声
独特な幸福感
朝のお電話タイム。
大きなイベントと例のカフェ経営者案件でここ数日激務の那智さん。
昨日もずいぶん遅くまで仕事していた。
今朝の『おはよう』がいつもより遅かったことからも、大変なことが手に取るようにわかる。
いつもの時間に電話をかけると長めコールの後小声で
まだ電車
と伝えてきた。
いつもならもうお仕事場に到着してお茶を入れているくらいのタイミングなので、やっぱり昨日遅かった分今朝も遅めに出社したんだなと思う。
それでも始業時間の45分前なので仕事に支障はないのだけどね。(那智さん、いつも早いんだ)
切りますか?
と聞きかけていると『次は○~』と那智さん下車駅のひとつ前の駅のアナウンスが聞こえたので「いま○なら、このまま繋がっていればいいですね」と伝える。
那智さんは電車の中なので当然お返事はない。
わかっているので「独り言しますよ~」と他愛ない話題をぽつぽつ独り言する。
○駅から下車駅までせいぜい3、4分というところだろう。
わたしはスマホゲームの画面を開き、ほとんど無意識に画面をいじりながらゲームの進み具合を話す。
無言の車内から駅のホームのアナウンスの音声が混じるようになったので、下車駅についたと思った。
車内のドア開閉の『ピンポンピンポン』という音も聞こえたような気がした。
もう降りるはずだ。
もしもし~
とまだスマホ画面をいじりながら、疲れているか心配な気持ちとやっと声聞ける嬉しさと、どこか惰性も混ざった声をかける。
当然「もしもーし」や「おはよう」と返事が返ってくるこのと思って。
ごそごそと音声が聞き取り聞くくなった。
あれ?電波悪いのかな?
それともマイクがポケットの中?
もしもし、那智さーん
1番線到着は○分発、快速○行きです
白線の内側に下がってお待ち下さい
駅員のアナウンスが聞こえる。
もしかして、まだ降りてない?
人が多くてドア付近で滞っているのかな。
また音声が悪くなる。
ホームに降りたら声をかけてくれるだろう、そう思って、こちらは黙り、またスマホゲームをいじる。
電波が悪いのかポケットの中か、時折音声が悪くなる。
発車を知らせるベルと電車の動く音。
駅員の乗車案内。
どう見てもホームのはずなんだけど、まだ那智さんは声をかけてくれない。
もしもーし、那智さん~
ヘッドホンしているはずだから、わたしの声は聞こえているはずだ。
それとも、もしかして一回電話切ったと思ってヘッドホン外しちゃったのかな。
だとしても、降りたらかけてもいいはずなのに。
エスカレーターに人が集まって、かけづらいのかな。
到着を知らせる音楽と機械の女性のアナウンス。
まもなく2番線に参ります電車は○分発、普通○行きです
被せるように男性駅員の誘導する声。
那智さ~ん
スマホゲームをしながら、少しずつ落ち着かない気持ちになってくる。
時計を見ると始業時間まで35分というところだ。
「まだ電車」と告げられてから10分近く過ぎている。
那智さん、どうしました~?
機械の女性のアナウンス、男性駅員の急かすような声。
発車ベルと電車の音。
朝のラッシュ時、何度も同じ音が繰り返される中、那智さんの気配だけがしない。
イヤな予感がする。
いつもの悪いクセだ。
「もし那智さんが死んじゃったら」みたいな甘い悲劇の想像のような予感。
いや、まさか、それはない。
いつもならどんどん悲劇の想像をして「那智さん、死なないで~」とひとり悶絶するのだけど、今日は核心を避けるようにスマホゲームに気をそらしている。
忙しかったから、具合が悪くなったのだろうか。
ベンチで休んでる?
