刺青(06/06/14)
宝物
『非日常的な日常』
左手の薬指に刺青を入れる(彫るっていうのかしら)日。
はじめて降り立つ駅だ。
いつも利用している繁華街の駅から、一駅離れただけなのに、なんだか雰囲気が違う。
繁華街の雑多な空気はどこかへ消えて、ごく普通の昔からの住宅街といった趣。
刺青。
たくさんの人が経験していること。
だから、耐えられない痛みではないはずだ。
私は、普通に一般人として、仕事もしているし、ご近所付き合いもしている。
ファッションで彫るほど、若くもない。
まして、私の仕事は、どちらかといえば格式を重んじる接客業だ。
明らかに刺青とわかるものを、薬指に入れるわけにはいかないから、怖がるほどの量は彫らない。
本当に、ホクロのように、ちょっと大きめのホクロのように彫るだけだ。
一瞬で終わるはず、だから、大丈夫。大丈夫。
一生懸命、自分に言い聞かせる。
那智さんについて行って、マンションの一室を訪れる。
こざっぱりと整理された部屋は、その一室ですべて事足りるように事務所兼施行場所となっているようだ。
フレームが籐でできたソファに座り、クッションを抱え込んで、成り行きを見守る。
いろいろ説明されながら、サインを書いたり、ホクロの大きさや色を決めたり。
ほとんどご主人様と彫り師の人で話が進む中、合いの手のように「痛いですよね?」「泣く人いますか?」などと、質問を繰り返す私。
怖いよお。
いまさら、やっぱりいやとも言えないし。
でも、私たちの愛し合う印は、甘美で、幸福な想像だ。
そうそう、同じ場所に那智さんも入れてくれるのです。
よくある「ご主人様」と「奴隷」のような関係と少し違うところは、こんなところに現れるのかもしれない。
同じ印がある安心を与えてくれるのだ。
そして、おそらく那智さんも同じ場所にほしいのだ(と思う)。
妙な合いの手を入れる私に、那智さんは選択肢を与えてくれる。
「最初か後か、選んでいいよ」
即座に「後がいいです」と答える。
だって、様子がわかるもの。
歯医者さんで座るような椅子が施行場所のようだ。
衛生的な処理をして、ご主人様が座る。
ここで彫り師の人が、機材と仕組みを説明してくれるから、恐る恐る覗きこむ。
「ペンの先がギザギザになっていて、それがドリルのように回転して色を付けます。」
いやあああ、そんな説明聞かなきゃよっかった!怖さが増す。
でも、聞かずにはいられない!!
さくさくと那智さんの作業は終了。
作業中はなんのリアクションもしなかったご主人様。
大して痛くないのかな、と思いながら、椅子に座らされて待つ私。
ここで、私は選択を誤ったことに気付くのだ。
彫り師の人が、準備をしている間、「痛かったですか?」と聞く私に、嬉しそうにうなずいてみせる。
そうよね、負けず嫌いな那智さんが痛そうなリアクションするはずないよね。
だから、痛かったんだ・・。
そして、那智さんは私を怖がらせて楽しむ人だ、大げさかもと予測はできても、痛みの感想は充分に私を震え上がらせる。
それにしても、なぜ椅子の正面に大きな姿見があるのだろう。
怖がる自分の姿を鏡を通して見る、不思議な感じ。
鏡に映る女性は、まな板の上の鯉。
恐がりな私は、これから起きる未知の痛みを想像して冷や汗をかき。
しかし、なんとも幸せそうだ。
那智さんの意志で、一生消えない印を入れる。
その事実と、その状況を楽しむ那智さんの姿。
だから、私はとても幸せそうだ。
痛くても、怖くても、那智さんの満足げな表情が私を幸せにしてくれる。
結局、痛いといえば痛いし、我慢できるといえばできる痛みを数十秒。
人間なんてけっこうな痛みに耐えられるものだ。
私は、恐がりだけど、割と痛みには強いのだ。(じゃあ、もっと痛いことしようと、思われませんように)
だから、私には印がある。
愛する人といつでも繋がっているという印。
所有されている印。
1人でいるとき、何気ない瞬間、ちょっと頑張れっていうとき、私は薬指の印にキスをする。
それをタイトルにしました。
ちなみに、同じ印を持っている那智さんの感想は「意味のあることだけど、ロマンチックすぎてつまらない」だそうです。
ロマンチックじゃないのは、やっぱり私にだけ新たに彫る・・・ってことになってしまうのかしら。
『非日常的な日常』
左手の薬指に刺青を入れる(彫るっていうのかしら)日。
はじめて降り立つ駅だ。
いつも利用している繁華街の駅から、一駅離れただけなのに、なんだか雰囲気が違う。
繁華街の雑多な空気はどこかへ消えて、ごく普通の昔からの住宅街といった趣。
刺青。
たくさんの人が経験していること。
だから、耐えられない痛みではないはずだ。
私は、普通に一般人として、仕事もしているし、ご近所付き合いもしている。
ファッションで彫るほど、若くもない。
