朗読奴隷2
独特な幸福感
酔っぱらった那智さんの困ることが、ふたつ。
理不尽さんと寝過ごす。
このふたつが重なった出来事。(どうぞ、前エントリー「朗読奴隷1」からお読みください)
年に数回ある忙しい時期、遅くまでお仕事して、例のごとく最後にちょっとお酒を引っかけてから、お仕事場を出た。
この日はお仕事だけじゃなく、ちょっとわたしに関わることで更に足止めさせてしまったので、仕事の疲れと重なって余計に酔いが回ったのかもしれない。
駅までの道のり、電話で話していると酔っぱらいさん全開だった。
「那智さん、電車寝てしまいますね^^;」
「ああ、寝るね〜^^」
「あ、那智さんイヤホン持ってます?」
「うん。」
那智さんは、携帯に付けるイヤホンマイク(っていうの?)を持っているの。(単純作業のときにわたしと話す用*^^*)
「じゃあ、それを付けていてください。そしたら、降りるころになったら、呼びますから!!」
那智さんとわたしの携帯は通話無料だ。
だから、イヤホンを付けたまま通話状態にしておけば、ポケットの中でブルブル震えるだけの『起きてコール』よりは起こせるかもしれない。
電話口で叫ぶのだ^^
ここで、理不尽さん登場!!
「りん子が、ずっとしゃっべっていればいいだよ♪」
「え?」
「ずっと俺が興味を示すようなこと1人でしゃべっていれば、寝ないから。」
はぁ〜!?
那智さんが電車に乗っている時間は約40分。
その間、ずーーーーーーっと1人でしゃべっていろと!?
「しゃべることが仕事なんだから、できるじゃ〜ん♪」
そんな、無茶な…。
わたしは落語家でも漫談家でもない。
そんなことができていたら、もっと違う人生を歩んでいましたよ^^;
「なあ、そしたら俺寝過ごさないよ〜」
うう、理不尽さん。
実は、その時友人から借りた読みかけの本が、ちょうどクライマックスを迎えていた。
那智さんが電車に乗っている間に、それを読んでいようと思っていたの。
それに、今日那智さんがここまで遅くなったのは、わたしが付き合わせてしまったこともある。
付き合ってくれたお礼も込めて、わたしは提案をする。
「じゃあ、こうしませんか?いま読みかけの本があるから、わたしがそれを朗読する!!」
我ながらバカな提案だとは思うけど、なんか珍しい出来事にちょっと乗り気(笑)
「え〜、話の途中からじゃ面白くないよ。りん子最初にあらすじもしゃべって♪」
…これは、筋の通った理不尽とでもいいましょうか。
確かに、おっしゃるとおり。
途中から話を聞かされても、まったく面白くない。
あらすじを語り、そのあと朗読をする40分間を思い描いて、途方に暮れるような、気合いが入るような、わたしも変なテンションになりかけたとき。
「じゃあ、電車に乗るよ〜。イヤホンしたから、よろしくね〜♪」
否応なく、40分間が始まってしまった。
まったくくだらない、でも、普段ぜったいしないようなこと。
まあ、なんとかなるでしょうと、すでに読み終えている約400ページ分のミステリーをプロローグから語りはじめた。
『殺人事件が起こります。15才の少女が、これも10代の少年二人に殺されます。殺されるといっても、それは意図した殺害ではなく、傷害致死にあたるのですが。レイプされ薬を打たれ…』
電車に乗っているから時々電波が乱れる中、ストーリーを思い出し、それを語る。
なんか、乗って来てしまう。
『殺された少女の父親が、少年のアパートに忍び込みビデオデッキを発見します。そこには「○月○日○○の女」など、奇妙なラベルが貼ってある。その中に「○月○日浴衣の女」と書いてあるものを見つけるのです。震える手で再生ボタンを押すと、そこには自分の娘が…』
この2、3日で読み進めたストーリーが頭の中で面白いように再生されて、わたし自身がぐいぐいと引き込まれるようだった。
「『もう時間がない。警察と父親、どちらが先に少年に辿りつけるのか。警察も父親も廃墟に向うのだった!!』…とここまでがあらすじです。」
電車の中だから、那智さんからの相づちはない。
でも、途中から、自分が夢中になっちゃって、あらすじだけで20分は過ぎていた。
そこからは朗読(笑)
ほんと、いま思い返しても変な光景なんだけど、わたしは携帯片手にあらすじを語り、朗読をするのだ。
変な光景に呆れるわたしもいるのだけど、なんだかあらすじを語りきった感もあってある意味高揚。
本の続きを一気に読めないもどかしさはあるけれど。
『逃げてっ、警察!!』なんて気持ちを込め、臨場感を出しながら朗読をするのは、かなり楽しい。
しかも、普段滑舌のあまりよくない司会者だから、これは仕事の訓練にもなるかもなんて、かなり前向きで読み進める。
でも、朗読ってなかなか進まないな。
やっと4枚目のページをめくる。
「『ラジオつけてもらえますか』『ラジオですか。いや、どうかな、入らないんじゃないかな』運転手はチューナーを操作した」
会話ではちょっとしゃべり方を変えて、それ以外も淡々と読むところと勢いをつけるところと抑揚をつけて。
「自分を巻き込んだ大きなうねりが収束しつつあるのを彼は感じた。」
「……」
「もちろん、そのうねりを作り出した一人が自分であることも…」
「スー…」
「最後の幕を引くのが自らの役目であることも…」
「スー…スー…」
ん?
「スー…スー…スー…」
んん?「スー」?
「スー…スー…スー…」
んんん?寝てる…?
「スー…スー…スー…」
んんんん!!寝てる!!!!
那智さん、寝てる!!!!
いつから!?
相づちを打たないのは電車の中だからで、ある意味わたしの語りを楽しんでいてくれたからだと思っていた!!
でも、ちがーう、寝ていたんだーーーー!!!!
信じられない!!
わたしは、どのあたりから、完全な独り言になっていたの!?
車内アナウンスが聞えてきた。
那智さんの降りる駅の5つ手前だ。
すぐにこの事態を知らせたいけれど、まだ、早い。
しばらく、わたしはおとなしく黙って本の続きを黙読。
下車駅の3つ手前まで来た、もういいよね。
「那智さーん!!」
イヤホン越しに声をかける。
「スー…スー…スー…」
びくともしない。
「那智さーん」
まだ、ダメ。
わたしは起こしたいのと、寝ちゃった恨みをちょっとだけ込めて(笑)
「那智さーーーーん!!」
思いっきり叫んだ。
「んん、ああ、ごめん、寝てた…。」
もう酷いですよぉ、那智さん。
聞くと、途中までは、わたしの語るあらすじが面白くて、楽しく聞いていたそうです。
でも、電波が悪くて途切れ途切れになっていたとき、酔いもまわって眠ってしまったらしい。
どうやら、最初の10間くらいだけだったようだ。
ということは、わたしは約20分は完全独り言だったわけ?
徒労感に苛まれそうだったけど、ならなかった。
なぜなら。
いつも『起きてコール』が失敗に終わるので、それが成功したことが嬉しくて。
その前に、那智さんが疲れている中わたしに付き合ってくれたこともあって。
ちっともいやな気分にならずに、もう、あらすじの後半が盛り上がったのに〜、惜しいことしましたね^^なんて、謝る那智さんに言う。
そして、何より、すっごいトホホな光景だけど、あらすじと朗読の30分間不思議な高揚を味わってしまっていたのだ。
だから、まったく責める気持ちにならなかった。
どうでしょう。
これって立派な『奴隷』?…『朗読奴隷』(笑)
わんこを自認しているくせに『あなたのために』と滅私状態になれないM女のわたし。
またいつか、理不尽な酔っぱらいさんが帰り道で表れたら、この手を使おう。
なかなか『奴隷』さんにはなれないけれど。
『朗読奴隷』なら、喜んで身を捧げられるかもしれない!!
