壊れた日
非日常的な日常
今日は手首をひとつに束ねられ梁に吊される。
私は両手を高く上げ、全身を晒す。
以前、はじめてSMをした時に手首が痺れて一週間も取れず、その後も皮膚感覚がおかしくなってしまったという怖い思いをしたから(「惹かれ合う理由」の「はじめての旅」に書いてあります)、手首を縛られるということは私にとって不安が伴う行為だ。
梁から手首に繋がる一本の縄を束ねた両手で握り、体重を掛けても手首が締まっていかないようにする。
お湯を沸かしているから、今日も熱湯だ。
さっき湧いたばかりだから、今なら火傷してしまうかもしれない。
もちろん那智さんもそのことは承知しているから、アルミのポットからコーヒーカップに移して、少し冷ましてくてる。
自分の指をカップに入れて、まだ熱いと判断した那智さんは、更にもうひとつのカップに移し替えている。
今度は確認しないようだ。
また、スプーンですくって、私にお湯をかける。
少し、冷めすぎてしまったみたいだ。
熱いけど、我慢できる熱さなだけだ。
2、3度かけて、私の反応がいまひとつのことに気付き、改めて自分の腕にお湯を垂らしている那智さん。
案の定、熱湯ではなくなっているらしい。
「ごめんね、ぬるくなってたね。」
ポットのお湯を、注ぎ足して、また、自分で確認。
納得のいく熱さになったようだ。
私に近づいてくる。
仕切直した後は、離れたところからかけるなんて甘い行為はしてくれない。
至近距離で、私に垂らす。
胸、乳首、お腹、おまんこ、太股。
「うわあああああ」
叫び声を上げずにはいられない、熱さに身を捩る。
けれど、私はこっちのほうがいいんだ。
適度な熱さで、雰囲気で熱がるなんて、いや。
本気で熱いと、呻きたいのだ。
那智さんの手によって、翻弄されることが何よりの喜びだ。
ギリギリに追い詰められて、はじめて翻弄されるのだ。
熱湯が終わる空気で、一瞬安堵の表情を作ったことが発端なのか、それとも、最初からそのつもりだったのか、那智さんは鞭を取り出してきた。
痛いバラ鞭だ。
とても、怖い。
はじめは、正面からだ。
脇腹に巻き込む鞭の先端が、ナイフのように皮膚を痛めつける。
今日は、いつもにまして間隔は狭い、矢継ぎ早に振り下ろされる。
後ろを向かされてからは、更に容赦ない。
バラ鞭を捻って、一本の太い鞭にして打つ。
重く強い衝撃が背中に響く。
痛い。
体がよろけるほどの、衝撃だ。
立て続けに、2、3発同じ場所を狙い、今度はバラにしてその周辺を打つ。
一本分の衝撃を受けた皮膚に、今度はバラにした細かい先端が刺さる。
飛び上がるほど痛い。
同じようにお尻や太股、息つく暇もないほどに、鞭の雨を降らせてくる。
文字通り、息もできないほどだ。
痛い、痛くてたまらない、いったいいつまで続くのか、私の限界はどこにあって、誰が限界を決めるのか。
私は、多分、我慢強いほうだ。だから、いままでずっと私の限界は那智さんが決めると覚悟して、実行できていた。
那智さんのしてくれることは、幸せに繋がると思っている私は、基本的に那智さんの決めた限界まで我慢するほうが気持ち良くて幸せなんだ。
だけど、この時ばかりは、もう、限界がきているように感じてしまった。
絶え間なく、続く鞭の痛みに、叫んでも体を捩っても、どうすることもできない。
「やめて」と言えば、酷くなる。
でも、「痛すぎます」のセーフティーワードは使いたくない。
無我夢中の私は、「ごめんなさい、ごめんなさい」と叫びながら、体を回転させ那智さんの方に振り返り、後退りして訴える。
「痛すぎますは言いたくないの、だけど、もう痛くてしょうがないの!!!」
地団駄を踏んでヒステリックに泣き叫ぶ。
涙と一緒に鼻水も出ている、口を開けて叫び続けているから、微かに涎も垂れているかもしれない。
そんなことはもうどうでもいい。
何かの線が切れてしまったように、ただただ泣き叫ぶ。
那智さんが、近寄ってきて「りん子、壊れちゃったみたい」とだけ言って、肩に手を置き、また私を後ろ向きにされる。
終わりじゃないんだ。
