キーパーソンは清掃員1
非日常的な日常
「今日は首輪とリードを持ってきて。」
那智さんははっきり『今日はこれをする』というのはあまりない。
こんなふうに匂わせるだけ。
それで、わたしの右往左往を楽しんで、自分のテンションの変化を楽しむ。
テンションが変わればしないということもある、それはイコール、したいことだけしてくれていると思えるので、してもらう側としては嬉しい。
だって、義務でしてもらってもちっとも嬉しくないものね。
もしかしたら、何かの理由があってできなかったときに、『りん子をがっかりさせないように』という那智さんらしい側面もあるような^^(変態なことをしなくてがっかりなわたし?^^;)
とにかく、この日もぼんやりと匂わされた。
百貨店のショウウィンドウ、正面玄関、と徐々に『ショウウィンドウをお散歩』包囲網を狭められてきたから、もう、次はないのだろうと思う。
だけど、なんだか実感がわかない。
それは、那智さんがどの程度のテンションかそのひと言だけでは計れなかったというのと、正面玄関を最後にしばらく『お外わんこ』から遠ざかっていたから、どうも我がことに感じられないみたい。
人って、自分に都合の悪いことは思考の外に追いやってしまうのかもしれない。
ほんとにするの?
まさかね〜!?
だって、普通にショウウィンドウよ?そこを四つん這いで歩く?
なんて、変なところでは危機管理するくせに、肝心なことは現実逃避。
待ち合わせ場所にいた那智さんの目は、静かなテンションではあるけど確実に『やる目』だった。
うっわぁ、ほんとに!?ど、どうしよう。
危険信号チカチカしだすけど、でも、どうしてもひと事にしてしまっている。
脅かして楽しんでいるだけじゃないか。
どこかで『また今度ね』と言ってくれるんじゃないか。
そんな気持のまま百貨店に近づいてきた。
この日はいつもより待ち合わせが遅かったので、百貨店の開店時間を少し過ぎていた。
鞄をゴソゴソして首輪とリードを渡され、百貨店の正面玄関まで来た。
数ヶ月前の雨の日に四つん這いになった正面玄関を眺め、足がすくむ。
この日はじめて、いま自分は爆弾を抱えているのだと自覚した。
うそ、無理、できない。
この角を曲がってショウウィンドウの数十mを四つん這いでお散歩なんて、恥ずかしくて気が狂いそうだ。
怖い、とても怖いと思ってしまった。
「はい、つけて」
首輪を渡された。
とりあえず付ける。
ああ、死刑台の階段に足を一歩かけたようだ。
ふと、ショウウィンドウの角から清掃員がモップを持って曲がってこちらにきた。
あ、さっきまでショウウィンドウのほうにいたんだ。
ふたり、同じことを考えた。
「惜しかったね〜。あの人がいたらできなかったからね。」
そうなんだ、那智さんは、あらかじめそこに誰かいたらやらないんだ。(通行人は関係なくてね)
だから、その清掃員がまだショウウィンドウ側にいてくれていたら、このあと角を曲がってそれを見て『今日はなし』になるはずだったんだ。
清掃員さん、もう少しゆっくり掃除していてほしかったです…。
正面玄関に置いてある清掃用具に近づく清掃員と入れ違いに角を曲がりショウウィンドウへ。
あのね、百貨店周辺って、開店前と後では、人通りが全然違うの。
ほんとに、このときすごく実感した。
何度もこのショウウィンドウには来ているけど、人通りに差があって、それは時間で左右するんだよね。
それは想像できる。
でも、いま開店して間もないくらいなのに、それでも全然違ったところを見ると、開店時間を境に大きく変わるものなんだと確信したのです。
要するに、人、いっぱいだったのだ^^;
無理…。
数十m続くタイル張りの歩道。
そこを行き来する人々を目にして、途方に暮れる。
無理、怖い。
怖いと思ってしまった。
「那智さん、無理です。怖いです。」
「だめ。」
そういって、有無を言わさずリードを付ける。
やめて、また階段を一歩進む。
もう、そこから怖くて半ばパニック。
ジタバタと首を振り。
怖くて無理を懇願する。
これだけでも十分不自然な光景だ。
那智さんは『やらせる目』。
「おすわり」
ああああ、無理。
でも、ちょっと『おすわり』に心が動く。
あの『どこでもわんこ』の快感が蘇ったのだ。
肩に掛けてあるバッグを那智さんが取った。
くっとリードが引かれる。
那智さんの足下は幸せだ。
どこでもわんこは幸せの津波に飲み込まれてぐちゃぐちゃな快感だ。
だけど、無理。
いま、四つん這いになってしまったら、そのまま『お散歩』が始まってしまう。
一瞬の『どこでもわんこ』は快感でもお散歩はきびしい。
蘇った快感はすぐに恐怖に打ち消された。
無理、無理、無理!!!!!