でも、どんなに具合が悪くても、これだけ声をかけたらひとこと発してくれるはずだ。
もしかしたら、声も出せないほど辛いのだろうか。
繰り返す駅の雑音と気配が消えた那智さん。
一回切ってかけ直そうか。
それはダメだ、万が一再度繋がらなかったらおしまいだもの。
スマホで気をそらしながら、心臓がドキドキしてくる。
どうしよう。
声が出せない状態って。
心がざわざわする。
万が一倒れたりしていたら、周りが気付いてなんとかなる。
でも、例えばなんとかベンチまで行かれて座った状態で意識がなくなっていたりしたら気付かれない。
駅に電話してみようか。
でもなんて?
那智さんの服装わからないし、電話していた人が喋らなくなっちゃったって言って伝わる?
いやいや、だって「まだ電車」の声はいつもと変わらなかった。
いつもならどんどん悲劇のほうに妄想を膨らますのに、今日はそれを打ち消そうとしている。
那智さん、大丈夫ですか?!
少し強めに声をかける。
ドキドキが増す。
連日の激務。
寒い朝だ、ここで意識を失っていたら。。。
心筋梗塞とか、そういう突発的なのだったら。
あの「まだ電車」が、わたしが聞く最後の那智さんの声になってしまうのかと、一瞬よぎるけど、落ち着かない気持ちを打ち消すようにその声を思い出す。
時計を見る、さらに3、4分。
現実問題、このまま放置していたら始業時間に遅れる。
電話をしよう。
なんていうか、は、まあいい。
子機を取り、パソコンを開き駅の電話番号を調べる。
でもまず出てくるのは忘れ物とかの問い合わせなんだ。
他にないか、なければ最悪忘れ物センターでもいい。
ベンチに意識不明の人がいないか真剣に伝えたら何かしら対処してくれるだろう。
ざわつく心を落ち着かせながらパソコンを見つめていると
ガサガサ
もしもーし
いつもの那智さんの声!!!!
那智さん!!!
心配しただろ(笑)
スマホ線路に落としちゃってさ
心配しているだろうなって思ってたよ
ああああ、そうだったのですか!!!
ああああ、よかった、何でもなくて
よかった、那智さん、無事だった。
聞こえてくる『いつもの那智さんの声』だ。
安心したら嗚咽のようなため息が溢れて、嗚咽に合わせるように体が震えて涙が溢れた。
そこからは「うわーん、心配しました~~」と甘えモード^^;
どうやら、ヘッドホンのコードが誰かに引っかかって胸ポケットに入っていたスマホが飛び出て落ちてしまったらしい。
朝の忙しい時間だからなかなか駅員さん対応してくれなくて待たされたそうだ。
いや、りん子心配してるだろうなって
一瞬、線路にささっと降りちゃおうかと思ったけど、登れるか自信な方から、やめた
今度、線路くらいの高さの塀かなんかで登れるか検証してみよう(笑)
そんな風に冗談を言うけれど、きっとスマホ落として驚いただろうし無事戻ってホッとしただろうし、そういう自分の感情の大変さはほとんど話さない。
いつもの安定した声。
それより、開口一番、わたしが心配していることを気にしてくれていた。
そういう那智さんは、やっぱり那智さんらしいと思う。
那智さんはわたしのことを思っていてくれた。
でね、わたしもこの10分ほどの間に思っていたことは、いつもの『那智さんが死んじゃったら』という自分に向けたものではなくて、
那智さん、具合悪いのかな
苦しかったらどうしよう
ベンチにいたら寒くないかな
始業時間大丈夫だろうか
と那智さんに心配ばかりだった。
『死んじゃったら』なんて悲劇の甘い妄想はしょせん安全なところからの悲劇であって、好きな人の一大事に直面したら自分より相手のことを考えるんだねって、当たり前のことを再認識しました。
まあ、でも、あれが最後の声かと一瞬想像するあたりはわたしらしいといえば、わたしらしいけど(笑)
那智さんの激務はまだ続く^^;
でも、線路にスマホを落としたけど、電車に轢かれなかったし割れたりもしなかったみたいだから、那智さんは幸運の女神が味方してくれているのです!!