まして、私の仕事は、どちらかといえば格式を重んじる接客業だ。
明らかに刺青とわかるものを、薬指に入れるわけにはいかないから、怖がるほどの量は彫らない。
本当に、ホクロのように、ちょっと大きめのホクロのように彫るだけだ。
一瞬で終わるはず、だから、大丈夫。大丈夫。
一生懸命、自分に言い聞かせる。
那智さんについて行って、マンションの一室を訪れる。
こざっぱりと整理された部屋は、その一室ですべて事足りるように事務所兼施行場所となっているようだ。
フレームが籐でできたソファに座り、クッションを抱え込んで、成り行きを見守る。
いろいろ説明されながら、サインを書いたり、ホクロの大きさや色を決めたり。
ほとんどご主人様と彫り師の人で話が進む中、合いの手のように「痛いですよね?」「泣く人いますか?」などと、質問を繰り返す私。
怖いよお。
いまさら、やっぱりいやとも言えないし。
でも、私たちの愛し合う印は、甘美で、幸福な想像だ。
そうそう、同じ場所に那智さんも入れてくれるのです。
よくある「ご主人様」と「奴隷」のような関係と少し違うところは、こんなところに現れるのかもしれない。
同じ印がある安心を与えてくれるのだ。
そして、おそらく那智さんも同じ場所にほしいのだ(と思う)。
妙な合いの手を入れる私に、那智さんは選択肢を与えてくれる。
「最初か後か、選んでいいよ」
即座に「後がいいです」と答える。
だって、様子がわかるもの。
歯医者さんで座るような椅子が施行場所のようだ。
衛生的な処理をして、ご主人様が座る。
ここで彫り師の人が、機材と仕組みを説明してくれるから、恐る恐る覗きこむ。
「ペンの先がギザギザになっていて、それがドリルのように回転して色を付けます。」
いやあああ、そんな説明聞かなきゃよっかった!怖さが増す。
でも、聞かずにはいられない!!
さくさくと那智さんの作業は終了。
作業中はなんのリアクションもしなかったご主人様。
大して痛くないのかな、と思いながら、椅子に座らされて待つ私。
ここで、私は選択を誤ったことに気付くのだ。
彫り師の人が、準備をしている間、「痛かったですか?」と聞く私に、嬉しそうにうなずいてみせる。
そうよね、負けず嫌いな那智さんが痛そうなリアクションするはずないよね。
だから、痛かったんだ・・。
そして、那智さんは私を怖がらせて楽しむ人だ、大げさかもと予測はできても、痛みの感想は充分に私を震え上がらせる。
それにしても、なぜ椅子の正面に大きな姿見があるのだろう。
怖がる自分の姿を鏡を通して見る、不思議な感じ。
鏡に映る女性は、まな板の上の鯉。
恐がりな私は、これから起きる未知の痛みを想像して冷や汗をかき。
しかし、なんとも幸せそうだ。
那智さんの意志で、一生消えない印を入れる。
その事実と、その状況を楽しむ那智さんの姿。
だから、私はとても幸せそうだ。
痛くても、怖くても、那智さんの満足げな表情が私を幸せにしてくれる。
結局、痛いといえば痛いし、我慢できるといえばできる痛みを数十秒。
人間なんてけっこうな痛みに耐えられるものだ。
私は、恐がりだけど、割と痛みには強いのだ。(じゃあ、もっと痛いことしようと、思われませんように)
だから、私には印がある。
愛する人といつでも繋がっているという印。
所有されている印。
1人でいるとき、何気ない瞬間、ちょっと頑張れっていうとき、私は薬指の印にキスをする。
それをタイトルにしました。
ちなみに、同じ印を持っている那智さんの感想は「意味のあることだけど、ロマンチックすぎてつまらない」だそうです。
ロマンチックじゃないのは、やっぱり私にだけ新たに彫る・・・ってことになってしまうのかしら。
消えない印(06/06/14)
宝物
『非日常的な日常』
今朝は、朝一番から「オナニーの声が聞きたい」とリクエストがありました。
ここのところ那智さんはお仕事が忙しくて、この要求をされるのは久しぶりのことです。
朝の明るい雰囲気と久しぶりと相まって、どぎまぎ感も倍増です。
でも、なによりも「私に向けて発せられること」はどんなことにしても、所有されていると感じることができるから、幸福で胸が締め付けられてしまいます。
で、恥ずかしながら、そのあとパソコンへ向かっています♪(お手手はきれいきれいしましたよ)
今日は、このブログのタイトルについてお話しさせていただきます。
「薬指の刺青」
「次のお休みは○○(駅名)に行くよ。免許証を忘れないで。」
お休みの数日前に、いきなりの指示。
「何なのですか?どこに行くのですか?何をするのですか?」
聞きたいことは山ほどあるけれど、矢継ぎ早に質問しても効果がないことはわかっている。
答えてもいいかなと思ってもらえるような質問を画策する。
「それは、初めてのことですか?」
「外ですか?室内ですか?」(私は何を想像している?!)
