リードを付けて3
非日常的な日常
『リードを付けて1 2』の続きです。
那智さんの歩く速度が緩む。
ああ、ここで止まらないで、ここで止まれば、今日は確実にわんこになる。
コンビニの前には誰もいない。
那智さんルールでは、『あり』の状態。
このコンビニは歩道と店舗の間に駐車(駐輪?)スペースがあって、その駐車スペースにガードレールのような柵があるのだ。
その柵は歩道と店舗の中間辺りにある。
そこまで来た、来てしまった。
「買い物するから、ここで待ってて。」
「四つん這いでですか?」
「うん、リードを結んでおくからね。」
無理です!!
ひとりで待つなんて怖い。
以前、この場面もシミュレーションしてた。
『りん子が外で待ってて、俺がコンビニから出て来たら頭撫でてあげる。いいこで待ってたねって』
これも、わたしの憧れのシーンだ。
でも、やっぱり、さあやりましょうとなると、怖いし恥ずかしいし、無理。
首を振って、首から繋がっているリードを胸に抱えて、小さく抵抗する。
那智さんが手を伸ばし、リードを取ろうとする。
取られまいと抱える腕に力が入る。
わたしは左手を体の前に出し、拒否をしようとした。
その瞬間。
那智さんの右手が『パンッ』とその手を振り払った。
それが合図だった。
『やる?』と遊ぶことから、実行に変わったことを知らせる合図。
こうなると、もうわたしに拒否権はない。
怖い恥ずかしいやりたくないと思っても、やるのだ。
那智さんの意志がわたしの意志になる。
なぜ?
それは、そういう関係だから。
わたしがそういう関係を望んでいるから。
振り払われたわたしの左手はもうリードを抱えるために胸に戻ることはなかった。
もう片方の腕も白旗を挙げ、リードから離す。
那智さんがリード掴んだ。
文字通り那智さんに『渡した』瞬間だった。
とりあえずゆっくり、その場にしゃがむ。
いきなり四つん這いになるよりも、抵抗感を少しでも減らしたくて。
柵の一番低いポールにリードを結ぶ那智さんの手しか見えない。
「お尻を上げるんですよね?」
「そう。」
以前、コンビに前でわんこになったとき、アスファルトに両手両膝はついたけど、怖くてお尻を上げられなかった。
那智さんの望む姿勢は、膝をつきお尻を上げて背中が地面と平行になること。
だから、次はそうしなきゃダメと言われていたの。
両手をアスファルトにつける。
いつもながら、アスファルトが近い。
そして、自分の掌がアスファルトについている不思議。
まだ那智さんが側にいてくれてる。
怖々お尻を上げる。
でも、怖くて、膝の角度は90度にできていない(60度くらい?)。
わたしの姿勢を確認してからか、那智さんがさっと頭を撫でてくれて、離れていった。
ひとりのなっちゃった!!
歩道に背中を向けて、うつむいて髪を垂らして息を潜める。
怖い、恥ずかしい。
アスファルトにつく掌だけを見つめて、ひたすら時間が過ぎるのを待つ。
でも、僅かに、ごく僅かにわんこの喜びも湧く。
それでも、早く早く那智さんと祈る中。
まだ四つん這いになって20秒も経っていないころだ。
「大丈夫ですか?」
背後から男性の声がした。
声かけられてしまった!!!
心臓が口から飛び出そうだ。
どうしよう、どうしよう、どうしよう!!!!!
「はい!!」
顔を上げず固まった体勢のまま、とにかく必死に返事をする。
多分、必死だったから、思いの外大きな声になってしまったような気がする。
心配してくれたのに、ごめんなさい。
もし不快な思いをさせてしまったら、ほんとにごめんなさい。
でも、どうか、わたしを気にしないで!!!
怖さと申し訳ない気持ちで体が震える。
怖くて、なんとか膝を60度にしてお尻を上げていた姿勢を保っていられない。
怯える犬のようにお尻が下がってしまう。
それでも、踵にお尻をつけてしまったら、それは那智さんの望みじゃない。
だから、萎えそうな気持ちをなんとか励まし、ぎりぎりお尻を浮かせるようにする。
アスファルトについた小刻みに震える掌だけを見つめる。
那智さんが買ってくれた可愛い指輪。
そこに気持ちを集中させるの。
声をかけた男性は多分離れていっただろう。
それでも、どこからともなくざわついた空気が伝わってくる。
男性の、女性の、『なに』という囁くのような気配。
消えてしまいたい。
早く、早く、那智さん帰ってきて。
思ったより時間がかかっているように感じられる。
もう、恥ずかしくて死んでしまいそう。
早く、早く、早く!!!!