『やらせる目』の那智さんが怖い。
この『怖い』は、怒らせたらどうしようとか、怒ってるとかの怖さじゃない。
畏敬の念。
四つん這いの女性をリードを引いて歩く人の覚悟。
それを楽しみ、わたしを守ろうという力。
拒否権なしという関係を作り上げ、わたしはあなたのものと思わせる魅力。
その那智さんに、畏敬の念。
遠い快感の記憶や恐怖や那智さんに従いたい気持がごちゃ混ぜになって、もう首を振ることしかできない。
もう一度リードが引かれた。
万事休す。
パニックになりかけたとき。
さっきの清掃員が、清掃用具を引いて角を曲がってきた!!
ふたり顔を見合わす。
「あ〜、残念(笑)」
那智さんは、あらかじめ人がいたらしないし、そこに人が留まっている場合もなるべくしない人なのだ。
だから、そこえこれから掃除が始められるとわかってしまえば、それはなしになる。
ああああああ、ありがとう清掃員さん。
結局その日はなんとか回避できた。
だけど、回避できない事態を自ら招いてしまうことになるのは、また次回のお話で^^
それにしても、『やらせる目』の那智さんも「あ〜、残念(笑)」といって口角を上げていたずらっぽく微笑む那智さんの目も、どちらもなんとも言えず魅力的。
わずかな目の表情だけで上下するわたしの心が、書きながら蘇り、ため息が漏れる。
「今日は首輪とリードを持ってきて。」
那智さんははっきり『今日はこれをする』というのはあまりない。
こんなふうに匂わせるだけ。
それで、わたしの右往左往を楽しんで、自分のテンションの変化を楽しむ。
テンションが変わればしないということもある、それはイコール、したいことだけしてくれていると思えるので、してもらう側としては嬉しい。
だって、義務でしてもらってもちっとも嬉しくないものね。
もしかしたら、何かの理由があってできなかったときに、『りん子をがっかりさせないように』という那智さんらしい側面もあるような^^(変態なことをしなくてがっかりなわたし?^^;)
とにかく、この日もぼんやりと匂わされた。
百貨店のショウウィンドウ、正面玄関、と徐々に『ショウウィンドウをお散歩』包囲網を狭められてきたから、もう、次はないのだろうと思う。
だけど、なんだか実感がわかない。
それは、那智さんがどの程度のテンションかそのひと言だけでは計れなかったというのと、正面玄関を最後にしばらく『お外わんこ』から遠ざかっていたから、どうも我がことに感じられないみたい。
人って、自分に都合の悪いことは思考の外に追いやってしまうのかもしれない。
ほんとにするの?
まさかね〜!?
だって、普通にショウウィンドウよ?そこを四つん這いで歩く?