もうすこし頑張ってくださいね~。
「等式」「声」感想です。りん子に色々励ましを受けていた時なので、まず、安否を知らせなきゃとおもうのだけれど、他人のスマホ借りても番号解らないし(笑)お騒がせしました。
朝のお電話タイム。
大きなイベントと例のカフェ経営者案件でここ数日激務の那智さん。
昨日もずいぶん遅くまで仕事していた。
今朝の『おはよう』がいつもより遅かったことからも、大変なことが手に取るようにわかる。
いつもの時間に電話をかけると長めコールの後小声で
まだ電車
と伝えてきた。
いつもならもうお仕事場に到着してお茶を入れているくらいのタイミングなので、やっぱり昨日遅かった分今朝も遅めに出社したんだなと思う。
それでも始業時間の45分前なので仕事に支障はないのだけどね。(那智さん、いつも早いんだ)
切りますか?
と聞きかけていると『次は○~』と那智さん下車駅のひとつ前の駅のアナウンスが聞こえたので「いま○なら、このまま繋がっていればいいですね」と伝える。
那智さんは電車の中なので当然お返事はない。
わかっているので「独り言しますよ~」と他愛ない話題をぽつぽつ独り言する。
○駅から下車駅までせいぜい3、4分というところだろう。
わたしはスマホゲームの画面を開き、ほとんど無意識に画面をいじりながらゲームの進み具合を話す。
無言の車内から駅のホームのアナウンスの音声が混じるようになったので、下車駅についたと思った。
車内のドア開閉の『ピンポンピンポン』という音も聞こえたような気がした。
もう降りるはずだ。
もしもし~
とまだスマホ画面をいじりながら、疲れているか心配な気持ちとやっと声聞ける嬉しさと、どこか惰性も混ざった声をかける。
当然「もしもーし」や「おはよう」と返事が返ってくるこのと思って。
ごそごそと音声が聞き取り聞くくなった。
あれ?電波悪いのかな?
それともマイクがポケットの中?
もしもし、那智さーん
1番線到着は○分発、快速○行きです
白線の内側に下がってお待ち下さい
駅員のアナウンスが聞こえる。
もしかして、まだ降りてない?
人が多くてドア付近で滞っているのかな。
また音声が悪くなる。
ホームに降りたら声をかけてくれるだろう、そう思って、こちらは黙り、またスマホゲームをいじる。
電波が悪いのかポケットの中か、時折音声が悪くなる。
発車を知らせるベルと電車の動く音。
駅員の乗車案内。
どう見てもホームのはずなんだけど、まだ那智さんは声をかけてくれない。
もしもーし、那智さん~
ヘッドホンしているはずだから、わたしの声は聞こえているはずだ。
それとも、もしかして一回電話切ったと思ってヘッドホン外しちゃったのかな。
だとしても、降りたらかけてもいいはずなのに。
エスカレーターに人が集まって、かけづらいのかな。
到着を知らせる音楽と機械の女性のアナウンス。
まもなく2番線に参ります電車は○分発、普通○行きです
被せるように男性駅員の誘導する声。
那智さ~ん
スマホゲームをしながら、少しずつ落ち着かない気持ちになってくる。
時計を見ると始業時間まで35分というところだ。
「まだ電車」と告げられてから10分近く過ぎている。
那智さん、どうしました~?
機械の女性のアナウンス、男性駅員の急かすような声。
発車ベルと電車の音。
朝のラッシュ時、何度も同じ音が繰り返される中、那智さんの気配だけがしない。
イヤな予感がする。
いつもの悪いクセだ。
「もし那智さんが死んじゃったら」みたいな甘い悲劇の想像のような予感。
いや、まさか、それはない。
いつもならどんどん悲劇の想像をして「那智さん、死なないで~」とひとり悶絶するのだけど、今日は核心を避けるようにスマホゲームに気をそらしている。
忙しかったから、具合が悪くなったのだろうか。
ベンチで休んでる?
でも、どんなに具合が悪くても、これだけ声をかけたらひとこと発してくれるはずだ。
もしかしたら、声も出せないほど辛いのだろうか。
繰り返す駅の雑音と気配が消えた那智さん。
一回切ってかけ直そうか。
それはダメだ、万が一再度繋がらなかったらおしまいだもの。
スマホで気をそらしながら、心臓がドキドキしてくる。
どうしよう。
声が出せない状態って。
心がざわざわする。
万が一倒れたりしていたら、周りが気付いてなんとかなる。
でも、例えばなんとかベンチまで行かれて座った状態で意識がなくなっていたりしたら気付かれない。
駅に電話してみようか。
でもなんて?