ああ、でも、結局はわたし自身が『不思議な高揚』を味わっているのだから、ダメですね。
と、なにやってんだあたしは!?というお話でした(笑)
酔っぱらった那智さんの困ることが、ふたつ。
理不尽さんと寝過ごす。
このふたつが重なった出来事。(どうぞ、前エントリー「朗読奴隷1」からお読みください)
年に数回ある忙しい時期、遅くまでお仕事して、例のごとく最後にちょっとお酒を引っかけてから、お仕事場を出た。
この日はお仕事だけじゃなく、ちょっとわたしに関わることで更に足止めさせてしまったので、仕事の疲れと重なって余計に酔いが回ったのかもしれない。
駅までの道のり、電話で話していると酔っぱらいさん全開だった。
「那智さん、電車寝てしまいますね^^;」
「ああ、寝るね〜^^」
「あ、那智さんイヤホン持ってます?」
「うん。」
那智さんは、携帯に付けるイヤホンマイク(っていうの?)を持っているの。(単純作業のときにわたしと話す用*^^*)
「じゃあ、それを付けていてください。そしたら、降りるころになったら、呼びますから!!」
那智さんとわたしの携帯は通話無料だ。
だから、イヤホンを付けたまま通話状態にしておけば、ポケットの中でブルブル震えるだけの『起きてコール』よりは起こせるかもしれない。
電話口で叫ぶのだ^^
ここで、理不尽さん登場!!
「りん子が、ずっとしゃっべっていればいいだよ♪」
「え?」
「ずっと俺が興味を示すようなこと1人でしゃべっていれば、寝ないから。」
はぁ〜!?
那智さんが電車に乗っている時間は約40分。
その間、ずーーーーーーっと1人でしゃべっていろと!?
「しゃべることが仕事なんだから、できるじゃ〜ん♪」
そんな、無茶な…。
わたしは落語家でも漫談家でもない。
そんなことができていたら、もっと違う人生を歩んでいましたよ^^;
「なあ、そしたら俺寝過ごさないよ〜」
うう、理不尽さん。
実は、その時友人から借りた読みかけの本が、ちょうどクライマックスを迎えていた。
那智さんが電車に乗っている間に、それを読んでいようと思っていたの。
それに、今日那智さんがここまで遅くなったのは、わたしが付き合わせてしまったこともある。
付き合ってくれたお礼も込めて、わたしは提案をする。
「じゃあ、こうしませんか?いま読みかけの本があるから、わたしがそれを朗読する!!」
我ながらバカな提案だとは思うけど、なんか珍しい出来事にちょっと乗り気(笑)
「え〜、話の途中からじゃ面白くないよ。りん子最初にあらすじもしゃべって♪」
…これは、筋の通った理不尽とでもいいましょうか。
確かに、おっしゃるとおり。
途中から話を聞かされても、まったく面白くない。
あらすじを語り、そのあと朗読をする40分間を思い描いて、途方に暮れるような、気合いが入るような、わたしも変なテンションになりかけたとき。
「じゃあ、電車に乗るよ〜。イヤホンしたから、よろしくね〜♪」
否応なく、40分間が始まってしまった。
まったくくだらない、でも、普段ぜったいしないようなこと。
まあ、なんとかなるでしょうと、すでに読み終えている約400ページ分のミステリーをプロローグから語りはじめた。
『殺人事件が起こります。15才の少女が、これも10代の少年二人に殺されます。殺されるといっても、それは意図した殺害ではなく、傷害致死にあたるのですが。レイプされ薬を打たれ…』
電車に乗っているから時々電波が乱れる中、ストーリーを思い出し、それを語る。
なんか、乗って来てしまう。
『殺された少女の父親が、少年のアパートに忍び込みビデオデッキを発見します。そこには「○月○日○○の女」など、奇妙なラベルが貼ってある。その中に「○月○日浴衣の女」と書いてあるものを見つけるのです。震える手で再生ボタンを押すと、そこには自分の娘が…』
この2、3日で読み進めたストーリーが頭の中で面白いように再生されて、わたし自身がぐいぐいと引き込まれるようだった。
「『もう時間がない。警察と父親、どちらが先に少年に辿りつけるのか。警察も父親も廃墟に向うのだった!!』…とここまでがあらすじです。」
電車の中だから、那智さんからの相づちはない。
でも、途中から、自分が夢中になっちゃって、あらすじだけで20分は過ぎていた。
そこからは朗読(笑)
ほんと、いま思い返しても変な光景なんだけど、わたしは携帯片手にあらすじを語り、朗読をするのだ。
変な光景に呆れるわたしもいるのだけど、なんだかあらすじを語りきった感もあってある意味高揚。
本の続きを一気に読めないもどかしさはあるけれど。
『逃げてっ、警察!!』なんて気持ちを込め、臨場感を出しながら朗読をするのは、かなり楽しい。
しかも、普段滑舌のあまりよくない司会者だから、これは仕事の訓練にもなるかもなんて、かなり前向きで読み進める。
でも、朗読ってなかなか進まないな。
やっと4枚目のページをめくる。
「『ラジオつけてもらえますか』『ラジオですか。いや、どうかな、入らないんじゃないかな』運転手はチューナーを操作した」
会話ではちょっとしゃべり方を変えて、それ以外も淡々と読むところと勢いをつけるところと抑揚をつけて。
「自分を巻き込んだ大きなうねりが収束しつつあるのを彼は感じた。」
「……」
「もちろん、そのうねりを作り出した一人が自分であることも…」
「スー…」
「最後の幕を引くのが自らの役目であることも…」
「スー…スー…」
ん?
「スー…スー…スー…」
んん?「スー」?
「スー…スー…スー…」
んんん?寝てる…?
「スー…スー…スー…」
んんんん!!寝てる!!!!
那智さん、寝てる!!!!
いつから!?
相づちを打たないのは電車の中だからで、ある意味わたしの語りを楽しんでいてくれたからだと思っていた!!
でも、ちがーう、寝ていたんだーーーー!!!!
信じられない!!
わたしは、どのあたりから、完全な独り言になっていたの!?
車内アナウンスが聞えてきた。
那智さんの降りる駅の5つ手前だ。
すぐにこの事態を知らせたいけれど、まだ、早い。
しばらく、わたしはおとなしく黙って本の続きを黙読。
下車駅の3つ手前まで来た、もういいよね。
「那智さーん!!」
イヤホン越しに声をかける。
「スー…スー…スー…」
びくともしない。
「那智さーん」
まだ、ダメ。
わたしは起こしたいのと、寝ちゃった恨みをちょっとだけ込めて(笑)
「那智さーーーーん!!」
思いっきり叫んだ。
「んん、ああ、ごめん、寝てた…。」
もう酷いですよぉ、那智さん。
聞くと、途中までは、わたしの語るあらすじが面白くて、楽しく聞いていたそうです。
でも、電波が悪くて途切れ途切れになっていたとき、酔いもまわって眠ってしまったらしい。
どうやら、最初の10間くらいだけだったようだ。
ということは、わたしは約20分は完全独り言だったわけ?
徒労感に苛まれそうだったけど、ならなかった。
なぜなら。
いつも『起きてコール』が失敗に終わるので、それが成功したことが嬉しくて。
その前に、那智さんが疲れている中わたしに付き合ってくれたこともあって。
ちっともいやな気分にならずに、もう、あらすじの後半が盛り上がったのに〜、惜しいことしましたね^^なんて、謝る那智さんに言う。
そして、何より、すっごいトホホな光景だけど、あらすじと朗読の30分間不思議な高揚を味わってしまっていたのだ。
だから、まったく責める気持ちにならなかった。
どうでしょう。
これって立派な『奴隷』?…『朗読奴隷』(笑)
わんこを自認しているくせに『あなたのために』と滅私状態になれないM女のわたし。
またいつか、理不尽な酔っぱらいさんが帰り道で表れたら、この手を使おう。
なかなか『奴隷』さんにはなれないけれど。
『朗読奴隷』なら、喜んで身を捧げられるかもしれない!!
ああ、でも、結局はわたし自身が『不思議な高揚』を味わっているのだから、ダメですね。
と、なにやってんだあたしは!?というお話でした(笑)
強靭な肌
独り言
薄々気付いてはいたけれど、やっぱりそうらしい。
どうやらわたしは痕が残りにくいらしいのだ!!
あんなに痛い思いをしているのに、主要な痣を残してあとはすぐ消えちゃう。
その主要な痣だって、毎朝鏡でチェックするたびに薄くなってしまっている。
最近は、追い込むような打ち方をしないからか、特に引きやすいように思う。
なーんか、残念。
痕に残らないと、なんだか全然痛くないみたいじゃない!?
人と比べるつもりはないけれど、けっこう痛い思いしているつもりなんだけどな。
那智さんがいままで付き合った女性の中では、一番痛いことをしているのに、一番痕にならないのですって。
だから、ちゃんと痛いことしてるのよ。
でも、残らないの。
叩いた先からみるみる回復してしまうのですって。
これって、皮膚が強いの?