なんて、変なところでは危機管理するくせに、肝心なことは現実逃避。
待ち合わせ場所にいた那智さんの目は、静かなテンションではあるけど確実に『やる目』だった。
うっわぁ、ほんとに!?ど、どうしよう。
危険信号チカチカしだすけど、でも、どうしてもひと事にしてしまっている。
脅かして楽しんでいるだけじゃないか。
どこかで『また今度ね』と言ってくれるんじゃないか。
そんな気持のまま百貨店に近づいてきた。
この日はいつもより待ち合わせが遅かったので、百貨店の開店時間を少し過ぎていた。
鞄をゴソゴソして首輪とリードを渡され、百貨店の正面玄関まで来た。
数ヶ月前の雨の日に四つん這いになった正面玄関を眺め、足がすくむ。
この日はじめて、いま自分は爆弾を抱えているのだと自覚した。
うそ、無理、できない。
この角を曲がってショウウィンドウの数十mを四つん這いでお散歩なんて、恥ずかしくて気が狂いそうだ。
怖い、とても怖いと思ってしまった。
「はい、つけて」
首輪を渡された。
とりあえず付ける。
ああ、死刑台の階段に足を一歩かけたようだ。
ふと、ショウウィンドウの角から清掃員がモップを持って曲がってこちらにきた。
あ、さっきまでショウウィンドウのほうにいたんだ。
ふたり、同じことを考えた。
「惜しかったね〜。あの人がいたらできなかったからね。」
そうなんだ、那智さんは、あらかじめそこに誰かいたらやらないんだ。(通行人は関係なくてね)
だから、その清掃員がまだショウウィンドウ側にいてくれていたら、このあと角を曲がってそれを見て『今日はなし』になるはずだったんだ。
清掃員さん、もう少しゆっくり掃除していてほしかったです…。
正面玄関に置いてある清掃用具に近づく清掃員と入れ違いに角を曲がりショウウィンドウへ。
あのね、百貨店周辺って、開店前と後では、人通りが全然違うの。
ほんとに、このときすごく実感した。
何度もこのショウウィンドウには来ているけど、人通りに差があって、それは時間で左右するんだよね。
それは想像できる。
でも、いま開店して間もないくらいなのに、それでも全然違ったところを見ると、開店時間を境に大きく変わるものなんだと確信したのです。
要するに、人、いっぱいだったのだ^^;
無理…。
数十m続くタイル張りの歩道。
そこを行き来する人々を目にして、途方に暮れる。
無理、怖い。
怖いと思ってしまった。
「那智さん、無理です。怖いです。」
「だめ。」
そういって、有無を言わさずリードを付ける。
やめて、また階段を一歩進む。
もう、そこから怖くて半ばパニック。
ジタバタと首を振り。
怖くて無理を懇願する。
これだけでも十分不自然な光景だ。
那智さんは『やらせる目』。
「おすわり」
ああああ、無理。
でも、ちょっと『おすわり』に心が動く。
あの『どこでもわんこ』の快感が蘇ったのだ。
肩に掛けてあるバッグを那智さんが取った。
くっとリードが引かれる。
那智さんの足下は幸せだ。
どこでもわんこは幸せの津波に飲み込まれてぐちゃぐちゃな快感だ。
だけど、無理。
いま、四つん這いになってしまったら、そのまま『お散歩』が始まってしまう。
一瞬の『どこでもわんこ』は快感でもお散歩はきびしい。
蘇った快感はすぐに恐怖に打ち消された。
無理、無理、無理!!!!!
『やらせる目』の那智さんが怖い。
この『怖い』は、怒らせたらどうしようとか、怒ってるとかの怖さじゃない。
畏敬の念。
四つん這いの女性をリードを引いて歩く人の覚悟。
それを楽しみ、わたしを守ろうという力。
拒否権なしという関係を作り上げ、わたしはあなたのものと思わせる魅力。
その那智さんに、畏敬の念。
遠い快感の記憶や恐怖や那智さんに従いたい気持がごちゃ混ぜになって、もう首を振ることしかできない。
もう一度リードが引かれた。
万事休す。
パニックになりかけたとき。
さっきの清掃員が、清掃用具を引いて角を曲がってきた!!
ふたり顔を見合わす。
「あ〜、残念(笑)」
那智さんは、あらかじめ人がいたらしないし、そこに人が留まっている場合もなるべくしない人なのだ。
だから、そこえこれから掃除が始められるとわかってしまえば、それはなしになる。
ああああああ、ありがとう清掃員さん。
結局その日はなんとか回避できた。
だけど、回避できない事態を自ら招いてしまうことになるのは、また次回のお話で^^
それにしても、『やらせる目』の那智さんも「あ〜、残念(笑)」といって口角を上げていたずらっぽく微笑む那智さんの目も、どちらもなんとも言えず魅力的。
わずかな目の表情だけで上下するわたしの心が、書きながら蘇り、ため息が漏れる。
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