普通のひとで愛し合おう20
おそらく元旦からもずっと飲んでいたはずだ。
日持ちするもので簡単なおせちをお渡ししていたので元旦は、それをなんとか楽しんでいてくれたみたいだけど、けっこう保守的な那智さんにとって『正月の普遍的な』ものは足枷のようだった。
(『正月は家族で』とかね^^;それを作るのが男の役割みたいなね^^;それを自分が放棄したことに対する自責の念ね)
2日あたりから、ほとんど常に酔っている状態だったはずだ。
きっと目が覚めたらすぐ焼酎をストレートで飲みはじめていただろう。
そんな中、いままで別の恐怖(『離婚に対する恐怖やりん子不在の絶望)で本来の『傷』から目を逸らしてきた那智さんの脳は、いよいよ『わたしを遠ざける』ことまでやりはじめた。
本当に脳は不思議。
あまりにも『傷』が深いと、それに直面させないようにあれこれ妨害するのだけど、おそらくわたしのような支援者(=『傷』に目を向けざるを得ない人)も妨害する対象に選ぶらしい。
2日と3日の2日間は、それが顕著になりわたしからの文字の声かけにほとんど返信をしてくれなくなっていた。
細心の注意を払い明るいトーンでご挨拶を送っても、次のたのしみを持ってもらえるような展望を送っても、他愛ないドジ話を送っても、愛の言葉を送っても、応えてくれない。
件のSさんとはかなり頻繁にやり取りをしていたから、文字は送れるはずなのに。
でも、わたしにはくれない。
本当なら嫉妬してもおかしくないことだけど、そういう気持ちにはならない。
とにかく、心配でそれどころではなかった。
やり取りができるほどに意識はある、絶望に打ちひしがれているだけではなさそうだ(当然生きている!)
いま思えば、那智さんはきっと『傷』から目を逸らせるための脳の妨害『りん子不在の絶望』と『支援者を遠ざける』のふたつの矛盾に苦しんでいただろう。
わたしはあなたと繋がっているというメッセージを送り続けるわたしに
ごめん、りん子、プレッシャーかけないで
やっときた返信は絞り出すようなこんな文字だった。
わたしはどうしたらいいのだろう。
わたしが不在であることに絶望している人に、愛の言葉をかけ、それは『傷』が増幅させているのだと安心してもらうことも叶わないのか。
どうしたらいいか途方に暮れる。
でも、手を離すもんか。
那智さんがずっとそうしてくれたように。
どんなに那智さんの脳がわたしを遠ざけようとしても、作戦を練り直して、わたしは手を離さない。
きっと泥酔しているだろう。
何度も夜中に目を覚まし、深夜に及ぶSさんとのやり取りを那智さんの生存確認にして、その夜を過ごした。
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