普通のひとで愛し合おう29
那智さんの精神と離婚のため医者や弁護士と関わりながらもいまひとつしっくり来なかった。
たしかに相当な危害を加えられ傷つけられたのだから、その人物に触れることで『落ちる』ことはわかるけど、夫婦のことだ、売り言葉に買い言葉なこともあるかもしれないし、那智さんの冷静さや折れない様子がQさんを過剰にさせてしまっていないのかな、それでもこんなに傷になることに、いまひとつ合点がいかない気持ちもあった。
那智さんが弱いからとか、大げさだとかはまったく思ってないのよ。
その傷つく決定的なカラクリが見えていない感じ。
ある日、たまたまつけたテレビでモラハラについて特集をしていた。
それはほとんどテレビをつけない時間帯でほとんど見ない類いの番組、お昼前にやっている主婦向けの情報番組だった。
主婦向けということもあり夫からのモラハラという形式で解説していたのだけど、わたしのアンテナに引っかかるものがあった。
それまで言葉は聞いたことあったけどちゃんと知識を持っていなかった『モラル ハラスメント』、これはもしかしたら、那智さんに当てはまるかもしれない。
急いでネットを検索する。
ネットで検索できる範囲で目を通していると、なるほど『モラハラ』というものはただ機嫌が悪いとか感情的とは違うものであると少しずつ理解できてくる。
でも、多くは夫から妻へ、上司から部下へという強者から弱者の構図が書かれていて、年上で男(夫)である那智さんに当てはめる整合性が見つけられなかった。
そんな中、ひとつのサイトに辿り着いた。
ワークショップが運営しているサイトで、そこには丁寧なモラハラについての解説と解決方法が書かれてあった。
『被害者の側に立った』姿勢が文章全体から感じられて、とても力になりそうなものだった。
他の解説は被害者に『逃げる強さ』を求める感じが多かったんだよね、ここに強さを求めたらいけないのよ。
『強さ』を求めることは裏返せば『弱い』というレッテルを貼り自責の方向に行くからね。
食い入るように読んだ。
読めば読むほど、これは那智さんだと思った。
全部を知っているわけではないし那智さんからの情報しかないけれど、そこに書かれているタイプの人間が存在していて、Qさんもそういうタイプの人なのだろうということは容易に想像できた。
特徴はいくつかある(今回、読み直していないので不確かです)
・密室(もしくは1対1の関係)である
・何かしらの上下関係がある(上司部下、親子、夫婦)
加害者は
・曖昧な内容の要求をする
・ため息や不機嫌など曖昧な態度で要求する
・そのくせに正解が一貫していない(ゆえに、何をしても否定する)
・自分が正しくて、対象人物が間違っているから矯正しているつもり
・最終的に人格否定になる
・ギブアップするまで続ける
上下のある閉ざされた空間の中で、やっても否定され、やらなくても否定され、最終的には人格否定にまで及び、こちらが『悪かった』とギブアップするまで続ける。
たとえば(ざっくりと)
上司と部下の関係で部下がミスをしたとして。
上司:この前言ってたことやってくれた?
部下:あ、まだです
上司:(はあ、ため息、沈黙)
部下:すみません、いますぐやります(取りかかろうとパソコンに向かう)
上司:人が話しをしてるのが聞けないのか
部下:あ、すみません(手を止める)
上司:そうやって君はいつも人の話しを聞かないんだな
部下:いえ、そんなつもりは
上司:じゃあ、どう思ってるんだ
部下:キチンとやろうと思ってます
上司:やってないじゃないか
部下:え、いま上司がちゃんと聞けっていったから(手を止めた)
上司:誰が作業を休んでいいなんて言った?
部下:すみません(急いでパソコンに向かう)
上司:これだから君はダメなんだよ、この前もミスしただろ
部下:すみません
上司:謝ればいいと思ってるだろ
部下:いえ…
上司:ったく、ホントにダメな人間だな、だから、俺が教えてやってるんだ
こんな感じ。
一見、上司に言われたことができていなかったから注意されているように見えるけど、ぜんぜん違うんだよね。
これは極端に書いたけど、たとえば、上司の指示の中に『いつまでに』が入っていなかったというようなケースが多い。
これは『どうとでも取れる』曖昧な要求をするという1例ね。
で、ため息をついたり『どう思っているんだ』とハッキリした要求をしないで、相手に自発的に行動させたり相手に答えを出させようとする。
そして、その答えを否定していく。
ため息ついたからすぐ取りかかろうとする→話しを聞いてないと否定
手を止める→誰が休んでいいと言った?と否定
こんなふうに。
何をしても、何もしなくても『否定』され続けると八方塞がりになり、被害者は逃げ出すことができず自分が悪いのではないかと思ってしまいます。
きっと、責任感の強い那智さんは自分がプロポーズしたこともあり、おそらく初期の頃に危害を加えられても、ひとりで背負いなんとか改善していこうと逃げなかったのだと思う。
さっさと責任放棄して逃げちゃえば、そんなに傷が深くならなかったとも思うので、ある意味モラハラ被害者は責任感が強かったり、いい人だったりする場合が多いそうです。
で、そもそものミス(ミスかどうかさえ疑わしい)についてのことから、過去のミスや人格否定に話しが広がっていくわけ。
ああ、これを閉ざされた空間で四六時中やられたら、そりゃあ傷つくわ。
傷どころじゃないわ。
(しかもそこに精神以外の暴力もあればなおさらね)
で、この上下関係というのの中に弱者と強者が逆転するパターンもある。
弱者を盾に取ったモラハラもあることがサイトにも書かれてあった。
那智さんの場合は、これだろう。
実際、Qさんからのメールでも那智さんに対して『責任』を取る立場は那智さんにあるというように誘導しているものもあった。
モラハラの仕組みと強弱逆転を知り、わたしの中で整合性が取れた。
あらためて、那智さんの年末からの状態が、ただ傷ついていたんだ程度ではない深刻な人権侵害であったことを理解できた。
喧嘩両成敗も『夫婦のことは外からはわからない』も『那智さんにもよくないところがあったのでは?』の、どれもない。
胸を張って、那智さんは悪くないと言える。
これによりわたしの向かうべき方向も見えた。
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