それとも毛細血管が強いの?
なんか、強靭りん子^^;
あんなに痛い思いをしたのに、あっさりと消えていく痕を眺めながら。
なんだか、痛い損をしているみたいで、いやだ。
それに那智さんが付けてくれた痕がすぐ消えてしまうの寂しい。
と訴える。
ええ?ほんと?
普通逆じゃない?痕になって困るというのは聞いたことあるけど。
と不思議そうな那智さん。
もう那智さんM女心わかっていませんね〜。
那智さんが付けてくれた赤や青の痛々しい痕を見るたびに、濃厚な時間が思い出され、思わずため息をついてしまうほどなのに。
それを付けた那智さんとあの時間の両方に焦がれるのに。
しかも、ちょっと『えっへん』という気にもなるのだもの。
消えてしまうの惜しいに決まってる。
ずっと消えないとそれはそれで困るけど。
あっという間に消えてしまうのも、寂しいもの。
強靭な肌がくやしいM女心、わかってほしいなぁ。
薄々気付いてはいたけれど、やっぱりそうらしい。
どうやらわたしは痕が残りにくいらしいのだ!!
あんなに痛い思いをしているのに、主要な痣を残してあとはすぐ消えちゃう。
その主要な痣だって、毎朝鏡でチェックするたびに薄くなってしまっている。
最近は、追い込むような打ち方をしないからか、特に引きやすいように思う。
なーんか、残念。
痕に残らないと、なんだか全然痛くないみたいじゃない!?
人と比べるつもりはないけれど、けっこう痛い思いしているつもりなんだけどな。
那智さんがいままで付き合った女性の中では、一番痛いことをしているのに、一番痕にならないのですって。
だから、ちゃんと痛いことしてるのよ。
でも、残らないの。
叩いた先からみるみる回復してしまうのですって。
これって、皮膚が強いの?
それとも毛細血管が強いの?
なんか、強靭りん子^^;
あんなに痛い思いをしたのに、あっさりと消えていく痕を眺めながら。
なんだか、痛い損をしているみたいで、いやだ。
それに那智さんが付けてくれた痕がすぐ消えてしまうの寂しい。
と訴える。
ええ?ほんと?
普通逆じゃない?痕になって困るというのは聞いたことあるけど。
と不思議そうな那智さん。
もう那智さんM女心わかっていませんね〜。
那智さんが付けてくれた赤や青の痛々しい痕を見るたびに、濃厚な時間が思い出され、思わずため息をついてしまうほどなのに。
それを付けた那智さんとあの時間の両方に焦がれるのに。
しかも、ちょっと『えっへん』という気にもなるのだもの。
消えてしまうの惜しいに決まってる。
ずっと消えないとそれはそれで困るけど。
あっという間に消えてしまうのも、寂しいもの。
強靭な肌がくやしいM女心、わかってほしいなぁ。
限りなく素人に近い…
独り言
たまには仕事のお話。
わたしはよく噛む司会者だと言っていますが。
よく泣く司会者でもあります。
わたしが披露宴の司会の仕事をしたいと思い、那智さんが強烈な後押しをしてくれたとき。
ブライダル業界をまったく知らない那智さんが、自信たっぷりに『大切なのは祝福の雰囲気、技術は必要ない』と言い切っていた(笑)
その『祝福の雰囲気』がりん子にはあるはず、だから、強烈に後押しをしようと思ってくれたわけです。
『祝福の雰囲気』。
そんな抽象的なことと思ったけど、実際仕事をはじめてみて、もしかしたらわたしはそれを比較的上手に作れている(自然発生ですけど)かもしれないと思えるようになってきた。
なぜかというと、わたしは新郎新婦のお話をきくことがとても好きなんだ。
そして、どんなカップルにも歴史があって、そしてこの日を迎えるんだな〜と感じるとなんだかとても応援したい気持ちになるの。
わたしは、彼らを好きになるのが得意なようなんだ。
司会としては地元ではけっこう名前が知れているうちの事務所の社長などは、キャリアも実力もわたしなどより数段上なんだけど、ときどき『客なんかばかばっ かりだからさ〜』と話しているのを聞くと、きっと彼には出せない空気をわたしは作ることができているんじゃないかと、最近ちょっとだけ仕事に自信が持てる ようになってきました。
そんなわけで、限られた打ち合わせの時間はいっぱい新郎新婦のお話を聞く。
つい、そちらに重きを置いてしまい、当日キャプテンから『○○は?』と聞かれて、慌てて新郎新婦に確認を取ったりと、間抜けなことをしてしまっている。
(本来なら段取りを重視しないといけないのでしょうけどね^^;今後を両立が目標です。)
でも、その分、二人の話を聞けば聞くほど、好きになるんだ。
中には、明らかにカップルの力関係に差があったりして、どうしたもんかと思うこともあったりするけど、話を聞いていると、どこか好きになるポイントが見つかるの、そうすればしめたもので、きっとわたしは本番中『おめでとう』の空気を発していることと思う。
だからね、泣いちゃうんだ^^;
美しい花嫁姿。
プロフィールDVDの家族写真。
友人の涙。
エピソードやこの日に対する思い、いろんなお話を聞かせてもらっているから、もう、センチメンタルに気持ちを傾ければ、簡単に涙が溢れちゃうような場面ばかり。
もう、毎度毎度、うるうる^^;
いちおうプロなので、絶対涙を流したり進行を止めてしまってはいけないことと思っているから、泣くといっても涙ぐむでストップさせて、事なきを得ているけれど。
一度だけ、かなり危ないときがあった。
そのカップルは二人とも30代半ば。
打ち合わせに表れたときの二人の印象は、それほど良いものではなかった。
新郎は披露宴にほとんど関心がないようで、打ち合わせの途中でタバコに立つは、よそ見はするは。
新婦は、任されているけど自信がないようで、常に新郎の顔色を伺っていた。
そして、なにより驚いていたのは。
新婦側の列席者がひとりもいないことだった。
わたしたち司会者は、新郎新婦に会う前に担当者と軽く打ち合わせをする。
配席表をもらったり、簡単に新郎新婦の様子を聞いたり。
そこで、担当者が『事情は知らないのだけど、新婦側の列席者が0』と教えてくれたのだ。
たとえば家庭の事情で片親だけだったり、両親以外は出席しなかったり、というのはある。
片方が0というのは、はじめてでちょっと驚いた。
親族はもちろん、友人さえもいないのだ。
辛うじて、新郎新婦の職場の同僚が数人だけ。
あとは、全部新郎側の親族だけ。
配席表を眺めながら、どうしたもんかと打ち合わせに向ったら、非協力的な新郎と心細げな新婦、まだ司会者として駆け出しのころだったわたしは、余計に不安を感じてしまった。
ご家庭に事情がある場合は差し支えない範囲で事情を聞く。
もちろん披露宴の最中に話題にするしない関わらず、情報として少しでも多くのことを知っておきたいからだ。
ただ、新婦側が誰もいないということには、触れてはいけないような気がして、あちらから語り出してくれるまではそっとしておこうと思った。
打ち合わせは主に新婦とわたしで進められた。
時々、不安気に新郎の同意を得る新婦に、気のない返事をする新郎。
でも、わたしはすこしでも、この打ち合わせが新婦にとって楽しく安心するものにしたくて、新郎にも『ちょっとは関わりなさい』という気持ちも込めて、冗談を言ったり、真摯に話したり、新郎も引っ張り出そうと一生懸命になった。
進行自体はそれほど問題ない。
プロフィール紹介をするために、ふたりのプロフィールをインタビューする段になったら、新郎がはじめて自分から発言をした。
生い立ちや学歴はいらない。
と。
それじゃあ、お二人の出会った経緯などだけ紹介しますか?
