前置き♪
惹かれ合う理由
このあと載せる文章は、数ヶ月前に書いて、すでに那智さんには読んでもらっているものです。
それに少し手を加えました。
那智さんに出会う前のパートナー探しの遍歴です。
付き合いはじめの頃、かいつまんでお話しはしていいたのですがそれ以上聞いてきませんでした。
付き合いが進んで全部吐き出したくなって、受け止めてほしくて書きはじめたのです。
書くにあたって「なぜ、私が言い出すまで、過去のことを深く詮索しなかったのですか?」と聞いてみました。
「ちょっと聞いただけで、りん子が可哀想で、さらに聞いたらりん子が悲しくなるんじゃないかなと思って聞かなかった。」というのが、お返事でした。
自分の付き合っている女性の過去が気にならないはずないのに、私が悲しい思いをすることを避けて、敢えて聞かずにいてくれた那智さんの優しさに感謝した出来事です。
それでも、そこからは容赦ない。
都合の良いところだけ書くのでなく覚えていることを全部書くように、とのことでした。
だから、全部受け止めてもらうように、お茶を濁さずに書きました。
書いている最中、涙が溢れて仕方がありませんでした。
当時の私は「上手に出会えないな〜」なんて冗談みたいに笑って流していたのに。
あの時、私は傷つき、悲しみ、相手の男性に怒りを覚えていたのだと、はじめて気付いたのでした。
本当はあの時も泣きたかったんだなって、あの時泣けなかった私の分まで涙を流しました。
だから、心理描写などは、「今思えば」で書いています。
長い文章になるので、何回かに分けようと思います。
どうかお付き合いくださいませ。
今日は「初めの旅」の第一弾です。
このあと載せる文章は、数ヶ月前に書いて、すでに那智さんには読んでもらっているものです。
それに少し手を加えました。
那智さんに出会う前のパートナー探しの遍歴です。
付き合いはじめの頃、かいつまんでお話しはしていいたのですがそれ以上聞いてきませんでした。
付き合いが進んで全部吐き出したくなって、受け止めてほしくて書きはじめたのです。
書くにあたって「なぜ、私が言い出すまで、過去のことを深く詮索しなかったのですか?」と聞いてみました。
「ちょっと聞いただけで、りん子が可哀想で、さらに聞いたらりん子が悲しくなるんじゃないかなと思って聞かなかった。」というのが、お返事でした。
自分の付き合っている女性の過去が気にならないはずないのに、私が悲しい思いをすることを避けて、敢えて聞かずにいてくれた那智さんの優しさに感謝した出来事です。
それでも、そこからは容赦ない。
都合の良いところだけ書くのでなく覚えていることを全部書くように、とのことでした。
だから、全部受け止めてもらうように、お茶を濁さずに書きました。
書いている最中、涙が溢れて仕方がありませんでした。
当時の私は「上手に出会えないな〜」なんて冗談みたいに笑って流していたのに。
あの時、私は傷つき、悲しみ、相手の男性に怒りを覚えていたのだと、はじめて気付いたのでした。
本当はあの時も泣きたかったんだなって、あの時泣けなかった私の分まで涙を流しました。
だから、心理描写などは、「今思えば」で書いています。
長い文章になるので、何回かに分けようと思います。
どうかお付き合いくださいませ。
今日は「初めの旅」の第一弾です。
はじめての旅1
惹かれ合う理由
はじめは、メッセージを聞いているだけでよかった。
世の中には、S男性が本当にいるんだと、それを聞いているだけでよかった。
「こんなことをしたい」「こんな経験がある」。
電話の向こうの自称S男性は、自慢している。
それを聞いているだけで、十分だった。
しかし、人間の欲望はエスカレートしていく、わかりきった心の動きだ。
今度は、自分がメッセージを入れてみたくなった。
どんな返事が返ってくるのか、とても知りたくなってしまった。
その先、自分がどうなりたいかなんて考えもせず、私は、電話の向こうの不特定多数の男性に語りかけていた。
「はじめまして、27歳です。昔からSMに興味がありました。自分はMだと思うのですが、経験はありません。
何を話したら良いかわかりませんが、勇気を出して伝言してみました。」
驚くほど、たくさんの数の返事が録音されていた。
全部を聞き終わるのに、1時間以上かかってしまうほどだ。
みんないろんなことを言っている。でも、右耳から左耳に流れては消えていく。
そのうち、最後の方に感じの良い男性からのメッセージが届いた。
なぜ、その人だけに返事をしたのかはっきりとした理由は思い出せない。
私より20歳近くも年の離れたその男性は、私が伝言を吹き込んでから少し時間が経過してしまっていることを、とても心配していて少し慌てていた。
その慌てた感じに好感を持ったのかもしれない。
横道に逸れてしいますが、もう少し私の性癖(願望)をお話しさせてください。
「縛られたい」「困らせてほしい」「支配されたい」
自分に「SM」的な願望があることは自覚しきて、この世界とは何なのだろうと、いくつかの本を読んだ。(読みあさるほど、エッチな本以外で豊富じゃないから)
「O嬢の物語」「昼顔」「家畜人ヤプー」家田荘子さんのルポ「アブノーマルラバーズ(だったかな?)」などなど。
専門誌もあったのでしょうけれど、勇気がなくて買えない。
ちょうど、27歳頃。
パートナーというものを見つければ、夢が叶うかもしれないと知った頃。