掌で数発、靴べらで数発、一番酷く打たれた部分に追い打ちをかけるように、打つ。
もう、私の意識はどこかへ飛んでいってしまった。
痛いはずなのに、痛くない。
記憶にあるのは、目に映る壁に取り付けられていた「エアコン」、そして、重い衝撃と共に揺れる体。
涙は流れていたかもしれない、声は上げていないと思う。
すべてが、自分の外側で起きているような、不思議な感覚だ。
最後に、鞭で数発。
もう、痛みで体を捩ることはない、鞭の重みで小さくよろめくだけだ。
鞭や吊りから解放されても、私はずっと壊れたままだった。
ふわふわして、まったく現実ではない世界を漂っていた。
ぼんやりと、後処理をする那智さんに「寝ころんでいいですか?」と聞くことが精一杯。
壊れたような、飛んでいってしまったような、この非現実的な感覚を浮遊しながら、味わっていた。
この出来事は、那智さんに「新しい扉」の存在を知らしてしまった。
那智さんも、痛みで壊れて無反応になる状態ははじめてのことだったから、多少不安になって、今日はここでおしまいにしたらしい。
でも、そこに扉があって、その扉を開くことを知って、その中を覗いてしまった。
一度、経験したら、那智さんはもう不安に思わないだろう。
この次は、これから先は、確実にその中に入って行く。
那智さんによって翻弄されたい。
それが私の望みだ。
そして、幸か不幸か私は那智さんのする行為を喜べる、心と体の持ち主のようだ。
「O嬢の物語」を読んで、鞭で打たれて皮膚が裂ける場面で、感じていた私。
追い詰められたいという、持て余し気味だったこの性癖を那智さんに出会うことで、はじめて持っていて良かったと思う。
この扉は、どこに続いているのだろう。
未知の領域だ。
でも、後戻りはできないことだけは、わかっている。
今日は手首をひとつに束ねられ梁に吊される。
私は両手を高く上げ、全身を晒す。
以前、はじめてSMをした時に手首が痺れて一週間も取れず、その後も皮膚感覚がおかしくなってしまったという怖い思いをしたから(「惹かれ合う理由」の「はじめての旅」に書いてあります)、手首を縛られるということは私にとって不安が伴う行為だ。
梁から手首に繋がる一本の縄を束ねた両手で握り、体重を掛けても手首が締まっていかないようにする。
お湯を沸かしているから、今日も熱湯だ。
さっき湧いたばかりだから、今なら火傷してしまうかもしれない。
もちろん那智さんもそのことは承知しているから、アルミのポットからコーヒーカップに移して、少し冷ましてくてる。
自分の指をカップに入れて、まだ熱いと判断した那智さんは、更にもうひとつのカップに移し替えている。
今度は確認しないようだ。
また、スプーンですくって、私にお湯をかける。
少し、冷めすぎてしまったみたいだ。
熱いけど、我慢できる熱さなだけだ。
2、3度かけて、私の反応がいまひとつのことに気付き、改めて自分の腕にお湯を垂らしている那智さん。
案の定、熱湯ではなくなっているらしい。
「ごめんね、ぬるくなってたね。」
ポットのお湯を、注ぎ足して、また、自分で確認。
納得のいく熱さになったようだ。
私に近づいてくる。
仕切直した後は、離れたところからかけるなんて甘い行為はしてくれない。
至近距離で、私に垂らす。
胸、乳首、お腹、おまんこ、太股。
「うわあああああ」
叫び声を上げずにはいられない、熱さに身を捩る。
けれど、私はこっちのほうがいいんだ。
適度な熱さで、雰囲気で熱がるなんて、いや。
本気で熱いと、呻きたいのだ。
那智さんの手によって、翻弄されることが何よりの喜びだ。
ギリギリに追い詰められて、はじめて翻弄されるのだ。
熱湯が終わる空気で、一瞬安堵の表情を作ったことが発端なのか、それとも、最初からそのつもりだったのか、那智さんは鞭を取り出してきた。
痛いバラ鞭だ。
とても、怖い。
はじめは、正面からだ。
脇腹に巻き込む鞭の先端が、ナイフのように皮膚を痛めつける。
今日は、いつもにまして間隔は狭い、矢継ぎ早に振り下ろされる。
後ろを向かされてからは、更に容赦ない。
バラ鞭を捻って、一本の太い鞭にして打つ。