「いままで話題に出たことはありますか?」
身分証明が必要なところ、那智さんに連れて行ってもらったことがある「ハプニングバー」は女性の身分確認はなかったはずだ。
だから、そういうところでもないだろう。
まして、初めてのところだと、答えてくれている。
以前、同じようなやり取りで、私なりに答えを出して(何を考えたかは、内緒♪)覚悟を決めたら、お花見だった〜ということがあったから、今回もエッチなことではないかもしれない。
あたふたしながら質問をする私と、その会話ややり取りを楽しんだであろう那智さんは(きっと楽しんでいるはず)、2、3日後に答えをくれました。
「左手の薬指に印を入れよう」
出会ってほんの数週間しかたっていない頃、そんな話題が出たことがあった。
その時は、なんて突拍子もないことをいう人だろうと、ファンタジー程度に思っていた。
私が自分の心と向き合うのが下手なのか、那智さんが上手すぎるのか、わからないけど、こういうことが多い。
那智さんの言うことの意味は理解できるけど、実感を伴って自分の感情として自覚するのに時間がかかる。
数分から、多いときで数ヶ月。
「愛している」も「尊敬している」も、そうだった。
そうか、あのときファンタジーとして感じていたことが、自分の身に起こるのか。
すでに、那智さんは私の人生になんくてはならない存在。
いまなら、一生消えない印を付けてもらうことに抵抗はない。
むしろ嬉しい。
かくして、左手の薬指に印を入れるツアーは、さして私の了承を得ることもなく着々と進んでいたのでした。
恐がりで、ピアスの穴さえ開けられない私が、刺青の未知の恐怖に耐えられるのか!!
「痛そうです〜!怖いです〜!」
とうっとうしいくらいに泣き言を繰り返す私でした。
一旦、休憩させてね。
甘美な恐怖体験は、また後ほど(大げさ!!)
『非日常的な日常』
今朝は、朝一番から「オナニーの声が聞きたい」とリクエストがありました。
ここのところ那智さんはお仕事が忙しくて、この要求をされるのは久しぶりのことです。
朝の明るい雰囲気と久しぶりと相まって、どぎまぎ感も倍増です。
でも、なによりも「私に向けて発せられること」はどんなことにしても、所有されていると感じることができるから、幸福で胸が締め付けられてしまいます。
で、恥ずかしながら、そのあとパソコンへ向かっています♪(お手手はきれいきれいしましたよ)
今日は、このブログのタイトルについてお話しさせていただきます。
「薬指の刺青」
「次のお休みは○○(駅名)に行くよ。免許証を忘れないで。」
お休みの数日前に、いきなりの指示。
「何なのですか?どこに行くのですか?何をするのですか?」
聞きたいことは山ほどあるけれど、矢継ぎ早に質問しても効果がないことはわかっている。
答えてもいいかなと思ってもらえるような質問を画策する。
「それは、初めてのことですか?」
「外ですか?室内ですか?」(私は何を想像している?!)
「いままで話題に出たことはありますか?」
身分証明が必要なところ、那智さんに連れて行ってもらったことがある「ハプニングバー」は女性の身分確認はなかったはずだ。
だから、そういうところでもないだろう。
まして、初めてのところだと、答えてくれている。
以前、同じようなやり取りで、私なりに答えを出して(何を考えたかは、内緒♪)覚悟を決めたら、お花見だった〜ということがあったから、今回もエッチなことではないかもしれない。
あたふたしながら質問をする私と、その会話ややり取りを楽しんだであろう那智さんは(きっと楽しんでいるはず)、2、3日後に答えをくれました。
「左手の薬指に印を入れよう」
出会ってほんの数週間しかたっていない頃、そんな話題が出たことがあった。
その時は、なんて突拍子もないことをいう人だろうと、ファンタジー程度に思っていた。
私が自分の心と向き合うのが下手なのか、那智さんが上手すぎるのか、わからないけど、こういうことが多い。
那智さんの言うことの意味は理解できるけど、実感を伴って自分の感情として自覚するのに時間がかかる。
数分から、多いときで数ヶ月。
「愛している」も「尊敬している」も、そうだった。
そうか、あのときファンタジーとして感じていたことが、自分の身に起こるのか。
すでに、那智さんは私の人生になんくてはならない存在。
いまなら、一生消えない印を付けてもらうことに抵抗はない。
むしろ嬉しい。
かくして、左手の薬指に印を入れるツアーは、さして私の了承を得ることもなく着々と進んでいたのでした。
恐がりで、ピアスの穴さえ開けられない私が、刺青の未知の恐怖に耐えられるのか!!
「痛そうです〜!怖いです〜!」
とうっとうしいくらいに泣き言を繰り返す私でした。
一旦、休憩させてね。
甘美な恐怖体験は、また後ほど(大げさ!!)