叶うかもしれない世界を、もっと知りたくなったのだ。
そこで傾向があることに気づいた。
「奴隷」や「家畜」というような言葉に興奮しながら、違和感を感じていたのだ。
「人間以下の扱い」に憧れは抱くものの、一方で可愛がられたいと思っていた。
可愛がる方法として、「人間以下」の扱いをしてほしいと思っていた。
根底に愛情のようなものを求めていることに気付いたのだ。
どちらかというと「ペット願望」に近いだろう。
さらに、父の影響だろうか、ずっと男の人が怒鳴ったり乱暴な言葉を使ったりするのを極端に恐れていた私は、威圧的暴力的な命令では、萎縮してしまうだろうということも、感じていた。
だから、怖い感じのSMは苦手だと、わかっていた。
普通の恋愛においては、甘えさせることが上手な私は、甘え上手な男性を自然と選んでいた。
「母性本能をくすぐられるタイプが好み♪」なんて、言っていたくらいだ。
現に、年下の男性や、顔つきの可愛らしい人を選んで付き合っていた。
それなのに「SM」のときだけ可愛がられたいなんて、矛盾しているなと当時は思っていた。
いま思えば、簡単なこと、相手を甘えさせることで、自分の甘えたい願望を満たそうとしていたのだろう。
「性的な願望」というフィルターを通すことで、素直に甘えられる状況を作りたかったのかもしれない。
だから無意識に20歳も年の離れた男性を選んだのではないだろうか。
包容力を期待して。
父性という、存在さえ知らない毛布を、無意識に探していたのかもしれない。
しかし、この人との出来事は「上手に出会えない」私の旅の始まりたった。
そして、数年先に那智さんへ繋がる、第一歩でもあったのだ。
はじめは、メッセージを聞いているだけでよかった。
世の中には、S男性が本当にいるんだと、それを聞いているだけでよかった。
「こんなことをしたい」「こんな経験がある」。
電話の向こうの自称S男性は、自慢している。
それを聞いているだけで、十分だった。
しかし、人間の欲望はエスカレートしていく、わかりきった心の動きだ。
今度は、自分がメッセージを入れてみたくなった。
どんな返事が返ってくるのか、とても知りたくなってしまった。
その先、自分がどうなりたいかなんて考えもせず、私は、電話の向こうの不特定多数の男性に語りかけていた。
「はじめまして、27歳です。昔からSMに興味がありました。自分はMだと思うのですが、経験はありません。
何を話したら良いかわかりませんが、勇気を出して伝言してみました。」
驚くほど、たくさんの数の返事が録音されていた。
全部を聞き終わるのに、1時間以上かかってしまうほどだ。
みんないろんなことを言っている。でも、右耳から左耳に流れては消えていく。
そのうち、最後の方に感じの良い男性からのメッセージが届いた。
なぜ、その人だけに返事をしたのかはっきりとした理由は思い出せない。
私より20歳近くも年の離れたその男性は、私が伝言を吹き込んでから少し時間が経過してしまっていることを、とても心配していて少し慌てていた。
その慌てた感じに好感を持ったのかもしれない。
横道に逸れてしいますが、もう少し私の性癖(願望)をお話しさせてください。
「縛られたい」「困らせてほしい」「支配されたい」
自分に「SM」的な願望があることは自覚しきて、この世界とは何なのだろうと、いくつかの本を読んだ。(読みあさるほど、エッチな本以外で豊富じゃないから)
「O嬢の物語」「昼顔」「家畜人ヤプー」家田荘子さんのルポ「アブノーマルラバーズ(だったかな?)」などなど。
専門誌もあったのでしょうけれど、勇気がなくて買えない。
ちょうど、27歳頃。
パートナーというものを見つければ、夢が叶うかもしれないと知った頃。
叶うかもしれない世界を、もっと知りたくなったのだ。
そこで傾向があることに気づいた。
「奴隷」や「家畜」というような言葉に興奮しながら、違和感を感じていたのだ。
「人間以下の扱い」に憧れは抱くものの、一方で可愛がられたいと思っていた。
可愛がる方法として、「人間以下」の扱いをしてほしいと思っていた。
根底に愛情のようなものを求めていることに気付いたのだ。
どちらかというと「ペット願望」に近いだろう。
さらに、父の影響だろうか、ずっと男の人が怒鳴ったり乱暴な言葉を使ったりするのを極端に恐れていた私は、威圧的暴力的な命令では、萎縮してしまうだろうということも、感じていた。
だから、怖い感じのSMは苦手だと、わかっていた。
普通の恋愛においては、甘えさせることが上手な私は、甘え上手な男性を自然と選んでいた。
「母性本能をくすぐられるタイプが好み♪」なんて、言っていたくらいだ。
現に、年下の男性や、顔つきの可愛らしい人を選んで付き合っていた。
それなのに「SM」のときだけ可愛がられたいなんて、矛盾しているなと当時は思っていた。
いま思えば、簡単なこと、相手を甘えさせることで、自分の甘えたい願望を満たそうとしていたのだろう。
「性的な願望」というフィルターを通すことで、素直に甘えられる状況を作りたかったのかもしれない。
だから無意識に20歳も年の離れた男性を選んだのではないだろうか。
包容力を期待して。
父性という、存在さえ知らない毛布を、無意識に探していたのかもしれない。
しかし、この人との出来事は「上手に出会えない」私の旅の始まりたった。
