タバコ、ハサミ、わたし
非日常的な日常
『その前に抜きにきて』
3月に入って数日、ずいぶん陽が長くなってきた。
まだほんのり明るい夕方の駅。
早めの帰路につくお仕事帰りの人たちの小さな波に逆らうようにオフィス街に向かう。
今夜は那智さんと一杯^^
まだ退社時間まで数分ある。
お仕事場の下に着くころには降りてきてくれるだろう。
そこから一緒に飲み屋さんに行きたいなと思って電話をする。
もうすぐ○○ですよ
一緒に行きましょう^^
そちらによってもいいですか?
うん、その前に抜きにきて
ああ、そのお手軽な感じ…。
タバコ買ってきて。
ハサミ取って。
抜きにきて。
わたしがすることはタバコやハサミと同じもののような扱い。
『来い』でも『来なさい』でもない、命令しなくても簡単に叶うこと。
その日常の延長戦上に位置づけられたわたしが施す性的行為。
けしてわたしを軽んじることのない那智さんの、わたしを軽んじるような扱いに、感じる。
…はい
喜びと快感が競り上がるようなお返事を返すだけで精一杯。
急いでお仕事場のドアを開けた。
電話中だった。
こういう場合はいつ誰が来るかわからないから親しげに近づけない。
すぐ身を隠せる給湯室から体半分出して電話の声を聞いておく。
え、取りにきます?
いまからですか!?
どうやら、誰か来るらしい。
電話を切った那智さんが給湯室に来た。
誰かいらっしゃるの?
うん、いまから取りに来るって
外で待ってます
トイレにこもって待つという選択肢もあったけど、電気を暗くしたトイレに閉じこもるのは怖い。
トイレにしようか逡巡してたら『暗いよ〜(笑)』と先手を打って遊ばれてしまったから、よけい怖い^^;
だから外で待つことにした。
『取りに来るだけ』だから、それほど時間はかからないだろう。
この会話だけで、そのままもう一度外に出た。
ドアの目の前で待つのも不審者みたいだから、ちょっと外れた角で待つ。
小走りで男性がドアを入っていった。
きっとあの人だ。
何かを受け取って多少言葉を交わして、そろそろかなと想像するけどなかなか出て来ない。
駅についた頃の薄明るい空はもう夜の色に変わってきている。
陽が伸びたといってもまだ3月に入ったばかり。
外でじっと待っているとしんしんと体が冷えてくる。
どうしよう。
どこかに入ってコーヒーでも飲んでいようか。
は〜と息を吹きかけ擦り合わせても手はあっという間にかじかむ。
それほど長くはなかっただろう、でもさほど防寒していない服装では充分冷えてしまった。
やっぱりコーヒー屋に入っていようかなと思ったところで、さっきの男性が出てきた。
ああ、よかった。
OKの合図が来るだろうと携帯を握りしめる。
しばらくして着信。
耳に当てると誰かと話している声が聞こえた。
他の電話に出ているんだ、上がっておいでの合図のために電話してくれたんだ。
急いで上がる。
案の定、誰かと電話していた。
近づけず、また給湯室から様子を伺う。
電話はすぐ終わった。
こちらに来た那智さんはそのままトイレに。
後に続く。
便座の足元にしゃがむ。
マフラーもコートも取らずに。
抜きに来たからのだから、言われた通りそれをする。
はい、どうぞ
いいね〜、コートも脱がずに(笑)
冷えきった手に那智さんの皮膚は温かい。
冷たいかなぁなんてフェラチオしながら思う。
タバコやハサミ。
買ってきて、取って。
那智さんにとって簡単に叶うこと。
那智さんが望めば簡単に叶うこと。
この日のフェラチオは性処理よりも奉仕よりももっと手軽。
簡単に叶うと思われること、軽んじない人に軽んじられることとそれを受け入れる快感。
片方の手が温まりはじめる頃わたしの欲情も温度を上げた。
一度だけ頭を撫でられた。
言葉の通り抜きにきただけ。
そのままキスはおろか体に触れることもなく、夜の街に繰り出した。
抜いてと言われ「はい」と答える。
そのために寒空の中待ち、コートも脱がずにそれに応える。
触れることも触れられることもなく焦れる。
大事大事にしてくれる人の手軽な女になった夜の快感。
『その前に抜きにきて』
3月に入って数日、ずいぶん陽が長くなってきた。
まだほんのり明るい夕方の駅。
早めの帰路につくお仕事帰りの人たちの小さな波に逆らうようにオフィス街に向かう。
今夜は那智さんと一杯^^
まだ退社時間まで数分ある。
お仕事場の下に着くころには降りてきてくれるだろう。
そこから一緒に飲み屋さんに行きたいなと思って電話をする。
もうすぐ○○ですよ
一緒に行きましょう^^
そちらによってもいいですか?