お外で四つん這い1(07/03/13)
宝物
『非日常的な日常』
もう今日はお外でわんこは決まっている。
私は、あの坂道をリードを引かれて四つん這いで歩くんだ。
「角を曲がる前の、ラーメン屋の辺りからにする?」なんて脅かしてくる。
「あそこは歩道が狭いから、人の迷惑になります。」
ただ拒否するんじゃだめだから、正当な理由を探してしどろもどろ。
それでも、なお「したいことをしてほしい」という思いがあるから、何度も確認する「無理にしないでいいのですからね…。」
どちらかというと、「ためらうことはしないでほしい」という感じ。
物凄く困ることで、物凄く感じて幸せになれてしまう私、それには那智さんの純粋に「したい」という後押しが重要不可欠。
もしかしたら、そのための確認なのかもしれない。
少しずつ、その時が近付いている。
ファーストフード店を通り過ぎるときに、「コーヒー飲みます?」と先延ばし作戦に出てしまった。
吉と出るか、凶と出るか。
いいえ、私は回避したいんじゃない。
那智さんの手によって、物凄く困ることをして、感じて気持ち良くなって、あなたのものと思いたいんだ。
だけど、とっても勇気のいることだから、気持ちを温める時間が欲しいんだ。
もう少し、コーヒーを飲みながらお話しして、狂気のステップを一段一段上がっていきたいんだ。
コーヒーを頼んで二階の喫煙席に向かう。
幸か不幸か、やけに不自然な死角にある3席だけのカウンター席が空いていて、そこに腰掛ける。
座ったらすぐに、バッグからわんこの尻尾を手にしてチラッと見せながら「トイレで自分で入れる?それともここで入れてあげようか?」と、カウンターの背後にある、二階から三階に行く階段を顎で指す。
「…自分で入れます。」
この尻尾は、丸い真珠のような玉が数珠つなぎになっているアナルパールというものにフォックスのファーを結び付けたもの。
いくつものパールをお尻にしまえば、尻尾が生えているようになる。
黒いコートの中に無理矢理しまい込んで、トイレに行く。
とにかく、急いで入れてしまわなくちゃ。
誰かが入ってきたらいけないもの。
尻尾と一緒に渡されたローションをパールに塗り、お尻に入れていく。
急がなきゃ、気持ちばかりが焦ってしまって、なかなか進まない。
誰かが来て順番を待たれたら、大変。
心臓が張り裂けそうなほど、バクバクしている。
でも、焦れば焦るほど、うまくいかない。
更に、ローションを足して、お尻に入れる。
ローションで手が滑ってしまうから、落ち着かなくては。
ひとつ、もうひとつ。
早く終わって、どうか誰も来ないでください。
怖いよお、とても怖い、でも、嬉しくて、お尻の違和感が気持ちいい。
あと、ひとつ。
やっと、全部入った。
ワンピースを直して、コートの裾を見る。
すそから15cmくらい尻尾が出ている。
ああ、神様。
どんなにコートを引っ張っても、全然隠れてくれない。
トイレから出るのをためらうけれど、しかたがないとにかく那智さんの所に戻らなきゃ。
できるだけ目立たないように歩こう。
トイレのドアから、那智さんのいる隅のカウンター席まで直線の通路。
片側は壁で通路を挟んで縦に4つテーブルが並んでいる。
そこには女性が一人いるだけで、あとは空席。
でも、トイレのドアの左側の別なテーブルには男性が2人座っていたはずだ。
その人たちには後ろ姿を晒すことになる。
気付かれないように、なるべく目立たないようにしないといけない。
心の支えは、人の目線は意外と目の高さにしかないということ。
だから、コートの裾から覗いている15cmの尻尾は視界に入らないだろうということ。
ドアを開けて、目の前の景色にため息をつく。
そうだ、みんな座っていたんだ。
立っていたら視界には入らないけど、座っている高さから他人のコートの裾が視界内になる可能性は高くなるよね。
とにかく、少し壁に背を向け気味に、でも、自然な感じで、急いで元の席に戻る。
「後ろ向いてごらん。」
尻尾の出具合を確認している。
「可愛いね。」
あっ、嬉しい、褒めてもらっちゃった。
心が踊る。
「はい、○○買ってきて。」
お金を渡されて追加の食べ物を頼まれる。
遊ばれてる(泣)意地悪。
トイレからの通路とは別な通路を通って、階下に注文に行く。
階段の途中では、店員さんがモップ掛けをしている。
あまり早く私に気付かないでね、下から見上げないでね、尻尾があるから。
「ありがとうございました〜」
降りてくる私に満面の笑みで声を掛ける店員さん。
私はまた壁に背を向け気味にして、頭を下げてお尻を引いて、お辞儀して通り過ぎる、馬鹿丁寧なお客だ。
今度は、下で並んでいる人に足下から見せて下りてくる形になる。
普通は、足、洋服…顔の順番で登場するけど、私は足、尻尾、洋服…だ。
急いで下りて皆さんと同じ視線の高さまで行かなきゃ。
また、けっこう人が並んでいるんだ。
階段に近い列に並ぶ。
なんとか隠すことができないか、足の間に挟んでみようと少し腰を揺らして尻尾を動かしてみる。
「パフッ」と足に挟んで隠す目論見だ。
でも、実際やってみようとすると、尻尾は思いのほか太くて丸々挟むには、膝をかなりがに股に開かないと無理ということがわかって、揺らしただけで断念する。
なんとか注文して、足早に戻る。