那智さんの服装わからないし、電話していた人が喋らなくなっちゃったって言って伝わる?
いやいや、だって「まだ電車」の声はいつもと変わらなかった。
いつもならどんどん悲劇のほうに妄想を膨らますのに、今日はそれを打ち消そうとしている。
那智さん、大丈夫ですか?!
少し強めに声をかける。
ドキドキが増す。
連日の激務。
寒い朝だ、ここで意識を失っていたら。。。
心筋梗塞とか、そういう突発的なのだったら。
あの「まだ電車」が、わたしが聞く最後の那智さんの声になってしまうのかと、一瞬よぎるけど、落ち着かない気持ちを打ち消すようにその声を思い出す。
時計を見る、さらに3、4分。
現実問題、このまま放置していたら始業時間に遅れる。
電話をしよう。
なんていうか、は、まあいい。
子機を取り、パソコンを開き駅の電話番号を調べる。
でもまず出てくるのは忘れ物とかの問い合わせなんだ。
他にないか、なければ最悪忘れ物センターでもいい。
ベンチに意識不明の人がいないか真剣に伝えたら何かしら対処してくれるだろう。
ざわつく心を落ち着かせながらパソコンを見つめていると
ガサガサ
もしもーし
いつもの那智さんの声!!!!
那智さん!!!
心配しただろ(笑)
スマホ線路に落としちゃってさ
心配しているだろうなって思ってたよ
ああああ、そうだったのですか!!!
ああああ、よかった、何でもなくて
よかった、那智さん、無事だった。
聞こえてくる『いつもの那智さんの声』だ。
安心したら嗚咽のようなため息が溢れて、嗚咽に合わせるように体が震えて涙が溢れた。
そこからは「うわーん、心配しました~~」と甘えモード^^;
どうやら、ヘッドホンのコードが誰かに引っかかって胸ポケットに入っていたスマホが飛び出て落ちてしまったらしい。
朝の忙しい時間だからなかなか駅員さん対応してくれなくて待たされたそうだ。
いや、りん子心配してるだろうなって
一瞬、線路にささっと降りちゃおうかと思ったけど、登れるか自信な方から、やめた
今度、線路くらいの高さの塀かなんかで登れるか検証してみよう(笑)
そんな風に冗談を言うけれど、きっとスマホ落として驚いただろうし無事戻ってホッとしただろうし、そういう自分の感情の大変さはほとんど話さない。
いつもの安定した声。
それより、開口一番、わたしが心配していることを気にしてくれていた。
そういう那智さんは、やっぱり那智さんらしいと思う。
那智さんはわたしのことを思っていてくれた。
でね、わたしもこの10分ほどの間に思っていたことは、いつもの『那智さんが死んじゃったら』という自分に向けたものではなくて、
那智さん、具合悪いのかな
苦しかったらどうしよう
ベンチにいたら寒くないかな
始業時間大丈夫だろうか
と那智さんに心配ばかりだった。
『死んじゃったら』なんて悲劇の甘い妄想はしょせん安全なところからの悲劇であって、好きな人の一大事に直面したら自分より相手のことを考えるんだねって、当たり前のことを再認識しました。
まあ、でも、あれが最後の声かと一瞬想像するあたりはわたしらしいといえば、わたしらしいけど(笑)
那智さんの激務はまだ続く^^;
でも、線路にスマホを落としたけど、電車に轢かれなかったし割れたりもしなかったみたいだから、那智さんは幸運の女神が味方してくれているのです!!
もうすこし頑張ってくださいね~。
「等式」「声」感想です。りん子に色々励ましを受けていた時なので、まず、安否を知らせなきゃとおもうのだけれど、他人のスマホ借りても番号解らないし(笑)お騒がせしました。
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