目を閉じて現実から逃げてしまおうと思ったところで、足音が近付いて来た。
ああ、那智さんだ。
目を開け、靴を見つけると安心して一気に感情が溢れ出す。
「いいこに待ってたね。」
しゃがんで首筋や頭をたくさんたくさん撫でてくれた。
これがほしかったの。
わたしはわんこの体勢のまま、やっと訪れた安堵の時間を噛みしめる。
「那智さん、『大丈夫』って声かけられました!!もう怖くて怖くてしょうがなかったです!!でもお尻つけなかったです。ちょっと下がっちゃったけど、つかなかったです!!!」
興奮してわんこのまま訴えてしまう。
もう半べそ。
「そうだったんだ。それは怖かったね、えらかった。」
ずっと撫でてくれている。
リードを外して「さあ、立ちな」と促され、はじめて体勢を変えていないことに気付いた。
お茶を買うだけで、もっと早く戻ってくることを想定していたそうだ。
一度外を確認してそれでレジに行ったら、レジがトラブっていて思った以上に時間がかかってしまった。
それで、那智さんもちょっと焦ったのだそう。
そんな話をしながらホテルに向かうけど、わたしは全然聞いてない。
「もう、怖かった、怖かった、那智さんなかなか来てくれないのだもの。わたし一生懸命頑張ったのぉぉぉぉ!!!」
ホテルに入ってからもずっと騒ぎっぱなし。
那智さんがよしよしとしてくれて、はじめて安心して『わーん』と泣くことができた。
そこからは、超甘甘な時間。
さすがにあの状態で声をかけられたということは、可哀想に思ったのでしょう。
「りん子、これではじめて幸せ感じられたんじゃない!?」なんて言われるほどのここに書くことをためらうような甘い甘い時間でした(笑)
実は、この日は夕方公園かで散歩に行き、そこでもわんこになったのです。
公園までの並木道、本物のわんちゃんを散歩させてる人を見つけては「一緒に散歩する?」なんて言われながら、とりあえず公園のベンチへ。
そこであらかじめつけていたリードをくっと引かれ、ちょっと抵抗するわたしの髪を掴み。
わたしは公園のベンチに腰掛ける那智さんの足元で四つん這いになったのです。
「あ、向こうから団体が来てる。」
「あっちからくる若い子たち、わざわざ止まって見てるよ。」
そんな風に言われていちいち体に力が入るけど、薄暗がりの中、ひとりじゃないわんこは、数時間前の恐怖に比べたら随分と気持ちが楽だった。
この日の2回のわんこで、那智さんなりに再確認したことがあるらしい。
それは。
2回とも受けに回った感じだった。
特に夕方は、こちらが座っている状態をみんなが見て通り過ぎる関係値が、『見せている』ではなく『見られている』と感じるのだそう。
その晒されているような感覚は好きじゃないようです。
那智さんとしては、連れ歩き堂々と晒したいと思うのだそうです。
別に勝ち負けを争うものでもないのだけど、那智さんの気持ちが『勝ち』って思えるようなわんこがいいそうです。
『攻め』のわんこ…。
言わんとしてることはわからないでもないけれど、どっちにしてもわたしは恥ずかしいだけです!!
いろいろ試すうちに、好みが確立されていき、『いつか』来るそのときまでの那智さんのお楽しみが増えるということ。
わたしとしては、とにかくひとりにしないで!!!!と思うの出来事でした^^;
それにしても、リードってどうしてあんなに嬉しいのでしょう。
くいっと引っ張っていなくても、たるんでいてリードを引かれている感触を感じられていなくても、繋がっているというだけで、どうしようもなく、安心で幸福で、ホクホクしてしまう。
那智さんが買ってくれたきれいな色のリード。
それをつけ、その先を那智さんが握ってくれていればなんでもできるような気がしてしまう。
『気がする』だけなんですけど^^;
百貨店?ショウウィンドウ?