もういっぱいいっぱいの私に那智さんは楽しそう。
スツールに腰掛けるのに尻尾が邪魔で、それを良い位置に収めながら座る手間がなんだか嬉しい。
軽く誇らしいくらい。
必死になって脳みそが疲労してくるけど、これはきっと次に起こるもっと凄いことへの準備には大切なことなの。
少しづつ何かを麻痺させていかないと、できないもの。
この疲労と誇らしい感覚が、心地よくもある。
さあ、出ようと階下に向かう。
たくさんの人が行き交う歩道を腕を組んで歩いていく。
大丈夫、そんなに誰も見ていない。
誰も尻尾なんて気付かないはず。
もし、気付いても、ほら若い子とか、そんなの腰に付けてる子いそうだし。
ただ、若くない女性が足の間から、それを垂らしているというだけのこと。
一生懸命言い聞かせて自分を落ち着かせるけれど、もっと凄いことが待っている。
確実にあの坂でわんこになる時は近付いている。
私はあと少ししたら、アスファルトの上を白昼堂々四つん這いで歩くのだ。
首輪にリードを付けて、那智さんに引かれて普通の道を四つん這いで歩くのだ。
続きは、2と3へどうぞ^^
『お外で四つん這い2』
『お外で四つん這い3』
『非日常的な日常』
もう今日はお外でわんこは決まっている。
私は、あの坂道をリードを引かれて四つん這いで歩くんだ。
「角を曲がる前の、ラーメン屋の辺りからにする?」なんて脅かしてくる。
「あそこは歩道が狭いから、人の迷惑になります。」
ただ拒否するんじゃだめだから、正当な理由を探してしどろもどろ。
それでも、なお「したいことをしてほしい」という思いがあるから、何度も確認する「無理にしないでいいのですからね…。」
どちらかというと、「ためらうことはしないでほしい」という感じ。
物凄く困ることで、物凄く感じて幸せになれてしまう私、それには那智さんの純粋に「したい」という後押しが重要不可欠。
もしかしたら、そのための確認なのかもしれない。
少しずつ、その時が近付いている。
ファーストフード店を通り過ぎるときに、「コーヒー飲みます?」と先延ばし作戦に出てしまった。
吉と出るか、凶と出るか。
いいえ、私は回避したいんじゃない。
那智さんの手によって、物凄く困ることをして、感じて気持ち良くなって、あなたのものと思いたいんだ。
だけど、とっても勇気のいることだから、気持ちを温める時間が欲しいんだ。
もう少し、コーヒーを飲みながらお話しして、狂気のステップを一段一段上がっていきたいんだ。
コーヒーを頼んで二階の喫煙席に向かう。
幸か不幸か、やけに不自然な死角にある3席だけのカウンター席が空いていて、そこに腰掛ける。
座ったらすぐに、バッグからわんこの尻尾を手にしてチラッと見せながら「トイレで自分で入れる?それともここで入れてあげようか?」と、カウンターの背後にある、二階から三階に行く階段を顎で指す。
「…自分で入れます。」
この尻尾は、丸い真珠のような玉が数珠つなぎになっているアナルパールというものにフォックスのファーを結び付けたもの。
いくつものパールをお尻にしまえば、尻尾が生えているようになる。
黒いコートの中に無理矢理しまい込んで、トイレに行く。
とにかく、急いで入れてしまわなくちゃ。
誰かが入ってきたらいけないもの。
尻尾と一緒に渡されたローションをパールに塗り、お尻に入れていく。
急がなきゃ、気持ちばかりが焦ってしまって、なかなか進まない。
誰かが来て順番を待たれたら、大変。
心臓が張り裂けそうなほど、バクバクしている。
でも、焦れば焦るほど、うまくいかない。
更に、ローションを足して、お尻に入れる。
ローションで手が滑ってしまうから、落ち着かなくては。
ひとつ、もうひとつ。
早く終わって、どうか誰も来ないでください。
怖いよお、とても怖い、でも、嬉しくて、お尻の違和感が気持ちいい。
あと、ひとつ。
やっと、全部入った。
ワンピースを直して、コートの裾を見る。
すそから15cmくらい尻尾が出ている。
ああ、神様。
どんなにコートを引っ張っても、全然隠れてくれない。
トイレから出るのをためらうけれど、しかたがないとにかく那智さんの所に戻らなきゃ。
できるだけ目立たないように歩こう。
トイレのドアから、那智さんのいる隅のカウンター席まで直線の通路。
片側は壁で通路を挟んで縦に4つテーブルが並んでいる。
そこには女性が一人いるだけで、あとは空席。
でも、トイレのドアの左側の別なテーブルには男性が2人座っていたはずだ。
その人たちには後ろ姿を晒すことになる。
気付かれないように、なるべく目立たないようにしないといけない。
心の支えは、人の目線は意外と目の高さにしかないということ。
だから、コートの裾から覗いている15cmの尻尾は視界に入らないだろうということ。
ドアを開けて、目の前の景色にため息をつく。
そうだ、みんな座っていたんだ。
立っていたら視界には入らないけど、座っている高さから他人のコートの裾が視界内になる可能性は高くなるよね。
とにかく、少し壁に背を向け気味に、でも、自然な感じで、急いで元の席に戻る。
「後ろ向いてごらん。」
尻尾の出具合を確認している。
「可愛いね。」
あっ、嬉しい、褒めてもらっちゃった。
心が踊る。
「はい、○○買ってきて。」