それから、わたしは、ふたりがどこで知り合って、どうやって付き合いがはじまって、この日を迎えることになったのか、あれこれインタビューをした。
お決まりのプロポーズについてを聞いたとき、また新郎が発言した。
自分は付き合うなら結婚すると決めた人とと思っていた。
だから、交際を申し込んだときにすでにプロポーズはしたいた。
そうなんだ、長い間職場の同僚として、一緒に闘ってきた新婦を見ていたんだな。
そして、結婚まで決意して、交際を申し込んだんだ。
どうりで、知り合ってから交際がはじまるまで長いわけだわ。
簡単に付き合うっていうのをしたいと思わないんだ。
ふ〜ん、ちょっといいやつじゃん。
そういう新郎を、まったく時代にそぐわない堅物と思いながら、ちょっと好きを見つけた瞬間だった。
披露宴当日。
最初はずっと腰が低いままだった新婦も、後半はリラックスしてきて、職場の同僚に囲まれた新郎は照れ臭そうにわらっていた。
和やかな雰囲気で、滞りなく披露宴は進み、お開きが近付く。
あとは、新婦のお手紙と花束贈呈と、そして、謝辞だ。
本来なら新婦側の誰かも立つはずの場所には、新郎の両親ふたり。
花束は新郎のご両親に、新郎新婦から渡すことになっている。
ゲストを挟むように、高砂の前に新郎新婦、向かい側の壁際に両親。
暗転してスポットライトが新婦に当たる。
静かにBGMが流れて、新婦が手紙を広げた。
新郎の両親への、『よろしくお願いします』という手紙だと思っていたそれは、思わぬ言葉から始まった。
『天国にいるお母さんと失踪して行方がわからないお父さんへ』
彼女は、プロフィール紹介では語ることのなかった生い立ちを読み出したのだ。
10代半ばでお母様を亡くし、20そこそこのころお父様が失踪してしまったそうだ。
兄弟もなく親戚付き合いもほどんどなかった彼女は、天涯孤独になってしまった。
それから、自分はひとりで生きていこうと決めたそうだ。
そういう境遇の人はたくさんいるだろう。
だけど、まだまったく子供で、その日を楽しく過ごすことだけしか考えていなかったような自分の20才のころを思い出し、そのわたしが『ひとりで生きていこう』と決める心情を思い、胸が締め付けられそうになった。
その手紙には、両親への感謝の気持ちと新郎の両親へのご挨拶が織り込まれ、とても心に迫るものがあった。
打ち合わせのときに、新郎が生い立ちを省いたことも、新婦の自信なさげな様子も、なんとなく理解できたような気がした。
苦労したんだねぇとここで、すでにやばい、うるうる状態…。
花束を渡し、最後の謝辞。
なんとか持ちこたえた。
新郎は、列席してくれた皆さんへの感謝の気持ちを述べたあと、こう繋いだ。
『いま、ここにいない彼女のご両親へ。彼女はずっとひとりで生きてきました。だけど、これからは私が彼女を守ります。だから、安心してください』
ぎゃーーー、やめてーーーーー、仕事になんなーーーーーい!!!!!
泣く…、だめ、泣いちゃダメ!!!!
もう、必死。
違うこと考えろ、りん子。
感動に浸りたい気持ちはわかる、でも、いま、ちょっとでもセンチメンタル側に体重を掛けたら、目に溜まった涙を止める自信がない。
全然違うことを考えて、気持ちを逸らす。
このときばかりは、那智さんさえ思考から排除した(笑)
那智さんってだけでも、泣いちゃいそうだったから。
危ういところを乗り越えて、無事お開き。
いやぁほんとに危なかった、泣いて許されるのは徳光さんくらいでしょう。
こんなふうに、いちいち感情移入していっぱいいっぱいになってる司会者。
だから、一日2本なんて日は、もうヘトヘトだ。
もちろん周囲に目を配り冷静に進行はしているけれど、プロフェッショナルとは程遠い^^;
それでも、ぽつぽつとお仕事はいただけて、わたしは毎週、祝福をして幸せのお裾分けをいただいている。
毎回、『おめでとう!!』と思える仕事、すてきだなって思う。
そんなわたしは一部のシニカルな担当者からは『限りなく素人に近い空気を持っている司会者』と評されている。
プロフェッショナルには程遠いけれど、こんな司会者もいてもいいよね。
いかがでしょう、ご結婚を控えている方。
『薬指の刺青』の読者さんなら、知人価格でお仕事いたします。
いい仕事しますよ〜^^
って、それはないかぁ(笑)
なんなら『マリッジブルーハンター那智』のカウンセリング付きで!!(『感謝記念のあと』のエントリーとコメントをご覧いただいたかただけわかる話題です、すみません^^;)
って、もっとないかぁ^^;
たまには仕事のお話。
わたしはよく噛む司会者だと言っていますが。
よく泣く司会者でもあります。
わたしが披露宴の司会の仕事をしたいと思い、那智さんが強烈な後押しをしてくれたとき。
ブライダル業界をまったく知らない那智さんが、自信たっぷりに『大切なのは祝福の雰囲気、技術は必要ない』と言い切っていた(笑)
その『祝福の雰囲気』がりん子にはあるはず、だから、強烈に後押しをしようと思ってくれたわけです。
『祝福の雰囲気』。
そんな抽象的なことと思ったけど、実際仕事をはじめてみて、もしかしたらわたしはそれを比較的上手に作れている(自然発生ですけど)かもしれないと思えるようになってきた。
なぜかというと、わたしは新郎新婦のお話をきくことがとても好きなんだ。
そして、どんなカップルにも歴史があって、そしてこの日を迎えるんだな〜と感じるとなんだかとても応援したい気持ちになるの。
わたしは、彼らを好きになるのが得意なようなんだ。
司会としては地元ではけっこう名前が知れているうちの事務所の社長などは、キャリアも実力もわたしなどより数段上なんだけど、ときどき『客なんかばかばっ かりだからさ〜』と話しているのを聞くと、きっと彼には出せない空気をわたしは作ることができているんじゃないかと、最近ちょっとだけ仕事に自信が持てる ようになってきました。
そんなわけで、限られた打ち合わせの時間はいっぱい新郎新婦のお話を聞く。
つい、そちらに重きを置いてしまい、当日キャプテンから『○○は?』と聞かれて、慌てて新郎新婦に確認を取ったりと、間抜けなことをしてしまっている。
(本来なら段取りを重視しないといけないのでしょうけどね^^;今後を両立が目標です。)
でも、その分、二人の話を聞けば聞くほど、好きになるんだ。
中には、明らかにカップルの力関係に差があったりして、どうしたもんかと思うこともあったりするけど、話を聞いていると、どこか好きになるポイントが見つかるの、そうすればしめたもので、きっとわたしは本番中『おめでとう』の空気を発していることと思う。
だからね、泣いちゃうんだ^^;
美しい花嫁姿。
プロフィールDVDの家族写真。
友人の涙。
エピソードやこの日に対する思い、いろんなお話を聞かせてもらっているから、もう、センチメンタルに気持ちを傾ければ、簡単に涙が溢れちゃうような場面ばかり。
もう、毎度毎度、うるうる^^;
いちおうプロなので、絶対涙を流したり進行を止めてしまってはいけないことと思っているから、泣くといっても涙ぐむでストップさせて、事なきを得ているけれど。
一度だけ、かなり危ないときがあった。
そのカップルは二人とも30代半ば。
打ち合わせに表れたときの二人の印象は、それほど良いものではなかった。
新郎は披露宴にほとんど関心がないようで、打ち合わせの途中でタバコに立つは、よそ見はするは。
新婦は、任されているけど自信がないようで、常に新郎の顔色を伺っていた。
そして、なにより驚いていたのは。
新婦側の列席者がひとりもいないことだった。
わたしたち司会者は、新郎新婦に会う前に担当者と軽く打ち合わせをする。
配席表をもらったり、簡単に新郎新婦の様子を聞いたり。
そこで、担当者が『事情は知らないのだけど、新婦側の列席者が0』と教えてくれたのだ。
たとえば家庭の事情で片親だけだったり、両親以外は出席しなかったり、というのはある。
片方が0というのは、はじめてでちょっと驚いた。
親族はもちろん、友人さえもいないのだ。
辛うじて、新郎新婦の職場の同僚が数人だけ。
あとは、全部新郎側の親族だけ。
配席表を眺めながら、どうしたもんかと打ち合わせに向ったら、非協力的な新郎と心細げな新婦、まだ司会者として駆け出しのころだったわたしは、余計に不安を感じてしまった。
ご家庭に事情がある場合は差し支えない範囲で事情を聞く。
もちろん披露宴の最中に話題にするしない関わらず、情報として少しでも多くのことを知っておきたいからだ。
ただ、新婦側が誰もいないということには、触れてはいけないような気がして、あちらから語り出してくれるまではそっとしておこうと思った。
打ち合わせは主に新婦とわたしで進められた。
時々、不安気に新郎の同意を得る新婦に、気のない返事をする新郎。
でも、わたしはすこしでも、この打ち合わせが新婦にとって楽しく安心するものにしたくて、新郎にも『ちょっとは関わりなさい』という気持ちも込めて、冗談を言ったり、真摯に話したり、新郎も引っ張り出そうと一生懸命になった。
進行自体はそれほど問題ない。
プロフィール紹介をするために、ふたりのプロフィールをインタビューする段になったら、新郎がはじめて自分から発言をした。
生い立ちや学歴はいらない。
と。
それじゃあ、お二人の出会った経緯などだけ紹介しますか?