どこかはわからないけど、那智さん好みの堂々とゆっくりと散歩を楽しむようなわんこは、先送りになった。
どんどん具体的になっていく。
日常の中でふとその具体的な様子を思い返している。
そうするとますます膨れ上がり、気付くとずっと頭から離れず、そればかり考えている。
最初は『信じられない!!』と思っていたこと、いつのまにか捕われてしまって、この数日間困惑しっぱなし。
バッグからリードを取り出して眺めてしまう、わたしでした。
『リードを付けて1 2』の続きです。
那智さんの歩く速度が緩む。
ああ、ここで止まらないで、ここで止まれば、今日は確実にわんこになる。
コンビニの前には誰もいない。
那智さんルールでは、『あり』の状態。
このコンビニは歩道と店舗の間に駐車(駐輪?)スペースがあって、その駐車スペースにガードレールのような柵があるのだ。
その柵は歩道と店舗の中間辺りにある。
そこまで来た、来てしまった。
「買い物するから、ここで待ってて。」
「四つん這いでですか?」
「うん、リードを結んでおくからね。」
無理です!!
ひとりで待つなんて怖い。
以前、この場面もシミュレーションしてた。
『りん子が外で待ってて、俺がコンビニから出て来たら頭撫でてあげる。いいこで待ってたねって』
これも、わたしの憧れのシーンだ。
でも、やっぱり、さあやりましょうとなると、怖いし恥ずかしいし、無理。
首を振って、首から繋がっているリードを胸に抱えて、小さく抵抗する。
那智さんが手を伸ばし、リードを取ろうとする。
取られまいと抱える腕に力が入る。
わたしは左手を体の前に出し、拒否をしようとした。
その瞬間。
那智さんの右手が『パンッ』とその手を振り払った。
それが合図だった。
『やる?』と遊ぶことから、実行に変わったことを知らせる合図。
こうなると、もうわたしに拒否権はない。
怖い恥ずかしいやりたくないと思っても、やるのだ。
那智さんの意志がわたしの意志になる。
なぜ?
それは、そういう関係だから。
わたしがそういう関係を望んでいるから。
振り払われたわたしの左手はもうリードを抱えるために胸に戻ることはなかった。
もう片方の腕も白旗を挙げ、リードから離す。
那智さんがリード掴んだ。
文字通り那智さんに『渡した』瞬間だった。
とりあえずゆっくり、その場にしゃがむ。
いきなり四つん這いになるよりも、抵抗感を少しでも減らしたくて。
柵の一番低いポールにリードを結ぶ那智さんの手しか見えない。
「お尻を上げるんですよね?」
「そう。」
以前、コンビに前でわんこになったとき、アスファルトに両手両膝はついたけど、怖くてお尻を上げられなかった。
那智さんの望む姿勢は、膝をつきお尻を上げて背中が地面と平行になること。
だから、次はそうしなきゃダメと言われていたの。
両手をアスファルトにつける。
いつもながら、アスファルトが近い。
そして、自分の掌がアスファルトについている不思議。
まだ那智さんが側にいてくれてる。
怖々お尻を上げる。
でも、怖くて、膝の角度は90度にできていない(60度くらい?)。
わたしの姿勢を確認してからか、那智さんがさっと頭を撫でてくれて、離れていった。
ひとりのなっちゃった!!
歩道に背中を向けて、うつむいて髪を垂らして息を潜める。
怖い、恥ずかしい。
アスファルトにつく掌だけを見つめて、ひたすら時間が過ぎるのを待つ。
でも、僅かに、ごく僅かにわんこの喜びも湧く。
それでも、早く早く那智さんと祈る中。
まだ四つん這いになって20秒も経っていないころだ。
「大丈夫ですか?」
背後から男性の声がした。
声かけられてしまった!!!
心臓が口から飛び出そうだ。
どうしよう、どうしよう、どうしよう!!!!!
「はい!!」
顔を上げず固まった体勢のまま、とにかく必死に返事をする。
多分、必死だったから、思いの外大きな声になってしまったような気がする。
心配してくれたのに、ごめんなさい。
もし不快な思いをさせてしまったら、ほんとにごめんなさい。
でも、どうか、わたしを気にしないで!!!
怖さと申し訳ない気持ちで体が震える。
怖くて、なんとか膝を60度にしてお尻を上げていた姿勢を保っていられない。
怯える犬のようにお尻が下がってしまう。
それでも、踵にお尻をつけてしまったら、それは那智さんの望みじゃない。
だから、萎えそうな気持ちをなんとか励まし、ぎりぎりお尻を浮かせるようにする。
アスファルトについた小刻みに震える掌だけを見つめる。
那智さんが買ってくれた可愛い指輪。
そこに気持ちを集中させるの。
声をかけた男性は多分離れていっただろう。
それでも、どこからともなくざわついた空気が伝わってくる。
男性の、女性の、『なに』という囁くのような気配。
消えてしまいたい。
早く、早く、那智さん帰ってきて。
思ったより時間がかかっているように感じられる。
もう、恥ずかしくて死んでしまいそう。
早く、早く、早く!!!!