お金を渡されて追加の食べ物を頼まれる。
遊ばれてる(泣)意地悪。
トイレからの通路とは別な通路を通って、階下に注文に行く。
階段の途中では、店員さんがモップ掛けをしている。
あまり早く私に気付かないでね、下から見上げないでね、尻尾があるから。
「ありがとうございました〜」
降りてくる私に満面の笑みで声を掛ける店員さん。
私はまた壁に背を向け気味にして、頭を下げてお尻を引いて、お辞儀して通り過ぎる、馬鹿丁寧なお客だ。
今度は、下で並んでいる人に足下から見せて下りてくる形になる。
普通は、足、洋服…顔の順番で登場するけど、私は足、尻尾、洋服…だ。
急いで下りて皆さんと同じ視線の高さまで行かなきゃ。
また、けっこう人が並んでいるんだ。
階段に近い列に並ぶ。
なんとか隠すことができないか、足の間に挟んでみようと少し腰を揺らして尻尾を動かしてみる。
「パフッ」と足に挟んで隠す目論見だ。
でも、実際やってみようとすると、尻尾は思いのほか太くて丸々挟むには、膝をかなりがに股に開かないと無理ということがわかって、揺らしただけで断念する。
なんとか注文して、足早に戻る。
もういっぱいいっぱいの私に那智さんは楽しそう。
スツールに腰掛けるのに尻尾が邪魔で、それを良い位置に収めながら座る手間がなんだか嬉しい。
軽く誇らしいくらい。
必死になって脳みそが疲労してくるけど、これはきっと次に起こるもっと凄いことへの準備には大切なことなの。
少しづつ何かを麻痺させていかないと、できないもの。
この疲労と誇らしい感覚が、心地よくもある。
さあ、出ようと階下に向かう。
たくさんの人が行き交う歩道を腕を組んで歩いていく。
大丈夫、そんなに誰も見ていない。
誰も尻尾なんて気付かないはず。
もし、気付いても、ほら若い子とか、そんなの腰に付けてる子いそうだし。
ただ、若くない女性が足の間から、それを垂らしているというだけのこと。
一生懸命言い聞かせて自分を落ち着かせるけれど、もっと凄いことが待っている。
確実にあの坂でわんこになる時は近付いている。
私はあと少ししたら、アスファルトの上を白昼堂々四つん這いで歩くのだ。
首輪にリードを付けて、那智さんに引かれて普通の道を四つん這いで歩くのだ。
続きは、2と3へどうぞ^^
『お外で四つん這い2』
『お外で四つん這い3』
素直に伝えるということ(07/05/08)
宝物
『りん子的独り言』
父性の海に抱かれながら、心の中のことを素直に伝える。
なんとも魅力的なこと。
それはいやだとか、それは傷つくとか、悲しいとか。
私のように、自分にとって不快に思うという感情を相手に伝えるのが苦手で、それを伝えるくらいならその関係が深まらなくてもかまわないと思ってしまうような女には、それらを素直に伝えられるということは、新しい世界が開けたようでとてもとても魅力的な魔法のようだ。
だけど、それは、なんでも解決「ドラえもんのポケット」だけではない、労力もいるのだ。
もちろん圧倒的に「幸せ甘受」の方が大きいのはわかってるけど、あえて(?)魔法じゃないところも、ちょっと披露。
まず、負の感情を出し慣れていない、故の生みの苦労(?)。
「ああ、それは悲しい」と思っても、「いま忙しそうだし…」とか「この前もぐずってしまったし…」とか、何か障害があるとついいつものクセで「いいや、私が我慢すれば」「黙っとくほうがいいかも」と、逃げ腰になってしまう。
でも、それは心に小さくシミを残すことになって、いままでの失敗を繰り返してしまうだけ。
だから、慣れないことを「えいっ」とする苦労。
いま忙しいなら、諦めずに「悲しい」を保存しておいてでも、ちゃんと伝える。
誰でも負の感情を伝えることはパワーがいるはず、さらにそれが特に苦手な私は逃げてしまったほうが楽だったりもする。
それを、踏み止まって、深呼吸して「えいっ」と、生む。
もうひとつ、伝えることに段々慣れてきて、それを受け止めてもらえていると、今度はエスカレートしてしまう危惧。
受け止めてもらえると言っても「なんでもいいよ〜」というのではない。
存在を肯定した状態で、冷静に判断を下すというような感じ。
だから、間違ってるときはそう言われるし、「ふ〜ん」ですまされてしまうこともある。
それでも上下しない感情で「受け止める」姿勢を取り続けてくれることには、感謝しつつもつい甘えが出てしまうのだ。
悲しいことを悲しいと、怒ってることを怒ってると素直に伝えることと、その負の感情をぶつけて発散することを混同してしまってはいけないのだ。
つい受け止めてもらえることをいいことに、「那智さんを傷つけたく」なってしまう。
その悲しみが那智さんの言動や誤解など直接の原因であっても、それ以外の私のバイオリズムのせいでも、素直に伝えるという大義名分を掲げて「八つ当たり」をしてしまいたくなる。
そこで、また踏み止まる。
私がしなければならないことは、心を伝えること、故意に傷つけることを言ったり八つ当たりしたりは、心じゃなくて、発散方法だ。
そして、そういう方法で発散しても、何も残らない。
だから、勢いで言ってしまいたくなる理不尽な言動をグッと堪えて、心を伝える。
それでも、人間は感情の生き物。
頭でわかっていても、どうしても理不尽をぶつけたくなってしまうこともある。