重く強い衝撃が背中に響く。
痛い。
体がよろけるほどの、衝撃だ。
立て続けに、2、3発同じ場所を狙い、今度はバラにしてその周辺を打つ。
一本分の衝撃を受けた皮膚に、今度はバラにした細かい先端が刺さる。
飛び上がるほど痛い。
同じようにお尻や太股、息つく暇もないほどに、鞭の雨を降らせてくる。
文字通り、息もできないほどだ。
痛い、痛くてたまらない、いったいいつまで続くのか、私の限界はどこにあって、誰が限界を決めるのか。
私は、多分、我慢強いほうだ。だから、いままでずっと私の限界は那智さんが決めると覚悟して、実行できていた。
那智さんのしてくれることは、幸せに繋がると思っている私は、基本的に那智さんの決めた限界まで我慢するほうが気持ち良くて幸せなんだ。
だけど、この時ばかりは、もう、限界がきているように感じてしまった。
絶え間なく、続く鞭の痛みに、叫んでも体を捩っても、どうすることもできない。
「やめて」と言えば、酷くなる。
でも、「痛すぎます」のセーフティーワードは使いたくない。
無我夢中の私は、「ごめんなさい、ごめんなさい」と叫びながら、体を回転させ那智さんの方に振り返り、後退りして訴える。
「痛すぎますは言いたくないの、だけど、もう痛くてしょうがないの!!!」
地団駄を踏んでヒステリックに泣き叫ぶ。
涙と一緒に鼻水も出ている、口を開けて叫び続けているから、微かに涎も垂れているかもしれない。
そんなことはもうどうでもいい。
何かの線が切れてしまったように、ただただ泣き叫ぶ。
那智さんが、近寄ってきて「りん子、壊れちゃったみたい」とだけ言って、肩に手を置き、また私を後ろ向きにされる。
終わりじゃないんだ。
掌で数発、靴べらで数発、一番酷く打たれた部分に追い打ちをかけるように、打つ。
もう、私の意識はどこかへ飛んでいってしまった。
痛いはずなのに、痛くない。
記憶にあるのは、目に映る壁に取り付けられていた「エアコン」、そして、重い衝撃と共に揺れる体。
涙は流れていたかもしれない、声は上げていないと思う。
すべてが、自分の外側で起きているような、不思議な感覚だ。
最後に、鞭で数発。
もう、痛みで体を捩ることはない、鞭の重みで小さくよろめくだけだ。
鞭や吊りから解放されても、私はずっと壊れたままだった。
ふわふわして、まったく現実ではない世界を漂っていた。
ぼんやりと、後処理をする那智さんに「寝ころんでいいですか?」と聞くことが精一杯。
壊れたような、飛んでいってしまったような、この非現実的な感覚を浮遊しながら、味わっていた。
この出来事は、那智さんに「新しい扉」の存在を知らしてしまった。
那智さんも、痛みで壊れて無反応になる状態ははじめてのことだったから、多少不安になって、今日はここでおしまいにしたらしい。
でも、そこに扉があって、その扉を開くことを知って、その中を覗いてしまった。
一度、経験したら、那智さんはもう不安に思わないだろう。
この次は、これから先は、確実にその中に入って行く。
那智さんによって翻弄されたい。
それが私の望みだ。
そして、幸か不幸か私は那智さんのする行為を喜べる、心と体の持ち主のようだ。
「O嬢の物語」を読んで、鞭で打たれて皮膚が裂ける場面で、感じていた私。
追い詰められたいという、持て余し気味だったこの性癖を那智さんに出会うことで、はじめて持っていて良かったと思う。
この扉は、どこに続いているのだろう。
未知の領域だ。
でも、後戻りはできないことだけは、わかっている。
COMMENT
とてもこわいのに、ゾクゾクしてしまいました。
その事に、また、恐怖する。
ああ、なんて因果な性癖なんだと、改めて思いました^^;
その事に、また、恐怖する。
ああ、なんて因果な性癖なんだと、改めて思いました^^;
怖いことは怖い。
でも、どうしたって惹かれてしまう。
そして、そんなことに惹かれる自分自身も怖い。
ホント、恐がりのマゾは厄介ですね^^;
でも、どうしたって惹かれてしまう。
そして、そんなことに惹かれる自分自身も怖い。
ホント、恐がりのマゾは厄介ですね^^;