そして、数年先に那智さんへ繋がる、第一歩でもあったのだ。
はじめての旅2
惹かれ合う理由
20歳近く離れたその男性と何度か伝言でやり取りを重ね、会うことになるにはそれほど時間はかからなかった。
ホテルの部屋に入って、その人はロープを取り出して私に見せた。
これで私を縛るのだ。
よく見聞きしていた「麻縄」ではなく、白い綿のロープで形状が麻縄と同じように捻ってあるものだった。
なんとなく麻縄に憧れを抱いていた私は、ほんの少しがっかりする。
服を脱ぐように指示されて、はじめて会った男性の前で裸になる。
恥ずかしいというよりか、不安だ。
そして、どこか醒めている。
手際良く私の体は縛られていく。
この瞬間「夢が叶った」と感じた。
しかし相変わらずどこか醒めたままだ。
この自分の姿を見たい。
ずっと夢に見ていた姿だ。
鏡の前に連れて行ってくれないだろうか。
そして私を1人にしてほしい。
でも、動かしてはくれないし、側に鏡もない。
辛うじてテレビの黒い画面に映る姿を気付かれぬように見る。
この姿に憧れていたのだ。嬉しい。
しかし、嬉しいのは、ここまでだった。
そのうちに、その人が何か金具を持ってきて、天井の梁の出っ張りに穴を開けはじめた。
勝手にホテルの部屋に金具を取り付けている。
その金具にロープを通して、後ろ手に縛られた私を天井から吊るつもりらしい。
吊るというのは、大げさか、天井から引っ張ってその場から動けないように固定する。
これから、何が始まるのか。
はじめて会った男性に自由を奪われる不安で足がすくむ。
もともと負の感情を表に出せない私は、こんな時も「怖い」とか「嫌だ」とか言えずにいた。
SMという上下関係のようなものが存在していると倒錯している空間で、さらに無抵抗になっていた。
固定するために、テレビの前から移動しなければならない。
そのことが残念で、テレビの画面から消えていく自分の姿をぼんやりと見ていた。
もうそこからは、なにも私に喜びをもたらしてはくれなかった。
鈴がついた洗濯ばさみのようなクリップ(?)がいくつか私の体をつまんでも、腰をふってみろと言われても、痛くもないクリップになんの感慨も湧かず、私はかすかな鈴の音しか響かすことはできなかった。
いつまで続くのだろう。
今度は、あぐらをかいたような姿勢で縛り直された。
相変わらず、手は後ろのままだ。
足首と首を一本のロープが繋いでいる。ベッドの上でごろんと後ろに倒されたら、もう自力で起きあがることができない。
壊れただるまだ。
その状態で写真を撮られる。
そして、その男はそのまま私を抱いたのだ。
SMとはセックスを伴うものなのか。
手が痺れて、もう感覚がない。
助けて、どうか一刻も早く射精をして、終わって。
男は「すばらしい」と私を賞賛する言葉を連呼して果てた。
その瞬間、私は自分の血の気が引いていくのを感じた。
男は避妊をしなかったのだ。
確かに、終わりかけではあるが生理中ではあった。
しかしはじめて抱いたたいして素性も知らない女性の中に出す男に怒りを通り越して、恐怖すら覚えた。
しかも私が余りにもすばらしいから、謀らずもいってしまったと照れ臭そうに言う。
ああ、私は、ここでもまた見下さなければならないのか。
それにしても、痺れた手の感覚が麻痺してまったく動かない、
どうしよう。
「それは、君が頑張った勲章だ」と、男は言う。
勲章なんて思えない。怖いだけだ。どうしよう。
少しして、痺れてはいるけれど、動くようにはなった。
(この手の痺れは、一週間ほどとれなかった)
ようやく落ち着いて、男はビールを注いで乾杯をしようという。
ここでも、なぜ私は演技をするのだろう。
床に正座してみせるのだ。
男はソファに腰掛けて、私は少し離れて正座する。
しおらしい奴隷(男は愛奴と言った、はじめて耳にする単語)の姿に感動した男は、私を足下に引き寄せようとするけれど、私は恥ずかしさを装っていやいやをする。
近くに行く気になれない。
もっと感動している。ばかみたいだ。
男は、しばらくゆっくりしたいようだったが、時間がないと嘘をつく。
残念そうな男は、私の役割だと道具を片づけることを指示する。
「早く帰りたい、早く帰りたい」
僅かな生理のあとの残るロープを洗面所で洗いながらおまじないのように心で唱えた。
車から降りる時に、使い捨てカメラを渡された。
さっき私を撮ったものだ。
「今日は、お互いの魂を見せ合った。その記念にこれを持っていて」という男。
ふざけたことを言う男だ。
私の魂は、そんなに安くない。
家に着いてすぐ、カメラを分解して、フィルムを切り刻んだ。
恐怖と後悔と怒りを拭い去るように。
それから、その男は当然のことながら私に会いたがった。
はぐらかしているうちに、職場に来たりした。
相手も役職の付いた社会人だから、さすがに私に声をかけたりはしないで、遠巻きにみていたらしい。
その話を電話で聞かされて、もうちゃんと断らなければいけないと決心する。
「君のために麻縄を買ったんだ」切なげに話す男の声を遮って、言う。
「避妊してくれなかったから、もう怖くて会えない」
そのあと、男がどんな言葉を発したのか、はっきりと覚えていない。
後悔の念と諦めの言葉を口にしていたような気がする。
「麻縄」という響きに、一瞬心がざわめいたけど、もうそれ以外に、男のどんな言葉も私の心を動かすことはなかった。
