひしひしと感じられる楽しさ。
オダギリくんと一緒にいるとき、いやな女のわたしも楽しんでるんだ。
それができないことも残念だった。
こんなふうに書くとすごい魔性の女みたいだけど、そんなことでもないんだ。
男の人をその気にさせて魅了して楽しんでるだけなら、魔性の女かもしれないけど、わたしの場合はね、ちょっと違うんだ。
こういうことをすれば当然男性はわたしを抱こうとするでしょ?
そこを上手にはぐらかしたりできないの。
断れずに抱かれるか、付き合いをおしまいにするか、どちらか。
結局、「わたし寄り」の男性とは、関係が続かないか、増長くんになるか、体を開き無駄にわたしを消費してしまうか、とにかくまともな関係を築けないんだ。
だから、上手に男を手玉にとるようなかっこいいものではないの。
それがわかってても、あの吸引は魅力で、だから、残念。
だから、ちょっと食い下がる。
「那智さん、わたし、オダギリくんのこと貴重な人材って思ってるんですよ(その感覚は話してある)、それなのにお話ししちゃだめ?」
「うん、もしふたりで会いたいなら、『デートはしない』って最初に言っておかないと。」
そこから、那智説教開始!!(笑)
誘われたら、まず最初に『主人を愛してるからデートはしない』って言っておけば問題ない。
最初に言わないと、次に言いづらくなるし、取ってつけた感じが余計意識してるように思われる、だから、まず最初に言うこと。
『主人を愛してるからデートはしない。それでよければ…』、ああ、『それでよければ』って言葉もよくないな。
『お食事やお話しはするけど、デートはしない』だな。
ずっと対応策を説教してくれてる。
「や、まだ誘われてないし…、○○に来ることがあったら連絡して、そしたらランチしようってくらいですから。誘われてもいないのに、『主人をうんぬん』なんて言えませんよ。」
「ああ、そうだよな(笑)」
「じゃ、同窓会のときにお話しすればいいだろ?」
「まあ、そうですけどね…。」
ちぇ、なんの伏線かわからないけど、伏線張れなかった。
「わたし寄り」を楽しむ機会を逃してしまったみたいで、ちょっと悔しかったし、なにか引っ掛かるから、那智さんに聞いてみる。
「那智さん、那智さんは嫉妬して行動を制限したり束縛したりはかっこ悪いって思ってますよね?これって、嫉妬による束縛じゃないのですか?」
「違うよ、りん子が困らないようにしてるんだよ。だって、相手が誘ってきたら困るだろ?『那智さん、どうしましょう〜』ってなるだろ?」
「でも、わたしが男性からモテるの、悪くないですよね?」
「もちろん、でも、そのオダギリくんをりん子は大切な友達って思ってるんだろ?相手が勘違いしたら、そこからまたもとに戻すの難しいでしょ。りん子が悲しくならないように、言ってるの。こちらがちゃんとしてれば、会っちゃいけないなんて言ってないよ。」
ふ〜ん、そういうもの?
「でもね〜、その釘を刺すと男の人ってあんまり押して来なくなっちゃうのよね〜。それじゃつまらないです。」
「そう?俺だったら、よけいにいい女だねって思うよ。」
納得したような、釈然としないような。
それからも、職場から見える夜景を撮って「お酒のつまみに^^」なんて送ってきたり、同窓会の連絡以外でもメールが来ていた。
だけど、どちらも、それ以上はなにもしなかった。
結局わたしは謝罪も釘を刺すこともできないまま、同窓会の日を迎えることになったのだ。
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COMMENT
もったいないから、先を読んじゃう前にコメントいれちゃいます。
ああ、りん子さん、ものすごいシンパシーを感じました。
そうなの、魔性の女なんかにはなれないのです(笑)
しかも、大抵ハマってウンザリするか、切れてしまうかなのですよ。
分かっているのにあの吸引の魅力に抗えずに、あえて翻弄されることを選んでしまうのです。
ああ、りん子さん、ものすごいシンパシーを感じました。
そうなの、魔性の女なんかにはなれないのです(笑)
しかも、大抵ハマってウンザリするか、切れてしまうかなのですよ。
分かっているのにあの吸引の魅力に抗えずに、あえて翻弄されることを選んでしまうのです。
コメント、うれしい!!
吸引しあう魅力の中で自分を傷つけることなくメリットを得られる人が魔性の女なのかもしれませんね。
上手に立ち回れないし美しい心だけでもないし、なんだかイヤな人な感じがするけど、まあ、これもわたしだったと思っています。
こういうあまりステキじゃない一面にシンパシーを感じてくれて、それを教えてくれたことに感謝^^
吸引しあう魅力の中で自分を傷つけることなくメリットを得られる人が魔性の女なのかもしれませんね。
上手に立ち回れないし美しい心だけでもないし、なんだかイヤな人な感じがするけど、まあ、これもわたしだったと思っています。
こういうあまりステキじゃない一面にシンパシーを感じてくれて、それを教えてくれたことに感謝^^