だから、そういうときは「ごめんなさい、理不尽なこと言います」と言ってから、筋の通らないわがままや八つ当たりをするのだ(笑)
受け入れてくれることに対する自制。
これもけっこうパワーがいる。
甘えるも悲しいも頭に来ているも言う、しゃくりあげて泣いて訴えてもいい。
でも、それを発散にしない。
心がけてること。
メソメソもグズグズも変態も、全部ひっくるめて愛してもらうんだから、これくらいの自制はしなくちゃ、なのです^^;
父性の海に抱かれて素直に心を伝えることの代え難い魅力のために、ほんの少しの努力がいるのでした。
『りん子的独り言』
父性の海に抱かれながら、心の中のことを素直に伝える。
なんとも魅力的なこと。
それはいやだとか、それは傷つくとか、悲しいとか。
私のように、自分にとって不快に思うという感情を相手に伝えるのが苦手で、それを伝えるくらいならその関係が深まらなくてもかまわないと思ってしまうような女には、それらを素直に伝えられるということは、新しい世界が開けたようでとてもとても魅力的な魔法のようだ。
だけど、それは、なんでも解決「ドラえもんのポケット」だけではない、労力もいるのだ。
もちろん圧倒的に「幸せ甘受」の方が大きいのはわかってるけど、あえて(?)魔法じゃないところも、ちょっと披露。
まず、負の感情を出し慣れていない、故の生みの苦労(?)。
「ああ、それは悲しい」と思っても、「いま忙しそうだし…」とか「この前もぐずってしまったし…」とか、何か障害があるとついいつものクセで「いいや、私が我慢すれば」「黙っとくほうがいいかも」と、逃げ腰になってしまう。
でも、それは心に小さくシミを残すことになって、いままでの失敗を繰り返してしまうだけ。
だから、慣れないことを「えいっ」とする苦労。
いま忙しいなら、諦めずに「悲しい」を保存しておいてでも、ちゃんと伝える。
誰でも負の感情を伝えることはパワーがいるはず、さらにそれが特に苦手な私は逃げてしまったほうが楽だったりもする。
それを、踏み止まって、深呼吸して「えいっ」と、生む。
もうひとつ、伝えることに段々慣れてきて、それを受け止めてもらえていると、今度はエスカレートしてしまう危惧。
受け止めてもらえると言っても「なんでもいいよ〜」というのではない。
存在を肯定した状態で、冷静に判断を下すというような感じ。
だから、間違ってるときはそう言われるし、「ふ〜ん」ですまされてしまうこともある。
それでも上下しない感情で「受け止める」姿勢を取り続けてくれることには、感謝しつつもつい甘えが出てしまうのだ。
悲しいことを悲しいと、怒ってることを怒ってると素直に伝えることと、その負の感情をぶつけて発散することを混同してしまってはいけないのだ。
つい受け止めてもらえることをいいことに、「那智さんを傷つけたく」なってしまう。
その悲しみが那智さんの言動や誤解など直接の原因であっても、それ以外の私のバイオリズムのせいでも、素直に伝えるという大義名分を掲げて「八つ当たり」をしてしまいたくなる。
そこで、また踏み止まる。
私がしなければならないことは、心を伝えること、故意に傷つけることを言ったり八つ当たりしたりは、心じゃなくて、発散方法だ。
そして、そういう方法で発散しても、何も残らない。
だから、勢いで言ってしまいたくなる理不尽な言動をグッと堪えて、心を伝える。
それでも、人間は感情の生き物。
頭でわかっていても、どうしても理不尽をぶつけたくなってしまうこともある。
だから、そういうときは「ごめんなさい、理不尽なこと言います」と言ってから、筋の通らないわがままや八つ当たりをするのだ(笑)
受け入れてくれることに対する自制。
これもけっこうパワーがいる。
甘えるも悲しいも頭に来ているも言う、しゃくりあげて泣いて訴えてもいい。
でも、それを発散にしない。
心がけてること。
メソメソもグズグズも変態も、全部ひっくるめて愛してもらうんだから、これくらいの自制はしなくちゃ、なのです^^;
父性の海に抱かれて素直に心を伝えることの代え難い魅力のために、ほんの少しの努力がいるのでした。
お泊まり(番外編)深夜の贅沢(07/10/19)
宝物
『独特な幸福感』
電車はとうに終わってる時間なのにたくさんの人でごった返してる。
それほど長居せずにハプバーを出た。
那智さんもわたしも明日(今日^^)は仕事だから、朝までいるわけにはいかないし、前半で「どわーっ」と飛ばしてしまったからこのまま長くいてもそれほど面白くないだろうと那智さんは判断したみたい。
まな板の上の鯉ショーが終わってほどなく退散した。
あれほど人に晒したけど、那智さんだれにもわたしを触らせなかったな。
きっと那智さんの中で、そこにもひとつ線引きがあるんだろうな。
興奮を冷ますように、外の風に当たりながら腕を組んで歩く。
那智さんと夜の街を歩くの、わたしは大好き、安心してニコニコできるんだ。
「150円でビッグマック食べる?」
携帯のクーポンで出して那智さんが言う。
「どこで食べるんですか?」
「ホテルでもいいし、タクシーでもいいし。」
「はい、食べます^^」
ビッグマックをふたつ。
紙袋をわたしのバッグに押し込んでタクシーを拾うために大通りへ。