はじめて「SM」は、私には恐怖の体験になってしまった。
縛られたときに感じた「夢が叶っている」一瞬の喜びと引き替えに、恐怖と後悔と、やっぱり叶わないのかと諦めを胸に刻むだけだった。
20歳近く離れたその男性と何度か伝言でやり取りを重ね、会うことになるにはそれほど時間はかからなかった。
ホテルの部屋に入って、その人はロープを取り出して私に見せた。
これで私を縛るのだ。
よく見聞きしていた「麻縄」ではなく、白い綿のロープで形状が麻縄と同じように捻ってあるものだった。
なんとなく麻縄に憧れを抱いていた私は、ほんの少しがっかりする。
服を脱ぐように指示されて、はじめて会った男性の前で裸になる。
恥ずかしいというよりか、不安だ。
そして、どこか醒めている。
手際良く私の体は縛られていく。
この瞬間「夢が叶った」と感じた。
しかし相変わらずどこか醒めたままだ。
この自分の姿を見たい。
ずっと夢に見ていた姿だ。
鏡の前に連れて行ってくれないだろうか。
そして私を1人にしてほしい。
でも、動かしてはくれないし、側に鏡もない。
辛うじてテレビの黒い画面に映る姿を気付かれぬように見る。
この姿に憧れていたのだ。嬉しい。
しかし、嬉しいのは、ここまでだった。
そのうちに、その人が何か金具を持ってきて、天井の梁の出っ張りに穴を開けはじめた。
勝手にホテルの部屋に金具を取り付けている。
その金具にロープを通して、後ろ手に縛られた私を天井から吊るつもりらしい。
吊るというのは、大げさか、天井から引っ張ってその場から動けないように固定する。
これから、何が始まるのか。
はじめて会った男性に自由を奪われる不安で足がすくむ。
もともと負の感情を表に出せない私は、こんな時も「怖い」とか「嫌だ」とか言えずにいた。
SMという上下関係のようなものが存在していると倒錯している空間で、さらに無抵抗になっていた。
固定するために、テレビの前から移動しなければならない。
そのことが残念で、テレビの画面から消えていく自分の姿をぼんやりと見ていた。
もうそこからは、なにも私に喜びをもたらしてはくれなかった。
鈴がついた洗濯ばさみのようなクリップ(?)がいくつか私の体をつまんでも、腰をふってみろと言われても、痛くもないクリップになんの感慨も湧かず、私はかすかな鈴の音しか響かすことはできなかった。
いつまで続くのだろう。
今度は、あぐらをかいたような姿勢で縛り直された。
相変わらず、手は後ろのままだ。
足首と首を一本のロープが繋いでいる。ベッドの上でごろんと後ろに倒されたら、もう自力で起きあがることができない。
壊れただるまだ。
その状態で写真を撮られる。
そして、その男はそのまま私を抱いたのだ。
SMとはセックスを伴うものなのか。
手が痺れて、もう感覚がない。
助けて、どうか一刻も早く射精をして、終わって。
男は「すばらしい」と私を賞賛する言葉を連呼して果てた。
その瞬間、私は自分の血の気が引いていくのを感じた。
男は避妊をしなかったのだ。
確かに、終わりかけではあるが生理中ではあった。
しかしはじめて抱いたたいして素性も知らない女性の中に出す男に怒りを通り越して、恐怖すら覚えた。
しかも私が余りにもすばらしいから、謀らずもいってしまったと照れ臭そうに言う。
ああ、私は、ここでもまた見下さなければならないのか。
それにしても、痺れた手の感覚が麻痺してまったく動かない、
どうしよう。
「それは、君が頑張った勲章だ」と、男は言う。
勲章なんて思えない。怖いだけだ。どうしよう。
少しして、痺れてはいるけれど、動くようにはなった。
(この手の痺れは、一週間ほどとれなかった)
ようやく落ち着いて、男はビールを注いで乾杯をしようという。
ここでも、なぜ私は演技をするのだろう。
床に正座してみせるのだ。
男はソファに腰掛けて、私は少し離れて正座する。
しおらしい奴隷(男は愛奴と言った、はじめて耳にする単語)の姿に感動した男は、私を足下に引き寄せようとするけれど、私は恥ずかしさを装っていやいやをする。
近くに行く気になれない。
もっと感動している。ばかみたいだ。
男は、しばらくゆっくりしたいようだったが、時間がないと嘘をつく。
残念そうな男は、私の役割だと道具を片づけることを指示する。
「早く帰りたい、早く帰りたい」
僅かな生理のあとの残るロープを洗面所で洗いながらおまじないのように心で唱えた。
車から降りる時に、使い捨てカメラを渡された。
さっき私を撮ったものだ。
「今日は、お互いの魂を見せ合った。その記念にこれを持っていて」という男。
ふざけたことを言う男だ。
私の魂は、そんなに安くない。
家に着いてすぐ、カメラを分解して、フィルムを切り刻んだ。
恐怖と後悔と怒りを拭い去るように。
それから、その男は当然のことながら私に会いたがった。
はぐらかしているうちに、職場に来たりした。
相手も役職の付いた社会人だから、さすがに私に声をかけたりはしないで、遠巻きにみていたらしい。
その話を電話で聞かされて、もうちゃんと断らなければいけないと決心する。
「君のために麻縄を買ったんだ」切なげに話す男の声を遮って、言う。
「避妊してくれなかったから、もう怖くて会えない」
そのあと、男がどんな言葉を発したのか、はっきりと覚えていない。
後悔の念と諦めの言葉を口にしていたような気がする。
