妄想少女
独特な幸福感
私が、夢見る妄想女子高校生だった頃、ひと学年上のバスケットボール部の先輩に恋をした。
一目惚れだ。
名前も知らないその人が、球技大会でバスケットボールをしている姿を見て、一目惚れ。
その学年の格好いいと言われている先輩たちと一緒にいるけど、髪はぼさぼさ、着ているTシャツの襟は伸びきって無頓着な感じがまた良い。
その日から、卒業するまでの数ヶ月間、私の「うっとうしい青春の片思い」がはじまった。
学校に行かない日を差し引いて、会える(見られる)日があと何日とカウントダウンをし、友達に手伝ってもらって情報を集め、名前、住所、時間割等々少しづつその人のことを知っていた。
普通は、その人を知ってから恋が始まるはずなのに、妄想少女の私にはそんな順序関係ない。
その頃から、ハツカネズミは走っていて、もう思いを伝えずにはいられない。
お手紙を書いて告白するけど、まったく知らない後輩に告白されて「はい、わかりました」と付き合ってくれるわけないから、あっさりと振られる。
それでも、片思いさせてくださいと了承を得て、クリスマスやバレンタイン、とにかくイベント事には全部手を出した。
そのくせ、廊下で会うともうジタバタで下を向くしかできない。
その先輩も私が「ぺこ」っと挨拶すれば、挨拶を返してくれるのだから、上手に仲良くなろうと思えば作戦はあったはずだ、いまなら上手にできそうな気がする。
でも、自意識過剰のくせに自信のない、恋に恋する幼い私は、恐らく先輩からはうっとうしい女だっただろう。
写真を眺めてはため息、ユーミン聞いてはまたため息。
結局、最後までそんな具合で、その先輩たちは卒業していき、卒業式の日に一緒に撮った写真だけが切ない思い出と共に残って、その片思いは終わりを告げた。
余談ですが、数年後私はその先輩と再会をしたのでした。
たまたま友達になった男の人が、企業のバスケットボール部に所属していて、そこの先輩にその人がいたのだ。
実業団としては、それなりに有名なチームだったので、何回か応援に行ったのだ。
その時に、すでに引退していたその先輩が来ていた。
はじめは、声を掛けようか迷ったけど、その頃の私は「夢見る妄想少女」から少し脱却して、華やかな職業で得た多少の自信を持った「派手なお姉さん」になっていたので、思い切って声を掛けた。
少し話して、堂々と(表向きは?)していられたことに満足して、長年引っかかっていたものが取れて、ひとつ軽くなった気分だった。
これも、余談ですが、その高校生の頃、もいしかしたら那智さんと私は一度会っているかもしれないのだ。
挨拶くらいは交わしていた可能性がある。
夢見る妄想少女だったから、もう少し突っ込んで知り合っていたら、どんな人生が待ち受けていたか、恐い気もする。
その片思いの真っ最中、私は、ある「とほほ」なことが習慣になっていた。
毎日、同じ想像をするのだ。
「今日、先輩は私に告白してくるかもしれない」という想像だ。
朝、教室に入って机の中を覗くとき「お手紙が入っているかもしれない」
休み時間、急に呼び出されるかもしれない。
放課後、正門で待ち伏せしているかも、正門にいないと、駅?駅にもいないと、夕方電話が掛かってきて?
こんな具合に、ずっと「もしかしたら」のサプライズを待ってしまうのだ。
妄想とわかっていても、期待している自分に苦笑していた。
ところで、何度か話しているが、私は相手をよい気分にさせることが得意だ。
親しい人のバースデープレゼントなどは、その人が何気なく言った「ほしい物」を覚えていてびっくりさせる。
サプライズを感じてもらうことを考えることが、割と得意。
そして、それに払う労力をあまり惜しまない。
美術館で、手にしていたマグリットの手帳をこっそり取り寄せたり、ガソリンスタンドで深夜のバイトをしている男の子のところに30km車を走らせて給油しに行って驚かしたり。
サプライズを考えるのは、楽しい。
でも、もらえるのは、実はあまりない。
割と、一方的に需要し、一方的に供給する構図になっているように感じる。
与え上手ともらい上手。
私は「与え上手」なのだろう。
そのくせ、ありもしない先輩の告白のような「もらえる」妄想は膨らみ、妙な自意識に発展してしまう。
よくあることで、「もらいたい」けど「もらえない」から「与えて」満たしているのかもしれない(喜んでもらえることは、それはもちろん嬉しいけどね)。
今日那智さんが、私の平日の職場に突然来た。
お昼だけのパート、飲食関係だ。
びっくりして、どぎまぎして、顔が赤くなって、声が固くなってしまう。
お仕事の通り道だったから、寄り道してくれたらしい。
少しして、休憩に入る私のあとにさっと付いてきて、事務所とお手洗いへ通じる通路の死角で、キス。
ああ、ビッグサプライズ。
どきどきを引きずってして、そのあと今日は失敗を何回もしてしまったけど、「もらえる」を叶えてもらている。
そう言えば、私、他の人にするようなサプライズを、那智さんにはあんまりしていない気がする。
「もらえる」このポジションは心地よい。