那智さんが行き先を告げ、運転手さんに道路の確認をしてる。
いつも深夜まで遊んでも別々のタクシーに乗って別れるから、一緒のタクシーは嬉しい。
行き先も何もかも那智さんに頼り切っていられることが、幸せ。
タクシーは滑るように繁華街を抜けていく。
街灯が明るい。
その街灯をすいすいと追い越してホテルに。
まだ一緒にいられるという、ホクホクした気持ちも心地よく滑る。
ビッグマックを取り出して、ふたりで頬張る。
美味しい。
「なんだか贅沢^^」
またホクホク気分。
「なんで?150円だよ(笑)」
「違います。深夜のビッグマックっていうことが、贅沢な感じなんです。」
「ふ〜ん。」
食べるの早い那智さんはさっさと終わってしまう。
特別、遅いことないわたしだけど、この贅沢な気分を長引かせたくてゆっくり食べる。
景色はどんどん流れている。
深夜のビッグマック。
かなりの不摂生。
美容にも健康にもいいことない。
でも、ホクホクした気持ちで大好きな人と一緒にたまに味わう「不摂生」は、不摂生なほど贅沢な気持ちになるから不思議だ。
滅多にない、ご褒美。
美容にも健康にも、悪いことだらけの深夜のビッグマック。
だけど、きっと他のどんなサプリメントでも得られない、贅沢な栄養。
ホテルが近付いたらしい。
「さあ、来たことあるあたりだよ。もうわかるだろ?」
「う〜ん、…はい、わかりました!!この先曲がったら那智さんのお仕事場!!」
「正解。」
他愛もない会話さえも、今夜はとっても贅沢に感じる。
ダイエットや健康志向、体のことを考えるのは大事なことだけど、それに縛られてしまって動けなくなっては元も子もない。
正しいとされることをするべきだし、そうするほうがなんとなく落ち着く。
でも、それにがんじがらめになってないだろうか。
時々味わう「不摂生な幸せ〜」も、きっと体にいいはずだ。
何より心を豊かにしてくれる。
運転手さんが道を間違えてそれに対処している那智さんの横で、ホクホクと安心して贅沢を味わいながら、そんなふうに思っていた。
深夜の500kcalの言い訳として…(笑)
『独特な幸福感』
電車はとうに終わってる時間なのにたくさんの人でごった返してる。
それほど長居せずにハプバーを出た。
那智さんもわたしも明日(今日^^)は仕事だから、朝までいるわけにはいかないし、前半で「どわーっ」と飛ばしてしまったからこのまま長くいてもそれほど面白くないだろうと那智さんは判断したみたい。
まな板の上の鯉ショーが終わってほどなく退散した。
あれほど人に晒したけど、那智さんだれにもわたしを触らせなかったな。
きっと那智さんの中で、そこにもひとつ線引きがあるんだろうな。
興奮を冷ますように、外の風に当たりながら腕を組んで歩く。
那智さんと夜の街を歩くの、わたしは大好き、安心してニコニコできるんだ。
「150円でビッグマック食べる?」
携帯のクーポンで出して那智さんが言う。
「どこで食べるんですか?」
「ホテルでもいいし、タクシーでもいいし。」
「はい、食べます^^」
ビッグマックをふたつ。
紙袋をわたしのバッグに押し込んでタクシーを拾うために大通りへ。
那智さんが行き先を告げ、運転手さんに道路の確認をしてる。
いつも深夜まで遊んでも別々のタクシーに乗って別れるから、一緒のタクシーは嬉しい。
行き先も何もかも那智さんに頼り切っていられることが、幸せ。
タクシーは滑るように繁華街を抜けていく。
街灯が明るい。
その街灯をすいすいと追い越してホテルに。
まだ一緒にいられるという、ホクホクした気持ちも心地よく滑る。
ビッグマックを取り出して、ふたりで頬張る。
美味しい。
「なんだか贅沢^^」
またホクホク気分。
「なんで?150円だよ(笑)」
「違います。深夜のビッグマックっていうことが、贅沢な感じなんです。」
「ふ〜ん。」
食べるの早い那智さんはさっさと終わってしまう。
特別、遅いことないわたしだけど、この贅沢な気分を長引かせたくてゆっくり食べる。
景色はどんどん流れている。
深夜のビッグマック。
かなりの不摂生。
美容にも健康にもいいことない。
でも、ホクホクした気持ちで大好きな人と一緒にたまに味わう「不摂生」は、不摂生なほど贅沢な気持ちになるから不思議だ。
滅多にない、ご褒美。
美容にも健康にも、悪いことだらけの深夜のビッグマック。
だけど、きっと他のどんなサプリメントでも得られない、贅沢な栄養。
ホテルが近付いたらしい。
「さあ、来たことあるあたりだよ。もうわかるだろ?」
「う〜ん、…はい、わかりました!!この先曲がったら那智さんのお仕事場!!」
「正解。」
他愛もない会話さえも、今夜はとっても贅沢に感じる。
ダイエットや健康志向、体のことを考えるのは大事なことだけど、それに縛られてしまって動けなくなっては元も子もない。
正しいとされることをするべきだし、そうするほうがなんとなく落ち着く。
でも、それにがんじがらめになってないだろうか。
時々味わう「不摂生な幸せ〜」も、きっと体にいいはずだ。
何より心を豊かにしてくれる。
運転手さんが道を間違えてそれに対処している那智さんの横で、ホクホクと安心して贅沢を味わいながら、そんなふうに思っていた。
深夜の500kcalの言い訳として…(笑)