それから、わたしは、ふたりがどこで知り合って、どうやって付き合いがはじまって、この日を迎えることになったのか、あれこれインタビューをした。
お決まりのプロポーズについてを聞いたとき、また新郎が発言した。
自分は付き合うなら結婚すると決めた人とと思っていた。
だから、交際を申し込んだときにすでにプロポーズはしたいた。
そうなんだ、長い間職場の同僚として、一緒に闘ってきた新婦を見ていたんだな。
そして、結婚まで決意して、交際を申し込んだんだ。
どうりで、知り合ってから交際がはじまるまで長いわけだわ。
簡単に付き合うっていうのをしたいと思わないんだ。
ふ〜ん、ちょっといいやつじゃん。
そういう新郎を、まったく時代にそぐわない堅物と思いながら、ちょっと好きを見つけた瞬間だった。
披露宴当日。
最初はずっと腰が低いままだった新婦も、後半はリラックスしてきて、職場の同僚に囲まれた新郎は照れ臭そうにわらっていた。
和やかな雰囲気で、滞りなく披露宴は進み、お開きが近付く。
あとは、新婦のお手紙と花束贈呈と、そして、謝辞だ。
本来なら新婦側の誰かも立つはずの場所には、新郎の両親ふたり。
花束は新郎のご両親に、新郎新婦から渡すことになっている。
ゲストを挟むように、高砂の前に新郎新婦、向かい側の壁際に両親。
暗転してスポットライトが新婦に当たる。
静かにBGMが流れて、新婦が手紙を広げた。
新郎の両親への、『よろしくお願いします』という手紙だと思っていたそれは、思わぬ言葉から始まった。
『天国にいるお母さんと失踪して行方がわからないお父さんへ』
彼女は、プロフィール紹介では語ることのなかった生い立ちを読み出したのだ。
10代半ばでお母様を亡くし、20そこそこのころお父様が失踪してしまったそうだ。
兄弟もなく親戚付き合いもほどんどなかった彼女は、天涯孤独になってしまった。
それから、自分はひとりで生きていこうと決めたそうだ。
そういう境遇の人はたくさんいるだろう。
だけど、まだまったく子供で、その日を楽しく過ごすことだけしか考えていなかったような自分の20才のころを思い出し、そのわたしが『ひとりで生きていこう』と決める心情を思い、胸が締め付けられそうになった。
その手紙には、両親への感謝の気持ちと新郎の両親へのご挨拶が織り込まれ、とても心に迫るものがあった。
打ち合わせのときに、新郎が生い立ちを省いたことも、新婦の自信なさげな様子も、なんとなく理解できたような気がした。
苦労したんだねぇとここで、すでにやばい、うるうる状態…。
花束を渡し、最後の謝辞。
なんとか持ちこたえた。
新郎は、列席してくれた皆さんへの感謝の気持ちを述べたあと、こう繋いだ。
『いま、ここにいない彼女のご両親へ。彼女はずっとひとりで生きてきました。だけど、これからは私が彼女を守ります。だから、安心してください』
ぎゃーーー、やめてーーーーー、仕事になんなーーーーーい!!!!!
泣く…、だめ、泣いちゃダメ!!!!
もう、必死。
違うこと考えろ、りん子。
感動に浸りたい気持ちはわかる、でも、いま、ちょっとでもセンチメンタル側に体重を掛けたら、目に溜まった涙を止める自信がない。
全然違うことを考えて、気持ちを逸らす。
このときばかりは、那智さんさえ思考から排除した(笑)
那智さんってだけでも、泣いちゃいそうだったから。
危ういところを乗り越えて、無事お開き。
いやぁほんとに危なかった、泣いて許されるのは徳光さんくらいでしょう。
こんなふうに、いちいち感情移入していっぱいいっぱいになってる司会者。
だから、一日2本なんて日は、もうヘトヘトだ。
もちろん周囲に目を配り冷静に進行はしているけれど、プロフェッショナルとは程遠い^^;
それでも、ぽつぽつとお仕事はいただけて、わたしは毎週、祝福をして幸せのお裾分けをいただいている。
毎回、『おめでとう!!』と思える仕事、すてきだなって思う。
そんなわたしは一部のシニカルな担当者からは『限りなく素人に近い空気を持っている司会者』と評されている。
プロフェッショナルには程遠いけれど、こんな司会者もいてもいいよね。
いかがでしょう、ご結婚を控えている方。
『薬指の刺青』の読者さんなら、知人価格でお仕事いたします。
いい仕事しますよ〜^^
って、それはないかぁ(笑)
なんなら『マリッジブルーハンター那智』のカウンセリング付きで!!(『感謝記念のあと』のエントリーとコメントをご覧いただいたかただけわかる話題です、すみません^^;)
って、もっとないかぁ^^;
ショウウィンドウと洗濯バサミと鞭1
非日常的な日常
那智さんは時々服装の指定をしてくる。
単に『そういう雰囲気のりん子が見たかった』という場合もあるし、やろうと思っていることに支障がないために指定する場合もある。
なぜそれかということを教えてくれるときもあるし、内緒のときもある。
だから、服装指定のあるときは、ちょっと緊張するのだ。
この日の指定は、恐らくこれの全部が含まれていたと思う。
「明日はジーンズで来て」
「なぜですか?」
「そのりん子が見たいから」
それが見たいとちゃんと理由を教えてくれた。
まともな理由にホッとする反面、それだけじゃないだろうと想像してしまう。
きっと四つん這いだ。
そう思われるけど、怖くて聞けない。
聞いてしまえば、那智さんの中にある『やろうと思ってる』程度の漠然とした予定をもう少し確実なものにしてしまいそうだったから。
那智さんも、それ以上『なぜ』には触れずにいたので、わたしも内緒のままにしておいた。
百貨店を、百貨店のショウウィンドウの前を、リードを付けて四つん這いで歩くという妄想(那智さん的には実行計画)が話題になってから随分と経っている。
那智さんが『する』と決めたら、決定権がないわたしは『する』。
だけど、那智さんは更に、『してほしい』が『無理』を上回る状態が面白いと思いはじめているから、いま、多分計画を再構築中という感じ。
その状態を待つか、そんなこと関係なく有無を言わさず那智さんがやりたいというテンションになるか、その状況を楽しんでいるところがあるように思う。
(恐らく、那智さんは『やる』という自分の高まりが来ることも、それはそれで楽しいみたいです)
だからか、最近デートの度にショウウィンドウに立つ。
何十mも続くショウウィンドウの端に立ち自分でシミュレーションして、あわあわするわたしを楽しみ、わたしの返答や那智さんルール(通行人ではなく、その場 に先に人がいたらしない)によって、自分のテンションの変化を楽しみ、そして、その場を移動して、緊張で強ばるわたしを解放する。
その後、コンビニわんこに発展したりするから、結局気が気じゃないのだけど、わたしは一瞬の安堵と、一抹の寂しさを覚えるのだ。
そうやって、少しずつ少しずつ、『してほしい』と思わせることに近づけようとしているみたいだ。
ジーンズの指定があったということは、きっと那智さんとしては『ちょっとやる気、あとは成り行き』なんだろう。
いつもより、やる気が多い感じ。
怖いな、どうなるんだろ。
実は、首輪とリードはわたしの手元にあった。
ジーンズと言われたとき、それを持っていくか聞こうと脳裏をかすめたけど、聞けば『やる』に一歩近付いてしまうようで、少しだけためらった。
そのまま話題は違うことに流れていき、結局聞きそびれてしまい、わたしはそれを持たずに待ち合わせに向った。
駅に向う途中で那智さんと電話で話す。
そこで、もう一度それを思い出し持って来ていないことを伝えると。
「ジーンズと言った時点で持ってくるものと思ってたよ。まあ、俺も指示しなかったから仕方ないか。」
ああ、やっぱり『やる気』多めだったんだ…。
忘れていたことで図らずもショウウィンドウで四つん這いを免れた。
可能性はどれくらいあったのかわからないけど、免れた。
でも、それはイコール、違うことをする可能性が一気に上がったことにもなると感じられて、手放しで安心するわけにもいかなかった。
それは、最近のお気に入り『どこでもわんこ』。
お気に入りと言っても、空港ではじめてしてから、実はまだ一度もしていない。
那智さんとしては『いつでもいいよ〜、いつしようっかな〜』という感じでしょうから、多分、この日の『やる気』がリードがないことで、『どこでもわんこ』に傾いたことは、簡単に想像できてしまう。
しかも、那智さんの意志ではなく予定変更したのだもの、きっと確率は上がるということも、負けず嫌いさんだから容易に想像できる。
ああ、怖い。
でも、怖くて仕方がないけれど、どこでもわんこはちょっと幸せだと感じてしまっていることも自覚している。
ううん、やっぱり絶対怖い。
いやいや、まだするなんてひと言も言われていないんだから、そんなに怖がらなくても。
あ、でも、ちょっとしろって言ってほしい…。
那智さんに会うまでの道のり。
こんなふうに、浮かんでは打ち消し望んでは否定しの繰り返し。
気持ちの上下。
だけど、那智さんに会ってからは、もっとずっといっぱい動揺させられちゃんだろうな。
だって、那智さんはわたしの心をグラグラと揺さぶることが好きなんだもの。