私が、夢見る妄想女子高校生だった頃、ひと学年上のバスケットボール部の先輩に恋をした。
一目惚れだ。
名前も知らないその人が、球技大会でバスケットボールをしている姿を見て、一目惚れ。
その学年の格好いいと言われている先輩たちと一緒にいるけど、髪はぼさぼさ、着ているTシャツの襟は伸びきって無頓着な感じがまた良い。
その日から、卒業するまでの数ヶ月間、私の「うっとうしい青春の片思い」がはじまった。
学校に行かない日を差し引いて、会える(見られる)日があと何日とカウントダウンをし、友達に手伝ってもらって情報を集め、名前、住所、時間割等々少しづつその人のことを知っていた。
普通は、その人を知ってから恋が始まるはずなのに、妄想少女の私にはそんな順序関係ない。
その頃から、ハツカネズミは走っていて、もう思いを伝えずにはいられない。
お手紙を書いて告白するけど、まったく知らない後輩に告白されて「はい、わかりました」と付き合ってくれるわけないから、あっさりと振られる。
それでも、片思いさせてくださいと了承を得て、クリスマスやバレンタイン、とにかくイベント事には全部手を出した。
そのくせ、廊下で会うともうジタバタで下を向くしかできない。
その先輩も私が「ぺこ」っと挨拶すれば、挨拶を返してくれるのだから、上手に仲良くなろうと思えば作戦はあったはずだ、いまなら上手にできそうな気がする。
でも、自意識過剰のくせに自信のない、恋に恋する幼い私は、恐らく先輩からはうっとうしい女だっただろう。
写真を眺めてはため息、ユーミン聞いてはまたため息。
結局、最後までそんな具合で、その先輩たちは卒業していき、卒業式の日に一緒に撮った写真だけが切ない思い出と共に残って、その片思いは終わりを告げた。
余談ですが、数年後私はその先輩と再会をしたのでした。
たまたま友達になった男の人が、企業のバスケットボール部に所属していて、そこの先輩にその人がいたのだ。
実業団としては、それなりに有名なチームだったので、何回か応援に行ったのだ。
その時に、すでに引退していたその先輩が来ていた。
はじめは、声を掛けようか迷ったけど、その頃の私は「夢見る妄想少女」から少し脱却して、華やかな職業で得た多少の自信を持った「派手なお姉さん」になっていたので、思い切って声を掛けた。
少し話して、堂々と(表向きは?)していられたことに満足して、長年引っかかっていたものが取れて、ひとつ軽くなった気分だった。
これも、余談ですが、その高校生の頃、もいしかしたら那智さんと私は一度会っているかもしれないのだ。
挨拶くらいは交わしていた可能性がある。
夢見る妄想少女だったから、もう少し突っ込んで知り合っていたら、どんな人生が待ち受けていたか、恐い気もする。
その片思いの真っ最中、私は、ある「とほほ」なことが習慣になっていた。
毎日、同じ想像をするのだ。
「今日、先輩は私に告白してくるかもしれない」という想像だ。
朝、教室に入って机の中を覗くとき「お手紙が入っているかもしれない」
休み時間、急に呼び出されるかもしれない。
放課後、正門で待ち伏せしているかも、正門にいないと、駅?駅にもいないと、夕方電話が掛かってきて?
こんな具合に、ずっと「もしかしたら」のサプライズを待ってしまうのだ。
妄想とわかっていても、期待している自分に苦笑していた。
ところで、何度か話しているが、私は相手をよい気分にさせることが得意だ。
親しい人のバースデープレゼントなどは、その人が何気なく言った「ほしい物」を覚えていてびっくりさせる。
サプライズを感じてもらうことを考えることが、割と得意。
そして、それに払う労力をあまり惜しまない。
美術館で、手にしていたマグリットの手帳をこっそり取り寄せたり、ガソリンスタンドで深夜のバイトをしている男の子のところに30km車を走らせて給油しに行って驚かしたり。
サプライズを考えるのは、楽しい。
でも、もらえるのは、実はあまりない。
割と、一方的に需要し、一方的に供給する構図になっているように感じる。
与え上手ともらい上手。
私は「与え上手」なのだろう。
そのくせ、ありもしない先輩の告白のような「もらえる」妄想は膨らみ、妙な自意識に発展してしまう。
よくあることで、「もらいたい」けど「もらえない」から「与えて」満たしているのかもしれない(喜んでもらえることは、それはもちろん嬉しいけどね)。
今日那智さんが、私の平日の職場に突然来た。
お昼だけのパート、飲食関係だ。
びっくりして、どぎまぎして、顔が赤くなって、声が固くなってしまう。
お仕事の通り道だったから、寄り道してくれたらしい。
少しして、休憩に入る私のあとにさっと付いてきて、事務所とお手洗いへ通じる通路の死角で、キス。
ああ、ビッグサプライズ。
どきどきを引きずってして、そのあと今日は失敗を何回もしてしまったけど、「もらえる」を叶えてもらている。
そう言えば、私、他の人にするようなサプライズを、那智さんにはあんまりしていない気がする。
「もらえる」このポジションは心地よい。