目を閉じて現実から逃げてしまおうと思ったところで、足音が近付いて来た。
ああ、那智さんだ。
目を開け、靴を見つけると安心して一気に感情が溢れ出す。
「いいこに待ってたね。」
しゃがんで首筋や頭をたくさんたくさん撫でてくれた。
これがほしかったの。
わたしはわんこの体勢のまま、やっと訪れた安堵の時間を噛みしめる。
「那智さん、『大丈夫』って声かけられました!!もう怖くて怖くてしょうがなかったです!!でもお尻つけなかったです。ちょっと下がっちゃったけど、つかなかったです!!!」
興奮してわんこのまま訴えてしまう。
もう半べそ。
「そうだったんだ。それは怖かったね、えらかった。」
ずっと撫でてくれている。
リードを外して「さあ、立ちな」と促され、はじめて体勢を変えていないことに気付いた。
お茶を買うだけで、もっと早く戻ってくることを想定していたそうだ。
一度外を確認してそれでレジに行ったら、レジがトラブっていて思った以上に時間がかかってしまった。
それで、那智さんもちょっと焦ったのだそう。
そんな話をしながらホテルに向かうけど、わたしは全然聞いてない。
「もう、怖かった、怖かった、那智さんなかなか来てくれないのだもの。わたし一生懸命頑張ったのぉぉぉぉ!!!」
ホテルに入ってからもずっと騒ぎっぱなし。
那智さんがよしよしとしてくれて、はじめて安心して『わーん』と泣くことができた。
そこからは、超甘甘な時間。
さすがにあの状態で声をかけられたということは、可哀想に思ったのでしょう。
「りん子、これではじめて幸せ感じられたんじゃない!?」なんて言われるほどのここに書くことをためらうような甘い甘い時間でした(笑)
実は、この日は夕方公園かで散歩に行き、そこでもわんこになったのです。
公園までの並木道、本物のわんちゃんを散歩させてる人を見つけては「一緒に散歩する?」なんて言われながら、とりあえず公園のベンチへ。
そこであらかじめつけていたリードをくっと引かれ、ちょっと抵抗するわたしの髪を掴み。
わたしは公園のベンチに腰掛ける那智さんの足元で四つん這いになったのです。
「あ、向こうから団体が来てる。」
「あっちからくる若い子たち、わざわざ止まって見てるよ。」
そんな風に言われていちいち体に力が入るけど、薄暗がりの中、ひとりじゃないわんこは、数時間前の恐怖に比べたら随分と気持ちが楽だった。
この日の2回のわんこで、那智さんなりに再確認したことがあるらしい。
それは。
2回とも受けに回った感じだった。
特に夕方は、こちらが座っている状態をみんなが見て通り過ぎる関係値が、『見せている』ではなく『見られている』と感じるのだそう。
その晒されているような感覚は好きじゃないようです。
那智さんとしては、連れ歩き堂々と晒したいと思うのだそうです。
別に勝ち負けを争うものでもないのだけど、那智さんの気持ちが『勝ち』って思えるようなわんこがいいそうです。
『攻め』のわんこ…。
言わんとしてることはわからないでもないけれど、どっちにしてもわたしは恥ずかしいだけです!!
いろいろ試すうちに、好みが確立されていき、『いつか』来るそのときまでの那智さんのお楽しみが増えるということ。
わたしとしては、とにかくひとりにしないで!!!!と思うの出来事でした^^;
それにしても、リードってどうしてあんなに嬉しいのでしょう。
くいっと引っ張っていなくても、たるんでいてリードを引かれている感触を感じられていなくても、繋がっているというだけで、どうしようもなく、安心で幸福で、ホクホクしてしまう。
那智さんが買ってくれたきれいな色のリード。
それをつけ、その先を那智さんが握ってくれていればなんでもできるような気がしてしまう。
『気がする』だけなんですけど^^;
百貨店?ショウウィンドウ?
どこかはわからないけど、那智さん好みの堂々とゆっくりと散歩を楽しむようなわんこは、先送りになった。
どんどん具体的になっていく。
日常の中でふとその具体的な様子を思い返している。
そうするとますます膨れ上がり、気付くとずっと頭から離れず、そればかり考えている。
最初は『信じられない!!』と思っていたこと、いつのまにか捕われてしまって、この数日間困惑しっぱなし。
バッグからリードを取り出して眺めてしまう、わたしでした。