まったくもう、わたしったら会う前から那智さんのお望み通りの心の上下。
ひとりあわあわしながら待ち合わせ場所へ。
やっぱり那智さんのテンションは『どこでもわんこ』だった。
待ち合わせの喫煙所で「する?」。
少し移動してモニュメントの前で「する?ここなら目立つよ〜」。
拒否をすれば逆効果だから「地面濡れています」とか「高校生がいるから…」などなど、あれこれ言い訳を言って誤摩化すのだ。
「おすわりって言ったらするの、どう?」
そんな提案に、ああわたしちょっとうっとり。
だめだめ、また打ち消し。
多分、那智さんはこんなことも楽しんでる^^;
歩き出した。
信号を渡って、左右の歩道どちらを歩くかで、那智さんの考えが予測できるんだ。
右に行けばマ○○があってホテルへ。
左に行けば百貨店。
左に行ってほしくないな…、行けばわんこの確率がかなり高くなるもの。
しかし、那智さんの足は左側へ。
わわ、やばい、なんとか右側に行ってもらわなければ!!
どんどん現実に近付いてくると『わんこでうっとり』なんて生易しいこと言ってられないのだ!!!
その間も那智さんはわんこ話題で盛り上がる。
「なんかさ〜、こういう薄汚い路地でさせたくなくなってるんだよね、可哀想でさ(笑)明るいきれいなところでさせてあげたいな〜って最近思うんだよね。」
飲食店の狭間の路地を指差して、ありがたい、でも、困惑する情けをかけてくれたりしてる^^;
「那智さん、マ○○に寄りません!?朝何か召し上がりましたか?」
「いや、食べてないんだよね。」
「ほら、ちょうど信号も青ですし!!」
タイミング良くマ○○の近くの信号が変わった。
その気持ちいいタイミングに那智さんの気持ちも「ま、いいか」になったようで、そのまま右側の歩道に。
よし!!まだ0ではないけれど、これで、ショウウィンドウで『どこでもわんこ』の可能性は下がった。
嬉々としてマ○○に向う。
信号を渡りながら、那智さんが携帯からクーポンを探している。
どうしてもマ○○に寄りたいわけじゃないし、なんかいいクーポンないかな〜みたいな感じだろう。
思った以上にカウンターが混んでる。
歩道まで列が伸び、マ○○に向う足取りが鈍っている。
やばい、黄色信号。
マ○○に寄らない可能性が、ちょっと上がる。
「混んでるな」
「すぐ、順番来ますよ!!」
「う〜ん、でも、クーポンで食べたいものないんだよね〜」
携帯を眺めながら那智さんがいう。
「マ○○なしだな。」
一瞬やばいと思ったけど、歩道を移動したことでわたしの警戒心が少し緩んだみたいで、危機感黄色信号のままマ○○を通り過ぎた。
警戒心が緩み左側の歩道を歩くわたしに那智さんがにやっとしながら言った。
「マ○○、入れなくて残念だったね。俺の思考回路わかる?」
「へ?」
「マ○○に入れなかったのなら、じゃあやるか〜ってなるよね、普通。」
がーーーーーーん。
「マ○○に寄ろうなんて言わなければ、もしかしたら何もなかったかもしれないのにね〜。何か食べようと思った欲求が叶わなかったんだもんね、他の欲求で満足しようと思うのが、俺の思考回路だよね(笑)」
そう言いながら、さっき渡った信号のひとつ先の信号を左に戻るように渡る。
そのときの那智さんの目が『有無を言わせない目』になっていた。
あああああ、これを失敗と言わずしてなんと言おう。
那智さんをこの目にさせてしまったら、もうわたしは抵抗できないんだ。
言葉にならない、文字通りあわあわしてる。
もうわたしが回避できる機会はない。
抵抗もできず、だからといって覚悟を決めることもできないまま、ショウウィンドウに着いた。
那智さんは時々服装の指定をしてくる。
単に『そういう雰囲気のりん子が見たかった』という場合もあるし、やろうと思っていることに支障がないために指定する場合もある。
なぜそれかということを教えてくれるときもあるし、内緒のときもある。
だから、服装指定のあるときは、ちょっと緊張するのだ。
この日の指定は、恐らくこれの全部が含まれていたと思う。
「明日はジーンズで来て」
「なぜですか?」
「そのりん子が見たいから」
それが見たいとちゃんと理由を教えてくれた。
まともな理由にホッとする反面、それだけじゃないだろうと想像してしまう。
きっと四つん這いだ。
そう思われるけど、怖くて聞けない。
聞いてしまえば、那智さんの中にある『やろうと思ってる』程度の漠然とした予定をもう少し確実なものにしてしまいそうだったから。
那智さんも、それ以上『なぜ』には触れずにいたので、わたしも内緒のままにしておいた。
百貨店を、百貨店のショウウィンドウの前を、リードを付けて四つん這いで歩くという妄想(那智さん的には実行計画)が話題になってから随分と経っている。
那智さんが『する』と決めたら、決定権がないわたしは『する』。
だけど、那智さんは更に、『してほしい』が『無理』を上回る状態が面白いと思いはじめているから、いま、多分計画を再構築中という感じ。
その状態を待つか、そんなこと関係なく有無を言わさず那智さんがやりたいというテンションになるか、その状況を楽しんでいるところがあるように思う。
(恐らく、那智さんは『やる』という自分の高まりが来ることも、それはそれで楽しいみたいです)
だからか、最近デートの度にショウウィンドウに立つ。
何十mも続くショウウィンドウの端に立ち自分でシミュレーションして、あわあわするわたしを楽しみ、わたしの返答や那智さんルール(通行人ではなく、その場 に先に人がいたらしない)によって、自分のテンションの変化を楽しみ、そして、その場を移動して、緊張で強ばるわたしを解放する。
その後、コンビニわんこに発展したりするから、結局気が気じゃないのだけど、わたしは一瞬の安堵と、一抹の寂しさを覚えるのだ。
そうやって、少しずつ少しずつ、『してほしい』と思わせることに近づけようとしているみたいだ。
ジーンズの指定があったということは、きっと那智さんとしては『ちょっとやる気、あとは成り行き』なんだろう。
いつもより、やる気が多い感じ。
怖いな、どうなるんだろ。
実は、首輪とリードはわたしの手元にあった。
ジーンズと言われたとき、それを持っていくか聞こうと脳裏をかすめたけど、聞けば『やる』に一歩近付いてしまうようで、少しだけためらった。
そのまま話題は違うことに流れていき、結局聞きそびれてしまい、わたしはそれを持たずに待ち合わせに向った。
駅に向う途中で那智さんと電話で話す。
そこで、もう一度それを思い出し持って来ていないことを伝えると。
「ジーンズと言った時点で持ってくるものと思ってたよ。まあ、俺も指示しなかったから仕方ないか。」
ああ、やっぱり『やる気』多めだったんだ…。
忘れていたことで図らずもショウウィンドウで四つん這いを免れた。
可能性はどれくらいあったのかわからないけど、免れた。
でも、それはイコール、違うことをする可能性が一気に上がったことにもなると感じられて、手放しで安心するわけにもいかなかった。
それは、最近のお気に入り『どこでもわんこ』。
お気に入りと言っても、空港ではじめてしてから、実はまだ一度もしていない。
那智さんとしては『いつでもいいよ〜、いつしようっかな〜』という感じでしょうから、多分、この日の『やる気』がリードがないことで、『どこでもわんこ』に傾いたことは、簡単に想像できてしまう。
しかも、那智さんの意志ではなく予定変更したのだもの、きっと確率は上がるということも、負けず嫌いさんだから容易に想像できる。
ああ、怖い。
でも、怖くて仕方がないけれど、どこでもわんこはちょっと幸せだと感じてしまっていることも自覚している。
ううん、やっぱり絶対怖い。
いやいや、まだするなんてひと言も言われていないんだから、そんなに怖がらなくても。
あ、でも、ちょっとしろって言ってほしい…。
那智さんに会うまでの道のり。
こんなふうに、浮かんでは打ち消し望んでは否定しの繰り返し。
気持ちの上下。
だけど、那智さんに会ってからは、もっとずっといっぱい動揺させられちゃんだろうな。
だって、那智さんはわたしの心をグラグラと揺さぶることが好きなんだもの。
まったくもう、わたしったら会う前から那智さんのお望み通りの心の上下。
ひとりあわあわしながら待ち合わせ場所へ。
やっぱり那智さんのテンションは『どこでもわんこ』だった。
待ち合わせの喫煙所で「する?」。
少し移動してモニュメントの前で「する?ここなら目立つよ〜」。
拒否をすれば逆効果だから「地面濡れています」とか「高校生がいるから…」などなど、あれこれ言い訳を言って誤摩化すのだ。
「おすわりって言ったらするの、どう?」
そんな提案に、ああわたしちょっとうっとり。
だめだめ、また打ち消し。
多分、那智さんはこんなことも楽しんでる^^;
歩き出した。
信号を渡って、左右の歩道どちらを歩くかで、那智さんの考えが予測できるんだ。
右に行けばマ○○があってホテルへ。
左に行けば百貨店。
左に行ってほしくないな…、行けばわんこの確率がかなり高くなるもの。
しかし、那智さんの足は左側へ。
わわ、やばい、なんとか右側に行ってもらわなければ!!