「麻縄」という響きに、一瞬心がざわめいたけど、もうそれ以外に、男のどんな言葉も私の心を動かすことはなかった。
はじめて「SM」は、私には恐怖の体験になってしまった。
縛られたときに感じた「夢が叶っている」一瞬の喜びと引き替えに、恐怖と後悔と、やっぱり叶わないのかと諦めを胸に刻むだけだった。
2回目の旅1
惹かれ合う理由
こんな夢を見ました。
私は、どこか人の往来の激しい場所に立っています。
デパートの正面玄関のような所です。
白いコットンのワンピースを着ています。
知らない男性が、やって来て、私の頭に水を掛けはじめます。
ビールのピッチャーくらいの量の水を、頭の上からゆっくりと。
水は、髪をつたい、滴り落ちワンピースに不規則な縞模様を作ります。
ワンピースの中は下着だけです。
それが、透けてしまう。
困りました、人前でこんなこと。
両手で隠そうとするけれど、二本の手では隠しきれないのです。
もじもじと両手と体を動かして、なんとかしようとしている私に、その人は言います。
「この次は、下着を着けずにおいで」
そんなの無理、下着が透けているだけでこんなに困るのに、下着がなければもっと恥ずかしいではありませんか。
どうしよう、困ったな、と思いながら、でも、私はまたここに来てしまうであろうことも、わかっているのです。
困りながらも、得も言えぬ幸せと興奮を覚えながら。
目を覚まして、途方に暮れる。
こんな夢を見てしまうほど、こんな夢で興奮してしまうほど、私はMなのかと。
どうしようもなく、Mなのだと気付かされる。
数年前に嫌な思いをして、少し落ち着いていたではないか。
もちろん「誰でもいいから、この両手首を縛ってくれないか」と切羽詰まって、心のやり場に困ってしまうことは、消えてはいないけれど。
1人の世界でなんとか消化できていたではないか。
オナニーでなんとかなるような体の欲求だけではないと気付く時、私は途方に暮れてしまう。
どうしても他者の存在が欲しくなる。
この私を認識してくれるだけで良いから。
ためらいながらも受話器を持つ。
嫌な思いをして以来、はじめてメッセージを吹き込むために。
でも誰かに会おうとは思わない。
ただこんな夢を見て私は誰かに困らせてほしいんだなと思う、それだけを伝えた。
だから、はっきりと「会うつもりはない」とも付け加えた。
とにかく吐き出したかったのだ。
それでもお返事はくるもので、でも、ほとんどは「そう言わずに会いましょう」と誘ってくるものだった。
落胆した、この私のMの感覚を認めてくれるだけの人はいないのか。
まあ、当たり前といえば、当たり前だけど。
その中で、一件だけ違う種類のお返事があった。
私を認めてくれている。
「あなたはM に必要な想像力と知性を持っている。会う必要はないが、電話でだけでもそのM性を引き出してあげられる」と言っているのだ。
会わないならば怖くない、しかも、この行き場のない気持ちを収められるかもしれない。
私は藁にもすがる思いで、返事を返していた。
はじめてSの男性とゆっくりと話しをする。
受話器を持ち、緊張しながら会話が始まる。
いくつか質問される。
答えるのは、嬉しい作業。
「名前はどんな漢字?」
「○と書きます。」
「やっぱり、そんな感じがした。」
「髪の色は?」
「黒いです。」
「そうだと思った、今言おうとしたんだ。」
「なぜわかるのですか?」などと言いながら、心のどこかで「あれ?」と思う。
こちらからも、いくつか質問を投げかける。
名字は聞いていたから、下のお名前は?
返ってきた答えは「おまえが知る必要はない」
職種(経営者ではあるらしい)、会社の所在地、いままでの経験・・。
奴隷は知らないでいいと言う。
また、私は心に「?」を残す。
「私は奴隷なの?そんなに簡単に奴隷になれてしまうの?それとも、役割分担で奴隷になれば良いの?なぜ、もっと教えてくれないの?」
そして、会話の端々で私のことを「ばか」と言う。
自分をすごい存在にするために。
ちっともすごくないことに気が付きながら、会話を続ける。
私はやっと叶うかもしれない「Mだということを知ってもらう」という機会を逃したくなく、その思いに蓋をしていた。
こんな調子で何度も電話が続くはずもない。
何回目かに、結局会おうという話になる。
どんな会話からそうなったか覚えていないのですが、とにかく私から会おうと言ってあげたのは、覚えています。
その人は、「会ってくれ」と私に言わせることができて満足そうでしたが。
はじめて下りる駅でずいぶんと待たされる。
待ち合わせの時間はとっくに過ぎていて、携帯も何も持っていない私は、とても不安。
冬だった。
地下鉄の改札。
外ではないとはいえ、やっぱり寒い。
体が冷え切ったころに、1人の男性が現れた。
正直に言うと、がっかりしてしまった(笑)。
「人は見た目で判断してはいけません。」
正論だとは思うけど、中身を見せてくれない人に好意を持つには、見た目だって大切だ。
それでも、私はついて行く。
もしかしたら、これから私のほしいものを与えてくれるかもしれないと、一縷の望みを捨てられずに。
ホテルの部屋に入ってから、覚えていること。
裸の私に「オナニーをしろ」と命じてきた。
いきなりそう言われても・・。
ためらいながらも従うと、何かが起動する「ピピッ」という音が聞こえた。
慌てて音の方を見ると、カメラを構えている。
ビデオだ!