うん、その前に抜きにきて
ああ、そのお手軽な感じ…。
タバコ買ってきて。
ハサミ取って。
抜きにきて。
わたしがすることはタバコやハサミと同じもののような扱い。
『来い』でも『来なさい』でもない、命令しなくても簡単に叶うこと。
その日常の延長戦上に位置づけられたわたしが施す性的行為。
けしてわたしを軽んじることのない那智さんの、わたしを軽んじるような扱いに、感じる。
…はい
喜びと快感が競り上がるようなお返事を返すだけで精一杯。
急いでお仕事場のドアを開けた。
電話中だった。
こういう場合はいつ誰が来るかわからないから親しげに近づけない。
すぐ身を隠せる給湯室から体半分出して電話の声を聞いておく。
え、取りにきます?
いまからですか!?
どうやら、誰か来るらしい。
電話を切った那智さんが給湯室に来た。
誰かいらっしゃるの?
うん、いまから取りに来るって
外で待ってます
トイレにこもって待つという選択肢もあったけど、電気を暗くしたトイレに閉じこもるのは怖い。
トイレにしようか逡巡してたら『暗いよ〜(笑)』と先手を打って遊ばれてしまったから、よけい怖い^^;
だから外で待つことにした。
『取りに来るだけ』だから、それほど時間はかからないだろう。
この会話だけで、そのままもう一度外に出た。
ドアの目の前で待つのも不審者みたいだから、ちょっと外れた角で待つ。
小走りで男性がドアを入っていった。
きっとあの人だ。
何かを受け取って多少言葉を交わして、そろそろかなと想像するけどなかなか出て来ない。
駅についた頃の薄明るい空はもう夜の色に変わってきている。
陽が伸びたといってもまだ3月に入ったばかり。
外でじっと待っているとしんしんと体が冷えてくる。
どうしよう。
どこかに入ってコーヒーでも飲んでいようか。
は〜と息を吹きかけ擦り合わせても手はあっという間にかじかむ。
それほど長くはなかっただろう、でもさほど防寒していない服装では充分冷えてしまった。
やっぱりコーヒー屋に入っていようかなと思ったところで、さっきの男性が出てきた。
ああ、よかった。
OKの合図が来るだろうと携帯を握りしめる。
しばらくして着信。
耳に当てると誰かと話している声が聞こえた。
他の電話に出ているんだ、上がっておいでの合図のために電話してくれたんだ。
急いで上がる。
案の定、誰かと電話していた。
近づけず、また給湯室から様子を伺う。
電話はすぐ終わった。
こちらに来た那智さんはそのままトイレに。
後に続く。
便座の足元にしゃがむ。
マフラーもコートも取らずに。
抜きに来たからのだから、言われた通りそれをする。
はい、どうぞ
いいね〜、コートも脱がずに(笑)
冷えきった手に那智さんの皮膚は温かい。
冷たいかなぁなんてフェラチオしながら思う。
タバコやハサミ。
買ってきて、取って。
那智さんにとって簡単に叶うこと。
那智さんが望めば簡単に叶うこと。
この日のフェラチオは性処理よりも奉仕よりももっと手軽。
簡単に叶うと思われること、軽んじない人に軽んじられることとそれを受け入れる快感。
片方の手が温まりはじめる頃わたしの欲情も温度を上げた。
一度だけ頭を撫でられた。
言葉の通り抜きにきただけ。
そのままキスはおろか体に触れることもなく、夜の街に繰り出した。
抜いてと言われ「はい」と答える。
そのために寒空の中待ち、コートも脱がずにそれに応える。
触れることも触れられることもなく焦れる。
大事大事にしてくれる人の手軽な女になった夜の快感。
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