どんどん現実に近付いてくると『わんこでうっとり』なんて生易しいこと言ってられないのだ!!!
その間も那智さんはわんこ話題で盛り上がる。
「なんかさ〜、こういう薄汚い路地でさせたくなくなってるんだよね、可哀想でさ(笑)明るいきれいなところでさせてあげたいな〜って最近思うんだよね。」
飲食店の狭間の路地を指差して、ありがたい、でも、困惑する情けをかけてくれたりしてる^^;
「那智さん、マ○○に寄りません!?朝何か召し上がりましたか?」
「いや、食べてないんだよね。」
「ほら、ちょうど信号も青ですし!!」
タイミング良くマ○○の近くの信号が変わった。
その気持ちいいタイミングに那智さんの気持ちも「ま、いいか」になったようで、そのまま右側の歩道に。
よし!!まだ0ではないけれど、これで、ショウウィンドウで『どこでもわんこ』の可能性は下がった。
嬉々としてマ○○に向う。
信号を渡りながら、那智さんが携帯からクーポンを探している。
どうしてもマ○○に寄りたいわけじゃないし、なんかいいクーポンないかな〜みたいな感じだろう。
思った以上にカウンターが混んでる。
歩道まで列が伸び、マ○○に向う足取りが鈍っている。
やばい、黄色信号。
マ○○に寄らない可能性が、ちょっと上がる。
「混んでるな」
「すぐ、順番来ますよ!!」
「う〜ん、でも、クーポンで食べたいものないんだよね〜」
携帯を眺めながら那智さんがいう。
「マ○○なしだな。」
一瞬やばいと思ったけど、歩道を移動したことでわたしの警戒心が少し緩んだみたいで、危機感黄色信号のままマ○○を通り過ぎた。
警戒心が緩み左側の歩道を歩くわたしに那智さんがにやっとしながら言った。
「マ○○、入れなくて残念だったね。俺の思考回路わかる?」
「へ?」
「マ○○に入れなかったのなら、じゃあやるか〜ってなるよね、普通。」
がーーーーーーん。
「マ○○に寄ろうなんて言わなければ、もしかしたら何もなかったかもしれないのにね〜。何か食べようと思った欲求が叶わなかったんだもんね、他の欲求で満足しようと思うのが、俺の思考回路だよね(笑)」
そう言いながら、さっき渡った信号のひとつ先の信号を左に戻るように渡る。
そのときの那智さんの目が『有無を言わせない目』になっていた。
あああああ、これを失敗と言わずしてなんと言おう。
那智さんをこの目にさせてしまったら、もうわたしは抵抗できないんだ。
言葉にならない、文字通りあわあわしてる。
もうわたしが回避できる機会はない。
抵抗もできず、だからといって覚悟を決めることもできないまま、ショウウィンドウに着いた。
ショウウィンドウと洗濯バサミと鞭2
非日常的な日常
マ○○に入って路線変更作戦は失敗に終わり。
抵抗虚しく百貨店のショウウィンドウに。
ああ、どうしよう。
わたしはここで四つん這いになるのだろうか、すべては那智さんの意志。
一番端は、エ○メス。
その前に立つ。
午前中の開店までまだ少し時間がある。
だから、ショウウィンドウ越しに店員さんはいない(はず、もう全然見えてない)。
ただ、それなりに人通りはある。
「はい、おすわり。」
ああ、おすわりですって。
さっき、ほんの少しうっとりした『おすわり』。
怖くて恥ずかしくて仕方がないのに、でも、その言葉にわたしの見えない尻尾がパタンと反応するようだ。
やるの?わたし。
恐る恐る辺りを見回す。
通り過ぎる人々。
道路の向いのコーヒーショップの外のテーブルにはカップルがいる。
そのごく普通の朝の景色に現実に引き戻され、これからしようとすることがいかに非現実的か思い知らされる。
泣きそうになりながら小さく首を振る。
「おすわり」
静かな口調、少し微笑んでいるくらい、だけど有無を言わせない目だ。
那智さんの意志がわたしの意志、でもあまりの人の多さとショウウィンドウから溢れる高級感に、わたしは動けなくなってしまった。
金縛りにあったようで動けないでいると、那智さんがわたしのショルダーバッグを肩からすっと外した。
腕からするりと抜いたバッグを那智さんが持ち、それが合図になった。
覚悟を決めた感覚はない。
有無を言わさずというか、体が勝手にというか。
でも、決して意識がないわけじゃないの。
頭ではわかってて、でも、勝手に体が動いたという感じだ。
怖い。
意識がないわけではないから、とてもとても恐る恐るだ。
歩道に背を向けるように、すこしでも人目から避けるように。
膝を曲げ、手をタイルに付け、お尻を上げる。
那智さんの好みの四つん這いになるように、とんでもなく恥ずかしいけどお尻を上げた。
「手をもう少し前に」
怖さのあまり身を縮めてしまい膝と手触れるほどが近かった。
いくらお尻を上げても、これじゃ四つん這いじゃないんだ。
じりじりと膝から離す。
「もう少し前」
まだ、だめだった。
ちゃんと肩から自然に下ろさないといけないみたい。
うつむいて動く手を見る。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
わたしすごいことしてる。
明るい日差しの中、繁華街の真ん中でお尻を上げて四つん這いのまま静止しているのだ。
恥ずかしくて仕方がないけど、変なわたしを晒す快感。
これはわたしの露出願望。
もうそれだけで精一杯で、まわりの雑踏が耳に入って来ない。
タイルに手が付いている感覚もない。
道行く人コーヒーショップのカップルはどう思うだろう。
一瞬思いを馳せるけど、雑踏が耳に入らないわたしは、その思考があまり広がらなかった。
自分のことで精一杯という感じ。
ただ、わたしの肩のあたりの那智さんの足が当たっていて、それだけが現実との接点のようだった。
まわりが気にならないほど、まわりを気にしていっぱいいっぱいになっている変な状態だった。
全身の血液が顔に集中しているんじゃないかというほど、顔が熱い。
首に那智さんの手が伸びてきた。
ああ、待っていたの。
撫でてくれるのを、待っていたの。
肩に触れる足と首を撫でる手、このふたつに包まれているような、それにつき従う従属感。
やっと訪れた至福の瞬間。
でも、それを味わう間もなく、那智さんの手が髪に移動した。
「顔を上げて。」
髪をぐいっと引き否応なく顔を上げさせられた。
寝ているところを叩き起こされたようだ。
顔が更に熱くなる。
「目を開けてガラスを見て。」
そこには、わたしが映っていた。
昼間の百貨店のショウウィンドウ、背後では人々が通り過ぎる中。
上品な照明のピカピカのガラスに。
四つん這いになって顔を上げているわたしが。
だけど、だめ、輪郭は見えるけど、どんな表情をしているのか周囲はどうか全然見えていない、脳みそに伝達されていない。
ショウウィンドウの前で四つん這いになっているわたしと同じ服装の女性、でも、それは確実にわたし、辛うじてそう認識する。
脳みそに伝達されないぼんやりした意識の中で、わたしはわたしを見る。
自己愛。
なぜだろう、こんな姿がわたしのナルシズムを刺激するのだ。
ここで、また那智さんが首筋を撫でてくれた。
もう、嬉しい、嬉しい。
全身の血が集中しているそこが、今度は一番の性感帯になったみたい。
うっとりする。
那智さんに撫でてもらうためだけに、わたしはいるんじゃないかって錯覚してしまうほど。
ガラスに映った女性の輪郭がどんどんぼやけている。
恥ずかしいも怖いもごめんなさいもなくなっていないはずなんだけど、快感が凌駕した。
『コートの下』というエントリーで書いたのと同じ。
露出願望と従属感と自己愛。
これが一度に満たされると、恍惚とする。
それにしても、いま思うと惜しい気がするな。
わたしはどんな表情をしていただろう。
惚けていたかしら、苦しそうだったかしら、それとも幸せそうだった?