「本当に撮るんですか?!」
驚く私に、その人は「顔をこちらに向けるな!」と叱責する。
半分自暴自棄になり続ける。
いくように努力する。
いけば終わりになるはずだ、そうしたら、何か別なことをしてくれるかもしれない。
命令されることに憧れていたくせに、嬉しくない。なぜだろう。
結局、その後その人は、私を後ろから犯した。
射精を終えると、さっさとスーツを着始める。
「射精をしたら、すぐ冷める」そうだ。
ほとんど、会話らしい会話もないままホテルを出る。
そして、そのまま最寄り駅で降ろされた。
私のM性(そもそもM性なんて言葉変!!)を引き出してくれると言ったその男性は、ビデオ撮影とセックスだけして、わずか1時間半ほどで、私を解放した。
経験も知識もなく、男性(父性)に慈しまれるという感覚も知らない私は、異性に対する「快・不快」を自分で判断することができなかった。(自分の心なのに)
自分自身や自分の判断に自信のない私。
相手が、私を求めてくることで(主に体を)、愛情の有無を決めるようなところがあった。
無償の愛を信じられなかったのだ。
もちろん、たかが「SMのパートナー」に、無償の愛や慈しみなんて必要ないかもしれない。
ただ、私は、相手を選ぶ基準とか審美眼を持っていなかったから、この男性の不誠実さに異を唱える自信がなかったのだ。
だから、今回は、たまたまこれだけであって、このあと最低限の人間関係を構築して、私の「M性」を引き出してくれるのだろうと、思ってしまっていた。
コミュニケーションもなく、遅刻の謝罪もない、かといって奴隷扱いさえしてくれない人に、不快だと自覚すらできないまま、関係は続いていった。
こんな夢を見ました。
私は、どこか人の往来の激しい場所に立っています。
デパートの正面玄関のような所です。
白いコットンのワンピースを着ています。
知らない男性が、やって来て、私の頭に水を掛けはじめます。
ビールのピッチャーくらいの量の水を、頭の上からゆっくりと。
水は、髪をつたい、滴り落ちワンピースに不規則な縞模様を作ります。
ワンピースの中は下着だけです。
それが、透けてしまう。
困りました、人前でこんなこと。
両手で隠そうとするけれど、二本の手では隠しきれないのです。
もじもじと両手と体を動かして、なんとかしようとしている私に、その人は言います。
「この次は、下着を着けずにおいで」
そんなの無理、下着が透けているだけでこんなに困るのに、下着がなければもっと恥ずかしいではありませんか。
どうしよう、困ったな、と思いながら、でも、私はまたここに来てしまうであろうことも、わかっているのです。
困りながらも、得も言えぬ幸せと興奮を覚えながら。
目を覚まして、途方に暮れる。
こんな夢を見てしまうほど、こんな夢で興奮してしまうほど、私はMなのかと。
どうしようもなく、Mなのだと気付かされる。
数年前に嫌な思いをして、少し落ち着いていたではないか。
もちろん「誰でもいいから、この両手首を縛ってくれないか」と切羽詰まって、心のやり場に困ってしまうことは、消えてはいないけれど。
1人の世界でなんとか消化できていたではないか。
オナニーでなんとかなるような体の欲求だけではないと気付く時、私は途方に暮れてしまう。
どうしても他者の存在が欲しくなる。
この私を認識してくれるだけで良いから。
ためらいながらも受話器を持つ。
嫌な思いをして以来、はじめてメッセージを吹き込むために。
でも誰かに会おうとは思わない。
ただこんな夢を見て私は誰かに困らせてほしいんだなと思う、それだけを伝えた。
だから、はっきりと「会うつもりはない」とも付け加えた。
とにかく吐き出したかったのだ。
それでもお返事はくるもので、でも、ほとんどは「そう言わずに会いましょう」と誘ってくるものだった。
落胆した、この私のMの感覚を認めてくれるだけの人はいないのか。
まあ、当たり前といえば、当たり前だけど。
その中で、一件だけ違う種類のお返事があった。
私を認めてくれている。
「あなたはM に必要な想像力と知性を持っている。会う必要はないが、電話でだけでもそのM性を引き出してあげられる」と言っているのだ。
会わないならば怖くない、しかも、この行き場のない気持ちを収められるかもしれない。
私は藁にもすがる思いで、返事を返していた。
はじめてSの男性とゆっくりと話しをする。
受話器を持ち、緊張しながら会話が始まる。
いくつか質問される。
答えるのは、嬉しい作業。
「名前はどんな漢字?」
「○と書きます。」
「やっぱり、そんな感じがした。」
「髪の色は?」
「黒いです。」
「そうだと思った、今言おうとしたんだ。」
「なぜわかるのですか?」などと言いながら、心のどこかで「あれ?」と思う。
こちらからも、いくつか質問を投げかける。
名字は聞いていたから、下のお名前は?
返ってきた答えは「おまえが知る必要はない」
職種(経営者ではあるらしい)、会社の所在地、いままでの経験・・。
奴隷は知らないでいいと言う。
また、私は心に「?」を残す。
「私は奴隷なの?そんなに簡単に奴隷になれてしまうの?それとも、役割分担で奴隷になれば良いの?なぜ、もっと教えてくれないの?」
そして、会話の端々で私のことを「ばか」と言う。
自分をすごい存在にするために。
ちっともすごくないことに気が付きながら、会話を続ける。
私はやっと叶うかもしれない「Mだということを知ってもらう」という機会を逃したくなく、その思いに蓋をしていた。
こんな調子で何度も電話が続くはずもない。
何回目かに、結局会おうという話になる。
どんな会話からそうなったか覚えていないのですが、とにかく私から会おうと言ってあげたのは、覚えています。
その人は、「会ってくれ」と私に言わせることができて満足そうでしたが。
はじめて下りる駅でずいぶんと待たされる。
待ち合わせの時間はとっくに過ぎていて、携帯も何も持っていない私は、とても不安。
冬だった。
地下鉄の改札。
外ではないとはいえ、やっぱり寒い。
体が冷え切ったころに、1人の男性が現れた。
正直に言うと、がっかりしてしまった(笑)。
「人は見た目で判断してはいけません。」
正論だとは思うけど、中身を見せてくれない人に好意を持つには、見た目だって大切だ。
それでも、私はついて行く。
もしかしたら、これから私のほしいものを与えてくれるかもしれないと、一縷の望みを捨てられずに。
ホテルの部屋に入ってから、覚えていること。
裸の私に「オナニーをしろ」と命じてきた。
いきなりそう言われても・・。
ためらいながらも従うと、何かが起動する「ピピッ」という音が聞こえた。
慌てて音の方を見ると、カメラを構えている。
ビデオだ!
「本当に撮るんですか?!」
驚く私に、その人は「顔をこちらに向けるな!」と叱責する。
半分自暴自棄になり続ける。
いくように努力する。
いけば終わりになるはずだ、そうしたら、何か別なことをしてくれるかもしれない。
命令されることに憧れていたくせに、嬉しくない。なぜだろう。
結局、その後その人は、私を後ろから犯した。
射精を終えると、さっさとスーツを着始める。
「射精をしたら、すぐ冷める」そうだ。
ほとんど、会話らしい会話もないままホテルを出る。
そして、そのまま最寄り駅で降ろされた。
私のM性(そもそもM性なんて言葉変!!)を引き出してくれると言ったその男性は、ビデオ撮影とセックスだけして、わずか1時間半ほどで、私を解放した。
経験も知識もなく、男性(父性)に慈しまれるという感覚も知らない私は、異性に対する「快・不快」を自分で判断することができなかった。(自分の心なのに)
自分自身や自分の判断に自信のない私。
相手が、私を求めてくることで(主に体を)、愛情の有無を決めるようなところがあった。
無償の愛を信じられなかったのだ。
もちろん、たかが「SMのパートナー」に、無償の愛や慈しみなんて必要ないかもしれない。
ただ、私は、相手を選ぶ基準とか審美眼を持っていなかったから、この男性の不誠実さに異を唱える自信がなかったのだ。
だから、今回は、たまたまこれだけであって、このあと最低限の人間関係を構築して、私の「M性」を引き出してくれるのだろうと、思ってしまっていた。
コミュニケーションもなく、遅刻の謝罪もない、かといって奴隷扱いさえしてくれない人に、不快だと自覚すらできないまま、関係は続いていった。
2回目の旅2
惹かれ合う理由
次に会ったのは、春になってからだ。
時々電話連絡はしていたけれどほとんど繋がらない人で、それでも私は毎晩毎晩連絡を待ったのだ。
その人が良いのか、繋がりたいだけなのか、わからなくなるほどに。
2回目も前回待ち合わせた駅だ。
今度から、待ち合わせる時には必ず缶コーヒーを買っておくように指示されたので、コーヒー片手に待ち合わせ場所にたたずむ。
相変わらず大幅に遅刻。
以前電話で、「缶コーヒーの代金は支払うけど、おまえの舌の上に100円玉を置いてやる。涎が垂れてみっともないだろうな」と言われたことがある。
そのころから、「惨めな私」に憧れを持っていることを自覚していたので、密かに楽しみにしていたのだ。
遅れてきたその人はコーヒーを受け取ると、手渡しでお金をくれた。
残念に思ってしまった。
私が貪欲過ぎるのだろうか・・。
なかなか、私のM心は満たされない。
また撮影から始まった。
今度は写真だ。
服を着たまま、スカートをはだけさせたり、シャツのボタンを外したり、ポーズを取らされる。
そのうち、バイブレーターを持ち出して小道具に使いはじめた。
胸元に置いたり、ストッキングの上から当てるように促されたり。
そのまま感じるように使えと言われても、どう使っていいかもわからないし、なぜか、この状況に酔えない。
やっぱり、嬉しくない。
撮影が終わって、すぐまた抱かれた。
前回もそうだが男は裸にならない。
シャツとパンツを着たまま、後ろから犯すのだ。
それで、終わりだった。
「おまえは、ほとんど褒められたところはないけど、唯一足だけはきれいだ」
そんな言葉を言われても、全然心に響かない。
なぜ、何もないのだろう、それともこれもSMなのだろうか。
では、なぜ嬉しくないのだろう。
帰路に就く電車に揺られながら、虚しく思う。
心が通わないと始まらないことに、薄々気付きはじめていた。
「今日は、思い切り派手な服装で、派手な化粧で来い。それと、洗濯ばさみを買ってくるように」
三回目は夏だった。
20代前半に買った派手なワンピースで待つ。
とても目立ってしまっている。
それでも、男はまた大幅に遅刻だ。
そして、また撮影。
でも、違うこともした。
フェラチオをした。
男は男性器に名前を付けていた。「男様」(すごい名称!!)と呼べと言う。
私はそのままの名称(おちんちんとかね・・・)は口にするのが苦手だったから、好都合だった。
でも、冷めたままそう呼んで、くわえる私には気付いていない。
また、後ろを向かされる。
そして、はじめてSMらしいことをした。
ホテルの靴べらで、お尻を叩かれたのだ。
でも、痛くない。
なんだか恐る恐る叩いている感じが伝わってしまう。
痛くないものなのか。
SMって演技しないといけないものなのか。
痛くないものを、どう表現したら良いのかわからず、とまどいながらベッドに顔を埋めていた。
バックから犯されている時にテレビ画面に流れるアダルトビデオを観ながら「おまえはただの穴だ」と言われた言葉だけが、なんだか私の救いだった。
使われず仕舞いだった洗濯ばさみを持ち帰りながら、私はやっと気付く。
好きな人じゃなければ、だめなんだ。
好きな人の前だから、恥ずかしいし嬉しいんだ。
でも好きな人なら、過去に付き合った恋人でも事足りたはずだ。
好きな人に頼んで恥ずかしくしてもらっても嬉しくない。
演技でもなく、スパイスでもなく、心から跪きたいのだ。
私は、支配されたいのだ。
支配なんて、容易いことではない。