もしかしたら、まったく見たことないようなはしたない表情をしていたかもしれない。
ああ、やっぱり、見えなくて正解だったかもしれないな。
自己嫌悪しちゃいそう。
わたしの自己愛と自己嫌悪は表裏一体みたいだもの。
時間の経過がまったくわからない。
促されて立ち上がる。
恥ずかしくて顔を上げることができない。
この場からすぐにでも立ち去りたい、でも、急いで進めばわたしの四つん這いを見た人に追いついてしまうかもしれない。
どうしてよいかわからず、ただ那智さんの腕にしがみついて歩く。
わなわなとしている。
体が震えているというよりも、体の芯が痺れている。
骨が震えているようだった。
マ○○に入って路線変更作戦は失敗に終わり。
抵抗虚しく百貨店のショウウィンドウに。
ああ、どうしよう。
わたしはここで四つん這いになるのだろうか、すべては那智さんの意志。
一番端は、エ○メス。
その前に立つ。
午前中の開店までまだ少し時間がある。
だから、ショウウィンドウ越しに店員さんはいない(はず、もう全然見えてない)。
ただ、それなりに人通りはある。
「はい、おすわり。」
ああ、おすわりですって。
さっき、ほんの少しうっとりした『おすわり』。
怖くて恥ずかしくて仕方がないのに、でも、その言葉にわたしの見えない尻尾がパタンと反応するようだ。
やるの?わたし。
恐る恐る辺りを見回す。
通り過ぎる人々。
道路の向いのコーヒーショップの外のテーブルにはカップルがいる。
そのごく普通の朝の景色に現実に引き戻され、これからしようとすることがいかに非現実的か思い知らされる。
泣きそうになりながら小さく首を振る。
「おすわり」
静かな口調、少し微笑んでいるくらい、だけど有無を言わせない目だ。
那智さんの意志がわたしの意志、でもあまりの人の多さとショウウィンドウから溢れる高級感に、わたしは動けなくなってしまった。
金縛りにあったようで動けないでいると、那智さんがわたしのショルダーバッグを肩からすっと外した。
腕からするりと抜いたバッグを那智さんが持ち、それが合図になった。
覚悟を決めた感覚はない。
有無を言わさずというか、体が勝手にというか。
でも、決して意識がないわけじゃないの。
頭ではわかってて、でも、勝手に体が動いたという感じだ。
怖い。
意識がないわけではないから、とてもとても恐る恐るだ。
歩道に背を向けるように、すこしでも人目から避けるように。
膝を曲げ、手をタイルに付け、お尻を上げる。
那智さんの好みの四つん這いになるように、とんでもなく恥ずかしいけどお尻を上げた。
「手をもう少し前に」
怖さのあまり身を縮めてしまい膝と手触れるほどが近かった。
いくらお尻を上げても、これじゃ四つん這いじゃないんだ。
じりじりと膝から離す。
「もう少し前」
まだ、だめだった。
ちゃんと肩から自然に下ろさないといけないみたい。
うつむいて動く手を見る。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
わたしすごいことしてる。
明るい日差しの中、繁華街の真ん中でお尻を上げて四つん這いのまま静止しているのだ。
恥ずかしくて仕方がないけど、変なわたしを晒す快感。
これはわたしの露出願望。
もうそれだけで精一杯で、まわりの雑踏が耳に入って来ない。
タイルに手が付いている感覚もない。
道行く人コーヒーショップのカップルはどう思うだろう。
一瞬思いを馳せるけど、雑踏が耳に入らないわたしは、その思考があまり広がらなかった。
自分のことで精一杯という感じ。
ただ、わたしの肩のあたりの那智さんの足が当たっていて、それだけが現実との接点のようだった。
まわりが気にならないほど、まわりを気にしていっぱいいっぱいになっている変な状態だった。
全身の血液が顔に集中しているんじゃないかというほど、顔が熱い。
首に那智さんの手が伸びてきた。
ああ、待っていたの。
撫でてくれるのを、待っていたの。
肩に触れる足と首を撫でる手、このふたつに包まれているような、それにつき従う従属感。
やっと訪れた至福の瞬間。
でも、それを味わう間もなく、那智さんの手が髪に移動した。
「顔を上げて。」
髪をぐいっと引き否応なく顔を上げさせられた。
寝ているところを叩き起こされたようだ。
顔が更に熱くなる。
「目を開けてガラスを見て。」
そこには、わたしが映っていた。
昼間の百貨店のショウウィンドウ、背後では人々が通り過ぎる中。
上品な照明のピカピカのガラスに。
四つん這いになって顔を上げているわたしが。
だけど、だめ、輪郭は見えるけど、どんな表情をしているのか周囲はどうか全然見えていない、脳みそに伝達されていない。
ショウウィンドウの前で四つん這いになっているわたしと同じ服装の女性、でも、それは確実にわたし、辛うじてそう認識する。
脳みそに伝達されないぼんやりした意識の中で、わたしはわたしを見る。
自己愛。
なぜだろう、こんな姿がわたしのナルシズムを刺激するのだ。
ここで、また那智さんが首筋を撫でてくれた。
もう、嬉しい、嬉しい。
全身の血が集中しているそこが、今度は一番の性感帯になったみたい。
うっとりする。
那智さんに撫でてもらうためだけに、わたしはいるんじゃないかって錯覚してしまうほど。
ガラスに映った女性の輪郭がどんどんぼやけている。
恥ずかしいも怖いもごめんなさいもなくなっていないはずなんだけど、快感が凌駕した。
『コートの下』というエントリーで書いたのと同じ。
露出願望と従属感と自己愛。
これが一度に満たされると、恍惚とする。
それにしても、いま思うと惜しい気がするな。
わたしはどんな表情をしていただろう。
惚けていたかしら、苦しそうだったかしら、それとも幸せそうだった?
もしかしたら、まったく見たことないようなはしたない表情をしていたかもしれない。
ああ、やっぱり、見えなくて正解だったかもしれないな。
自己嫌悪しちゃいそう。
わたしの自己愛と自己嫌悪は表裏一体みたいだもの。
時間の経過がまったくわからない。
促されて立ち上がる。
恥ずかしくて顔を上げることができない。
この場からすぐにでも立ち去りたい、でも、急いで進めばわたしの四つん這いを見た人に追いついてしまうかもしれない。
どうしてよいかわからず、ただ那智さんの腕にしがみついて歩く。
わなわなとしている。
体が震えているというよりも、体の芯が痺れている。
骨が震えているようだった。