それにはこの人だから言うことを聞きたいと思わせてくれる人じゃないとだめなんだ。
その人の欲求を、私にぶつけてほしいんだ。
縛られたり、叩かれたり、されたいのではない。
圧倒的な存在の言うことをききたいのだ。
いつも服を着たまま、私の顔を見るわけでもなく後ろから犯す、キスはおろか(したいと思わなかったけど)手も握らない男に、恋も支配もできるわけがない。
結局、男の体調不良も重なり、あっけなく終わりを迎えた。
「待てるか」と聞かれたが、なんの未練もないあっさりと別れた。
この男は私が良いのではない。
私じゃなくても、事足りるはずだ。
どうしたら尊敬する人に欲求をぶつけてもらえるのか。
そもそも見下す感情だけで、尊敬という感情を持ったことのない私に人を尊敬できるのだろうか。
私の本当の旅は、この時から始まったのかもしれない。
次に会ったのは、春になってからだ。
時々電話連絡はしていたけれどほとんど繋がらない人で、それでも私は毎晩毎晩連絡を待ったのだ。
その人が良いのか、繋がりたいだけなのか、わからなくなるほどに。
2回目も前回待ち合わせた駅だ。
今度から、待ち合わせる時には必ず缶コーヒーを買っておくように指示されたので、コーヒー片手に待ち合わせ場所にたたずむ。
相変わらず大幅に遅刻。
以前電話で、「缶コーヒーの代金は支払うけど、おまえの舌の上に100円玉を置いてやる。涎が垂れてみっともないだろうな」と言われたことがある。
そのころから、「惨めな私」に憧れを持っていることを自覚していたので、密かに楽しみにしていたのだ。
遅れてきたその人はコーヒーを受け取ると、手渡しでお金をくれた。
残念に思ってしまった。
私が貪欲過ぎるのだろうか・・。
なかなか、私のM心は満たされない。
また撮影から始まった。
今度は写真だ。
服を着たまま、スカートをはだけさせたり、シャツのボタンを外したり、ポーズを取らされる。
そのうち、バイブレーターを持ち出して小道具に使いはじめた。
胸元に置いたり、ストッキングの上から当てるように促されたり。
そのまま感じるように使えと言われても、どう使っていいかもわからないし、なぜか、この状況に酔えない。
やっぱり、嬉しくない。
撮影が終わって、すぐまた抱かれた。
前回もそうだが男は裸にならない。
シャツとパンツを着たまま、後ろから犯すのだ。
それで、終わりだった。
「おまえは、ほとんど褒められたところはないけど、唯一足だけはきれいだ」
そんな言葉を言われても、全然心に響かない。
なぜ、何もないのだろう、それともこれもSMなのだろうか。
では、なぜ嬉しくないのだろう。
帰路に就く電車に揺られながら、虚しく思う。
心が通わないと始まらないことに、薄々気付きはじめていた。
「今日は、思い切り派手な服装で、派手な化粧で来い。それと、洗濯ばさみを買ってくるように」
三回目は夏だった。
20代前半に買った派手なワンピースで待つ。
とても目立ってしまっている。
それでも、男はまた大幅に遅刻だ。
そして、また撮影。
でも、違うこともした。
フェラチオをした。
男は男性器に名前を付けていた。「男様」(すごい名称!!)と呼べと言う。
私はそのままの名称(おちんちんとかね・・・)は口にするのが苦手だったから、好都合だった。
でも、冷めたままそう呼んで、くわえる私には気付いていない。
また、後ろを向かされる。
そして、はじめてSMらしいことをした。
ホテルの靴べらで、お尻を叩かれたのだ。
でも、痛くない。
なんだか恐る恐る叩いている感じが伝わってしまう。
痛くないものなのか。
SMって演技しないといけないものなのか。
痛くないものを、どう表現したら良いのかわからず、とまどいながらベッドに顔を埋めていた。
バックから犯されている時にテレビ画面に流れるアダルトビデオを観ながら「おまえはただの穴だ」と言われた言葉だけが、なんだか私の救いだった。
使われず仕舞いだった洗濯ばさみを持ち帰りながら、私はやっと気付く。
好きな人じゃなければ、だめなんだ。
好きな人の前だから、恥ずかしいし嬉しいんだ。
でも好きな人なら、過去に付き合った恋人でも事足りたはずだ。
好きな人に頼んで恥ずかしくしてもらっても嬉しくない。
演技でもなく、スパイスでもなく、心から跪きたいのだ。
私は、支配されたいのだ。
支配なんて、容易いことではない。
それにはこの人だから言うことを聞きたいと思わせてくれる人じゃないとだめなんだ。
その人の欲求を、私にぶつけてほしいんだ。
縛られたり、叩かれたり、されたいのではない。
圧倒的な存在の言うことをききたいのだ。
いつも服を着たまま、私の顔を見るわけでもなく後ろから犯す、キスはおろか(したいと思わなかったけど)手も握らない男に、恋も支配もできるわけがない。
結局、男の体調不良も重なり、あっけなく終わりを迎えた。
「待てるか」と聞かれたが、なんの未練もないあっさりと別れた。
この男は私が良いのではない。
私じゃなくても、事足りるはずだ。
どうしたら尊敬する人に欲求をぶつけてもらえるのか。
そもそも見下す感情だけで、尊敬という感情を持ったことのない私に人を尊敬できるのだろうか。
私の本当の旅は、この時から始まったのかもしれない。